ジョジョWWS:主人公機械化√ 実況プレイ   作:全日本純愛連合

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蛇足(下)

 今日も少女はシュパンダウ刑務所に訪れていた。約10年前に裁かれた戦犯達を収容しているこの城塞監獄の内側はもうすっかり見慣れたものである。面会室で先に待っていた男の痛々しい傷痕につい注意を奪われながらも挨拶をすれば、グーテンターク(G u t e n T a g)、と心地の良い低音が返ってくる。

 

 一番上の姉が未だに子供扱いしてくるだとか、兄の放浪癖が治らなくて困るだとか。本当は話題に事欠かない家族の近況を教えたくてたまらないのだが、面会は楽しいお喋りなどではなく財団…もといアメリカによって課された『義務』を果たすべく許されている。

 

「今日聞きたいのは、例の大佐さんについて。特に開戦してからの配置と動向を知りたいの」

「…………シュトロハイム殿……は、俺よりも多くの前線に立っていたから、把握し切れていない。度々宣伝省に出向いていた俺では、どうしても出られる作戦が限られてくる」

 

 『義務』とは即ちナチス・ドイツの誕生から滅亡までを特殊な視点で観測していた男から可能な限りの記憶を聞き出すこと。会話の全編をボイスレコーダーに録音して渡すこと。

 それは家族の生活費に充てられる額の報酬金の為でもあり、多大な恩のある彼に会う為でもある。当初これは一番上の姉の役目だったが、聞きつけた少女が末っ子特権と得意の屁理屈でごねにごねまくった結果なんとか譲ってもらえたのだ。

 

 面会は刑務所管理の担当国がアメリカ、イギリス、フランスの際に行われる。ソ連はしれっと仲間外れに去れた。

 大佐さん、もとい『ルドル・フォン・シュトロハイム』なる人物について触れると男はいつも饒舌になるので巧く多用するようにと言い含められていた。話を聞き出す為には致し方ないことだが、シュトロハイムの死を未だに克服できずにいるらしい男が俯くのを見ては少女の胸が痛む。

 

「──スターリングラード以降、総統閣下は却って俺を出し惜しみするようになった。離れた地には行かせて貰えなくなった。国境付近が精々だ」

「ろくに不満も訴えられず、さぞ悔しかったでしょう」

「不満など、まさか。一番伝えたかったことは伝えた。総統閣下は……お疲れになっ(気を違え)ていたのでイマイチ確信がないが……少なくとも大臣には、しかと届いたように思う」

「あ……………………何、と……伝えたの」

 

「“()()()()()()”」

 

 不意に顔を上げて告げるものだから、思わず目線を逸らして頬を熱くした。どれだけ歳を重ねても魅力を保つ彼の、片割れを失った孤独な瞳に射抜かれるといつも頭が真っ白になるのだ。そして幼い頃の記憶が少女の脳裏でまばゆくフラッシュバックする。

 

 浮遊感と共に離れる地面。美しい顔。美しい()()

 

 己を抱き上げる、()()()()()腕。

 

 両親の声、兄弟の声。心地良い男の声。

 

「モーリッツさん……」

「だから今ここに君がいるのだ────ハイデ。あのときだけは、大臣は大臣であることを捨てていた」

 

 奇妙な揺れに起こされるも、唸る前に口を小さな手で覆われる。しぃー、と向かいでジェスチャーをするのは誰かの右腕に抱かれた姉だ。まだ空の暗い未明、どうやら左腕に抱かれている自分は眠っている間に他の兄弟もろとも外へ連れ出されたらしい。

 不思議に思いながらも自分と姉を抱く大きな腕には身覚えがあるので不安はない。そうしてまた眠りに誘われて再び目を覚ましたときには、彼は……モーリッツはどこにもいなかった。

 

 何も言わずに去ってしまった彼から引き継ぎ、彼女ら兄弟を保護したのがスピードワゴン財団だ。状況を正しく理解していたのは当時13歳の長女のみで、何とか恐怖を押し殺して見知らぬ大人達の対応をしていた。震える声で上から順に名を教える。最後に告げられた、末っ子の、少女の名は

