ヴァンプスレイヤー・ダンピール   作:龍崎操真

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第71話 複製術式

「ふぅ……これで全部?」

 

 刀を鞘に納めながら、鈴音が辺りを見回した。現在、彼女の周囲には大量に降り積もった灰、そして意識を失って倒れた人達の山が出来上がっていた。

 

「増援はもう来てねぇようだし、とりあえずこれで全員眠らせたはずだ。思ったより手こずったな……」

 

 同じく、灰と人間の山に囲まれたアルバートが鈴音の呟きに答えながら、ショットガンのフォアエンドを操作して排莢を行った。コッ、と乾いた音を立ててショットシェルが床に落ちると、アルバートが肩にショットガンを置いた。

 

「さてと、そんじゃ明嗣を追いかけよう……って、何してんだアイツ?」

 

 次に備えて弾薬を再装填しながら、アルバートがヴァスコに対して、不思議な物を見るような表情を浮かべる。一方、問題のヴァスコは奇異の目を向ける2人に構わず、指で十字を切り、天へ祈りを捧げていた。

 やがて、祈りを終えたヴァスコが歩き出すと、そばに控えていた体長3mの操り人形、エクシアがバラバラに崩れて一つ一つのパーツへと戻り、まるで意思を持っているかのような動きで彼の懐の中へパーツ達が殺到した。その様子を見ていたアルバートは、感心の言葉を述べた。

 

「さすが、吸血鬼退治の最先端を行くヴァチカンだ。俺でもそんな上手く作れねぇ」

「当たり前だ。我々は常に対吸血鬼武器の追求をしている。()()()()()()()()()。ずっとだ」

 

 瞬間、アルバートが嫌な物でも思い出したかのように顔をしかめた。当然の事ながら、鈴音が驚きの声を上げる。

 

「マスターって、ヴァチカンにいたの!?」

「……昔の話さ。ほんのちょっとだけ、向こうで吸血鬼を殺す研究をしていた。ただそれだけだよ」

「ほんのちょっと? 父親が考案した複製術式(クローニング)の技術を完成させておいてよく言う」

 

 ヴァスコの言葉にアルバートは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。対して、ヴァスコはさらに続ける。

 

「アーカードの銃に複製術式の技術が使われているのは、すぐに分かった。私の操り人形(ブラティニ)も同じ技術(もの)を使っているからな。ただし、生み出された当時よりもさらに洗練されて、一秒に一発の弾薬を生み出せるようになっている。現在は他のものにも使えるように研究を重ねている所だ」

「やっぱりそうなったか、あの分からず屋共め……」

 

 アルバートが悔しげに奥歯を噛み締める。まるで、いつか必ず来る問題からは絶対逃げられないと悟ったような、苦しげな表情にも見える。話が見えて来ない鈴音はアルバートへ率直な疑問をぶつけた。

 

「あ、あのさ……、なんでヴァチカン辞めちゃったの……?」

 

 別に今聞く必要はなかった。だが、思わず口をついて出てきてしまったのだ。一瞬、重たい沈黙の時間が3人の空気を支配する。やがて、アルバートは鈴音の質問に対して誤魔化すように笑って答えを口にする。

 

「アイツらのやり方に付いていけなくなった。ただ、それだけだ。そんな事より早く明嗣を追いかけに行くぞ。美味しい所を全部アイツに持ってかれちまう」

 

 手持ちのショットガンにそれぞれ新しい弾薬を詰めながら、アルバートが先を歩き出した。ヴァチカンの内情を知っているヴァスコは、特に何か言うでもなく、無言で続いた。

 

「明嗣もマスターもなんでこう……! あぁ、もう!」

 

 鈴音は言葉にできないモヤモヤした感情に、行き場のない苛立ちを覚えた。だが、今はどうしようもできないので、鈴音はアルバートとヴァスコを追いかけた。

 

 

 

 やがてアルバート、鈴音、ヴァスコの3人は、明嗣が殺した人造人間の死体を見つけた。多数の腕が生えている死体を前に鈴音が驚愕の表情を浮かべた。

 

「何これ……。吸血鬼……じゃないよね?」

「少なくとも人間ではあったはずだ。世界中、どこを探したってここまで顔の筋肉を使える生物は人間だけだからな」

 

 鈴音の言葉にアルバートが答えながら、ペンライトで死体を照らす。ペンライトの光で照らされた死体の顔は苦悶に歪んでいた。それが蜂の巣にされた痛みによる物なのか、はたまた自分が人ならざる物に変容してしまった事に対しての悲しみと苦しみによる物なのかは分からない。だが、確実に言えるのはこの生物は後悔を残してこの世から去ったのだろう、という事のみだ。

