ジョジョWWS:主人公機械化√ 実況プレイ 作:全日本純愛連合
ホーデンハイマーという軍人の顔は、スピードワゴンでさえ見覚えがあった。
先のベルリンオリンピックで撮影された写真がドイツ国外でも話題になったのをきっかけに、ドイツはプロパガンダの多くに彼を抜擢したのだ。ナチスの『良い』印象を広めようと腐心している宣伝省の大臣が行った、業界人向けのスピーチでも彼について言及しては絶賛していたという。
手始めに彼らは、新聞や雑誌を通じて大衆向けのチープで親しみやすい記事を乱雑にバラ撒き、不特定多数の国民にホーデンハイマーについて「なんとなく良い人っぽい」と意識させた。国民――特に家庭にいることを推奨されている女性――を中心にファンダムが形成されると、記事の質を高めると同時に、軍や党を称賛するような内容を巧妙に紛れ込ませた。
つまり個人に対する好感を、ホーデンハイマー=国防軍=ナチス、と己の元までイコールで繋いでいったのである。現代においても言えることだが、あらゆる宣伝の権限を握っていたナチスは数の暴力で流行を作り上げることができたのだ!
美は人を盲目にさせる。彼のファンダムはナチスの実態などどうでも良かった。党が彼に優れたデザインの制服を与えていることに感謝したし、彼のような美青年が男の園である軍隊で生活していることに、同じ男が感じるものとは別種のロマンを抱いていた。
とはいえ、全てが宣伝による功績だったのかと尋ねられればそうでもない。戦後、客観的にナチスによる
これはホーデンハイマー自身にもそれだけの魅力や求心性が備わっていた証左であり、プロパガンダを得意とするナチスとはまさに運命的なマッチングと言えるだろう。またこれ程のダイヤの原石を見抜いたゲッベルスの審美眼には一目置くものがある。
「『波紋』のない我々に持てる手段は『科学技術』だけだ。あの驚異的な生物を相手取るのなら、どれだけ備えても備えすぎることはない」
心地の良い低さで、心臓をねっとりと這うような甘ったるい声が響く。それが彼の生まれ持ったものなのか、はたまた熱心に『教育』されて身に付けたものなのか判別はつかない。ただ作っているようには感じさせない、ごく自然な発音が逆に恐ろしいと思った。
何故こんな人物がここにいるのだろう。人形芝居をするなら手元に置いておくほうが良いし、いくらあのシュトロハイムという将校のことを慕っていようと無視して何ら問題ない。それだのに海を隔てた国の奥地にまで行かせたのは何か思惑があったのか、どうしても参加させたいほどの実力者なのか、上層部に融通を利かせられるだけの繋がりがあるか。あるいはこれら全てだ。
「世界有数の技術を持つ者同士、今ばかりは腹を割り、全力を尽くす『義務』がある、と、俺は思うね」
「…………ナチスに機密を差し出せと? 君は自分の国が何をしているのかわかっていて聞いているのか?」
ホーデンハイマーは足早に車椅子を押しながら、到底受け入れられないような話をさらりと述べた。『柱の男』の脅威に命を晒されている真っ最中に、こうも上から物を言えるものかと感心さえしてしまう。
スピードワゴン財団はアメリカのワシントンD.C.に本部を置き、多岐に渡る活動の多くが膨張し続ける資本主義経済と密接に関わっている。ほとんどの国民がユーラシアの揉め事に触れたがらないアメリカでさえ、各国間の例に漏れず近隣国とは緊張状態を抱えていた。
開戦秒読みとも囁かれる国際情勢の中、着々と軍備を整えているドイツに『柱の男』にも対抗しうる、つまり機密レベルの技術を渡すなど、間抜けそのものである。
「軍事転用するな」と言われて大人しく従うような人間ばかりなら初めから戦争は起こらない。よしんば転用されなかったとしても、ドイツに手を貸していることが世間に知られた時点で財団はアメリカの名をも巻き込んで大ダメージを被るに違いない。
人類存続の為には必ず『柱の男』を地球上から消し去らねばならない。が、あまりのリスクにどうしても躊躇ってしまう。
地位や名誉を捨てる覚悟はあった。しかし『柱の男』達が去ったはいいがその後すぐに人間同士の殺し合いが勃発、なんて事態になっては元も子もないだろう。
ただ、それでもやはりどちらか選ばなければならないとしたら――――
「我々はサンタナ以外に三人の『柱の男』を発見し、既にそこを軍の監視下に置いている」
「な、なん、どこだそれはッ」
「おやおやおやおや、ご興味がおありですかなぁ? しかし、誠に残念ながら、
「ぐ、っく…………これも人類の為なのかッ……」
「そんなに嫌がることもないだろう、悪魔と契約するんじゃああるまいに」
