「ねぇこれ見てぇ!!」
「何ですか、これ」
「この絵!!可愛くなぁい?」
千束はたきなに一つの絵を見せる。
「これは……顔、ですか?」
「え?分かんない」
「これは体でしょうか?」
「えぇ?言われて見たらそんな気もぉ」
「千束も分かってないじゃないですか」
「でも可愛いじゃん!!ねぇ、先生もそう思うでしょ?」
「ん?あぁ。確かにどこか気品があるな」
「でしょでしょ!!たきなには分かんないかぁ、この良さが」
たきなの顔がムスっとなる。
「あ、ムスってなった」
「元々こういう顔です」
「えぇ、でも、そういう拗ねてるところも可愛い〜」
千束はたきなに抱きつく。
「ちょ!!」
「ニヒヒィ」
「はぁ。私は拗ねてませんし、この作品が素晴らしいとは思えません。実際に全然リツイートされてないじゃないですか」
「これからだよぉ。もうバスってバスってこの絵が世界デビューするところまで見えたね!!」
「ありえません」
すると、リコリコの扉が大きな音を立て、開かられる。
「最……悪……」
「どしたのミズキ。化粧ボロボロだよ?」
階段からくるみが降りてくる。
「ふわぁ、いつもと変わらんだろ」
「失敬な!!このガキンチョが!!」
「襲撃ですか?」
「そんわけないでしょ。ここは安心安全な喫茶店だよ?」
「ですが私達はリコリスです。いつ命を狙われてもおかしくはーー」
「抽選外れたー」
ミズキはいつもの定位置に座る。
「私が欲しかったのは三等の食べ放題だったのに。どうして二等のこれがあたるかなぁ」
ミズキはミカの前に一つのチケットを置く。
「何だこれは」
「美術館のチケット」
ミズキは投げやりに答える。
「売ればそれなりの金になるんじゃいか」
「転売か!!」
「オークションの最低額ですら売れてないな」
「やっぱりゴミじゃない!!」
ミズキは酒を飲み出す。
「ミズキ、これ行くの」
「は?行くわけないでしょ。そんなことしてる暇があったら私にピッタリなイケメンを見つけるに決まってるじゃない」
「そ、無理だと思うけど。じゃあこれ貰うね」
「好きにしなさーい」
ミズキの手からチケットを奪い取る千束。
「というわけでたきな、明日は美術館だから!!」
「どうして急に」
「ムッフッフ、これで私とたきな、どっちの見る目があるか勝負するんだよぉ」
「それに何の意味が……」
「いいからいいから。ちゃんとオシャレしてね。あ!!ちょっと小洒落た方が雰囲気に合うかも!!じゃあ私着替えてくるね〜」
嵐のように千束は更衣室に入っていく。
「美術館……ですか」
◇◆◇◆
「おぉ!!時間ピッタリ!!」
「すみません。待たせてしまいましたか?」
「全然待ってな〜い。それよりも速く行こ行こ!!」
「楽しそうですね」
「何事も楽しまなきゃねぇ。たきなも色々体験した方がいいよ。青春は待ってくれないからね!!」
「そうですか」
千束がたきなの腕を掴み
「行こ!!」
「はい、行きましょう」
◇◆◇◆
「うおぉおおおお!!見てたきな、これ凄くない?」
「千束。大声を上げたら目立ちます。しかもここは美術館ですよ」
「大丈夫大丈夫。作った人もこうやって喜ばれる方が嬉しいってぇ」
「そうでしょうか」
「私達立派なJKだよ?空気を読むなんて出来るはずない」
「そこは努力すべきだと思います」
「何これ!!メチャクチャ黒いんだけど!!」
壁には様々な濃さで彩られた黒い絵。
「えぇ、なにこれ」
「有名なものみたいですね。どうやら黒だけでこの表現が出来るのは天才だそうです」
「これがぁ?私には適当に黒く塗り潰したようにしか見えないけどぉ?」
「私はかなり独特で好きですけど」
「たきな趣味悪ぅ。もっと可愛いのないの!!」
「千束は美術館を何だと思ってるんですか?」
「絵の大会でしょ?」
