アベンジ・ジャスティス   作:幻在

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第二話です。これで面白いのか分からない・・・


その白兎、初心過ぎる故

ステイタスの更新―――

 

かつては儀式と呼ばれていたこの行為は、眷属が培った『経験値(エクセリア)』をインク代わりにして背に描かれた『恩恵(ファルナ)』を書き換えるものだ。

 

それによって、眷属の持つ能力が上昇し、今まで出来なかった事が出来るようになる。

 

かつてはアリーゼ一人だけであったこのファミリア。

 

そして十二人であった正義の一行は、今はもう五人しか残っていない。

 

 

その内の一人、最も新人で最も対人戦最強の眷属、ハクの恩恵の更新をするアストレアは、そのスキル欄に描かれたスキル達を見て、唇を引き結ぶ。

 

(『復讐鬼(アヴェンジャー)』『冒険破戒(マインドブレイク)』『冒険否定(バッドラック)』『冒険阻止(イントラップ)』『下剋上(リベリオン)』そして『殺人王(オーバーロード)』・・・)

 

どれもこれもがレアスキルのオンパレード。だがそれを素直に喜ぶことが出来ない。

 

 

 

そのどれもが、『人類』を、そして『冒険者』を標的にすることで初めて威力を発揮するものばかりだからだ。

 

 

 

特に『復讐鬼』と『殺人王』そして『下剋上』。

 

『復讐鬼』は、アストレアに言わせれば、下界の歴史上最強の出力スキル。

人間と対峙することで効果を発揮し、なおかつ相手が『冒険者』であれば更なる力を発揮する。

今は鳴りを潜めているとはいえ、そのスキルが発現するほど、昔のハクは冒険者を憎んでいた。

 

 

『殺人王』。

こちらはもっと凄まじい。

何故ならこのスキルは、『自らが戦闘を開始する際に戦闘を行っている人類種の数だけ、自らのステイタスを倍化させる』からだ。

さらに他のスキルにも影響を与え、全てのスキル対象者に『人類種』を追加するというのだ。

それは、『復讐鬼』の『冒険者』のみ適応される効果を『人類種』にまで広げる事の出来るという事。

即ちは冒険者じゃなくても対象を超高補正の対象に出来るのだ。

 

 

そして、『下剋上』

 

規格外以外の何物でもない非常識スキル。

 

自分のレベルを相手のレベルに合わせるという、神ですらも卒倒しかねない()()()()()()()()

 

それはつまり、この都市最強のレベル7である『猛者』と互角に渡り合えるようになるという事だ。

 

ついでに言えば、スキルの補正もあるため、()()()()一方的に叩きのめす事も可能になる。

 

 

ただ、これの所為でレベル差が無くなる上に敵を圧倒してしまう為、偉業と認識されないのが難点だが。

 

 

ここまで尖った性能を持ったスキルを、アストレアは見た事がない。

他の『冒険破戒』『冒険否定』『冒険阻止』もまた、異常なスキルだ。

 

唯一の救いは、その全てが『任意発動型』でオンオフが可能だということぐらいか。(それでもぶっ壊れているのは間違いないが)

 

さらに言えば、『力』のアビリティの成長具合が異常なのである。

 

(あれから五年とはいえ、ここまで成長するかしら・・・?)

 

ふと瞼を閉じれば、脳裏に浮かぶのは、ハクが初めて、アストレア・ファミリアの本拠にやってきた時の事だった。

あの時のハクは、今すぐにでもアストレアに襲い掛かりそうなほど獰猛な瞳を向けていて、()()()()()()()()とは思えないほどやせ細っていた。

 

流石のアリーゼも怯えるほどまさに『狂っていた』彼の姿は、いつでも思い出せる。

 

 

そして、あの日のリューの決断の時の顔も。

 

 

 

「アストレア?」

「あ、ごめんなさい。少し昔を思い出していたわ」

「思い出さなくてもいいだろ。そんな事」

「貴方にとってはそうでも、私にとっては大事な事なのよ。はい。これでおしまい」

「・・・」

 

