ヴァンプスレイヤー・ダンピール   作:龍崎操真

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第103話 茉莉花の挑発

 死人が出た。担任教諭が口にした一言に、A組の教室は一気にざわつき始めた。

 

「え、死んだの?」

「ガチで?」

「なんで? ねぇ、先生なんで?」

 

 教室中から疑問や驚きの声が上がる。すると、担任教諭はピシャリと生徒達の声を一蹴した。

 

「静かにしろ。私の口から何も言えない事になっているんだ。そういう訳で今日は警察への対応や、保護者会の準備で自習となる。以上だ」

「えー」

「じゃあ、今日は休校で良いじゃーん」

「不満は受け付けてないぞー。それじゃあ、今朝の連絡事項はここまでだな。みんな、静かに勉強してろよ。間違っても警察の方にちょっかいかけようとするなよ」

 

 不満気な生徒達の声を受け流しながら、変な気を起こさないように釘を刺した担任教諭はホームルームを締める。やがて、担任教諭が教室を出てチャイムが鳴るまでの間の休憩時間、教室は先程の連絡事項について話題で持ちきりとなった。

 その中で、明嗣は一人で先程の事について考える。おそらく、これは茉莉花による挑発だ。そこまでは理解できる。だが、問題はその理由だ。そもそもの話、なぜ今になってこんな挑発を始めた? なぜ一年もの間、身を隠していた? 何か、大事な事を見落としているような気がしてならない。

 

 なんだ……。何を見落としてる……。

 

 机を指先で叩き、欠けているピースについて考える明嗣。確実に答えが喉元までは出ている。だが、吐き出すまでには至らない。その状態が非常にもどかしい。いつまで経っても出てこない答えに、明嗣は苛立ちから頭を掻きむしる。

 

 クッソ! なんだ? 何を見落としてんだ!

 

「あー……朱渡(あかど)? 大丈夫か?」

「ん? どうした」

「いや……お前にお客さんが……」

 

 後ろの席に座る芦屋が遠慮がちな声と共にA組の出入口を指さした。その指に従い、明嗣も目を向けると、そこには澪と鈴音の姿があった。

 

「あー……サンキュ。今行くわ」

 

 礼を言って席を立った明嗣は、二人の元へ向かった。

 

「聞いた?」

「あたし、なんて言っていいか……。いきなりクラスメイトが亡くなるなんて……」

 

 合流するなり、すぐに本題に入る澪と鈴音。対して、明嗣は忌々しげに奥歯を噛む。

 

「燈矢の時と同じだ。あの時もこんな感じの朝だった」

「え、じゃあ……」

 

 澪の言わんとする事を察した明嗣は頷いた。

 

「たぶん、燐藤の挑発だ。放っときゃさらに死体を増やすぞ、ってな」

「そんな……むちゃくちゃだよ! どうしてそこまで……」

 

 信じられない、と澪が言葉を失う。これはもう、一人で起こすテロに等しい。たかが一人の少年のためにどうしてこんな事ができるのか。理解ができないと言いたげな表情を浮かべる澪。その隣で、鈴音がポツリと呟く。

 

「もしかして八つ当たりなんじゃないかな……」

「は? 何の? まさかフラレた事って言わねぇよな?」

 

 フッた直後の一年前ならいざ知らず、しばらく時間が経った今? いくらなんでも遅すぎやしないか? 思ってもなかった一言に困惑の表情を浮かべる明嗣。すると、鈴音が呆れた表情で返す。

 

「あのさ……。さすがに今は遅すぎでしょ。そうじゃなくて、一昨日来たの。マスターの店に」

「はぁ!? なんで呼ばなかった!?」

「なんか会ってみたらムカついたし、ついでに賞金かかってるからアタシが仕留めちゃおっかな〜、って思ったんだよね〜。まぁ失敗したけど……」

 

 軽い調子で言う鈴音に対し、今度は明嗣が呆れた表情を浮かべた。

 

「お前、それで返り討ちにされてたらどうするつもりだったんだよ……」

「へぇ〜? 心配してくれるんだ?」

「んだよ。悪ぃか」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる鈴音へ、明嗣は文句あるかと言いたげに返す。すると、鈴音はさらにからかうように明嗣の顔を覗き込む。

 

「いやぁ、なんだかんだ言っても優しい所あるよね、って思って」

「そうかよ。なら、話はもう終わりだな。戻る」

「ごめんごめん。もうやめるから」

 

 拗ねて戻ろうとする明嗣に謝った鈴音は話を本題に戻した。

 

「で、明嗣にフラれた事をネタに煽ってみたら、図星突かれたみたいで。だから、その時の事に怒ってのこれなんじゃないかな」

「お、おっかねぇー……」

 

 鈴音の話を聞き終えた明嗣は、引きつった表情と共に素直な感想をこぼした。女子のレスバトルというのは、そこまで容赦のない物なのか。さすがに、そこまでのレベルまで挑発を明嗣はまだした事がない。

