煽り強めの魔女のお話   作:るてにうむ

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違和感

「……おかしいですね」

 

 賢人は思わず呟いた。最初のやり取りの後、自然と始まった剣戟の雨嵐。

 

「あは、はははは──すごい! すごいわ!! まだまだ上げられる!! ねえ、先代勇者ってこんなものじゃないでしょう?!」

 

「……!!」

 

 ギリの頬を斬撃が走る。鮮血が飛び散った。一瞬の隙。

 だが、近接職同士では致命的な隙だった。吸血鬼がニヤリと笑い、飛び掛かるようにギリへと迫る。

 

「っ……これでどうですか?!」

 

 それを見かねたセニアが、ギリの前に光の防護壁を作り出す。

 

「そんな脆い壁、あってもないのと同じよ!」 

 

 吸血鬼の拳が壁へとめり込む。

 一瞬たわむと、壁はパリンと弾け飛んだ。だがその一瞬でギリは吸血鬼の後ろと駆け抜けていた。

 そして逃げられたという事実に、吸血鬼は不満そうに頬を膨らませセニアを見遣る。

 

「……まぁ良いわ。先に先代勇者を殺してから、貴女たちは殺してあげる」

 

 くるりと回転すると、再びギリとの間に斬撃が走る。

 

「ちょっと賢人様! 手伝ってくださいよ!」

 

 吸血鬼の殺意を真っ正面から受けたセニアは思わず叫んだ。ここ最近戦場なんて出てなかった故の耐性の薄さ。 

 賢人はぼんやりと戦場を見つめながら呟いていた。

 

「……いや、なにかおかしいんですよね」

 

「何がですか? 役に立つことなんでしょう、ね……」

 

 賢人の後ろへ目をやったセニア。あり得ないものを見たかのように固まった彼女を差し置いて賢人は小首を傾げると、再び呟く。

 

「おかしいんです。吸血鬼の性質的に、回復を前提としない真っ正面からの肉弾戦で戦っている事が」

 

「それは私のせいですね、ちょっと手を貸してあげたので」

 

「手を貸したとはどのように貸したんです?」

 

「……うーん、そうですね。ちょっと弱々過ぎたので、私の力の一部をあげました」

 

 それを聞き、賢人はうーんと唸る。そこで固まっていたセニアがギギギ──と動き出した。

 

「──なんで魔女がここにいるんですか!!! 逃げますよ! シニィ!!」

 

「え……ちょ、ちょっとセニアさん?!」

 

 戦場と横たわった勇者を交互に見ていたシニィは話を聞いていなかった。セニアにかかえられ初めて近くを意識し、固まった。

 

「ま、魔女……?」

 

「どうも。それと聖女さん、逃げたら誰かが死にますよ? それでも良いなら、ご自由に」

 

 軽く手を上げると、シニィへ一瞬目を向ける。ビクリとシニィとセニアが震えるのを見ると、詰まらなそうに視線を外した。

 そして、魔女は帽子のつばを持ち上げ戦場を見渡す。そこで繰り広げられている剣戟を見ると、悲しそうにため息をついた。

 

「……ちょっと解釈間違ってるんですよね、リィア。もう少し頭を使えば良いのにって思いません?」

 

「それはどう言うことなんです? 私からすれば先代勇者を圧倒出来ている時点で文句なしだと思いますが。というかリィアってあの吸血鬼の名前ですか?」

 

 そう賢人が言うと、魔女はシニィに目を向ける。

 

「ねぇ、最も効率の良い魔術ってなんだと思います?」

 

「ぇ…………」

 

「効率の良いの定義にもよりますが、パフォーマンスの大きさで言うなら分解系統の魔術じゃないですか?」 

 

 止まったシニィを庇うように賢人が挟まる。それに意を介さずに魔女は続けた。

 

「そうですね、当たりです。褒めてあげましょうか?」

 

「要らないですよ。で、そう来たら一番効率が悪いのは、でしょう? それは強化魔術でしょう。デメリットも尋常ではないですしね」

 

 む、と苛立ちを見せる魔女。

 

「……正解です」

 

「で? 何が言いたいんですか?」

 

「サービスはここまでです。あとは自分の頭で考えて下さい。

 まあ強いて言えば、リィアがちゃんと戦えば本来貴女方全員と戦っても圧倒出来る筈なんですよ。むしろ先代勇者1人に止められてる現状に違和感を持てば良いんじゃないですかね?」

 

 賢人は数秒俯き、やがて手を叩いた。

 

 そして、ゆっくりと手を伸ばす。

 

「じゃあ、これでどうですか?」

 

 戦場へと賢人は手を向けた。それに伴い現れたのは、カチカチと音をたてて形成される、正六角形が積み重なり出来た薄青色の結界。

 

 そして、それに驚いたように世界が止まった。

 

 数秒後、土埃が晴れ始める。吸血鬼とボロボロのギリの姿が明らかになる。

 

「……おや、これは?」

 

 魔女が呟きに賢人が反応する。

 

「《蒼結界》……私の弟子が作った結界術の8種の中でもかなり特殊な一種です」

 

 リィアが違和感を覚えたように何度か手を握りしめる。そして、ギリは出来た隙を見逃すほど甘くなかった。腰を下げ、構える。溜めは一瞬だった。滑らかな動作で斬撃が放たれる。そして、次の瞬間──

 

「《聖断》」

 

 ──リィアの首が、クルクルと宙を舞っていた。

 魔女が、セニアが目を見開く。斬った本人であるギリすらあまりのあっけなさに停止していた。

 

 その光景に欠片も驚く様子を見せなかったのはたった一人。

 そして、賢人は淡々とつぶやいた。

 

 

「その発揮する効力は単純明快……指定した魔術系統の効果喪失、です」




【魔女紹介コーナー】

《綿》の魔女
いつもふわふわ空に浮いているので、魔女達からは『ふわふわ』よわばりされている。別に本人も気にしていない。

見た聞いた者を物理的に浮かせ、最終的には精神も『浮かせる』性質。

『おやぁ……くろのじゃないですかー?』

『冷たいですねー』

寝るのが好き。怠惰に過ごすのが好き。仲間のことが大好きで、多少なら自分の都合を捩じ曲げてくれる。また、怠惰に過ごすためなら今の苦労を惜しまない性格でもある。
 
いつもは妖精の国アフターで、周りに鼠から竜まであらゆる生命を浮かせながらふわふわしてる。
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