 

「これもネクロノミコンの能力?」

 

 信じられない物を見る眼差しで、鈴音が率直な感想を口にした。

 

「こんな、おもちゃみたいにいじくり回して、人を弄ぶのもネクロノミコンとかいう黒魔術の力なの?」

「ああ、そうだ。これがジル・ド・レという吸血鬼だ」

 

 ヴァスコが静かに答えた後、顔を伏せた。

 

「甘い言葉で人の心の隙間に入り込んで使い捨てる。欧州(ヨーロッパ)、米国、あらゆる国で同じようなやり方による多数の犠牲者を出した。ここで仕留めなければ、さらに増えていくだろう。ここにだってカソリック信徒がいるからな。私達としてもそれは避けたい」

「なるほどな。真祖とはいえ、たかだか吸血鬼一人を狩るためにわざわざこんな極東にまでやってきた理由がようやく分かった。カソリック(おまえら)んとこの信徒もやられたんだろ」

 

 ずっと疑問だった。いくら敬虔なカソリック信徒とはいえ、おとなしく欧州(ヨーロッパ)に引きこもっていれば良いものをわざわざ遠い日本にまでやってきた理由はなんだ、と。だが、身内がやられたのなら納得だ。アルバートの指摘に対して、ヴァスコは忌々しげな表情を浮かべた。

 

「そうだ……! よりにもよってヴァチカン市民がやられたので、教皇陛下が激怒された。だからわざわざ遠路はるばるこの極東の果てのような島国に――っ!?」

 

 何かの気配を感じたヴァスコが懐から本を取り出し、戦闘用操り人形エクシアを呼び出した。同時にずるりと何かをひきずるような音が聞こえてきた。ヴァスコ、アルバート、鈴音の三人の視線が音のした方へ集まる。

 

 ズル……ズル……。

 

 粘液をまとった何かを引きずる音と共に、姿を現したのは先ほど目にした死体と同じような人造人間達だった。数は目測で10体以上。だが、ヴァスコは眉一つ動かす事なくアルバートと鈴音へ呼びかける。

 

「貴様らは下がっていろ。ちょこまか動き回られては邪魔くさくて敵わない」

「ちょっと! それはどういう――」

「鈴音ちゃん、待った」

 

 ヴァスコの物言いが癪に触った鈴音が食ってかかるが、アルバートが制す。

 

「そこまで言うからには自信があるんだろうさ。やらせてみよう」

「いいの?」

「ああ。それに改良を加えたっていう複製式(クローニング)の力も見てみたいしな」

「良いだろう。そこでじっくり見ていろ」

 

 指から伸びた鋼鉄糸(ワイヤー)でエクシアを操作し、ヴァスコは表情を引き締めた。対して、天使の名を冠す操り人形は、鋼鉄糸から伝わる主人の意思に従い、両腕を前に突き出して一斉掃射を始めた。駆動音と共に指先から火が噴き出るたびに前に立つ人造人間がバラバラの肉片へ変わっていく。文字通り、嵐のような12.7mm弾の掃射により、またたく間に人造人間達は細かな肉片へなっていく。明嗣が戦った時に発揮した再生能力も機関銃の連射力の前には何も効力を持たないようだ。

 やがて、ヴァスコが操るエクシアは一斉掃射を終了し、沈黙した。目の前には指先に備わった10門の12.7mm弾機関銃による、嵐が過ぎ去った後のような銃撃痕しか残っていない。

 

「自分で世に出しておいてなんだが……こりゃすげぇな……」

 

 あっという間に敵を掃討した火力を前に、アルバートは驚嘆と危惧が入り交じった表情を浮かべた。複製術式の力は強力で頼もしい。だが、悪用された時の事を考えると、背中に冷たい物を流し込まれたような寒気を覚えてしまう。

 鈴音もその力を前に、呆気にとられた表情で固まっていた。どう足掻いても、今の自分にはここまで早く片付ける事は不可能だからだ。

 言葉を失って立ち尽くす二人に向かってヴァスコが呼びかける。

 

「何をしている。アーカードをさっさと追いかけるんだろ。行くぞ」

 

 これが当然とばかりに、エクシアを本の中に納めたヴァスコは歩き出す。

 対して、アルバートと鈴音は今回は敵ではなくて良かった事に感謝しつつ、明嗣の追跡を再開した。

 

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