かかったな、と言わんばかりに深めた笑みは、下手なベテラン士官よりも様になっていた。彼は否定するが、ヒトラーの掲げる方針を思えば、現政権下のドイツを悪魔と称するのは言い得て妙である。
約五十年前から石仮面やそれにまつわる事象を追ってきたスピードワゴンに、『柱の男』の居場所をチラつかせられて反応しない道理はなかった。彼は偉大なる二人の戦士の思いを引き継ぎ、比喩なしに人生をかけてここまでやってきたのだ。
吸血鬼のディオ一人を倒すのにあれほどの死者が出てしまったのだから、更に上位種の生物を同時に三体も相手取るとあっては、
そもそもそんな生物がいようがいまいが各国はいずれ勝手に戦争を始め、何千何万もの命を散らすだろう。『柱の男』の為に何百人程度が死んだところで
であれば倒せる可能性が少なからずあるほうを選ぶまで。例え想像もつかないような人数が犠牲になったとしても、全てに決着がついた後世に『柱の男』さえいなければ、人類は必ず復興する。そう信じることが今抱ける唯一の希望だった。
ある部屋の前で車椅子の動きが止まると、おもむろにファイルから引っ張り出した一枚の紙をホーデンハイマーが差し出す。
「これがこの基地の座標だ。あとは任せた」
「……嗚呼」
「本国へ概要は打電しておく。後で向こうに戻って様子を見るが、何があっても貴方はここで待っていろ」
「……ッわ……私からも頼んだ、JOJOのこと」
モンゴロイド系の遺伝子との融合が織り成す、どこか幼い印象の残る顔に似合わぬ低音はアナウンサーのようによく通り、淀みなく簡潔な言葉を伝える。このような緊迫した状況でなく、もし落ち着いてただただ言葉に聞き入っていれば、ほう、と溜め息が出ていたかもしれない。
最後にスピードワゴンが絞り出した声に応える時間も惜しいといった風に彼は背を向けてしまったが、同時に右腕の肘から先だけをさっと挙げた。
聞こえないフリもできた筈だ。医者が「絶対に治す」と言えないように、軍人に「特定の誰某を守ってくれ」と請うのは酷なこと。それも他国人の守護など職務の範疇にない。
わかってはいても、スピードワゴンは願わずにはいられなかった。ジョセフのタフさを知りながら、その血筋に刻まれた『宿命』を常に恐れていたのだ。所詮己は利用される立場であり、初めから無視されても構わないと思っていたのだ。
しかし彼は確かにその言葉に応えてみせた。あれが彼なりの肯定なのだと思うと、ナチスには忌避感を覚えるスピードワゴンでさえ何か込み上げるものがあった。あの碧い双眸には、溢れんばかりの自信があった。ホーデンハイマーには、その些細な動作のひとつで人の心を揺すぶってしまう不思議な魅力があった!
『幸運』なことにスピードワゴンからの電話を取った職員は年季の入ったベテランで、声だけで電話の主が尊敬する創始者であると判別し、彼の要求を正確に理解した。通話中にスピードワゴンが発したのは「救急を飛ばせ」「座標は…」の二点のみであることから、その優秀さが感じられよう。
「スピードワゴン様! お怪我はございませんか!」
「私は問題ない、それより報告しろッ、JOJOは!?」
「は、はいッ、疲労と多少の擦り傷などはありますが意識障害など重篤な症状は見られず、短期間で回復できるものと」
「そうか、…………他には」
「ドイツ兵が2名重態の為搬送、あとは残念ながら……」
ひとまず旧友の孫を失わずに済んだことにほっと胸を撫で下ろすも、やはり惨状には違いない。いけすかないナチスとはいえ、愛するジョセフともそう歳の離れていない若者がいた、自分達と同じく人類の進歩に夢を見る科学者がいた。
「2名? 搬送されたのはどんな男だった?」
「一人は40代前後、金髪の将校。そしてもう一人が20代から30代、黒髪の兵士です。共に僅かながら呼吸はあるものの、出血量が酷く、どうなるか……」
「…………黒髪の男がアジア系なら、彼はホーデンハイマーだ。可能な限りの治療をするのだ。これから行うドイツとの交渉に必要になる」
「了解です。ひとまず我々もアメリカに戻りましょう。貴方が良いと言っても念の為検査はしますよ」
再び『幸運』なことに、それ以外全ての兵士や科学者が死亡していながら、ホーデンハイマーと彼の慕うシュトロハイムだけが生き延びたのだ。とんでもない重傷らしいが、あの二人はそう簡単に死んだりしない、そんな予感がした。
天は二人の、いやどちらかと言えばホーデンハイマーの味方をしているようだ。今はまだ知る由もないことだが、スピードワゴンは己の勘が正しかったことを残りの生涯で幾度となく思い知ることになる。