Continue to NEXT WORLD.../SIREN2(サイレン2)/SS 作:ドラ麦茶
一樹守が目を覚ましたのは、古いビルの屋上だった。正面に、山の頂から見下ろす格好で森が広がっており、その先には赤い海が見えた。写し世の夜見島に戻って来たのだろうか? そう思ったが、すぐにそうではないことに気がついた。頭上を見上げる。この場から見ると、天まで届くと錯覚しそうなほどの巨大な鉄塔が建っていた。ここが写し世の夜見島なら、鉄塔は謎の爆発により崩壊したはずだ。いま一樹が見上げる鉄塔は崩壊などしていないし、大樹や多数の建物とも融合していない。
そして。
再び視線を海へ戻す。写し世の赤い海は血のような色をしていたが、いま目の前に広がっている赤い海は、同じ赤でも全く異なる赤――燃え上がる炎のような色だった。水平線のすぐ上に、写し世の海よりも、血よりも、炎よりもなお赤い太陽が、ゆらゆらと揺らめいている。朝日が昇り、その燃え上がる色が、海に映っているのだ。
一樹は確信した。現実の夜見島に戻って来たのだと。
だが――。
郁子はどうなった? 一樹のそばにはいない。右手が凍えるように冷たかった。赤い津波にのみ込まれる前にしっかりと繋いでいた手を――決して離さないと約束したその手を、離してしまった。ひょっとしたら、
どうやら無事なようだ。一樹は、ようやく安堵の息をついた。
一樹は郁子のそばに腰を下ろすと、膝を抱えて朝日を眺めた。
郁子が小さな声を上げた。意識を取り戻したようだ。上半身を起こし、周囲を見回して、すぐに状況に気がついたのだろうか――なにも言わず、一樹と共に朝日を眺めた。一樹も何も言わず、そのまま二人、朝日を眺めつづけた。写し世の夜見島に飲み込まれていたのは一日程度のはずだが、何年振りかに太陽を拝んだような気分だった。
「綺麗だな――」
一樹は朝日を見つめたまま、郁子に言った。
郁子は――。
郁子は、ひどく眩しげに朝日を見つめていた。目の前に右手をかざして
「――どうした?」
一樹は、首をかしげて郁子を見る。
郁子は、憎らしげに太陽を見つめるその目を、そのまま一樹に向けてきた。
不意に、胸をナイフで刺された――ような気がした。
無論、一樹の胸にナイフなど刺さっていない。そう錯覚してしまうほどの、鋭く、悪意に満ちた視線であったのだ。
しかし、郁子はすぐに顔を伏せると、「ううん、なんでもない」と言って、再び顔を上げた。
その目からは、先ほどの鋭い悪意は消えていた。見間違いだったのだろう。そう思った。
ただ。
「――それより、
郁子は、急所を刺すような視線の代わりに、魂を吸い取るような妖艶な瞳を向けてきた。
そして、一樹の手を取り。
「ここは寒いわ。二人で、どこか温かい所へ行きましょう?」
潤んだような声で言うと、一樹の二の腕に、胸を押し当てた。