煽り強めの魔女のお話   作:るてにうむ

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後門の吸血鬼

「──全員構えろ!!」

 

 ギリが叫ぶ。それに呼応してセニアが手を伸ばす。賢人が懐へ手を入れる。

 一拍遅れ、シニィが腰のポーチから指輪を取り出し、右手の人差し指に付けたのと同時──目の前に風が吹いた。

 

 大蛇によって掘り返された土くれが崩れる。残った木々の葉が擦れるような音を鳴らした。

 

 ──シニィの目の前に右手があった。細く小さな白い手。その掌がシニィに向けられていた。

 

 え、とシニィは思考を止める。

 

「弱いやつから殺す、って鉄則よね」

 

 そしてズッ、と掌から光が溢れ出す。それは単なる魔力を放出するだけという力業だった。

 相手が人間なら問題なかっただろう。魔力の絶対量が足りないから、それはシニィでも受け止められる程度のそれにしかならなかったはずだ。

 

 しかし、吸血鬼。それの全力の魔力放出は桁が違った。死──その姿が垣間見える。

 

「──ッ!!」

 

 だがシニィがその全貌を見ることはなかった。

 

 空気を斬るような、リンという音が鳴る。鮮血が宙へ散る。

 同時、視界の端に映るなにか。咄嗟に視線を向けると、クルクルと空を舞っていたのはあまりにも綺麗な切断面をした右腕だった。

 

「おや」

 

 魔女が意外な物を見たように呟く。それを傍目に、吸血鬼は赤色の瞳を瞬いた。

 

「あら、斬られちゃったわ」

 

「……舐めるな、吸血鬼」

 

 そして、シニィの目の前にいたのはギリだった。いつの間にかその剣は振り切られており、視線は鋭く吸血鬼を射貫いていた。

 速い。それを認めた吸血鬼は軽く頷く。

 

「そうすると魔術あたりを使う隙はなさそうね……じゃあ肉弾戦と洒落込もうかしら」

 

 そして、()()に握られたのは歪な赤色をした短剣。それをピッ、と一行に向ける。それにギリは剣を構えることで応じた。

 

「俺以外は後ろで補助に回れ!」

 

「……そうですね、今回はよろしくお願いします」

 

「はいはい、分かりましたよ」

 

 一瞬躊躇ったシニィ。それを見逃すギリではなかった。ギロリと向けられた視線に、シニィは軽く悲鳴を上げると後ろへ駆け出す。

 

「あら? いいのかしら?」

 

「……貴様との問答に付き合うつもりなどない」

 

 瞬間、弾ける様にギリの手がブレた。放たれるのは神速の一撃。

 ()()()()2()()()()()()とはいえ、魔王の首元、その寸前まで手をかけたその斬撃は──、

 

 

「──流石に速いわね」

 

 

 ──止められた。一瞬爆風がまき散らされる。それが収まったころに目に入るのは。短剣と剣が鍔迫り合い、ギリギリと耳を塞ぎたくなるような音を出す光景だ。それは腕力という意味での実力が少なくとも伯仲しているが故の結果である。

 そのありえない光景を認め、ギリは目を見開いた。いや、ありえないわけではない。だが、吸血鬼という種族柄殆どなしえないことであるというだけだ。

 

「……っ」

 

 腕がきつくなってきたあたりで後ろへ一歩引く。それを眺めながら、吸血鬼は悠々と短剣を降ろした。 

 ギリは剣を持ち換え、嚙み締めるようにグッと右手を握る。

 

(本来吸血鬼はこんな馬鹿げた腕力を持つ種族ではない……短剣で俺の、それも剣の一撃を受け止めるだと?)

 

 視線を前に向ける。

 

「……貴様、本当に吸血鬼か?」

 

 その言葉に対する返答は、笑うように細められた瞳だった。口元がつり上がり、赤い瞳がギリを貫く。

 

「さあ、どうかしらね」

 

 そして、吸血鬼は前傾姿勢になり──弾けた。

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