ジョジョWWS:主人公機械化√ 実況プレイ   作:全日本純愛連合

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おまけ

 新年早々、メキシコからもたらされた混乱の処理にドイツは大忙しだった。

 かの地から緊急の打電があったかと思えば、次いでスピードワゴン財団からの唐突な接触である。どこで知ったのかメキシコで行われている実験のあれそれをチラつかされては無視をする訳にもいかず、僅か2日後にはベルリンにある財団支部にてとりあえず交渉の席を設け話し合うこととなったのだ。

 

 向こうから連絡を入れてきた癖にどこか不満気で不本意そうな雰囲気が漂っていたり、正義に燃える挑戦的な視線を向けられたり、ドイツ側は苛立ちを覚えずにはいられなかったが、なんとか交渉はまとまった。

 

 財団は、保護したドイツ人の兵士や科学者の遺体を速やかに返還し、ルドル・フォン・シュトロハイム、及びモーリッツ・ホーデンハイマー両名の救命に尽力すること。『柱の男』に関して保持している情報を、可能な限りドイツ側に開示すること。

 

 ドイツは、上記の二人を『柱の男』に関する作戦のほとんど全てに登用し、現段階以上の人員には原則『柱の男』の詳細を告知せず、する場合は可能な限り少数に抑えること。また、財団にコロッセオ地下への立入を認めること。

 

 そして両者は、技術面での惜しみない提携を取り、恒久的に、軍事転用を行わないこと。契約の目的は一貫して『柱の男』の打倒であること。

 

 詳細な記述は省くとして、概ねこのような内容だ。

 

 無論財団も初っ端から馬鹿正直にこの条件を出して挑んだ訳ではないし、あわよくば有利な一文でも飲ませてしまおうかとも考えた。しかし既にドイツ側の軍人にこちらの腹が知れてしまっており、口約束とはいえ創始者のスピードワゴンが条件を飲んでしまっている。

 彼は今でこそ老いて落ち着いたとはいえ、根本が情に厚く義理堅い熱血漢であり、高度な騙し合いや腹の探り合いにはあまり向いていなかった。例え口約束でも、約束を違えるのは彼の望むところではないだろう。

 

 もし仮にいっときはドイツを騙すことができたとしても、後々その軍人――ホーデンハイマーに条件の勝手な変更がバレて、怒りを買ってはろくなことにならない。軍を飛び越えて有力な政治家にあることないこと告げ口されてしまえば、話が余計に拗れるばかりか、財団はローマに立ち入るのも困難になる。

 

 またちょっとした反抗心の為だけに、憎たらしいほど優秀な彼を()()()()で消す、という案も割に合わない。柱の男を倒すことが最優先なのだ。

 

「待てよホーデンハイマー」

「JOJOか。咄嗟の指示であったが、すぐに走り出し、赤石を渡すことなくあの野郎(カーズ)を追い払ってくれたこと、礼を言う」

「おうよ! いや、そうじゃあなくてだな。何なんだよその機械の体は?」

「…………。スピードワゴンから聞いていないのか」

「あン? じいさんが何だって?」

 

 スピードワゴンは、自身の組織がドイツ軍に多大な協力を行っていることをジョセフに告げられずにいた。

 

 軍事転用を禁じる条文を盛り込んだところで、ナチス相手には何の役にも立ちはしないだろうと本心では思っていながら、この世に生まれるには早すぎる兵器を作り上げた。言い逃れようのない、生物を殺す機能だけを積んだ悍ましい道具を作り上げる為に、二つの魂を実験台にした。

 彼等は生涯を人間ではなく兵器として終えることになる……それでも彼はやった。

 

 大切な人の忘れ形見を守る為だなんて言い訳は微塵も浮かばない。それどころか、若い時分に散々弱者を襲って生き延びてきた老いぼれが、再び奪い奪われる世界に足を踏み入れ、老いでくすみ始めた精神がギラつきを取り戻しつつあることに呆れる。

