TS転生者リコリスは赤服だけにはなりたくないそうです。   作:ダイコンハム・レンコーン

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そろそろ話を畳んで行きます。


因縁って、忘れる物ですかね。

「──目障りなのよ、貴女」

 

 ……今、私は少々厄介な事態に巻き込まれていました。目の前には苛つきを隠そうともしない白服のリコリス。向けられているのは当然私の方で。

 

 なぜそんな怒気を向けられているのかといえば──

 

「セカンドに模擬戦で負けた癖に、媚び売ってパートナーを組んだそうじゃない」

「……パートナーは寮室が一緒になるでしょう? 正確にはコンビ、共同して任務に当たるだけの関係ですよ」

「どっちも結局一緒でしょう!」

「ええ、ごもっともです」

 

 彼女は簡潔に言ってくれた訳ですが、つまりはそう言う事です。私がセカンドと任務を共にしていると言う話は水面下で広まっていた様で、どうやら一部のリコリスから顰蹙を買っていたらしいんですよね。女子の社会は怖いですね。

 

「……ただ、彼女については酷く誤解しているかと」

 

 このままでは……えっと井ノ神(井ノ上)さん、の風評に傷が付くので間違いは修正しなければなりません。

 

「何が言いたいの?」

「……もし、貴女の言うセカンドが媚びを売る事しかしなかったサードを任務に連れて行ったなら、初任務でそのサードは死んでたと思いますよ」

 

 あの車に轢かれて。

 

「──ッ!」

 

 ──痛い。

 私は、何もせずに彼女のビンタを受けました。かつての私には、女友達も居なかったので、どう反応を返せば良いか分からなかったんですよ。

 

「負け犬が何偉そうに! 私なら大丈夫だとでも──!」

 

 しかし、この対応は悪手でした。熱暴走が如く、熱さが熱さを呼び彼女の歯止めを壊してしまったんです。振り上げられた右手は拳となり、今に振り下ろされようとして。

 

 

 

「──私のコンビに何をしているんですか?」

 

 

 

 その手は、振り下ろされる前に止められていました。藍色の、青服の少女の手によって。

 

「……問題ありません、ただの教育です」

「サードの教育でしたら、セカンドである私の方が適任です」

「っ、分かりました。くれぐれもそこのサードが粗相をしない様に教育しておいて下さい」

 

 そう言い残すと、白服の彼女は肩を上げたままスタスタとどこかへ歩き去って行った。暫くあの怒りは続きそうです、また会ったら今度は爆弾を解除する様に丁寧な対応をしないといけませんね。

 

 そして、彼女の方はどうしましょうか。

 

「井ノ城さん、ありがとうございます」

「井ノ上です。……なぜ殴り返さなかったんですか?」

「えっ? だって痛いでしょう殴られたら、ましてや女の子なんですから顔に傷なんて……」

「……女の子」

 

 彼女はその怜悧な表情に疑問符を浮かべた様子でしたが、私にはそっちの言葉の方が驚きでした。やられたらやり返す、それじゃあ戦争でしょう。まあリコリスは影の中でずっと戦争やってる様なモノですが。後、子供の癇癪に一々キレてちゃ立つ瀬がありませんよ。

 

「そう言えば、さっきのアナタの登場、まるでヒーローみたいでカッコよかったですよ」

「ヒーロー? 言葉の定義としてはヒロインでは」

「個人的には理屈と暴力で問題を解決するのがヒーローで、愛と奇跡で問題を解決するのがヒロインだと思ってますから」

「貴女には私が理屈と暴力の化身に見えるんですか」

 

 そもそもリコリスなんて場所に身を置く時点でみんなヒーローなんですよ。私も、きっとアナタも。愛や奇跡に頼れない。

 

「アナタは愛や奇跡で問題を解決するタイプなんですか?」

「……違いますね」

「ならヒーローですよ。少なくともあの瞬間、アナタは世界一カッコいい女の子でした」

 

 そう言って彼女の肩を叩き、私は先を行く。2人並んで歩くには、服の色が邪魔になってしまう様ですから。

 