 

 

 ハイドルーン・エリーザベト・ゲッベルス

 

 

「貴方は何故、そんな危険を冒してまで」

「『危険を冒した』のは俺ではなく、大臣と夫人……つまり君のご両親だ。他人(ひと)を『信じる』のは容易いことじゃあない。特にこの場合、君達の命がかかっていた訳だから尚更な」

 

 夫妻には一家心中の覚悟さえあった。しかし最終的にはモーリッツに『託す』ことこそ最良の道だと『信じて』、子供達から手を離す苦渋の決断を下したのだ。ドイツ国外へ一緒に来れなかったのは寂しいけれど、今は『ゲッベルス』の姓を隠して生きねばならないけれど、ハイデは両親を愛している。

 

 そして、いつしかそれ以上の感情を()()()しまった。

 

 両親は死者だが、彼は生者だ。両親との記憶はほんの数年分だが、彼との記憶は今この瞬間にも増え続けている。同時に、この病は胸に秘めたまま生涯を終えたいとも思う。

 「幼少期の刷り込み」だとか「思春期の錯覚」だとか嘲笑われるのはどうでも良かった。ただ、素知らぬ顔をしながら全て察しているのかいないのか、どちらにせよ彼は触れたがらないだろう、と彼女は結論づけている。

 

 なんせ二人の間には32年もの年齢差と、鉄格子と、約束された別れが横たわっているのだから。なにより、例え何の障壁もなかったとて、決して16歳の彼女には振り向くことのないモーリッツが好きなのだ。

 

「だとしても、ありがとう。私達を逃してくれて」

「シュトロハイム殿ならこうしただろうと思っただけだ」

「……もう! また大佐さん大佐さんって。貴方宛の感謝なんだから、貴方が素直に受け取ってくれないと行き場がないわ!」

「それは申し訳ない。どういたしまして、ハイデ」

 

 自分は報われない恋心に苛まれているというのに、彼は相変わらず上官の亡霊に取り憑かれているのだから、少しは怒りも感じよう。ついでに未だに自分を4歳そこらの小さな子供だと思っている風にも見える。

 

 不満がないと言えば嘘になるが、仕方ない。苦しみのあまり戦場に心を取り残してきてしまった軍人は掃いて捨てるほど存在した。外で暮らしている者でさえそうなのに、刑務所に放られた戦犯達ときたら、厳しい監視の中で限られた情報だけを与えられて過ごしている。どう足掻いても彼等の『時間』は進まない。

 

 それを鑑みればモーリッツの()()は随分軽く済んでいるほうだ。

 “立ち直れるポテンシャルがあるにも関わらず、己の意思で()()()()()()()()()()()”。“過去への執着よりも、弱気な道を選択してしまうことこそが彼の最も重篤な症状だ”。とは財団の心理学者の言である。正解かどうか知る術はないが。

 

「ところでJOJOの奴はどうだ」

「えっと……プライベートはよく知らないけど、不動産事業は絶好調みたい」

「火山でも殺せん男など気遣うだけ無駄か…。強運ぶりだけは誰にも負けない奴だ」

「アハハ……大学に合格できたら良い感じのお部屋でも紹介して貰おう、かな」

「大学か。是非行くと良い。いざというときに頼るあてがJOJOというのも、知れば皆羨むだろうな。利用できるものは何であろうと存分に利用してやれ」

「うん。行くよ。勉強頑張る」

 

 そう答えると、モーリッツは片方だけの目を細めて“君なら大丈夫だ”と言ってくれた。月並みの激励だろうと彼女にとっては宝物だ。今後の座右の銘にしたっていい。

 

 姉にひっついているときに見たことがあるジョセフ・ジョースターには、財団の創始者であるスピードワゴンや彼の部下達に並んで世話になっている。ユーモアたっぷりのおちゃらけた性格はどうもモーリッツとは反りが合わないように思えるが、お互いそれなりの信頼を置いているとも感じた。

