Continue to NEXT WORLD.../SIREN2(サイレン2)/SS 作:ドラ麦茶
「……お前らみたいなのがいる限り、俺は、何度でも現れる」
写し世と現実世界の狭間という本来は存在しない世界で、闇人たちを束ねる存在である『母』は、屍人どもを束ねる存在である『劣化種の子』と共に、恐るべき存在と対峙していた。数時間前に島に現れたその恐るべき存在は、一見すると人間の少年のようである。しかし、少年は聖獣宿りし刀と不死なる存在を無に帰す炎の土人形を持っていた。どちらも人間の世界では『神器』と呼ばれており、普通の人間に扱えるものではない。聖獣を味方につける血と、不滅の魂が必要だ。そのふたつを持つ者は、もはや母に匹敵する力を持っていると言っても過言ではない。
少年はふたつの神器を用い、わずかな時間で写し世の世界の闇人と屍人を殲滅したのだった。残っているのは母と劣化種の子だけである。母にとっては劣化種の子と共に戦うなど
まず動いたのは劣化種の子だ。身体を丸め、転がりながら少年へ向かって突進する。少年の身体の数倍はある巨体だ。激突すれば人間などそれだけで絶命させられるはずだ。しかし、少年は恐れず、刀を両手に走る。刀身が青い炎で燃え上がった。母でさえ身震いしてしまうほどの凄まじい力を感じる。聖獣が宿ったのだ。少年は刀を頭上に構え、転がる劣化種の子に向けて振り下ろした。その一閃で、劣化種の子は真っ二つに裂け、少年の左右に分かれて転がった。劣化種の子は高い治癒能力を持っているが、聖獣が宿る刀に斬られれば、もうその傷は治らない。ふたつに斬り裂かれた劣化種の子は、しばらくうめき声をあげながら節くれだった無数の足をもぞもぞと蠢かせていたが、やがて動かなくなった。
少年が母を見る。母は忌々しげに歯を噛みしめながら、しかし、闇雲に突撃はせず、宙に舞い上がって距離を取った。決して刃が届かない位置に留まり、頭上に広がる赤い海に向かって、甲高い声で鳴く。その鳴き声に応じ、海面が大きくうねって盛り上がった。それが鋭い槍となり、少年へ襲い掛かる。少年は右へ跳んでかわす。母は続けざまに鳴き声を上げた。次々と水流の槍が生まれ、少年を襲う。少年はかわしながら、ポケットから土人形を取り出した。あれを使われるとまずい。土人形が生み出す炎を浴びると、母でさえ無事ではいられないのだ。
少年は水流の槍をかわしながら機会を伺っている。その動きが止まった。土人形を頭上に掲げる。ちょうど、先ほど真っ二つに引き裂かれた劣化種の子の半身のすぐそばだった。土人形に生命力が注ぎ込まれる。
その時、劣化種の子の半身が、最後の力を振り絞り、節くれだった足の一本を動かして少年の右足をはらった。攻撃と呼べるほどのものではない。少年は体勢を崩して倒れそうになったが、どうにか踏みとどまる。
しかし、そこに生じたわずかな隙を、母は見逃さない。さらに大きく鋭い水流の槍を生み出し、少年へ打ち下ろす。水流の槍は、土人形を構え直す少年の胸を貫いた。少年の手から、ぼとり、と、土人形が落ちる。続いて刀が落ちた。少年が膝をつく。そのまま少年は倒れ、動かなくなった。だが、まだ油断はできない。少年は不滅の魂に加え不滅の肉体も持っている。時間が経てば、またよみがえるのだ。水流の矢で貫くだけでは、この少年を倒すことはできない。
母は、さらに甲高い声で鳴いた。それに呼応し、少年の四方から、巨大な赤い津波が押し寄せる。津波はあっという間に少年を飲み込むと、その身体を引き裂いた。
母はようやく安堵の笑みを浮かべた。母の力をもってすれば、不死の者を倒すことは可能だ。あの赤い津波で引き裂けば、もう二度と少年が蘇ることはない。少年が何者だったのかは判らずじまいだが、ともかく脅威は取り除いた。もう、恐れるものは何も無――。
「……お前らみたいなのがいる限り、俺は、何度でも現れる」
写し世と現実世界の狭間という本来は存在しない世界で、闇人たちを束ねる存在である『母』は、屍人どもを束ねる存在である『劣化種の子』と共に、恐るべき存在と対峙していた。数時間前に島に現れたその恐るべき存在は、一見すると人間の少年のようである。しかし、少年は聖獣宿りし刀と不死なる存在を無に帰す炎の土人形を持っていた。どちらも人間の世界では『神器』と呼ばれており、普通の人間に扱えるものではない。聖獣を味方につける血と、不滅の魂が必要だ。そのふたつを持つ者は、もはや母に匹敵する力を持っていると言っても過言ではない。