 どう返した物か、と言葉を探す明嗣。一方、黙って話を聞いていた澪は、何か考え込むように顎に手を当てている。

 

「澪、さっきから黙ってどうしたの?」

「うん……。ちょっとおかしいな、って思って……」

「おかしい? 何が?」

「上手く言えないんだけど……あたしが吸血鬼の事を知ってから2ヶ月ちょっとだけどね、真祖の吸血鬼ってそんなにポンポン出てくる物なのかなって」

 

 疑問を口にする澪に釣られてか、明嗣も腕を組んで同じように考え込み始めた。

 

「実は俺もさっきから何か見落としてる気がすんだよな……」

 

 そう。何かがおかしいのだ。だが、それが何なのか、上手く言語化できない。考え込む明嗣と澪の2人の様子に、一人だけ何も疑問を持って居ない鈴音は頭に疑問符を浮かべる。

 

「そうかな? おかしな所ある?」

「なんか忘れてる気がするんだよな……。澪の疑問のおかげで喉元で来てんだけど」

「まぁ、アタシも最近まで真祖なんて知らなかったけど……。誰かが作ってるんじゃないの?」

「あのなぁ……。そもそも真祖って大掛かりな儀式で悪魔を呼ばなきゃなんねぇんだぞ。それに、ネットで簡単に調べられるつっても、ネットに落ちてるのなんてデタラメなインチキ魔法陣しかねぇだろうし、いくらなんでも……」

 

 と、言いかけた所で、明嗣の記憶が繋がり始めた。

 

 最初に出会った真祖、“切り裂きジャック”は言っていた。「かなり身なりの良い貴族がくれた薬を飲んだら、吸血鬼になっていた」、と。

 次に出会った真祖、フランス革命時代の騎士だったジル・ド・レは言っていた。「友人から魔導書(グリモワール)を譲ってもらい、悪魔召喚の儀を行った」、と。

 そして、茉莉花は言っていた。「とびっきりの美人にしてくれるまじないを知っている人がいる」、と。

 もし、これらが繋がっているとしたら? もし、これら全部が同一人物の手引きだとしたら?

 

 いや、まだ仮説だ。繋げるピースがねぇ……。

 

 陰謀論の域を出ない推論に、明嗣は首を横に振る。二度ある事は三度ある、と言う言葉の通りにまだ偶然なのかもしれない。だが、もしその推論が当たりだとしたら、と言う疑念が頭の中で渦を巻く。

 

 どうする……。()()()()に確かめてみるか?

 

 明嗣はチラリと教室の中で女子の相手をしているヴァスコの方へ目をやる。現状、真祖について一番精通しているのは吸血鬼討滅を使命とする祓魔師のヴァスコとミカエラのみだ。だが、明嗣と彼らは犬猿の仲と言って良いほど関係が悪い。恥を忍んで頭を下げても、素直に教えてくれるかは分からないのだ。

 

 クソ……。次から次にと面倒くせえ……。

 

 心の中で毒づく明嗣。一方、急に黙り込んでしまった明嗣に鈴音と澪が不思議そうな表情を浮かべる。

 

「明嗣くん、何か分かったの?」

 

 話しやすいようになのか、澪が話を振る。だが、明嗣は納得いかない、と言いたげに首を振った。

 

「いや、答えっぽいのは出たけど確証がな……」

「良いじゃん。言ってみれば?」

 

 迷うような表情の明嗣に、鈴音が言うだけタダだ、と言いたげに促す。だが、話を遮るように授業開始を告げる予鈴が鳴った。

 

「あ〜……戻らなきゃ……」

「じゃあ、この続きはまた後でにしよっか」

「あぁ、そうだな……」

 

 仕方ない、と言いたげな表情で明嗣が頷き、ひとまずこの場は解散となった。しかし、ポケットの中でスマートフォンが震えだす。

 

 ん? 電話?

 

 ポケットの中からスマートフォンを取り出して相手を確認すると知らない番号だった。

 

 誰だ……。

 

 一瞬、明嗣は電話に出ようかためらう。だが、一つ心当たりを思い出したので、明嗣は指を画面に走らせて電話に出る。

 

「もしもし」

『出るのが遅いぞ』

「やっぱアンタか、情報屋(ブローカー)

 

 やはり、電話を掛けてきた主は秘密酒場(スピークイージー)の情報屋だった。

 

「よく俺の番号を知っていたな」

『私の手にかかれば飼い犬の首輪に書かれた情報を手に入れるのだって容易い』

「そうかよ。悪いがこっちは学生の身の上でな。授業が始まるから手短に頼む」

『何を言ってるんだ。本日は自習だろう』

「よくご存知で……」

 

 彼の“耳”は街中に張り巡らされている、と聞いた事があるが真実なのかもしれない。下手な陰口は言えないな、と引きつった笑みを浮かべる明嗣。だが、次に情報屋(ブローカー)が口にした一言で、明嗣の表情から引きつった笑みから真剣な物へ変わる。

 

『君から頼まれた仕事が完了した。好きな時に成果を受け取りに来ると良い』

 

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