 彼等の奇妙な友情のおかげでゲッベルス兄弟は戦後も食いっぱぐれることなく生活できたし、数年前には次女が大学に通う為の奨学金もぽんと借りられた。義務教育を終えてすぐに働き出してしまった長女がいたく感激していたのを思い出す。

 

 記憶をなぞりながらふと時計に目線をやれば面会の終了時刻まであと5分を切っていた。いくら話しても話し足りないというのに、時間は無常にもこちらを振り向きもせずあっという間に過ぎ去ってしまう。

 ハイデが思わずつきかけてこらえた溜め息を、モーリッツが特に躊躇う素振りもなく吐き出す。心底憂鬱そうな呼吸にさえそこはかとない色気が混じっていて、何故か目のやり場に困って生唾を飲み込んだ。

 

「来月は…………ソ連か。面倒だな」

「力になれなくてごめんなさい。他の国も忠告してるみたいだけど、効果は……微妙みたいだね」

「……いや、なに、奴等にどんな嫌味を言ってやろうかと楽しみなくらいだ。それじゃあハイデ、次の面会日まで」

 

 カチャン、ガシャン、といくつもの金属同士がぶつかり合う音を挙げながら彼は体を動かした。返事も忘れてじっと観察していると、ごく僅かに覚えた違和感の正体が脳裏に浮かぶ。

 

「あの、モーリッツさん。油はこまめに注しておかないと駄目なんだからね?」

「油? …………あぁ、油か。そうだな。そういえば注し忘れていたかもしれない。気をつけるよ」

 

 彼は別れ際かすかに口角を上げて────それきり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 意味がわからない。

 油の切れた金属器具が発するのはもっと歪で不快な音だということに気付けていれば良かったのか? ソ連をもっと強硬に牽制するべきだと進言すれば良かったのか? あるいは最初から、彼が自分達兄弟の命など捨て置いてくれれば、こんな気持ちにならずに済んだのか?

 

 意味がわからない。だって、彼は過去に一度それをしないと決断していた筈だ。ところが何の意味も成すことなく、よりにもよって一番に憎んでいるだろう国の手の内でなんて。彼の人生を思えば、性格を思えば、プライドを思えば。

 

 『()()()()』など、ありえないのだ!

 

 兄弟の誰もがそう直感しただろう。懇願の末に兄弟全員で最期の面会に赴いたとき、激しく震えるばかりだったハイデの横からひとつの影が飛び出すや否や彼の上半身を覆い隠す布を思い切り捲くり上げる。

 犯人は昔からちょっぴり変わったところのある兄だ。こんな状況でもぼんやりしているように見えた兄だが、ハイデにはできそうもなかった奇天烈な行動を代わりにしてくれて内心感謝した。

 

 1、2、3、4……血色を失ったモーリッツの肌には少なくとも片手で数えられる以上の穴が空いていた。悍ましく広がっていたであろう血液は拭き取られているが、裂けた皮膚の縫合はあまり丁寧とは言えず歪に波打っている。

 これが、こんなものが、『拳銃自殺』の遺体か? どれだけ目で訴えても真実を知る人間は一様に口を閉ざした。それだけが唯一得られた答えである。

 

「我々は今、歴史の『特異点』に立ち会っています! 世界の、この星に生きる全ての人類にとって、母なる祖国の偉大な『進歩』が未来へと語り継がれていくでしょう!」

 

 翌年10月。ソヴィエト社会主義共和国連邦による、人類初の人工衛星『スプートニク』打ち上げ。

 ドイツ語の字幕付きで、ニュースキャスターのはつらつとしたロシア語を聞き流しながらハイデは世界の行き着く先に思いを馳せた。きっと、きっと彼は、加速する人類の科学技術の下で────あるいは()で眠っているに違いない。




解釈は委ねます。ご精読ありがとうございました。
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