更新が終わり、羊皮紙に共通語(コイネー)でステイタスを記載して、それで終わり。

更新をしたとしても、いきなり力が上がるのを感じる事が出来るわけではないが、そこは実践で実感するしかない。

 

何はともあれ、未だにランクアップできず、ただただアビリティが上がっていく彼のステイタスを、本人に見せる。

 

「またあの魔法を使ったのね。魔力の伸びが今回は大きかったわ」

「面倒だったんでな」

「だからといって、使い過ぎて頼り過ぎになるのはダメよ。『剣姫』ほどじゃないにしても、もう少し、駆け引きが出来るようになりなさい」

「・・・あれから五年もたっているのにな」

 

鎧を着直し、ハクは窓の外を見ながらそう呟く。

 

晴天仰げる青い空。今日もオラリオは大繁盛。

 

道行く人は、今日も今日とて、ダンジョンに乗り込むが、冒険者に物を売り込む者ばかりだ。

 

「・・・復興は早いものだ」

「そうね・・・今日はどうするの?」

「アンタはバイトだろう。リューもいつもの酒場の手伝いだ。アリーゼはアリーゼで街の巡回に出てる。輝夜は本拠だが、ライラは闇賭博に行った」

「あらら・・・」

 

アストレア・ファミリアはとにかく財政難だ。

 

たった五人のファミリアである故に、収入が前よりも激減。ついでに到達階層もかなり下がった。

 

いくらリューのレベルが5と言っても、たった一人では限度がある。

その上、ハクはモンスター相手ではあまり役に立たないサポーターだ。

いくらレベル2とはいえ―――

 

「輝夜でも引っ張ってダンジョンに潜るとするか・・・」

「あまり無茶しないでね」

「無論だ」

 

その言葉を最後に、ハクは部屋を出て行く。

 

 

 

そのまま、星屑の庭のリビングに行ってみれば。

 

「ばりぼり」

「・・・・」

 

おおよそ、『大和竜胆』の二つ名に相応しくない下着姿でリビングのソファで寝転がり、煎餅を齧る輝夜の姿があった。

近くには脱ぎ捨てた着物が。

 

「・・・輝夜、ダンジョンに行くぞ」

「行ってらっしゃい」

「いや、お前も」

「今日はやる気が起きんのです。行くのなら一人で行ってきんさい」

「テメェ・・・」

 

今に始まったことではないが、普段猫を被っていれば極東の姫君を思わせる大和撫子な姿を見せるが、一度化けの皮が剝がれればご覧の有様。

品性の欠片もないその姿に、ハクは見慣れてしまっても額を抑えるしかなった。

 

だが、こうなってしまっては輝夜は動かない。

 

それもその筈、昨日の闇派閥(イヴィルス)残党の殲滅の時にハクが建物を半壊させた為、その請求書によってその日の収入が全て吹っ飛んだからである。

その所為で輝夜が不貞腐れてしまっているのだろう。

少なくとも今日一日は絶対に動かない。

 

(仕方ない。一人で行ってくるか・・・)

 

諦めて、ハクは一人寂しくダンジョンへと向かった。

途中、アストレアが憐れみの視線を送っていたが、無視した。

 

 

 

 

 

(せっかくだからリューがバイトしている酒場に寄って行くか)

 

いつものリュックを背負い、ハクはオラリオの街を歩きながらそう思い付き、その酒場のある場所へ歩き出す。

ダンジョンによって繁栄しているこの街は、まさしく活気に溢れている。

『世界の中心』を謡われ、数多くの英雄がこの街で生まれた。

かつて最強を誇っていた二大勢力『ゼウス・ファミリア』と『ヘラ・ファミリア』がいた頃よりは控えめとは言え、大きな繁栄がこの街にはあった。

 

かつて闇派閥が蔓延っていた『暗黒期』からは程遠い。

 

(人の力とは、これほどのものか・・・)

