聖騎士
「はあっ、はあっ」
ぐちゃぐちゃになった肉片を前に、力尽きるように膝を付く騎士が一人。金髪碧眼のその男は、その惨状を前にジッとその肉片を見詰めていた。
手に持つ剣は鮮血に濡れ、隣に転がる石には磨り潰された肉体がこびりついていた。
そして、見詰め続けて数秒。あることを悟った男は、頭を抱えるようにして地面に崩れ落ちる。
「……クソが、クソが……なんでだ」
それはゆっくりと蠢き始めていた。ぐじゅぐじゅと溶けるような音をたて、それが泡をたてて消失する。地面に呑まれるように、血液が、肉片が綺麗さっぱり姿を消して。
「なんで死なねぇ! おかしいだろ?!!
地面を拳で叩き付ける。バン、と地面が抉れ、土片が飛び散る。
──そして、煙をたてて
「──無駄な努力ご苦労様です、聖騎士ベルガ」
クスクスと笑いながら、頭からゆっくりと肉体が形作られる。そうして、瞬きの間に現れたのは、金色に飾られた黒いローブ──魔女のようなそれを纏った、一人の女。そして彼女は、まごうことなく魔女その物である。
彼女は黒色の髪を靡かせ、蒼色の瞳を詰まらなそうに細めた。
「なんでだ……答えろっ!! 《黒》の魔女!!」
「弱すぎるからじゃないですか? もしくは私が強すぎるからかも?
……あっ、ごめんなさい。本当の事でも言って良いことと悪いこと、ありますよね」
眉を顰めて謝罪する魔女に、ベルガはギリギリと歯を食い縛る。ギラリと輝く、染み一つない白銀の剣を魔女に向ける。
喉から唸るように声を吐き出す。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
「答えろって言ったじゃないですか。それで答えたら今度は『黙れ』ですか? 支離滅裂ですよ、聖騎士ベルガ。教会はこんなのばっかりなんですか?
……あぁ、なるほど!もしかしてわざとだったりします?話が通じない阿呆だと思わせて、私の隙をつこうって事ですか?」
どこまでも神経を逆なでする魔女の声に、ベルガは耳をかたむける事を止める。剣を振るう。それは、どこまでも見下した目をした魔女の首を切り裂き、造作もなく断ち切った。
そして、魔女の首が落ち──繋がった。グチッ、と首が癒着する。そして煙をたてて首の傷が再生し始める。
魔女は目を丸くして、手を合わせた。それはもう、本当に驚いたように顔を歪める。
「──おや、隙をつかれてしまいました。流石です。まさか教会の聖騎士が、意味も無くあんなおかしな答弁をするわけないですもんね。
流石としか言えません。言葉すら出ませんよ、ええ」
「……こ、のっ!!!」
剣が顔を横から半分に断つ。びちゃりと音をたて、すぐにそれは引っ付き捩り再生する。
「でも悲しいですね? 学ばないのは罪ですよ。さっき散々切ったじゃないですか。
もしかしてそう言う趣味の方ですか? 教会の騎士は悉くそう言う趣味を持った方々の集まりだと?」
「くそがあぁああ──!!!!」
剣が熱を持ち、光を放つ。煌々と煌めくそれが、魔女の肉体を肩から腰まで切断して──、
「──おや、熱いです。頑張りましたね」
不思議そうな顔をした魔女の肉体は、崩れ落ちそうになり、そしてブジュ、と。そう気味の悪い音をならして肉体はくっつき、そして治癒する。
焦げた肉体は戻っていた。切れた服はほつれ一つありはしなかった。
「…………あ」
「どうしました? 聖騎士ベルガ。強いのでしょう? 貴方は強いのでしょう? だから私を、他の人間の提言を無視してまで殺しにきたのでしょう?
折れないで下さいよ。折れたら詰まらないじゃぁないですか。私を殺そうと、あがいてあがいてあがいて足搔いて下さい。
その無駄な努力を、私は笑って許してあげます。無為で無価値な貴方の行動を、私は笑顔で認めましょう…………どうしたのですか?」
そんな魔女を前にベルガは──カランと剣を落とした。顔を手が覆う。膝が地面に呑み込まれる。
「……無理、無理だ。俺が、俺が間違いだった!無理に決まってる!どうしろって言うんだこんな化け物!!」
そして崩れ落ちる。地面に落ちた剣を拾おうともせず、彼はただ諦観に落ちた。
そして、それを認め《黒》の魔女はため息を付いた。
「はぁ、詰まらない。どうせ殺そうとするなら、千でも億でも挑む覚悟で来て下さいよ。
薄弱な意思で私を『殺そう』だなんて思わないで下さい」
呆れたように首を振る。そして、彼女は謝罪と諦めの言葉を口にし続けるベルガを背に反転。
「──もう来ないでくださいね。教会の聖騎士さん」
そして、その言葉を最後に、彼女はコツコツと音を鳴らして消え去った。
絶対全員出るまで書ききれなさそうなので、あとがきに魔女紹介コーナーを作りました。ランダムに発生します。暇な方は読んでみて下さい。