アベンジ・ジャスティス   作:幻在

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初見で理解不能解読不能な狼さんVS正義の眷属の冒険者絶対コロスマンの鎧さんです


理解不能解読不可能だけど回避不要

オラリオ最大派閥。

 

別名二大派閥と呼ばれるファミリアが存在する。

 

その片割れは都市唯一のレベル7を有し、美の女神『フレイア』の寵愛を受けし眷属の集う『フレイヤ・ファミリア』。

 

そしてもう一つは、最強の三人のレベル6を筆頭とし、道化の女神『ロキ』に恩恵を受けた眷属たち『ロキ・ファミリア』である。

 

 

 

―――その悪戯の神の派閥が、この豊穣の酒場にやってきていた。

 

 

 

「なるほど・・・リューが手伝いに来ていたのはこの為か・・・って何をしてるんだお前は」

 

何故かカウンターの下に隠れるベルにそう尋ねるが、ベルは応じず。

 

「・・・おい」

「うっひょお、えれぇ上玉」

「ばっかお前エンブレムを見ろ」

「は・・・げぇっロキ・ファミリア・・・!?」

 

どこぞの間抜けが美少女揃いのファミリアに見惚れていたが、すぐに消沈する。

ロキはかなりの変態であり親父趣味であると主神から聞き及んでおり、故にその趣味に則って女性団員全員が美少女ばかりなのである。

 

その中でも特筆すべき美貌を持つ者が二人。

 

 

一人は、絹のように艶やかで長い緑髪と、エルフの中でも特段の美貌を持つ妖精の王女『九魔姫(ナインヘル)』リヴェリア・リヨス・アールヴ。

エルフの王族『ハイエルフ』であり、それ故に、都市中のエルフが崇拝の域で彼女を尊敬している。

無論、リューも畏敬を抱いている。

 

そしてもう一人は、

 

(ああ、なるほど)

 

ベル・クラネルが惚れている少女『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。

風に靡けば揺れる輝くような金髪に、人形のような無表情でも見惚れてしまうほどの顔立ちは『神々(オレたち)の嫁』と悪ふざけされるほどの美しさを兼ね備えている。

 

少年が惚れるのも無理はない。

だがその反応はどうかと思うぞ。

 

「とにかく飯を食え。皿に顔を埋めていればバレはしない」

「で、ですががががが」

「落ち着け」

「ひでぶっ」

 

いくらレベル1とは言え、レベル2の一撃はかなりのものなので、すぐに皿の上に沈むベル。

 

「大丈夫ですか?ベルさん」

「はい、大丈夫デス・・・」

 

心配そうに声をかけるシルと沈みながら返事を返すベルを無視しつつ、ハクはエールを飲みながらロキ・ファミリアの方を見る。

 

酒好きの神に加えて酒好きのドワーフ。その影響か凄まじいどんちゃん騒ぎだ。

 

そのうるささに、若干の苛立ちを覚えつつ、様子見を決め込んでいるベルに気を配りながら、エールを飲み干す。

 

寸前で、

 

「そうだアイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

―――狼の遠吠えに、兎が怯えた。

 

 

 

曰く、十七階層でミノタウロスを返り討ちにした。

 

曰く、その時何匹かのミノタウロスが逃走した。

 

曰く、奇跡みたいにそのミノタウロスは階層を駆け上がった。

 

曰く、駆け出しの冒険者がミノタウロスに襲われていた。

 

曰く、その冒険者は兎のように壁に縮こまっていた。

 

曰く、間一髪で『剣姫』がミノタウロスを討伐した。

 

曰く、その返り血によってその冒険者は真っ赤に染まった。

 

曰く、その姿はまるでトマトみたいだった。

 

曰く、曰く、曰く――――

 

 

 

―――その狼曰く、助けられた少年は助けた少女から逃走した。

 

 

 

それによって、一同まとめて笑い声をあげる。

そのどれもが、その冒険者を怖がらせた少女に対する笑いだと判断できる。

 

 

―――そこまでは良い。

 

 

狼が言う。

 

「しかしあんな情けねえヤツを目にしちまって久々に胸糞悪くなったな。野郎の癖に、泣くわ泣くわ」

 

まだ

 

「ほんとざまぁねえよな。ったく、泣き喚くくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ」

 

 

 

・・・・・・みしっ

 

手にもったエールジョッキが、そんな音を鳴らした。

 

「ハク」

 

そんなジョッキを片手に持つハクに、リューが耳打ちする。

 

「ここで暴力沙汰を起こせば、派閥間での大きな諍いに発展する可能性があります。ここは抑えてください」

「・・・・分かっている」

 

発動しかかる『復讐鬼(アヴェンジャー)』。人に失望し、冒険者を憎悪する彼の願望(スキル) 。

 