 

感嘆に浸りながら、ハクは目的地へと辿り着く。

『豊穣の女主人』。そこが、リューが時折手伝いを行っている酒場である。

今は営業開始前の下準備の為、まだ営業はしていない筈なのだが、

 

(誰だ・・・あのガキ・・・)

 

童顔、白髪、赤い瞳―――並べて二つは自分の特徴と合致する事で僅かながらにハクの興味を引く。

身に着けているものは安物のチェストプレートとやや古いコート。そして安物のナイフに古びたバックパック。

どこからどう見ても駆け出しの冒険者だ。

ただ、やはり白い髪と紅い瞳が目を引く。

その特徴から、ハクが導いた第一印象は『兎』だ。

 

(まあ、どうでもいいか)

 

分析をそこまでにして、ハクはその酒場の前に。

 

「フローヴァ」

「あ、ハクさん」

 

声をかければ、白髪の少年の相手をしていた薄鈍色の髪の美少女が、ハクの方を向いて花のような笑顔を向ける。

 

「リューはいるか?」

「はい、いますよ。リュー!ハクさんが来てくれたよ」

「え?ハクが!?あ。あぁぁあぁあああ!?」

 

途端にドンガラガッシャーン!ニャァァア!?ナニヤッテンダコラー!が聞こえ、少年と共に驚いていると、金髪の髪を靡かせてややボロ付いたリューが姿を現す。

その服装は、この酒場のウェイトレスの緑の制服姿だった。

 

その時、隣の少年の喉がひゅって鳴る音がした。

 

「ふんっ」

「ごほぉ!?」

 

そして条件反射で隣の少年を殴り飛ばした。

 

「―――って、ハク!?何やってるんですか!?」

「ああ、大丈夫ですかぁ!?」

「・・・・はっ!?何故か手が勝手に」

 

閑話休題。

 

「すまない。何か邪な気配を感じた故・・・」

「い、いえ、だいじょうぶです・・・」

 

持っていた回復薬(ポーション)を浴びせながら、ハクは少年に謝る。

 

「すみません、彼がとんだご迷惑を」

「あ!?いえ、ぜんぜん、大丈夫です!!?」

「・・・?」

 

何故かリューが相手をするとギクシャクし出す少年に、思わず黒い感情が漏れ出すハク。

 

(何故だ。こいつがリューと話してると途端に『殺人鬼(アヴェンジャー)』が・・・)

 

駆け出し相手に使えば絶対に殺してしまうスキルが発動しかかっているのを理性で全力で抑えながら、ハクは話を続ける。

 

「駆け出しの冒険者だな。俺はハク。姓はない」

「あ、ベル・クラネルです」

 

少年―――ベルはぺこぺこと頭を下げながらそう名乗る。

 

「詫びと言ってはあれだが、今日の探索は俺も同行しよう」

「え!?いいですよそんな・・・」

「俺はサポーターだ。お前の冒険の邪魔にはならん」

「サポーター?」

「冒険者の手助けをする裏方みたいなものです。戦闘の邪魔にならないようモンスターの死体をどかし、もしくは死体を解体して魔石の確保、そしてドロップアイテムの収集を代わりに行う。いるといないのとでは、冒険の幅が変わります」

 

リューが口を挟み、そう説明する。

その間、ベルがリューに対してドギマギする度に発動しかかる『殺人鬼(センサー)』を必死に抑え込むハク。

 

「今日限りとはいえ、いる場合といない場合の違いを実感しておいた方がいい。戦闘には極力参加しないが、詫びのつもりで受けてほしい」

「私からもお願いします」

 

ぺこりと頭を下げるリュー。

 

「で、でも、他のファミリアと繋がりを持つことってあまりいいことじゃないって聞いたんですけど・・・」

「安心しろ。こっちの神はそういう事を気にしない」

「そうなんですか・・・」

 

親は子に似ると言う。

このベルという少年の主神(おや)はかなりの善神だ。でなければここまで純粋ではないだろう。

これが演技だったら度肝を抜かれる。

 

