ジョジョWWS:主人公機械化√ 実況プレイ 作:全日本純愛連合
ここ最近では何の予兆も見られていなかった筈のヴォルガノ島火山が、突然に、それも異様な大きさのエネルギーを伴って溶岩を噴き上げた。
慌てて駆け込んできた者が寄越したそのニュースに、兵器局の技術者達は皆一様に顔を青ざめさせた。すっかり顔馴染みとなった二人の軍人がその付近へと軍用機で向かったのを知っていたからだ。まさか…と想像した最悪の事態は、彼等の努力の結晶が無惨にも地球の一部と化してしまった可能性である。
シュトロハイムとホーデンハイマーの肉体は、此度協力するに至ったスピードワゴン財団の持つ先進的な技術と、ドイツの誇る革新的な技術が融合したものだ。
元よりドイツは生物兵器の研究を積み重ねており、従来の微生物を利用した方法どころか、彼等は人間という生物をも兵器とする方法を大真面目に模策していた。だからこそ『吸血鬼』や『柱の男』に関するありとあらゆる情報を渇望し、その為には
不老不死という魔力は独裁者ヒトラーをも虜にした。
物語のような話が現実のものであると知った研究者や技術者の脳裏にも、それまで机上の空論でしかなかった『機械人間』がもしや実現可能なのではないかと過る。そんなロマン溢れる夢想に、なんと開発予算が下りた。それも強力な
ともかく彼等は生涯一番の難題に喜んだ。睡眠や食事も惜しんで設計しては修整、また設計し直しては修整を繰り返し、間違いなくこの時代で最も偉大な発明を成し遂げた。開発当初こそ財団とは競争心の火花を散らしていたが、完成の瞬間ばかりはそんな過去も忘れて抱き合い、狂喜乱舞したものである。
「すまない。部品の回収は叶わなかった」
「いえ……お二方共ご無事で良かった。体はもう一度造れば良いのです。それが私達の仕事ですから」
成果がすぐに出るという部分もモチベーションに大いに影響を及ぼした。開発品に利用者が物理的にくっついているので具体的な改善点や課題点について直接話し合うことができた。
あるいは銃火器のような大量生産を想定しない世界にたった2体のオーダーメイドなので、多少設計が複雑だろうが変態的な機能を備えようが文句は言われない。そして何より、彼等の鋼鉄をも溶かす熱意の籠もった体を、2人の軍人は見事に使いこなして見せたのだ。
まだほんの数ヶ月の付き合いにも関わらず、この密な連携が強い絆を築いた。兵器局員はすっかりシュトロハイムとホーデンハイマーへ友情を感じていたし、少々高慢なところもありながらどこか憎めない2人に財団職員までもが好感を抱いていた。2人のほうもまた、己の命をこの世に繋ぎ留めてくれた彼等によく感謝し、労り、気遣いを欠かさなかった。
「────どうした?」
「あ、いえ……注油終わりました。シュトロハイム殿はどこか注し足りない部分はございませんか」
「全く問題なしだ。整頓も頼むぞ」
胴の装甲に指を這わせる姿に声をかけてやると、何とも表現し難い表情を浮かべていたホーデンハイマーはハッとして、羽織っていたジャケットのボタンをきちんと閉め始めた。
どうしたのかと聞きはしたものの、実のところシュトロハイムは目前の男が一体何に思いを馳せていたのか理解していた。
「すっかり掠れてしまったな」
「…………あぁ、ええ。まぁ……仕方のないことです」
「なくて困るものでもないが、ちょっぴり寂しい気もせんか?」
「そうですね。しかし考えようによっては……掠れて消えるほど、我々はよく戦っているとも言えます」
シュトロハイムはつい無意識の内に、胴の同じあたりに手のひらをあてていた。日頃は軍服に覆われて見えないが、二人のその場所には同じ『鉄十字』のペイントが施されている。
今でこそ随分剥げてしまっているそれは、彼等の体を開戦ギリギリまで改良し続けてくれた兵器局の技術者が、半ば悪ふざけで描いたものだ。
手描き感満載ながら妙に凝ったデザインは描いた当人いわく勲章をイメージしているらしい。いずれ彼等が戦場に送り出された暁には必ずや偉大な戦果をあげるのだろうと考えて、あるいは勲章に相応しい戦果を持ち帰って来いという発破をかける為、勝手に政府に代わって
勲章などといった目に見えて華やかな『箔』好きのシュトロハイムだが、塗料が垂れてやや不格好な『鉄十字』もなんだかんだで気に入っていた。あまり地位や名声だとかに関心のなさそうな部下でさえ、ドイツを象徴するその形を眺めては、満更でもなさそうに笑みを浮かべていたのを思い出す。
実際には何の威光もない勲章もどきに、本物の勲章とは異なる価値と温もりが宿っていたのだ。
「うーむ、だがもう暫くすれば完全に消えてしまいそうだ」
「そのときは本物が手に入るかもしれませんよ」
「だといいんだがなァ……」
ホーデンハイマーは努めて明るい調子で返す。しかしシュトロハイムからはどう頑張っても困ったような笑いしか湧いて来なかった。この頃の状況が続くとなれば受勲の有無以前にいつ祖国へと帰還できるのかもわからない。
二人は今、冬を迎えたスターリングラードにいる。一面を白銀に囲まれては前進も後退もままならず、状況は依然として厳しいものだ。事態をどう打開したものかと頭を抱えている間にも、当初繰り広げられていた怒涛の進撃に必死で食らいついてきた兵達は一人また一人と離脱していく。
