煽り強めの魔女のお話   作:るてにうむ

1 / 9
プロローグ
聖騎士


 

「はあっ、はあっ」

 

 ぐちゃぐちゃになった肉片を前に、力尽きるように膝を付く騎士が一人。金髪碧眼のその男は、その惨状を前にジッとその肉片を見詰めていた。

 手に持つ剣は鮮血に濡れ、隣に転がる石には磨り潰された肉体がこびりついていた。

 

 そして、見詰め続けて数秒。あることを悟った男は、頭を抱えるようにして地面に崩れ落ちる。

 

「……クソが、クソが……なんでだ」

 

 それはゆっくりと蠢き始めていた。ぐじゅぐじゅと溶けるような音をたて、それが泡をたてて消失する。地面に呑まれるように、血液が、肉片が綺麗さっぱり姿を消して。

 

「なんで死なねぇ! おかしいだろ?!!

 吸血鬼(ヴァンパイア)でも再生が無理なほどに分断した!! 呪いを断ち切る聖法を使った──なのになんで殺せねぇんだ!!」

 

 地面を拳で叩き付ける。バン、と地面が抉れ、土片が飛び散る。

 ──そして、煙をたてて()()は姿を形作り始めた。

 

「──無駄な努力ご苦労様です、聖騎士ベルガ」

 

 クスクスと笑いながら、頭からゆっくりと肉体が形作られる。そうして、瞬きの間に現れたのは、金色に飾られた黒いローブ──魔女のようなそれを纏った、一人の女。そして彼女は、まごうことなく魔女その物である。

 彼女は黒色の髪を靡かせ、蒼色の瞳を詰まらなそうに細めた。

 

「なんでだ……答えろっ!! 《黒》の魔女!!」

 

「弱すぎるからじゃないですか? もしくは私が強すぎるからかも?

 ……あっ、ごめんなさい。本当の事でも言って良いことと悪いこと、ありますよね」

 

 眉を顰めて謝罪する魔女に、ベルガはギリギリと歯を食い縛る。ギラリと輝く、染み一つない白銀の剣を魔女に向ける。

 喉から唸るように声を吐き出す。

 

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ!!」

 

「答えろって言ったじゃないですか。それで答えたら今度は『黙れ』ですか? 支離滅裂ですよ、聖騎士ベルガ。教会はこんなのばっかりなんですか?

 ……あぁ、なるほど!もしかしてわざとだったりします?話が通じない阿呆だと思わせて、私の隙をつこうって事ですか?」

 

 どこまでも神経を逆なでする魔女の声に、ベルガは耳をかたむける事を止める。剣を振るう。それは、どこまでも見下した目をした魔女の首を切り裂き、造作もなく断ち切った。

 

 そして、魔女の首が落ち──繋がった。グチッ、と首が癒着する。そして煙をたてて首の傷が再生し始める。

 魔女は目を丸くして、手を合わせた。それはもう、本当に驚いたように顔を歪める。

 

「──おや、隙をつかれてしまいました。流石です。まさか教会の聖騎士が、意味も無くあんなおかしな答弁をするわけないですもんね。

 流石としか言えません。言葉すら出ませんよ、ええ」

 

「……こ、のっ!!!」

 

 剣が顔を横から半分に断つ。びちゃりと音をたて、すぐにそれは引っ付き捩り再生する。

 

「でも悲しいですね? 学ばないのは罪ですよ。さっき散々切ったじゃないですか。

 もしかしてそう言う趣味の方ですか? 教会の騎士は悉くそう言う趣味を持った方々の集まりだと?」

 

「くそがあぁああ──!!!!」

 

 剣が熱を持ち、光を放つ。煌々と煌めくそれが、魔女の肉体を肩から腰まで切断して──、

 

 

「──おや、熱いです。頑張りましたね」

 

 

 不思議そうな顔をした魔女の肉体は、崩れ落ちそうになり、そしてブジュ、と。そう気味の悪い音をならして肉体はくっつき、そして治癒する。

 焦げた肉体は戻っていた。切れた服はほつれ一つありはしなかった。

 

「…………あ」

 

「どうしました? 聖騎士ベルガ。強いのでしょう? 貴方は強いのでしょう? だから私を、他の人間の提言を無視してまで殺しにきたのでしょう?

 折れないで下さいよ。折れたら詰まらないじゃぁないですか。私を殺そうと、あがいてあがいてあがいて足搔いて下さい。

 その無駄な努力を、私は笑って許してあげます。無為で無価値な貴方の行動を、私は笑顔で認めましょう…………どうしたのですか?」

 

 そんな魔女を前にベルガは──カランと剣を落とした。顔を手が覆う。膝が地面に呑み込まれる。

 

 

「……無理、無理だ。俺が、俺が間違いだった!無理に決まってる!どうしろって言うんだこんな化け物!!」

 

 

 そして崩れ落ちる。地面に落ちた剣を拾おうともせず、彼はただ諦観に落ちた。

 そして、それを認め《黒》の魔女はため息を付いた。

 

「はぁ、詰まらない。どうせ殺そうとするなら、千でも億でも挑む覚悟で来て下さいよ。

 薄弱な意思で私を『殺そう』だなんて思わないで下さい」

 

 呆れたように首を振る。そして、彼女は謝罪と諦めの言葉を口にし続けるベルガを背に反転。

 

「──もう来ないでくださいね。教会の聖騎士さん」

 

 そして、その言葉を最後に、彼女はコツコツと音を鳴らして消え去った。




絶対全員出るまで書ききれなさそうなので、あとがきに魔女紹介コーナーを作りました。ランダムに発生します。暇な方は読んでみて下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。