 さて、久しぶりに訓練でもしましょうかね。

 

 

 

 ♦︎♢♦︎

 

 

 

 ──それから暫くしての事。私と彼女に次なる任務が下されました。

 

「こちらブラボー、目的地に到着。指示を待ちます」

 

 私たちが辿り着いたのは朝方にも関わらず人っ子1人居ない廃工場、錆びついたパイプラインが至る所で絡み合う様はかつての栄えある日を彷彿とさせる威容ですね。こんな事でもない限り、マジマジと見ることも無いでしょう。

 

「貴女、まだ白服だったの?」

「まだ活躍らしい活躍もありませんから」

「……なんでよりにもよって負け犬なんかと」

 

 今、ここに居るのは1人のセカンドに3人のサード。

 

 セカンドは言うまでもありませんが、私を除く他2人は、それぞれガトリングガン事件の生存者と、以前少し揉めてしまった方と言う、妙に因縁を感じるチームとなっています。確か名前はそれぞれ単純な──

 

「鈴木さん、佐藤さん、今は作戦中ですから、お静かに」

里中(さとなか)さん、アタシの苗字は薄野(すすきの)よ」

「私の苗字は斎藤(さいとう)よ! 貴女名前すら覚えられない馬鹿なの!?」

「すいません薄野さん、斎藤さん」

「黙って下さい、もうすぐ作戦開始です」

 

 ……セカンドの静止によって、怒り調子の彼女はすっかり口をつぐんでしまいました。彼女はかなり階級に縛られている様ですね。ただそんなに怖がらなくても井ノ腕(※井ノ上)さんは、割りかし優しい人だし付き合いも出来る人だと思うんですけどね。誰と行ったか分からないホームセンターの記憶も、多分交流関係的に彼女以外と行けなかった筈ですし。

 

「では命令待機中のこの時間で作戦内容の最終確認を行います」

 

 今回の作戦内容は少し特殊なものになっています。まず、事の始まりはDA関係施設に送られた手紙によるもの。どうやらその手紙には複数の写真が入っていました。

 

 その写真の中には、ここ最近MIA(Missing in action)、つまり任務中行方不明となったサードリコリス達が目隠しをされ、椅子に縛り付けられている姿が写っていたそうです。DAは手紙の送り主を即座に確保しましたが、それはただの金で雇われたチンピラだったそう。

 

 更にその手紙にはマーキングされた地図とメッセージが一文……助けたければサード達を集めてここに来い、と言う言葉だけがあったそうです。

 

 リコリス達は秘匿されるべき存在です。もし彼女達が捕まったとすればDAどころか国家に揺らぎが生じるでしょう。DAは情報部をフル稼働、かの電波塔の英雄も駆り出し、今回の事態の沈静化に乗り出しているそうです。

 

 と言う事で、私達に与えられた任務は、捕縛されたサードの内の1人を救出する事です。なぜ手紙の主がサードと言う言葉を知っていたのか、何やらきな臭い感じもしますが、下っ端の私が考えても仕方ない事です。

 

「全く、リコリスとして落第点ね、私なら捕まる前に自害しているわ」

「いや、不意打ちされたかもしれないでしょ?」

「私も同意見です」

「……まあ、それならそれで、逃げ出す手段を考え──」

 

 するとため息をついた佐藤(※斎藤)さんはそう自信ありげに言いますが、鈴木(※薄野)さんは反論。会話はヒートアップしそうになりました、が。

 

「まだ喋りますか?」

「ヒュッ!」

 

 井ノ道(※井ノ上)さんが佐藤さんの背後から冷ややかな声を掛けると、車のスリップ音のようなものを立て、また黙ってしまいました。……若干彼女にボスとしての才覚を感じてしまいますね。

 

「DAの監視ドローンによって既にターゲットの居場所は判明しています。かつて紡績工場だった場所の作業所内に彼女は居ます。また、それを取り巻く様に配置された武装集団も確認されています」

 

()()でセカンドの彼女は、最後に補足となる情報を説明し、確認を終えようとしていました。

 

 因みに今回、相手はサードを指名した事もあり、その点を考慮して今回の作戦に従事するリコリスは階級に関係なく白服を着る事になっているんです。手が込んでるでしょう? 

