めんどくさい二人   作:へかぁと

1 / 1
原作未読な方は後書きにこれ知っとけばOKみたいなことを原作設定と本作設定にわけて書いておくので見ることをおすすめ致します
この作品では原作のネタバレとなる部分が出てきます。未読の方はそれを承知して読むようお願いします


自己紹介(リアル)

 私の幼馴染は無愛想だ。いや、より正確に言うなら無表情だろうか? 

 とにかく表情が変わることなく、口調も淡々としたもので、十年以上付き合いのある私ですら何を考えているかよくわからない。……こんな私の近くになんで未だに居てくれるのかすらも。

 今日も朝からチャイムが鳴る。そんな幼馴染が来た証だ。

 身支度を中断して溜息を吐く。決して嫌いなわけではないが、ただでさえ陰鬱な朝に毎日毎日来られたら嫌気も出てくるというものだ。

 ロックを外し、ドアを開けたら相変わらずの鉄面皮が変わらない台詞を吐く。

 

「おはよう、詩乃。今日は……」

 

「今日も一緒に行きたくないから一人で行って」

 

 言い切る前に言葉を被せ、再び溜息を一つ。さっきも言ったが、決して嫌いなわけではない。ただこの男は見てくれが優れていると言わざるを得ない。そんなのと一緒に登校したら目立つことは避けられない。ただでさえ目をつけられているのに、これ以上厄介ごとが起きる要因を抱え込みたくなかった。

 

「む、そうか……。では、また学校でな」

 

「はいはい」

 

 バタン、とドアを閉めてから三度溜息。溜息を吐くと幸せを逃すという話が真実ならば、この短い時間に三つも逃している。

 聞き分けは異様にいいのが幸いではあるが、毎日一緒に登校したくないと言っているのだから察せと思ってしまうのは傲慢なのだろうか。いっそハッキリ言えば、アイツなら聞き入れてくれるとは思うが……。

 

「そこまで言うのもなぁ……」

 

 あれはあれで幼馴染なりの気遣い……なのだろう、多分。少なくとも悪意はないことから、あまり強い語気を用いて突っぱねるのも罪悪感が勝る。

 

「人間関係ってむずかしいな……」

 

 

 

 ⇔

 

 

 

「朝田さん、これ落としたよ」

 

「あ、ああ……ありがとう、向日(むかい)くん」

 

 幼馴染の慣れない呼び方に若干どもりながら、内心では勘弁してくれと思ってしまう。完璧に筋違いなのは分かってはいるが、こちらを恨めしげな目で見ている三人を見ると文句も言いたくなる。

 落とし物を拾ってもらうという、クラスメイトとしてごく普通の行動をしてもらっただけでアレなら、幼馴染であることを知られてしまったらどんなことをされるか……想像しただけで胃から込み上げてくるものがあった。

 その後の授業は全く頭に入って来ず、ノートもひどく見づらい出来だった。昼ご飯は敢えて取らず、処刑台に登る気持ちでその時を待った。

 

「朝田さん、ちょっといい?」

 

「……うん」

 

 そこからはあまり思い出したくない。いつもなら人差し指と親指を伸ばした指銃を見せられるだけで済んだが、今日は実物に近いモデルガンやフィクションの銃撃を強制的に見せられる。

 

「オェェッ……」

 

「きったねーな。恥ずかしくないの? いい歳してゲロゲロ吐いてさ。カエル?」

 

「プッ! ちょっとカエルが可哀想じゃね? カエルはこんなバカみたいに吐かないよ〜」

 

 こちらを笑う声とひりつく消化器官がひどく不快で、流すまいとしていた涙が知らず零れ落ちる。それに気を良くした彼女らは、さらにモデルガンを構えて撃つそぶりを見せる。

 あの時とは形状も状況も違うのに、脳裏に焼き付いた情景が頭に浮かぶ。流れ出る血、こちらを見る目、反動で痛めた体……再び何もないはずの胃から逆流したものが地面を濡らす。

 

 ──だれかたすけて

 

 弱い朝田詩乃の心の叫び。もしかしたら口に出ていたのかは定かではないが、その声が届いたのかこちらを見つめている視線に気づく。位置的に三人からは見えないだろうが、間違いなく向日ユウスケがそこに立っている。……立っている、だけだった。

 彼は見ているだけで動かなかった。誰が見ても三人に詩乃がいじめられていることは明白であり、確かにこちらを見ているのにも関わらず、幼馴染の危機に彼が動くことはない。

 

「なんで……?」

 

 その声は誰にも届くことはなく、三人の気が済むまで朝田詩乃は嬲られ続けた。その間、詩乃が気を失うまで一時も目を逸らすことなく幼馴染は彼女を見つめていた。

 詩乃が目を覚ましたのは夕焼けも終わりかけの時刻だった。吐瀉物は制服に染み付いてしまい、不快な臭いが漂っており、これを着て帰るのは抵抗が残る。ジャージで帰宅するのは校則違反だが、場合が場合なので仕方ない。

 

「帰ったらすぐに洗濯しなきゃ……落ちるかな……」

 

 女子トイレで着替えている間、洗濯のことを考えて思考を逸らすものの、やはり頭に浮かぶのは幼馴染のことだ。なんだかんだ言っても小さくないショックを受けているということはそれなりに信頼していたのだと思わされる。なんなら、あのことがあっても何か事情あってのことではないかと考えるくらいには彼のことを信じている……信じたかった。

 

「ふっ、う、う……」

 

 今度は胃からではなく目から液体を吐き出していた。胸中にあるのは助けてくれなかった怒りでも、虐められる自分の惨めさでもない。あの事件があってなお自分の側にいてくれた幼馴染を失ったのではないかという不安。かき消せない思いが溢れ出し、再び詩乃の服を濡らすのだった。

