ジョジョWWS:主人公機械化√ 実況プレイ 作:全日本純愛連合
モーリッツ・ホーデンハイマーという男がいる。
未曾有の大戦争にて敗北を経たドイツに残されたのは、荒れた街と死体の山、くたびれた軍隊と莫大な賠償金、飢えた病人や老年寄りに女子供。
続けざまにハイパーインフレーションときては、いくら人手が不足しているとはいえ立ち行かなくなった企業は次々に社員を手放すしかない。
軍は普通、そうした失業者達の受け皿としての機能もあるのだが、今や軍までもが多くの兵を抱える余裕を失っていた。英仏等と交わした条約に則り人員を削減せざるを得ないのだ。
軍を後にさせられた兵や将校達が不満を抱かない筈もなく、彼等の多くが現在『ヴァイマル共和国』としての安定を図っている政府に対抗する為のグループを各地で作り上げていた。いつ内乱が勃発してもおかしくなかった。
『ヴァイマル憲法』それだけを見れば実に先進的で平和的なものではあったが、まだ20世紀も始まったばかりの世界には早すぎたのである。
随分すかすかになってしまった現役将校や政治家が四苦八苦しながら国を維持する中、彗星の如く現れたのが彼────モーリッツ・ホーデンハイマーなのだ。
「末恐ろしいな…。昇進させればさせるほど、いや、寧ろ昇進が追い付いとらんぞ」
「時代が違えば英雄でしょうに。残念ながら今のドイツでは……」
「おい迂闊だぞ。お前の上官が俺で良かったな」
「あッ、申し訳ありません。失言でした」
彼の上官と、その上官に、更にその上官…と幾人もの人間が彼の異常な成長速度について議論していた。
恐ろしいのは軍人としての才能だけではない。黄色人種──それもあのイギリスとどういう訳か同盟を結んでいた日本だ──との混血という生い立ちや、まだ10代という若さをものともせずに、するりと相対する者の懐に滑り込んでしまうのだ。
これを誰彼構わず、つまり無意識的にやってのけてしまう天性の『才能』が持つ可能性に、彼の上官達は震えた。
敗戦により国の在り方を歪められるのは酷く屈辱的ながら、皆それでも祖国を愛している。そこに突如として浮かび上がってきたひとつの可能性に、何か希望を抱いてしまうのも仕方ないだろう。
「しかし『英雄』か……案外今のドイツにこそ、新たな『英雄』が必要なのかもな。このまま国を腑抜けにさせてはならん」
「…………あいつをそうするつもりですか? 軍が力をアピールするのは、何と言うか……英仏を刺激しそうですが」
「いやなに、単なる俺の願望だ。実際やるにしても、まず
脳裏では活気を取り戻した国の姿を思い描きつつも、所詮は夢物語に過ぎないだろうと断じていた。あの青年がそうであるように、彗星の如くドイツに現れ、より強さを、より力を求め、
「ウーム、成人したと聞いたが……俺にはそう変わったように見えん!」
「皆に同じことを言われます。日本人と言っても半分だけですし、自分のほうこそ他との違いがわかりませんよ」
納得いかない、といった風に眉をひそめているのに、やはりどこか柔和な雰囲気が漂っている。ぐいとブラックコーヒーを喉へと流し込む姿も、中学かそこらのティーンエイジャーが格好つけているように見えて、危うく溢れかけた笑いを飲み込む。
彼の幼い、あるいは『中性的』とも受け取れる顔立ちと、筋肉が発達してかなりマシになったとはいえ華奢な骨格は目立つ。
長いこと男社会で生きていると、そのうち少なくない数の者が「もう男でも構わない」などと言い出すので、そういう苦労もあるのかもしれない。
「ヌハハハ、俺からすれば贅沢な悩みだ。褒め言葉として受け取っておけ」
「大尉殿こそまだ31ではありませんか。十分若いでしょう」
「……今はな」
戦争の影響は未だ色濃く残されている。女に対して男の平均年齢が高く、
寧ろ目の前の彼こそ早く結婚してしまえば良いのにと思う。明らかに伍長のやる量ではない激務を機械的にこなす姿に、彼の直接の上官達は感心を通り越して恐怖さえ覚えているようだ。
しかし以前「どんな仕事人間でもひとたび守るべき家ができれば多少は落ち着くものだ」と話した際、ぴくりとも表情を動かさずに「ドイツと結婚する」と断言するような男では望み薄か。シュトロハイムとて同じことを上官に言えるだけの愛国心を抱いているが、あまりにも真剣な声色に思わず苦笑いしたものだ。
ホーデンハイマーが志願した1923年のドイツといえば、フランスによるルール地方の急な占領により凄まじい混乱に見舞われていた。つられて巻き起こったハイパーインフレーションをどうにか沈静化したは良いが、これからもずっと連合国の──特に横暴な
それが決意を後押ししたというのもあり、彼の祖国への思いは並々ならぬものがある。もはや国軍に入ったのが不思議なほど強烈で、所謂“反体制”めいているのだ。
周囲にはうまく隠しているようだが、こうして何度も私的な時間を共にするごとにその胸の内を匂わせるようになっていった。シュトロハイムは咎めるどころか「あなただけだ」という言葉に気を良くしており、士官にあるまじき体たらくだ。
しかし、あくまで彼は自分を慕って何度呼び出しても応じてくれるだけだし、
「ところでお前、全然隈が治っておらんではないか」
「徹夜のできる若い間に詰め込んでおくんです。大尉殿も好きでしょう、出世」
「限度があるだろうと言っておるのだ! そうまでせんでも出世できる実力が十分にあるではないか!」
「ああ、まあ…………仕事もやってますが、下士官になって勉強も始めたので、そのせいですね」
辛うじて敬語ではあるが、外でのきびきびとした印象とは程遠い緩んだ声色が返事をする。寝不足の象徴を滲ませる瞼の中には充血した眼球が埋め込まれており、背中を丸めて腰掛ける姿は彼らしからぬ無防備さであった。
美しい顔立ちが台無しのそれを今更問い詰める気もない。厳格に振る舞う彼が他人に甘えるなど、意外すぎる一面を自分だけが知っている事実に妙な優越感すら覚える。
しかしながら、ただ甘えているだけであれば秘密にしてやるとしても、不健康なのは頂けない。優秀な下士官が死にそうなのを最も喜ぶのは敵国である。
「己の体調を管理するのも仕事の内だ。勤勉なのは結構だが、引き際を知らなければいずれ滅びる」
「……はい……肝に銘じます」
「素直でよろしい」
一応叱ったつもりなのだが、彼はほんの一瞬だけ嬉しそうに笑って、慌てて隠すように表情を引き締めた。
貧困や片親など今時珍しくないものの、その中でもひときわ異彩を放つ彼に魅せられてしまったのか、随分と依怙贔屓にした自覚はある。父親というほどの年齢差はないが、年の離れた兄ぐらいには思われているのかもしれない。
ふとそんな考えが過って、それも悪くないと思う。彼はいつも奇妙なくらいシュトロハイムの望む答えを出すので、そのたびに評価は上がり続けるばかりだし、共に過ごす時間がますます心地良くなっていくのだ。
ホーデンハイマーの思想の全容はまだ掴めていない。いつか全てが明らかになったとき、彼等は決別するのか、あるいはより強固な繋がりを築いて躍進するのか。
このまま生温い『平和』