その影響で、彼のステイタスが、敵がいないにも関わらずゆるやかに上昇を開始する。

 

無論、リューだって良い気はしない。

 

他者を貶める行為を、酒の肴にするなど、正義の使徒である彼女にとっては反吐が出そうな下賤な行為だ。

 

だが、相手はオラリオ最大の派閥。

一方こちらはたった五人の小さな派閥。

 

こちらにはオラリオ全ての冒険者を相手取ることの出来るハクと、レベル5のリューがいるとはいえ、相手はレベル6を三人もかかえ、レベル5を四人も持つ都市最大の派閥だ。

 

喧嘩を売るのは流石に不味い。それは分かる。

 

 

 

ただ、隣に一名、該当する冒険者がいる以上、正義の眷属たる彼は見過ごす事は出来ない。

 

少なくとも、捨て置くことはしない。

 

 

だとしても、

 

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまった少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって」

 

狼―――『ベート・ローガ』曰く、ゴミをゴミと言って何が悪い。である。

 

『復讐鬼』が加速す(暴れ)る。ついでに魔法(ダインスレイヴ)も口走りそうになる。

だが、まだ耐える。

 

 

「あのガキとオレ、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 

だが、それは少年にとってあまりにも致命的な言葉だった。

 

 

「私は、そんな事を言うベートさんだけはごめんです」

「無様だな」

「黙れババア。じゃああれか?お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら受け入れるってのか?」

 

「っ・・・」

 

リューの顔が歪む。

それは、絶対にないからだ。

 

強者であるが故に、弱者である者をかえりみるなんて事は出来ない。

 

それは似たような道を歩んだリューにも言えることだった。

 

もう、弱い頃の自分に戻ることは、ないのだから。

 

故に、少女は否定できない。故に、少女は答えられない。

 

 

故に狼はその言葉を告げた。

 

 

「雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインに釣り合わねえ」

 

 

 

―――感情が爆発する、その寸前で。

 

 

青年がその肩に手を置いた。

 

 

「っ!?」

 

その行為に、少年の思考は一瞬フリーズする。

そして青年は、その肩に置かれた手を振り払われる前に、こう言った。

 

「・・・・走れ」

「え・・・・」

「走れ、止まるな。その感情を忘れるな。ただひたすらに、お前が求める憧憬の元に辿り着きたいのなら」

 

フルフェイスの鉄兜から、赤い瞳が少年を射抜く。

 

肩に置かれた手は、背中へ。

 

「行け。今は、ただ、ひたすらに」

 

その言葉は、少年を否定するものではなかった。

むしろ発破だ。少年の背中を押す為のものだ。

出会って一日。だが、その言葉は、少年の意志を明確化した。

 

「支払いだけは済ませてやる」

「っっ―――ありがとうございますっ」

 

そして少年は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

くすり、とリューは笑った。

 

「・・・なんだ?」

「いえ、貴方が駆け出し・・・それに冒険者に、あんな言葉をかけるだなんて思わなくて」

「・・・少し昔を思い出した。それだけだ」

 

これであの少年に対する体裁は大丈夫だろう。

ここまで我慢してきたのは、未だ守られる『弱者』という立場を確立させない為だ。

 

誰かに再び守られれば、彼はきっと立ち上がれなくなる。

 

そうじゃなくても、その道のりは遠のいてしまうだろう。

だから、ここから先は―――『私怨』だ。

 

「・・・飲みすぎじゃないですか?」

「良いだろう。酔っ払いが()()いても」

 

その言葉に、リューはため息を吐く。

残っていたエールを全て飲み干し、そしてジョッキを高く持ち上げた。

 

「リュー。これは酔っ払い二人が始めた喧嘩だ」

 

下剋上(リベリオン)』起動―――対象『()()』。

 

「・・・・口を挟んでくれるなよ」

 

 

そして、ズダァァァアンッ!!!と、カウンターを砕く勢いで、ジョッキを叩きつけた。

 

 

その音が、酒場中に響く。

喧騒が、一気に静まった。

 

その場の視線が全て、青年へと向けられる。

 

「・・・・良いご身分だな『凶狼(クソオオカミ)』」

「・・・・ああ?」

 

ゆらり、と、まるでアンデッドが如き挙動で立ち上がり、持っていた財布から、支払いを済ませる。

 

「お前は強者だ。ああ認めよう。誰もが認める『凶狼(ヴァナルガンド)』様の意見だ。尊重しよう・・・」

 

振り返り、その面頬の奥の紅い双眸を、一匹に向ける。

 

 

その眼光に、約三名と一神の脳裏に警鐘が鳴り響く。

 

 

だが、酔いに酔った狼は、その男の行為に応じる様に立ち上がる。

 

「だが、ロキ・ファミリアという籠の中で、飼われた子犬のようにキャンキャン騒ぐな」

 