「聞いた私がバカでした」
「ひどー。今ので私傷ついたー」
「そうですか。それでは次に行きましょう」
「あれぇ?いつの間にかたきなちゃんの方が楽しんでなぁい?」
壁には頭が馬、体がキリン、足がダックスフンドの動物。
「何ですかこれ」
「わぁお」
「非効率の塊みたいな存在ですね。高いものが食べられないキリン、足の遅い馬、狭い場所に潜れない犬、これは何の目的で生まれたのでしょうか」
「いやそこまで深く考えるものじゃないと思うよ!!」
「ですが、それでこそ評価されているのでは!!」
「ちょ!!たきな顔近い!!うおぉ、近くで見るとやっぱり可愛い!!」
「質問に答えて下さい!!」
「もぉ〜、なんでこの子こういう時だけ強気なのかなぁ」
二人の声が、美術館中に響き渡った。
◇◆◇◆
「この方はアラン機関に見据えられ、有名になった方のようですね」
「ということは、私とお揃いっちってことかぁ」
「違います。美的感覚が選ばれたからこそです。千束と一緒は失礼だと思います」
「それは私に失礼なのに気付いてる!?」
「それにしても」
たきなは壁の絵を見つめる。
ちょっと!!たきな私も話ちゃんと聞いてる!!
この絵は一見ハツラツとした印象を与えるが、どこかその奥には暗い、何かがある気がした。
ねぇたきな〜、構ってよ〜。千束寂しいよぉ。
アラン機関とは一体なんなのか
「千束」
「え?あ、はい」
「頑張りましょう」
「う、うん。頑張ってるけど?」
「思っていたよりも楽しい場所ですね」
「そう?じゃあ連れてきて正解だったね」
「今度は一人で来たいです」
「私が邪魔ってこと!!」
「いえ……まぁ」
「どっち!!」
千束がたきなの肩を掴み、グラグラ揺らしていると
「Hi」
「ん?」
英語
「yes」
「ああ、すまない、ついいつもの癖で」
「あ、日本語お上手ですねぇ」
「いやいや、君の方こそ咄嗟に英語を話そうとしたね?素晴らしいよ」
「それほどでもぉ?」
「ところで、何か用があって話しかけたのでは?」
「oh、すまない。本題を忘れていた」
「なになに?もしかしてモデルのスカウトとか?いやぁこまっちゃうなぁ。私にはリコリコがーー」
「君達出禁ね」
「……what?」
「いや君達うるさすぎ。ここは原宿じゃないんだよ?」
「でも私には絵を見る才能があるんですよ!!えっと〜、ほら!!あれとかめちゃ可愛い」
千束は指差す。
「ああ、あれは地域の人にも愛着を持ってもらおうと適当に募った幼稚園児からの絵だよ」
「千束……」
「うぅ!!」
千束は涙を浮かべ
「覚えてろよぉ!!」
「千束!!走ったら危ないですよ!!」
足跡が響く。
「本当に騒がしい子達だな」
男は壁にかかった絵を見る。
「うん、よく描けてる」
◇◆◇◆
「で?千束がうるさすぎて追い出されたと」
「たきなも!!たきなも同じくらいだった!!」
「あの方も注意した時千束のことしか見てませんでしたよ」
「ほらぁ、やっぱあんたが一番うるさかったんだよ」
「うえぇん。せんせぇ、主にミズキとたきなが虐めてくる〜」
「今回は千束が悪い。反省しろ」
「くるみぃ〜」
「悪いが僕は美術についてはからっきしでな。だが、集中してるとこに大声で入られるのは腹が立つな」
「千束」
ミズキは千束の肩に手を置き
「バァーカ」
「ちくしょー」
千束は二階に駆け上がって行く。
「それで?どうだった?」
「どうとは?」
「楽しかった?」
たきなは少し考え
「そう……ですね」
「そ」
ガタガタと上から音がし
「たきな!!」
「はい!!」
千束は何かを持って
「次はどこ行く?」
ニッコリと笑う千束。
「そうですね」
たきなも微笑み返し
「うるさくしても怒られない場所がいいです」
「喧嘩売ってるのかな?」