煽り強めの魔女のお話   作:るてにうむ

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2023年 2月20日

内容に大幅な変更を加えました。


吸血

 一対の牙から己の肉体がトクトクと流れ出ていくのを感じた魔女は、思わず目をパチパチする。久方ぶりの感覚に、思わずため息が漏れた。

 

「……この感覚は……吸血、ですか。吸血鬼の食事の代わりとも言われているようですが、本質は違った筈ですね?」

 

 ズッ、と更に血液が抜け出す感覚が強まる。同時に、何か別の物も混じり始めた感覚。ゴクンと急ぐように、それこそ吸い殺す勢いで少女の喉が蠕動するのを感じる。

 それを止めようともせず無防備に受け入れながら、魔女は楽しそうに言葉を紡ぐ。

 

「いえ、答えは必要ありませんよ? 私が会った吸血鬼は、確かこう言っていました。

 『ボクらにとって吸血とは、魔力補給の唯一の手段なんだ』、と。同時に、己を手っ取り早く強化する手段でもあると」

 

 驚いたように吸血が止まり、そして一心不乱に血を啜っていた少女は上目遣いで魔女を見上げる。

 

「この際魔力については論じません。言いたいのは、もう一つの方──己の強化についてです。

 曰く、少しだけ……本当に少しだけ、吸血した生物の性質を取り込んでしまうそうです。本来は気にならない程度のものです。それこそ、竜種の体を満たす血の半分を飲んでやっと実感出来る程度のものですが……それを彼女は『強化』と表現したわけですね。

 ……さて、もう十分でしょう」

 

 少女が大きく目を見開く。そして、魔女は少女の体を抱きしめるようにしていた腕をほどいた。

 呆然としていた少女の口が開き、赤い糸を引きながらするっと一対の牙が抜ける。傷口はすぐに塞がった。

 

「私の血を……そうですね……貴女の半分程飲んだかの吸血鬼は、『不倒』の名を冠するまでに至りました。

 とすると。さて、」

 

 思い出すように口を動かしながら、魔女は立ち上がる。そして、下で己を見詰めて静止している吸血鬼を見据えた。

 

「──貴女はどこまで至りますかね? 楽しみにしていますよ、小さな吸血鬼さん」

 

 そして、魔女は泰然とした動作で歩き始めた。ザクリ、と地面を削る音がする。そして、数歩吸血鬼から離れた場所で魔女は止まり、口を開いた。

 

「……では、さようなら……と言いたいところですが、私の力を扱い慣れないうちに死んでしまっても興醒めです」

 

「……え?」

 

 ぼーっとしたまま、吸血鬼は魔女の言葉を咀嚼する。牙からポツリと一筋の血が滴り落ちた。

 それを認め、魔女は人差し指を立てる。

 

「では、突然ですが始めましょう。

 題はない。紙もない、ペンもない、ノートもパピルスもインクも、そして貴女の脳すら足りないかもしれない──そんな青空教室のお時間です」

 

 そういって、魔女はにこやかに微笑んだ。

 

 

 ◆◇

 

 

 あちこちに大きな穴が出来ていた。大きな大きなモグラがいればその光景を作り出すのであろうが、今回は違う。変異を繰り返した巨大な蛇が、今回の犯人であった。

 

 その元凶、鎌首をもたげた巨大なそれが、そのアメジスト色の鱗を煌めかせながら一人の少年とにらみ合っていた。

 

 ギリはそれを、隣に構える聖女と賢人、そして一歩前に出た己の弟子と見守りながらなにか違和感を感じていた。

 

(……弱い。様子見と鍛錬も兼ねて、レイガにこの変異大蛇(アジャール)を任せたが……弱すぎる。このままでは本当に『鍛錬』で終わってしまうぞ?

 ……なにか懸念があるとすれば、途中で突然動きが良くなった事か?)