 

「……ブラボー2(薄野さん)ブラボー4(斎藤さん)。何か気になる点はありますか?」

「アタシには何も」

「私もありません」

 

 最後には私に声がかけられましたが、私も同じく何も無し。4人は作戦開始の時間を僅かに待ちました。そして、時は来ます。

 

「……作戦を開始します。ブラボー4は私と表から、ブラボー2とブラボー3(里中さん)は別働隊として目的地の裏に回り込んで下さい」

『了解』

 

 今日の私の得物は、FN five-seven。P90のサイドアームとして設計されたこの銃は、P90と同様の弾丸が使用可能で口径は5.7mm。弾丸は鋭い円錐で小口径の初速の速さと合わさり、高い貫通力を持っています。私の持つ銃で普段使い用の拳銃です。因みに今回はサプレッサー付き。

 

 ……と、今日の献立の様に説明を頭の中に思い起こしてみましたが、こんな事は覚えているのに、他人の事は覚えられない。つくづく不思議な頭をしてると思いますよ。

 

「……前に4人、巡回中みたいね」

 

 前を行く少女が物陰に隠れながら振り返る。私もポケットから折り畳み式の手鏡を取り出し覗き見ます。丸く切り取られた鏡の景色の向こうではベストを着た男達がライフルを持って右に左にと歩いていました。……DAの指令では、排除ないし捕縛対象になります。

 

 にしてもフォーマンセル(4人組)をわざわざ組むと言う事は、それなりにリコリスを警戒していると言う事。やはり罠であろう気がして来ましたね。念のため、ランドセルを手に持って"盾"の展開準備もしておきましょうか。

 

 左手に盾、右手に銃、対テロ特殊部隊などで見られるスタイルです。

 

「前、左、後は私が、右はアナタにお願いします」

「OK、なら」

「いや、ちょっと待ってください」

 

 一応、数の不利がありますからここは万全を期してやる気を出して行きます。行きましょう、久しぶりの戦場らしい戦場です。

 

「またアレをやる気? でも直線じゃ意味が無いでしょう」

「ありますよ」

 

 曲がる弾丸の強みは、遮蔽物からの一方的な攻撃だけじゃありません。正しく撃たれた事を認識するには、音、光、煙、そして弾丸の向きが重要となります。つまり。

 

 少し待って……丁度彼らが左から伸びる道へ差し掛かろうとしていた時。私は向かって左上へ、()()()()()を放ちました。当然、弾丸は彼方へ飛んでいきますが、やがてそれは敵の方へ向かってブーメランの様に180度旋回し──

 

「──行きます」

 

 左側の敵が1人倒れました。糸の切れた操り人形の様に。私はそれに合わせて駆け出しました。

 

「敵襲!? 敵の姿は!」

「見えねぇ! どこだ!」

 

 しかし他の敵は私達に目もくれず左へ続く通路へ向け銃を構えています。そこには誰も居ないのに。でも撃たれた人は私から見て()()()()()()倒れました。弾痕も側頭部にありますから、左側から撃たれたと勘違いするのも仕方ありません。

 

 ──ただ、一生のミスになるだけですよ。

 

 私は接近しながらもう1人の頭蓋を撃ち抜き、鈴木さんも3発で1人を射殺。残る1人は──既に眼前。

 

「リコリス──!?」

 

 至近に交差する視界の中、相手の何か知っている様な態度を見た私は咄嗟に射殺から捕縛に切り替えるべきと判断しました。

 

「……ご存じで?」

 

 私は即座に左腕に通したランドセルを前に構え、肩ベルトのスイッチを押す。するとランドセルが開き、中から真っ白なエアバッグが膨らんで敵の身体を包んで弾き飛ばしました。本来なら、弾丸に対して反応装甲の様な使い方をするんですけどね。

 

「うぉっ!?」

 

 構えを取っていた私は耐え、敵は武器を投げ出して大の字で地面に叩きつけられます。エアバッグから空気が抜ける前にランドセルを投げ捨て私はそこを──

 