正面から挑発。ハクは絶対的格上に対して喧嘩を売っていた。

 

「高が知れるぞ、クソオオカミ」

 

その距離は気付けば、互いの間合いの内だった。

手を伸ばせばすぐにでも届く距離。

そこで両者は睨み合う。

 

一方は悪名も名高き『凶狼』。一方は誰も知らない無名の『鎧の青年』。

 

「んだとォ・・・」

「よせベート!」

 

リヴェリアが、立ち上がってベートを止めようとする。

 

「待てリヴェリア」

 

そこで、一人の金髪の小人族(パルゥム) が、妖精を止める。

 

「っ、しかしフィン」

「まだ、大丈夫だ」

 

その言葉に、リヴェリアは思わず目を見開く。

 

彼の者の名は『フィン・ディムナ』。『勇者(ブレイバー)』の名を賜ったロキ・ファミリアの『団長』。

 

その親指は、()()()

 

「「・・・・」」

 

無言で睨み合う両者。

 

「テメェ・・・どこのモンだ」

「生憎と酔って名前を忘れた。お前も酔っている。酔っ払い同士。別に問題にはならないだろ」

「はっ、良い度胸じゃねえか・・・なんだァ?雑魚代表としてしゃしゃり出て来たのか?随分と暇だなぁオイ」

「お前ほどじゃない強者代表。弱者を酒の肴にする以外に暇を潰す術を知らない輩からそう言ってもらえるのは光栄だ」

 

一度、周囲を見回して、告げる。

 

「現実を突きつけるのはいいが、過剰だ。クソオオカミ」

「余計なお世話だ」

 

ガァァァンッ!!

 

ハイキックが頭蓋に叩き込まれる。

拳ではなくまさかの蹴りの一撃、場は騒然とする。

 

だが、件の青年は、岩のように動かなかった。

 

「なっ・・・」

 

その事実に、ベートのみならず、他のロキ・ファミリアの連中も驚く。

否、約三名と一神は分かっていたように冷や汗を流していた。

 

思わず足を下ろして固まるベート。

 

「・・・・『凶狼』、及び『ロキ・ファミリア』の体裁の為に、こちらからは反撃しないでおいてやる」

 

その肩に手をおき、そして―――『復讐鬼』を完全開放する。

 

「っ―――!?」

「だが二度はない」

 

たった五秒の解放。逆転した力の差に、ベートの総毛が浮き立つ。

 

対冒険者最強の『殺し屋』と揶揄される彼の異能は、狼を一匹、黙らせた。

 

「じゃあな」

 

『復讐鬼』を解除し、ハクは酒場を出て行く。

その最中で、ベルを追いかけていた少女が、酒場の扉の外で立っていた。

傍らには、シルがいるが、あえて無視する。

 

その少女は、青年を見上げていた。

 

信じられないものを見るかのように。

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

無言で見つめ合う、剣と鎧。

 

「・・・・それ、は」

 

少女は口を開くが、そこから先は続かなかった。

青年は無視をして、その場から去った。

 

後に残ったのは、『復讐者』が残した『静寂』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼』が立ち去った後、リューは一人、ロキ・ファミリアの団長と主神に頭を下げた。

 

「うちの団員が、とんだご迷惑をおかけしました」

「ああ、いいよ。元はといえば、こっちが始めたことだし・・・」

「しかし・・・やっぱりおっかないなぁ。奴の(スキル)

 

一瞬発動した、『彼女』と同じようで全く異質のスキル。

『冒険者』に対して圧倒的な破壊力を放つ、出力スキル。

 

「彼が手を出さないでくれて助かったよ・・・もし出されていたら、こっちが纏めて()()()()いた」

「「「っ!!?」」」

 

フィンの言葉に、その場にいるロキ・ファミリアの面々の表情が強張る。

いや、知っている者は知っている。

その恐怖を。

 

「り、リヴェリア様・・・」

 

一人のエルフが、自らが敬愛する王女に尋ねる。

ただ、彼女は、ここ『五年以内』に入団した者という注釈が付くが。

 

「あの者は一体、何なのですか・・・?」

「・・・・そうだな」

 

リヴェリアは、言葉を選ぶ為に考え、そして、最低限の情報だけを告げた。

 

「・・・この世で最も、『冒険者』を憎んでいる人間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜のオラリオの街。星屑の庭への帰路についていたハク。

その最中で、ふと不可思議な音が、自分の頭から聞こえた。

 

「・・・・パキ?」

 

少し周囲を見渡し、誰もいない路地に入って、兜を脱いでそれを見た。

 

 

「・・・・――――っ!?」

 

 

 

 

兜に、ひびが入っていた。

 

 

 

 

「――――ッ!!?!!?!?!!!?」

 

 

声にならない悲鳴が、夜の街に鳴り響いた。

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