あれから5年。私はヒジムから様々な知識を教えてもらった。文字の読み書きはもちろんこの世界の常識を何も知らなかった私にヒジムは根気強く1から教えてくれた。
「なぁシア。もうすぐ定期整備の時期じゃないか?」
「そうだね。研究室借りるね?」
「おう。気ぃつけろよ?」
「うん。」
定期整備。これは人間の時には無かったものだが、構造体になってからは定期的に自分の体の整備をしている。
3年前までは構造体に詳しいらしいヒジムが地下のボロボロな研究室で体の隅々までチェックしてくれてたんだけどヒジムの左腕が動かなくなっちゃったからそこからは代わりに私がやる事になった。最初は変なところを外しちゃったりして大変だったけど今では見なくてもできるようになった。
それともう1つ...。
「...侵蝕率68%...ちょっと高めかも。」
私の体に蔓延る侵蝕体...。パニシングとも呼ばれるそれはAIによって最適化された機械体を侵蝕して化け物にする。...当然それは体が機械である構造体にも危険と言える。さらに言えば普通の人間が誤って体内に取り込んた場合でも命の危険がある。それほど侵蝕体は危険なものなのだ。
特殊な機材を用いてパニシング濃度を測っているのだが、いつもより高い。いつもは50%ぐらいだから約20%分ぐらい上がってる。
「...ヒジムには見せられないな。」
かつて彼が言ったことを思い出す。
『いいか?普通の構造体なら10%侵蝕されれば苦しみ出す。それに耐えられなければものの数秒でパニシング濃度は100%になるだろう。本当に大丈夫か...?苦しくないか...?』
『う、うん...分かったから揺らさないで...。』
『お、おうごめんな...。でも心配なんだよ。46%だぞ...?何も無いはずがないんだよ...。』
10%でも苦しくなる侵蝕体。今ではもう70%まで上がっちゃった。意識海の方も気持ち悪い黒い何かが蠢いてるのは分かるんだけど私が近づくと少しだけ距離を取ってくるんだよね...。あ、意識海っていうのはその名の通り意識の海のことだよ。言うなれば心の中...って私は認識してる。通常ならキレイな世界らしいんだけど私の中は侵蝕体だらけで真っ黒な世界だ。それでも私には影響がないのが不思議でしょうがない。
「どうだった?」
「うん。意識海は安定してたよ。」
「そっか...それは良かった。」
いつ襲ってくるか分からない侵蝕体から身を守るために作り出した武器の整備も終わって外に出るとソワソワした様子でヒジムが待っていた。前に心配しすぎで研究室に突入してきたことがあったんだけどその時私が驚いちゃってちょっとした事故が発生したからかそれ以来整備が終わるまでは入ってこないようにしてるらしい。私としては侵蝕率を見せたくないからその方が良いけどね。
「っ!ヒジム私の後ろに!!」
「な、なんだ!?」
──ドガァァァンッッ!!!
急に地下室の扉が破壊された。ヒジムに覆いかぶさった私の背中に飛んできた瓦礫が当たるが構造体なので問題ない。それよりヒジムは...大丈夫そう。
「...この辺りも戦闘範囲内に入っちゃったみたいだね。」
「...そうか...。この森の奥なら大丈夫だと思っていたんだがな...。」
さっきの爆発はきっと空中庭園のモノだろう。扉の上に立っていた侵蝕体を爆破したらしく扉諸共壊れてしまった。
「...ここもダメそうだね。」
「あぁ...また引越しだな。」
ここ5年間毎年のように引越しをしている。空中庭園の戦闘範囲内から逃げるためだ。ここ最近はどんどん拡大していって逃げる頻度も早くなっていく。
「ちっ...忌々しい空中庭園め...今更地球をどうしようってんだ...。」
「...。」
多くの人を残して飛び去った空中庭園。侵蝕体に逃げ惑う人々に銃を突きつけ、牽制した空中庭園は多くの人々の恨みの対象となっていた。...ヒジムもまた目の前で銃を突きつけられた1人。いくらキレイな心を持っていてもこの行動は衝撃的で忘れられないのだろう。
「準備はできたか?」
「完璧」
「それじゃあ行くぞ。」
崩壊した入口に侵蝕体の反応はない。チラッと目視でも確認してみたがやはりいない。いないことを確認して勢いよく飛び出す私と後に続くヒジム。普通の人間であるヒジムは銃弾1発でも食らってしまうと最悪死んでしまう。だからこうして構造体の私が前に出て走るのだ。こうすることで何かあればヒジムを守れる。
しかし
───ヒュゥゥゥゥッッ...!!
現実は
──ドゴォォオオオオオオオオンッッ!!!!
非情だった
パニグレって登場人物ことごとくみんな悲惨な過去を持っていますよね。そんな過酷な世界がシアを襲う...。