「時間を喰ったな」

 

ふと、ハクは大通りの人の流れを見てそう呟く。

 

「リュー、仕事の方は大丈夫か?」

「はい。今は前準備で慌ただしいですが、本当に忙しいのは夜なので。アリーゼたちはどうしてますか?」

「アリーゼはパトロール。ここを通るだろう。ライラは博打、輝夜は本拠で怠けている。アストレアはバイトだ」

「輝夜・・・・」

 

頭痛が痛いのかリューは額を抑える。

だが、すぐに溜息を吐いて、ほんのりと笑みを浮かべてハクを見た。

 

「では、気を付けてください。クラネルさん」

「あ、はい!」

「彼は少し気難しいので、そこの所は気を付けてください」

「え、あ、はい・・・」

 

その言葉を最後に、リューは店の中に入っていく。

そして隣に立つ薄鈍色の髪の少女もベルに向かって微笑む。

 

「では、気を付けて行ってくださいね。今夜のお夕飯は是非当店で」

「あ、はい。・・・あ、僕はベル・クラネルと言います。貴方の名前は?」

(さっき聞いたな)

「ふふ、シル・フローヴァです」

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンは生きている。

神々は口をそろえてそう言う。

別にダンジョンの壁が迫ってくるとか、ダンジョンそのものが襲ってくるっていう訳ではなく、壊れれば修復されるのだ。

その構成物質は未だ解明されておらず、学者の見解では魔石の下位もしくは上位のもので構成されているとか。

また、ダンジョンの壁はモンスターを無尽蔵に生み出す。

どれだけ殺しても倒しても、一定のインターバルを置いて必ず復活する。

だから資源が枯渇する事はないし、無限にそれらが生み出されていく。

()()()()()()大量のモンスターと戦闘を行う事だって出来るだろう。

 

何はともあれ。

 

「ハア!!」

 

白髪の少年の刃の一閃がコボルド一匹斬り捨てる。

その肉体が灰になって消えれば、そこ体の中心から穿たれた魔石が落ちる。

それを回収し、次にベルが倒したコボルドの魔石を瞬時に回収する。

 

(リューたちの時よりは遅いが、本当によく戦う)

 

駆け出しなりの戦法に気を配りながら、ハクは回収した魔石を巾着袋に入れる。

拙い部分も多く、ステイタスに頼っている所は多いが、そこは大目に見る事にしよう。

 

「ひ、卑怯だぞぉぉぉおお!?」

 

気付けばコボルドの群れに囲まれていた。ベルはその包囲網から全力で逃げようとするが、いくら崩しても必ず綺麗な円を描いて囲んでくる。

 

「は、ハクさん、どうすれば!?」

「視野を広く持て。常に全方位を警戒しろ。頭を振って視界を広げる事を忘れるな」

 

自らに襲い掛かってくるコボルドを蹴り潰し、ハクはそうベルに言う。

 

「常に集団で行動してくる。そして必ず囲む。であれば、とにかく逃げて囲まれない様にするしかない」

「に、逃げるって言ったってぇ」

「じゃあ後ろに向かって前進だ」

「それ言い方変えただけじゃないですかぁ!?」

 

ズダダダ、と駆け回る白兎。

 

(速いな・・・)

 

その駆ける姿を見て、ハクはそうぼやく。

おそらく、敏捷のステイタスが秀でているのだろう。新人にしては、だが。

 

『がるっ!』

 

ハクの兜にがぶり、と一匹のコボルトの牙が突き刺さるが、その兜の固さに逆に牙が折れ、そのコボルドの頭を叩き潰して絶命させる。

そうしながらも、ハクはベルを観察する。

 

(まだ駆け出しにしては非常に足が速い)

 

おそらく敏捷のアビリティがかなり高いのだろう。

もしくは、彼自身の特性か。とにもかくにも、これは大きな利点となるだろう。

 