 

 ギリが悩む間にも、戦局は変わり続ける。そして、一触即発だった雰囲気が、引き絞った弦が切られるように破裂した。

 

「──ギァァアアア!!!」

 

「──おぉおおおお!!!」

 

 飛びかかる大蛇の一撃を──紙一重で飛び越す。

 そのまま首に回り込んだレイガの光を纏った剣が、固い鱗を突き破った。

 

 そして、回転。右手に構えた風の魔術で宙で跳ねるように回った勇者のその一撃は──大蛇の首を切り取った。

 

 四人が見守る中、ズルッ、っと首が滑り落ちる。

 

 そして、力を失った勇者も地面へと落下を始めた。それに目を留めたのはシニィであった。先ほどの風の魔術、それよりも格段に緻密な精度で魔術を発動する。勇者の体は、まるでなだらかな丘を滑り落ちるように彼女の腕の中へ収まった。

 

 気絶したレイガの寝顔を見詰め、シニィは微笑んだ。

 

「……まぁ、大丈夫かしらね」

 

「……そうか」

 

「なによ、師匠。今回ばかりは喜んであげても良いんじゃない? 強さで言ったら都市級の魔物よ?」

 

「勇者が守るのは世界だ。通過点で褒めてられん」

 

 『相っ変わらず偏屈な爺さんみたいなこと言うのね!』との弟子の弁を背中に、ギリは聖女と賢人に向かう。

 

「どう思う」

 

 賢人がピクリと反応する。

 

「変異種がたまたま、は考え辛いです。おまけに、誘い出しのように定期的に人里におりて被害を出していたようですし」

 

「だろうな……セイア、お前はどうだ」

 

 先ほどから無言のセイアに、ギリは目を向ける。セイアはため息をついて反応した。

 

「……終わってない、ですね」

 

 驚きはなかった。そしてセイアの予知能力は確実だ。

 疑う余地はない。故に、後ろでびっくりしたように目を瞬くシニィを認め、後でもう一度教本の内容を叩き込んでやろうと考える程の暇があった。

 

 セイアの言葉を聞くまでは。

 

「──最悪の場合は、『魔女』と『吸血鬼』と相対する事になります」

 

「なんだと?」

 

 頭を抑えるように手を動かすセイアを思わず二度見する。

 

「……どの魔女と吸血鬼だ」

 

 「それは……分かりません。何度も言いますが、私の『予知』は大きな出来事の、しかもかなりぼんやりとした内容が言葉で浮かんでくる、程度のものです。精度は無いに等しいですよ」

 

 吸血鬼は誰かによる。『剥離』は最悪だ。『克烈』は不味い。『決裂』も『不倒』も不味い。

 しかし吸血鬼はピンキリだ。まだマシな可能性は否定出来ない。

 

 ──だが、魔女はダメだ。

 

 『勇者の資格』を失ったギリでは、魔女の『加護』に対抗出来ない。

 

「ま、魔女って! 師匠!! 不味いじゃない!! さっさと逃げましょう?!」

 

 慌てるシニィをチラリと見る。それに返答しようとし、横から声が割入った。

 

「魔女に対抗できる勇者がそこにいるではないですか。なら問題ないと思いますが?」

 

 シニィが一瞬呆然とし、次いでキッと三人を睨むと今にも逃げ出しそうな体勢に変わる。

 それを見ながらギリはそろそろ頭痛を感じ始めた。かつてパーティーを率いていたときにも似たような事があったからだ。

 

「……シニィ、そこまで警戒するな。流石の俺でもそんな最終手段までは考えていない」

 

「相変わらず賢人様は過激派ですね……いえ、それで助かった事もあるのですが」

 

 昔を思い出したのかセイアも薄い微笑みを称えていた。責められている理由が分からず賢人が疑問符を頭に浮かべる。

 

 そして、どうやら最悪の事態は無さそうだとシニィが安堵のため息をついた瞬間、軽く微笑んでいたセイアが突然凍り付く。そして次の瞬間、その顔には険しい表情が浮かんでいた。

 

「──来ます」

 

 あまりにも急な到来の報告に、誰も反応出来なかった。

 

 そして、故に誰も気が付いていなかった。

 

 

「おや、先程ぶりですね、皆様方」

 

 

 後ろに既に、『ソレ』がいた事に。




【魔女紹介コーナー】
《雫》の魔女
自身を『見た』生命の視覚を段階的に失わせ、自身の声を『聞いた』生命の聴覚を段階的に喪失させる。
失わせる五感は、それぞれの魔女を感じた五感全てに対応している。

『ひ、ひひっ……酷いよ』

『わた、わたっ、わたっ……私はっ!』
 
吃音。とんでもない自己中。吃音のお陰でバレていないが、一番仲の良い魔女には知られており、いつも言いたいことを先読みされ呆れられている。


 

「わたっ、わたっ、......私は!! こんなにすごいのに!! なんでそんな舐めた口遣いをするの?!!」
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