「クソッ……」

「動かないでください。手を頭にうつ伏せに、他の行動をすれば撃ちます」

「分かった! 分かった! 色気のねぇ下着履きやがって畜生!」

「…………勝手に返事をしないで下さい、次は勝手に喋っても撃ちます」

 

 ──銃を突きつけ、動きを牽制しました。今目の前に居るのは、うつ伏せの男が1人。

 

「ちょっと、ちゃんと死んだか確認しなさいよ」

「すいません、少し急いでいたので」

 

 私は後ろから響く静かな銃声に振り向かず返事をします。トドメを刺しているのでしょう。リコリスとして模範的です。私は出来ればやりたくないです、だから一撃必殺を心がけてるんですがね。

 

「……貴女、尋問なんて出来るの」

「いえ全く。ですので少しやり過ぎるかもしれません。脚に完治不可の傷を残すかも」

「頼む、何でも話す!」

 

 ……こう言う人に限ってあんまり役に立つ事を話さなかったりするんですが、どうなんでしょうかね。

 

「なら、アナタ達は誰に雇われたんですか?」

「名前は、分からない。ディープウェブのサイトで募集されていたのに応募しただけだ」

「裏社会の傭兵、いやチンピラって所ね」

「……近頃は犯罪者もネット求人なんですね」

 

 無言で鈴木さんから睨まれましたが、私はいつもこんな調子ですよ。でないと気分が落ち込むばかりなんですから。

 

「名前を知らないと言っても、アカウント名とか、あだ名とかはあったんじゃないですか?」

「……ああ、それならある。奴の名は──サン」

 

 ……サン。太陽の事でしょうか、それともこれはアレでしょうか、サードリコリスに対する当て付けとか、そう言う物ですかね。手紙にもサードを呼ぶ旨がありましたし、何かヒントがありそうな気もします。

 

 サードの中に奴の狙いが居たり、またはサード自体を狙っているか、もしかすると、誘拐目的? ただの少女を誘拐するよりも条件が限られる上危険を伴うリコリスの誘拐を行うなら、可能性としては情報や身代金。ですがトカゲの尻尾切りが通じるサードレベルを相手にするのはおかしいですよね。

 

「そのサンは、私達を知っていたんでしょうか?」

 

 私はサプレッサーの先を敵の後頭部に押し当てる。

 

「あ、ああ、奴はベージュ色の制服のガキを見つけたら片っ端から殺せと言っていた。今見れば分かる、奴は都市伝説レベルでしか知られてないリコリスの姿を知っていたんだ」

 

 それを聞いた隣の鈴木さんは、少しだけ身体を強ばらせていました。ガトリングガンの事件であれだけの仲間の死を見て来たのなら、今の言葉でそれを思い出しても無理はないでしょう。

 

「それ以外は?」

「それ以外も殺せと──」

「違います、それ以外にサンに与えられた条件は、と聞いているんです」

 

 そう聞いた瞬間、これまでペラペラと喋っていた敵の口は閉じてしまいました。なぜ、本人に都合の悪い事でもあるのでしょうか。ですが人間、言いたくない事ほど話させたくなるもの、ですよね。

 

「……どうしても話したくないなら仕方ありません、脚に銃弾1発で勘弁しますよ。どうです?」

「や、やめてくれ! 話す! ……奴は、お前みたいな薄い茶髪のガキを見つけたら、捕まえてこいと言っていた」

 

 私を? 何の事ですか。

 

「……どう言う事なのよ、それ」

「ですが私、とは言ってなかったんですね」

「ああ、だが今はお前以外に考えられねぇ」

 

 ……いや、私に誰かとの個人的な因縁の心当たりなんて──

 

 そう考え思考に潜れば、やがて記憶の空白地帯に辿り着く。

 

 避けられない穴、私が私を知る為に必要なピース。

 

 姉を失うきっかけとなった、記憶に無い任務。

 

「っ……まさか」

 

 ──過去は、思った以上に近くに迫っていたのかもしれません。

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