「足を活かせ、集団相手なら逃げれば必ず足の速い個体が前に出る。そうなれば一対一だ。その隙を狙え」

「っ!はい!」

 

ベルがいわれた通りに逃走。その後を彼にヘイトを向けているコボルトたちが追走。

ほんの少しの鬼ごっこ。しかし個体差による足の速さによって立ち位置に差が出る。

それを肩越しに確認したベルはその場で反転。まず戦闘から襲い掛かってきた個体に対して、

 

「うわぁあああ!!」

『ぐぇ!?』

 

タックスをかました。

それによって吹っ飛んだ戦闘のコボルトが後続のコボルトを巻き込んで転倒。

それによって大きな隙を晒す。

 

「今だ!」

 

そして倒れたコボルトたちに向かってナイフを滅多刺し。途中起き上がろうとしていたコボルトも一緒に斬り裂いて、戦闘は終了。

コボルトは灰になった。

そうして排出された魔石を、ハクが回収する。

 

「上出来だ」

「あ、ありがとうございます・・・」

「だが、必ずしも体をぶつけるのが最良とは言わない。爪を構えられていたら、体を引き裂かれる可能性があった。それに自分より体重が重かったりした場合は逆効果だ。掴まれて叩き潰される」

「は、はい。すみません」

「お前は足が速い。まずはそれを活かせ。ソロならなおさらな」

 

そう言って、最後の魔石を巾着袋に入れ、腰に下ろす。

 

「しかし、随分と張り切っているな・・・何があった」

「えぅ!?いやぁ・・・そのぉ・・・」

 

聞かれてしどろもどろになるベル。

それを見てハクは、一つの可能性を思いつく。

 

「・・・・まさかあのエルフに」

「うぇぇえ!?ち、違います違います!た、確かに綺麗でしたけど、ぼ、僕にはほかに、ってあぁあぁあああ!!!」

「なんだ。そうなのか」

 

それを聞くと途端に発動しかかった『殺人鬼』が収まった。

面倒である。

 

「誰か、目標にしている冒険者でもいるのか?」

「えっと・・・はい・・・」

 

もじもじと気恥ずかしそうに白状するベル。

しかし、そこまで聞いてハクはふと考える。

あの時のベルはリューの姿に見惚れていた。金髪碧眼、穢れを知らないエルフと呼ばれ、今ではこのオラリオの第一級冒険者たるリュー・リオンの姿に。

いや、単純に容姿がドストライクだっただけかもしれない。

そう思うと何故か『復讐鬼』が発動しかがるが全力で抑える。

故に考える。

果たしてリューに似た『金髪エルフ』で彼のような新米が憧れる冒険者などいただろうか、と。

 

(いや、一人いるな)

 

ハクの知る限り、リューの容姿を限りなく似たヒューマンの少女の事を。

 

「・・・『剣姫』か」

 

ベルが盛大にすっころんだ。

確定である。

 

『剣姫』とは、ロキ・ファミリアに属するレベル5冒険者の事である。

 

神をも羨む美貌を持つ少女であり、剣の腕はこのオラリオでも随一。

アストレア・ファミリアのリュー・リオンは、そんな彼女と肩を並べる一介の剣士ではあるが、彼女(リュー)曰く、一歩及ばないほどの実力を有する。

 

さらに言えば、神々のお気に入り。そして、現在におけるオラリオのレベル2到達記録の最速保持者(レコードホルダー)

 

レベル1がお近づきになるのは難しいことだ。

 

「ななななななななにをををををををを!?!!?」

「いや。であれば、並大抵の努力では無理だな」

 

ハクはベルにそう告げる。

 

「俺は嫌いだが・・・『英雄』になるつもりじゃなければ、決してその隣には立てないぞ」

「・・・・!」

 

その言葉に、ベルは目を見開く。

だが、その言葉を真意を確かめる時間はもうなかった。

 

「次が来る。構えろ」

「っ、はい!」

 

壁から飛び出してくるモンスター。それらの怪物に対して、ベルは再び刃を向けた。

 