つい先日もある部下の瞼を下ろしてやった。様子を見ていた軍医は直前まで生きていたことが信じられないほど皮膚が冷え切っていると言うが、シュトロハイムがいくら鋼鉄製の手をかざしても、部下からは何も感じられなかった。それなのに凍るような思いがした。心臓の内側に、脳の裏側に、暗く深い『死』の冷気を浴びせられた。
ふう、と溜め息をついて思考を打ち切る。らしくなく下がっていた眉をいつものキリリとした角度に戻し、今度こそ自信に満ち溢れて見えるよう、歯を見せて笑う。
「彫るか」
「…………はい?」
「いや、やはりどうにも惜しくてな。復元はできんが、上から彫り直すことはできる。掠れる心配もないぞォッ!」
「それは……確かにそうですが。悠長に彫刻などしていても良いんでしょうか」
「悠長も何も、我々はずゥゥ〜〜〜ッと立ち往生しているだけではないか。寧ろそういう手作業をしていれば頭も冴えてくる…………おお、我ながら妙案かもしれん!」
上機嫌になって自画自賛を展開する上官をぽかんと見詰めていたホーデンハイマーは、祖国での日々を思い出したように微かな笑みを溢し、体の表面を傷付けられそうな道具を探し出した。案外乗り気らしい。
時折金属の擦れる不快な音をたてながら互いの装甲に鉄十字を刻み込む。
多少の修正が利くペイントとは訳が違うので、完全に元通りとはいかない。どうしても互いに異なる手癖が出てしまうし、ましてや彫刻の経験など皆無であり、不格好な仕上がりとなったが、当の二人は寧ろそこを気に入っていた。きっちり正確なよりも不格好なくらいが味があって、愛着が湧きそうである。
シュトロハイムについた十字は縦横のバランスが良く、しかしそれだけでは味気ないということで、勲章の輝きを表現した放射状の線で囲まれている。一方、ホーデンハイマーについた十字は大胆で迷いの少ない輪郭が印象的だ。
「フッフッフ、気に入ったか? 俺の力作を」
「ええ…………とても。なんと言うか……『イイ』ですね。自分で思っていたよりも、この十字には勇気づけられていたようです」
「ほらな。形に残るようにして正解だったろう」
家族や恋人の写真を懐に忍ばせ、苦境に立たされた際にそれを取り出して眺めることで己を奮い立たせる者がいる。ホーデンハイマーはそうした『お守り』を携帯するどころか、兵舎にも持ち込んでいなかった。彼の精神力はそういう小さな心の拠り所を必要としなかった。
彼には親友も恋人もいない。父が死んで経済的に困窮していた母は写真を撮る余裕などなかったし、数えるほどしか残っていなかった父の写真は全て母の手元に置いておいてやりたい。
母の面影を感じられる品として唯一思い付くのは、入隊してから受け取った手紙だが、彼はそれをとうの昔に破棄してしまっていた。当時は不要と考えたのだろう。しかしたかが手紙くらい捨てずとも良かったのではないかと、今更に、ほんの少しばかり後悔した。
軍に入隊してからというもの、何かに取り憑かれたかの如き強迫性を伴って己を追い込み続け、気付けば20年が経とうとしている。通りで何も残らない訳だ。己の青春を投げ捨てられる者が、紙切れの一枚や二枚捨てる程度、どうして躊躇うことがあろうか。
そんな様子を間近に見ては説教じみたことを口走っていたシュトロハイムだが、いずれも結果は馬耳東風といったものである。
昔、明らかな不眠と過労で
「……ま、心配無用か。俺とお前が揃った戦線なら蟻一匹だって通さぬわ!」
「ええ勿論ですとも。我々は無敵です」
「嗚呼……あああ〜〜ッ!! 早くビールが飲みたいなァ!! 浴びるほど!!」
「浴びるほどじゃあいけませんよ。この体ではアルコールの回りが早いのに分解は遅いんですから」
相変わらずユーモアの足らない部下であるが、それも寧ろ愛嬌があるとさえ感じる。なんなら場の緊張をほぐす為に敢えてそういう返しをしているのではないか、彼なりのユーモアなのではないかとも考えていた。実際、口では咎めるようなことを言いながら、酒を飲みたいという気持ちは少なからずある様子だった。
「まったく、帰国したらどんちゃん騒ぎになるでしょうね。皆鬱憤が溜まっていますし」
「そう言うお前はどうなんだ。たまには若い奴等に混じって騒いでみれば良いものを」
「…………若いって…………自分はとうに三十路を過ぎました」
「俺など四十路を超えているが?」
スターリングラードに辿り着くまでの道のりで見かけたソ連人達の、なんとみすぼらしいことか。
敗戦の苦味をよく覚えているドイツの戦いぶりは凄まじいが、逃げ帰れば前線と同等かそれ以上に悲惨な人生が待ち構えているソ連兵も必死だ。しかも途方も無い人数で押し寄せてくる。シュトロハイム達はそれを粘り強く払い除けなければならない。
長いようであっという間に過ぎ去った日々を思うと闘志が湧いてくる。すっかり白銀の視界に慣れきった今でも、目を閉じれば美しい祖国の街並みが鮮明に浮かび上がった。仕事に向かう男性が行き交い、集まった女性が談笑する傍で、子供がはしゃいで駆け回っている。
その景色を守りたいという思いは今も確かにある。同時に、ただ唯一無二の相棒とくだらない話で笑い続けていたいというごくシンプルな思いがあった。彼は共感してくれるだろうか。それともやっぱり、