 

 

 

 ⇔

 

 

 

 散々泣き腫らし、情緒が安定するまでトイレに篭っていた詩乃が自宅に着いたのはすっかり日が落ちた後だった。ふらふらと頼りない足取りで自分の部屋の前までたどり着くと、普段ないものが扉の前に置いてあった。

 

「何これ……」

 

 袋の中を見てみると、タッパーと水筒、スプーンが入っている。どれも飾り気のないシンプルな品物であるので、あの無愛想な幼馴染が置いていったものだと推察するのは容易だった。

 家に入ってから中身を確認すると、タッパーには卵粥、水筒にはスープが入れられている。食えということだろうが、正直散々吐いた後だから食欲が湧かない。ただ、昼も抜いているのだから食べなきゃもたない。

 

「いただきます……」

 

 お粥から一口食べ、ゆっくり咀嚼していく。卵の風味といい塩っけといい米の柔らかさといい、全てが詩乃の好みだった。悔しいが美味しいと言わざるを得ない。その証拠になかったはずの食欲が顔を出し、手は抵抗なく二口目に移る。

 

「美味しいなぁ……」

 

 なぜだろう、勝手に涙がポロポロ溢れ出てきて視界が歪む。嬉しいのか悲しいのか自分ですら分からず、感情の蛇口が壊れてしまったように理由もわからない涙を流し続けた。

 何故自分がこんな目に遭わなければならないのか。何故彼は助けてくれなかったのか。何故自分はこんなにも弱いのか。

 ぐるぐるとかき混ぜられた結果、出てくるのはいつも一つの望みだった。

 

 ──強くなりたい。

 

 過去に負けないくらい強く、強く。

 だから再びあの世界に行くのだ。血と硝煙と銃の世界──ガンゲイル・オンラインに。

 

「リンクスタート」

 

 違う自分になれる魔法の言葉を唱えると意識が遠ざかって行く。ゆっくりと目を閉じ、朝田詩乃の意識はこの世界から消えた。

 

 

 

 ⇔

 

 

 

 幼馴染──向日ユウスケと初めて出会ったのは何年前だっただろうか。少なくとも十年は前だったはずで、記憶が朧げなところも多い。

 出会ったばかりのアイツは今と変わらず無表情だった。……いや、思い返せば表情は出していたのだろう。しかし常にムスッとした顔をしていて、つまらないと態度に出ている生意気な子供だったと思う。内容はわからなかったが、大人が何度かユウについて話しているところも聞いたことがある。

 今の私ならあり得ないことだが、ただユウに声をかけたことが十年以上にも及ぶ腐れ縁の始まりだった。劇的なことは何もなかったが、それでも未だに大きな影響があるのだから人生というのはわからないものだ。

 それからのユウは年相応の子供だったと思う。一緒に遊べば笑っていたし、怪我をした時には涙を目に浮かべていた。何をするにも私の後ろをついてきていて、当時は幼馴染というより歳が近い弟が出来たような感覚だった。

 そんな当たり前が壊されたのは、やはりあの事件のせいだった。

 友達を失い、母を失い、人殺しとなったあの日から、幼馴染の表情が消えた。当時の自分には余裕なんてものはなく、ユウの様子について詳しく見ていることはなかったが、記憶にある限り時期的にはそこだ。事件がなんらかの形で関与したことは想像に容易い。

 事実、あの日以来自分から離れて行く幼馴染を泣きながら引き留めた記憶がある。思い出すと恥ずかしいが、あの恥知らずな行動があって今があるのだから黒歴史だとは思いたくない。

 ただ、だからこそこうして不安に駆られると思ってしまうことがある。

 

 ──私はユウのことを縛っているのではないか? 

 

 そんなことを聞いてもユウはきっと首を横に振るという自信はある。でも、万が一にでも本人に聞いて肯定されたら、何か大事なものが切れてしまう確信がある。だから、聞けない。

 逃げて、遠ざけて、でも近くにいて欲しい。

 そんなわがまま、自分が通していいはずもない。

 でも、向こうなら……シノンなら、少しは胸を張って会えるのだ。その強さが今はとても羨ましかった。




朝田詩乃
本作の語り部1かつ主人公1
原作
幼い頃に郵便局で銃を所持した強盗に遭遇し、母が狙われた際に強盗に噛み付く。今度は自分が強盗に襲われるが、噛み付いた時に落とした銃の引き金を咄嗟に引いてしまい、人を殺してしまう。
そのことがきっかけでPTSDを発症してしまい、死んだ強盗の幻覚を見てしまうほど深い傷を負っている。また、手を銃を模した形にするだけで体調に異変をきたし、最悪吐いてしまうほどである。
しかしVR世界で銃撃戦をするゲームであるガンゲイル・オンラインでは銃を見るどころか人を撃っても症状が現れることはなく、この世界で強くなればPTSDを克服できると考えている。そのため、強さには貪欲で戦闘狂な面も見られる。

本作
基本は原作と変わらないが、幼馴染への執着は強い。年相応に異性である幼馴染と一緒にいるのを恥ずかしがったり、そのせいで虐められることに辟易して遠ざけることもあるが、本当に離れるとなると酷く動揺する。
幼馴染から酷いことをされても何か理由があるはずと考えるくらいには信頼が厚いが、踏み込んだことを聞いて拒否されることに怯えている。また、幼馴染から酷いことをされようと優しいことをされたら許してしまうDV被害者のような面を持っている。

向日ユウスケ
本作の語り部2かつ主人公2
朝田詩乃の幼馴染。自他共に認める無表情であり、淡々とした口調をしている。昔から無表情という訳ではなく、年相応に笑う時期もあったが過去の出来事により感情を表に出さなくなった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。