 

 

 

 

数時間後――――

 

 

「さ、三万ヴァリス・・・!?」

 

見たこともない大金を目の前に、ベルは目をしいたけにしてその小堤を見ろしていた。

 

「分け前は・・・二:一でいいか」

「え!?そんな、悪いですよ・・・」

「元はと言えば俺の暴力から始まった即席パーティだ。それに、今回は六階層まで下りたんだ。それに付き合わせた謝礼金と思って受け取れ」

「でも・・・」

「受け取れ」

 

有無を言わせず二万ヴァリスを渡した。ベルは何も言えなかった。

 

「しかし、誰かとパーティを組むと、こんなにも違うものなんですね」

「いるのといないのとでの違いは十分理解したな。ソロである以上、無茶は禁物だ。今回は俺のレベルが2であったから到達階層を増やしたが、今は堅実に行くことが生き残る事の秘訣だ。生きていなければ、夢を見る事すら叶わないからな」

「はい!」

 

元気よく挨拶をする少年に、青年は紅い双眸を向けた。

真紅(ルベライト)の瞳を、深紅(スピネル)の瞳で見つめ返してみる。

 

純粋過ぎる。

 

人を疑う事を知らない真っ白な少年だ。

凝り固まった価値観を持つエルフとも違う、本当に真っ白で何色にも染まりそうな少年。

 

どうしてこんな少年が冒険者になったのだろうか。

 

「お前、どうして冒険者になろうと思った?」

 

それを尋ねると、純粋な少年は気恥ずかしそうに頬を掻きながら、こう答えた。

 

 

運命的な出会いを、と。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

つまり、それは、ということは、まさしく、いうなれば、

 

「・・・・・・・そ、そうか」

 

何を言えばいいのか分からず、ハクはそう答えるしかなかった。

純粋な筈の少年の、不純過ぎる動機に、言葉が出なかった。

 

いや、純粋過ぎるが故に吐き出された願望なのだろう。

 

「ちなみに、それを言ったのは・・・」

「僕のおじいちゃんです!」

 

ああ少年よ。それは仕方ない。確かに仕方ない。育ての親の影響であれば仕方ない。

 

だが、何故そんな事を教えた、少年の祖父よ!

 

 

・・・・最も、彼の祖父が数億万年も生きている『神』であり、ロクでもない『下半神』であるのだから、仕方がないといえば仕方がない。

 

 

 

何はともあれ。

 

 

 

「縁があれば、また」

「あ、はい!ありがとうございました」

 

そうして二人は、一度別れたのだった。

 

 

 

 

 

 

夜、『豊穣の酒場』にて。

 

「それで、どうだったんですか?今日の迷宮探索は」

 

ジョッキでエールを出し、リューがハクにそう尋ねる。

 

「割と稼がせてもらった。が、レベル1となると、流石に効率は落ちる」

「彼は生き残れそうですか?」

「逃げ足は速いし、飲み込みも良い」

「へえ・・・以外ですね。貴方が冒険者を褒めるなんて」

「だが、性格は冒険者向きじゃない」

 

面頬の隙間からエールを流し込み、ハクは続ける。

 

「奴は優しすぎる。そして純粋だ。富と名声を求める以前に、英雄願望が強過ぎる。簡潔にまとめるならば・・・『愚者』」

「愚か者、ですか・・・」

 

出された肴を面頬の隙間に押し込み咀嚼し、エールを流し込んでから言う。

 

「純粋過ぎるんだ。言う事を素直に聞きすぎる。そして人を疑う事が出来ない。一度信用すると白が別に色に染まるように信じ切ってしまう」

「それは確かに、冒険者向きではありませんね・・・・」

 

リューも不安げな顔になる。

 

「あとハーレム願望だ」

「誰ですか彼にそんな事を教えたのは・・・!?」

「そいつの祖父らしい」

 

リューは天井を仰いだ。

 

「お客様一名入りまーす!」

 