少年はふたつの神器を用い、わずかな時間で写し世の世界の闇人と屍人を殲滅したのだった。残っているのは母と劣化種の子だけである。母にとっては劣化種の子と共に戦うなど
まず動いたのは劣化種の子だ。身体を丸め、転がりながら少年へ向かって突進する。少年の身体の数倍はある巨体だ。激突すれば人間などそれだけで絶命させられるはずだ。しかし、少年は恐れず、刀を両手に走る。刀身が青い炎で燃え上がった。母でさえ身震いしてしまうほどの凄まじい力を感じる。聖獣が宿ったのだ。少年は刀を頭上に構え、転がる劣化種の子に向けて振り下ろした。その一閃で、劣化種の子は真っ二つに裂け、少年の左右に分かれて転がった。劣化種の子は高い治癒能力を持っているが、聖獣が宿る刀に斬られれば、もうその傷は治らない。ふたつに斬り裂かれた劣化種の子は、しばらくうめき声をあげながら節くれだった無数の足をもぞもぞと蠢かせていたが、やがて動かなくなった。
少年は母を見る。ここで、母は気が付いた。少年は先ほど水流の矢で貫き、赤い津波で引き裂いたはずだ。もう二度とよみがえることはできない。
なのに、少年は目の前に立っている。よみがえったのではない。先ほどの少年を倒した行為が無かったことになっている、つまり、時間が戻されているのだ。そのことに気付いた時、さらに記憶がよみがえった。少年を赤い津波で引き裂いたのは、あれが初めてではない。その前にも、さらにその前にも、そのさらに前にも引き裂いている。そのたびに時間が戻され、もう一度少年と戦わなければならなくなっている。仮にまた少年を倒したとしても、また時間が戻されるであろう。恐らくは母が倒されるまで、何度でも、何度でも。これではこちらに勝ち目など無い。
だが、なぜそんなことが可能なのだ。時間を戻すなど、母の力をもってしても不可能だ。それはつまり、少年が母にも勝る力を持っているということなのか。いや、違う。これは少年の力ではない。おそらく少年は時間が戻っていることに気が付いていない。これを行っているのは、少年とは別の存在だ。母に勝る力を持つ存在――心当たりはひとつしかない。
母は頭上に目を向けた。そこには赤い海が広がっているだけだが、その向こう側の、さらに遠く――母でさえも手が届かぬ遥かな場所から、
母の真下から炎の柱が燃え上がった。少年が放った命の炎だ。炎の柱が、宙を舞う母を包み込む。身を焼かれた母は、悲痛な叫びと共に地面に落ちた。
それでも、母は首をもたげ、憎々しげな目で少年を睨む。
そこへ、少年が刀を振るった。
断末魔の悲鳴と共に、母の首は地面に転がった。
闇の住人どもを殲滅した須田恭也は、一人、立ち尽くしていた。これで、いくつの世界の闇の住人を殲滅しただろう、もう覚えていない。これから、いくつの世界の闇の住人を殲滅するのだろう、それも判らない。
――殲滅せよ。
声が聞こえる。それは耳に聞こえたのか、あるいは頭に直接響いたのか、それも判らない。
ただ、その声に従い、次の世界へ向かうしかない。
すべて消さなければならない。どれほどの時間がかかろうとも。それが、
――――。
あの
あの娘とは、誰だ?
…………。
……美耶子。
そう、美耶子だ。美耶子と約束したのだ。
だが、それも仕方がない。長く戦い続けてきたのだ。記憶が曖昧になるほど、長く。
時々、不安になる。この戦いは、いつまで続くのか。いずれ俺は、全てを忘れてしまうかもしれない。
美耶子の名前も。
美耶子の顔も。
美耶子と過ごした数日のことも。
そして、美耶子と交わした約束も。
いや、そもそもこれは、美耶子との約束なのだろうか? 戦い続けることを、美耶子が望んでいたのだろうか? もう、なにも判らない。戦い始めた頃は常にそばにあった美耶子の気配も、もう遠い昔に消えた。美耶子の気持ちを確かめることはできない。その声を聞くこともできない。その姿を見ることもできない。いずれ、声や姿を思い描くこともできなくなるだろう。長い戦いの果てに、美耶子との約束通りあいつらをすべて消したとしても――もう二度と、彼女に逢うことはできないのかもしれない。
それでも。
――殲滅せよ。
その声に突き動かされ、恭也は戦い続ける。
地面が揺れる。頭上の赤い海が波打つ。世界が、崩壊する。
足元から光の柱が現れて、恭也を包み込んだ。
――殲滅せよ。
恭也は、また、次の世界へ向かう――。