 

 全てエゴだ、エゴでなければならないのだ。綺麗事だけではやっていけないのが世の中だが、しかし薄汚い部分を敢えて見せる必要もない。早いことに()()19歳、されど()()19歳のジョセフに。

 

 スピードワゴンにとってもはや二度目の世界大戦が訪れる未来は必然のものであった。誰が次の覇権を握るにせよ、夥しい量の血が流れる原因のひとつとなりえるそれに手を貸すなんて、愚かな罪だろう。

 

「……お前は甘やかされているな」

「オイ、じいさんのこと悪く言うなよ。確かに甘いけどよ……怒り狂ったエリナばあちゃんがあんまりにも怖いから、じいさんまで俺にキツく言えないんだぜ、きっとッ!」

「…………そうか。では訂正しよう。お前は……愛されているな」

「んまぁな。面と向かって言われると恥ずかしいが」

 

 しかしその深い愛が、思いやりが、ジョセフをまっすぐで人好きのする青年に成長させたのもまた事実だ。

 彼の祖母であるエリナは強く優しく気品のある女性だが、夫と息子夫婦を失ったことにより染み付いた心の闇を、夫の生き写しである孫の前で完全に隠すことができなかった。幼い頃からジョセフはそんな祖母を守ろうとしていたものの、もしスピードワゴンという背中の支え、あるいは逃げ道がなければ、その荷の重さに幼い心は悲鳴を挙げることになっただろう。

 

「俺と大佐殿の体があるのは彼のおかげでもある。科学・医学ともに素晴らしい技量だ。我がドイツのように」

「最後の一言いる?」

 

 ジョセフはやれやれと首を振りながら無意識に口角を上げていたのを、目前の男がじっと見詰めていることに気付いて、思わず視線から逃れるように体をひねった。共に命のやりとりをしたドイツ軍人が生きていたことを嬉しく思ったのは確かだが、緩んだ表情をまじまじと観察されては恥ずかしさが込み上げる。

 

 やかましくて高慢ちきな印象のシュトロハイムはまだしも、物語に出てくるような軍人そのものといった振る舞いのホーデンハイマーは堅物で、何を考えているかわからない人物に見えた。

 ついでにやたらと整った造形をしているが、ジョセフは目の前の彼がまさか10以上も歳が離れていているなどとは知る由もない。そう変わらない年齢の癖に妙に偉そうだなとさえ思っていた。

 

「何してるJOJO、ここで駄弁っているヒマはない」

「もう、シーザーちゃんのせっかちィ。それに無言で赤石を持ち帰ったりしたら、こいつら怒らせちゃうかもしれないぜ?」

 

 イタリア訛りの英語でジョセフを呼び戻そうとするのは、地獄の如き修行ですっかり相棒となったシーザーだ。以前からドイツが生粋の波紋使い家系である彼の波紋を調べようとしていたこともあり、その名前はシュトロハイムもホーデンハイマーも聞かされていた。

 流石に同盟国の人間だけあって、彼はドイツの特徴的な軍服にこれといった嫌悪感を浮かべたりすることもない。

 

「悪いが、赤石は俺達が持っておきたい。貴方方の調子も万全ではないだろうし、いざというとき波紋なくして赤石を守り通すのは困難だ」

「多少関節が軋む程度、貴様らから力づくで奪うのに何の支障もない性能は備えているが」

「…………正気か? 貴方方が現場に出ている限り、赤石を守るのは生身の同胞になるんだぞ。数え切れない死者が出る」

「最終的に祖国の役に立てれば皆本望だろう」

 

 人命軽視も甚だしい発言に、本来血統や誇りを重んずる熱い性格のシーザーは一瞬呆気に取られた。『血』を重視するという点ではドイツの方針に一定の理解を示していたが、その裏にある冷酷無比な面を目の当たりにして、忘れていた訳でもないのにファシズムの現実を突然思い出したようだった。