ふと、シルが来店してきた客を迎え入れる。

ベル・クラネルだ。

 

「そういえば、シルにここに来るように言われていましたね」

 

そもそも、何故リューが自身のファミリアでの活動もあるのにこの酒場で働いているのか。

建前としては、この酒場での情報収集。ここは割と稼いでいる上級冒険者などが飲みに来るところであり、そういった冒険者から耳寄りな情報を聞き出せる可能性があるからだ。

 

本音は、五年前に遡る。

()()()()()()意気消沈していたリューは、一時期ファミリアを離れていた。

否、その時のアストレア・ファミリアは事実上()()()()だった。

その時にリューが心の拠り所にしたのがこの『豊穣の女主人』。

ファミリアが再結成した後も、リューはたまにここに手伝いにくるのだ。

 

そして今日は、お得意様の団体が来るため、手伝いに来ているという訳だ。

 

「あ、ハクさん」

「・・・」

 

何故ここに。と思ってしまったが、シルの何者をも黙らせる笑顔を向けられて、仕方なしに隣を明け渡す。

 

「今日はよく会うな」

「そうですね。ハクさんは、よくここに?」

「ファミリアの人間と時々な」

 

その後、女将のミアから酒はと聞かれて遠慮しますと言われたら容赦なくエールを置かれて圧倒されるベル・クラネル。

 

「この女将は基本話を聞かん。だがあれでレベル6の女傑だ。舐めた真似はするなよ」

「れ、レベル6・・・!?」

 

ベルは慄く。何故ならあの剣姫よりも強いという事だからだ。

憧れより強い存在に、畏敬の念を抱くのは仕方がない。

 

「逆らおうとは思うな」

 

最もハクの場合はスキルで圧倒する事は出来るが、それはこの酒場の利用している全冒険者を敵に回す行為なので流石に控えている。

 

「は、はい・・・」

 

ベルもそう呟くしかなかった。

 

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

そこへリューが料理を運んでベルの前に置く。

 

「申し遅れました。私はリュー・リオン、アストレア・ファミリア所属の冒険者です」

「え、アストレア・ファミリアって、確かガネーシャ・ファミリアと同じ、この街の治安を維持しているファミリアですよね?そんな人がどうして・・・」

「訳あって、時々この酒場の手伝いをしております。一応、彼とは同じファミリアなんです」

「え!?」

 

そういえば言ってなかったな思い出し、改めて自己紹介をする。

 

「アストレア・ファミリアのハクだ。ただ、冒険者登録はしていない。だから冒険者ではない事だけは覚えておいてくれ」

「へえ・・・あ、僕はヘスティア・ファミリアのベル・クラネルです」

「名前の方は聞いた・・・って、ヘスティア・ファミリアだと?」

「あ、はい。まだ、結成したばかりの僕一人だけのファミリアですけど・・・」

 

たははと頭を掻くベル。

そこで、ハクとリューはベルから顔を背けつつ、顔を寄せ合う。

 

「確かアストレアがなんか言ってたよな?」

「はい。確か前に知人に会ったと言ってましたね。確かその知人というのがヘスティア様という神だった筈です」

「アストレアの知人という事は、悪い奴じゃあなさそうだな」

「あのー・・・」

「ああ、すまん」

 

後ろから声をかけられ、姿勢を戻すハク。

 

「リュー!何をしてるニャー!」

「早くこっちを手伝うニャー!」

「あ、ごめんなさいアーニャ、クロエ。すぐに向かいます。ではハク、クラネルさんと、ゆっくり」

「ああ」

 

駆けていくリューの背を目で追いつつ、骨付き肉を面頬の隙間から押し込み、食す。

 

「・・・・・」

「・・・なんだ?」

「ああいえ、なんで兜を取らないのか気になって・・・」

「・・・・用心だ」

「え?」

「用心だ」

 

とりあえず、その二言でベルを黙らせた。

 

ふと、その最中で――――

 

 

――――彼らがやってきた。

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