 

 シーザーをここまで躊躇わせるのはやはり同盟などという厄介な政治上の取り決めだろう。普段は世間から切り離されたエア・サプレーナ島で暮らしているとはいえ、ここで同盟国の軍人――しかも見たところそれなりの権限を与えられている――と揉め事を起こすのはどうか。数年前までは結構ヤンチャしていたものの、彼の地頭は悪くない為、そんな『理性』が浮かんでしまう。

 

 もしもホーデンハイマーと相対しているのがジョセフであれば、彼はもっと無遠慮にズケズケと物を言って、それだのに上手く事を収めてしまったかもしれない。彼は人を欺いて罠にかけるのが得意だし、そもそもイギリス人なので今更取り繕う関係などないのだ。

 だからといって、歳下の弟弟子をこの汚れた駆け引きに引きずり出すなんて頼りない真似をしようなどとは、誇り高いイタリア男児であるシーザーは思わなかった。

 

「下がりなさい、シーザー」

「ッ先生……」

「赤石を研究したいのならすればいいわ。闇の一族を倒せば私の赤石の守りの使命は終わりだもの。ただし、渡すのはこの戦いに決着が着いた後よ」

「リサリサ先生ッ!?」

 

 これまでシーザーの斜め後ろで沈黙を貫いていた師匠リサリサが、彼が精神的に押されていると見るや否や前に進み出た。冷静沈着を崩すことなく前を見据えれば碧と碧がかち合う。

 

 同じくリサリサを真っ直ぐと射る切れ長の目は、白黒の宣伝写真越しに見るのとは明らかに違う鮮やかさで、寒さからか赤みの差した肌色は、この男が本当に生きた人間であることを証明している。そして男は一度対面した際のヒトラーの瞳のように、自身の顔にはじっと相手を見詰めるだけで相手の心理に訴えかける力がある、と無意識の内に理解していた。

 

 ふと、似た瞳の色をした美しい女と男が向かい合う姿が妙に画になっていることに気付いたシーザーは、つい恨みがましい視線をホーデンハイマーに送る。女を口説くときはいつだって自信満々の彼だが、リサリサといるときだけは自分がちっぽけに感じて、隣で並ぶのに釣り合っていないのではないかとよぎる瞬間があった。

 その点ホーデンハイマーには揺らぎない意思がある。というか、心にドイツ以外の概念が存在しないだけだが。

 

「その決着とやらは、何百年先の話だ」

「貴方達がもっと歩み寄ってくれれば、もっと短くなるんじゃあないかしら。いきなり本命を明け渡すにはまだ我々の間に『信頼』が足りない」

「フン……否定はしない。そちらの赤石を渡すという言葉も、真っ赤な嘘かもしれないからな。保証のないものに軽率に()()は出せんなぁ〜〜〜」

「私は赤石と共に、先代達の数千年の歴史が刻まれた資料も受け継いでいるわ。波紋や赤石の記述を抜きにしても、相当な価値がある。それこそ『研究』というなら十分な進歩が望めると思うけれど」

「…………まぁいいか。それで手を打ってやろう」

 

 ホーデンハイマーがここまで強気に出たのは「財団との協力関係を知られていない」ということをつい先程知れたからだ。スピードワゴンが恥を忍んでジョセフに打ち明けていれば、既に協力している相手に「協力してやるから対価をくれ」だなんて馬鹿げた要求は通らなかったのに。

 

 しかしリサリサの堂々とした態度を彼は気に入った。見たところ歳もかなり近いというのに何か気迫を感じる…いや、己よりも実力あるいは経験が『上』だと一瞬でも思わされた。

 彼にはこれまで互いに切磋琢磨し合う『好敵手』がいなかった。いなくとも独力で成長できる才能を持っていたが、もし十代の頃にそんな存在と出会えていれば、もう少し自分は違った人間になっていたかもしれない。なんとなくそう感じた。

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