似て非なる二人   作:clearflag

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誤字、セリフ修正しました(2/14)


彼ら彼女らは恋バナがしたい

 放課後。才雅(さいが)は、ある生徒の呼び出しを受けていた。昼休みに声を掛けられ、相談に乗って欲しいと頼まれた。普段、交流の少ない相手である。すれ違えば挨拶くらいはするが、そう踏み込んだ話をこれまでにしたことはない。空き教室で練習中のバンドメンバーに直ぐ戻ると断りを入れて、彼は学食へ向かう。

 

(相談って何だ?)

 

 学食に足を踏み入れると、チラホラと生徒の姿があった。学食は、昼休みのランチタイムの他、放課後も営業をしている。お腹を空かせた運動部や勉強の合間に糖分補給をする生徒、カフェ代わりに利用する女子生徒のグループなんかは、営業終了時間ギリギリまで甘いドリンクを飲んではよく喋っている。

 才雅は辺りを見渡し、目的の人物を探す。テーブル席から立ち上がり、手を上げる男子生徒が一人。才雅を呼び出した張本人、渡部神童である。

 

 渡部神童────サッカー部の二年生エース。同じクラスになれば、勝ち確と言われるほどの厚い人望を持つD組のリーダー的存在だ。才雅は、彼と特別親しいわけではない。が、流石は男女問わずカリスマ的な人気を誇ると言うべきか、彼の人柄に押されて相談を引き受けてしまった。

 

「おっす、神童」

「悪いな、部活中に」

「いや、うちは基本自主練みたいなもんだから。そっちは?」

 

 神童の向かいの席に才雅は腰を下ろす。

 

「今日は、ミーティングの日で直ぐ終わったよ。これ、飲んでくれ」

 

 目の前に差し出されたのは、蓋の付いた透明のプラスチックカップ。中には、茶色の液体と氷が入っている。

 

「ココア?」

「ああ。甘いの好きだろ?」

「んー。で、相談って言うのは?」

 

 ストローに口を付け、才雅はココアを飲み始めた。

 

「まぁ、相談と言うか聞きたいことがあってな」

「うん」

黒野(くろの)って────早坂と付き合ってる?」

 

 一瞬、才雅の動きが止まった。別に、そこに深い理由は無い。想定していなかった問いに対し、驚いただけである。

 

「付き合って、ないけど」

「そうか。変なこと聞いて悪かったな」

「・・・・・・好きなの?」

 

 理由の分からない緊張が才雅の体を巡る。人の恋愛話を聞くことは珍しくない。だが、それはあくまで人の話であって、自身はオーディエンスだと言うことだ。当事者の彼らと違い気負うものもなければ、悩むものも無い。しかし、今の才雅の心情は、いきなりステージの上へ引っ張り出された、そんな気分だった。

 少し前には、四宮かぐやのラブレター騒動があった。六月に入ってから、周囲には、どこか浮き足立った雰囲気が漂う。夏に向けて、恋人を作ろうと言う目論見だろうか。

 

「いや、俺は引退するまで彼女は作らない主義だ。頼まれたんだよ、早坂に片想い中の奴に」

「あー、そう言う・・・・・・」

「でも、黒野が違うってことは噂通りか」

「噂って?」

「心に決めた相手が居るって話だぜ────」

 

 早坂に彼氏が居ないことを才雅は知っている。以前、彼女の口から直接聞いたから。だが、その噂は初耳だった。思い返せば、早坂愛と言う人間をよく知らない(・・・・・・)。毎日教室で話をしている割に、印象に残らないのだ。いや、その言い方は悪い。当たり障りの無い会話と彼女から振られた話題が多いのである。彼が知る彼女に纏わる情報は、他のクラスメートと大差ないと言って良いだろう。

 才雅は、早坂愛が急に遠い存在に思えた。

 

 

 

 

 同時刻。早坂愛は、図書館内のグループ学習室に居た。テーブルを挟み対面するのは、イツメンの火ノ口三鈴、駿河すばるの両名。彼女は、二人に拘束されていた。いつもの放課後ならば、廊下やクラスの教室でお喋りをしていると言うのに、今回ばかりはどうも様子が違う。

 

「二人ともどうしたん?」

 

 早坂は、首を傾げ困っている風を装う。

 グループ学習室は、生徒が自由に使用が出来る個室である。定員は四名、透明なガラスとドアで、フロアと間仕切られている。

 自主性に重きを置く秀知院学園高等部は、二人以上かつ活動内容が認められれば、部として承認が下りる。そのため、他の高校には無い実態不明の部活動が多く存在する。しかし、全ての部活に部室が割り当てられるわけではなく、放課後の空き教室、学食、グループ学習室(・・・・・・・)など、様々な場所が活用される。そう、ただのお喋りにグループ学習を使用するのは、少し場違いだと言うことだ。

 

「早坂ってさー、好きな人いるでしょ?」

 

 火ノ口から、剛速球のど真ん中ストレートが放たれた。「分かっているんだからね!!」と言わんばかりのニヤニヤした表情が早坂を見つめる。

 

「えーと。何、急にー?」

 

 逃すまいと、駿河は検察官の如く目を光らせ、早坂のスクールバッグに付いた手乗りサイズのぬいぐるみのキーホルダーを指差す。動物をモチーフにした日常系の作品のキャラである。元々はSNSに四コマ漫画でアップされていたもので、そこから人気に火が付き、アニメ化、商品化されるようになった。

 

「愛ちゃん、もうネタは上がってるよ。その証拠はキーホルダー!! 凄く嬉しそうにしてたよね!!」

 

 ワクワクした顔の友人二人に早坂は見つめられる。彼女のスクールバッグには二つのキーホルダーが付いている。一つは、パンダ。もう一つは、ライオン。後者については、以前二人に「買ったのー?」と聞かれたが、()に貰ったとは伝えなかった。もし受け渡しの場面を見られていたら、その時点で「買ったのー?」ではなく、「何貰ったのー?」と尋問があったはず。それが今と言うことは、彼本人が二人に話した可能性が高い。だがそこに意図はないだろう。

 

(流石の私もそこまでは考えてないって・・・・・・。て言うか、弁当の話までされてたら、好きバレどころの話じゃないんだけど・・・・・・)

 

 早坂は、青くなりそうな顔を持ち前のポーカーチェイスで、何とか取り繕う。期待の眼差しを向ける二人をどうするか、無理やり頭を切り替え、考えを纏めて行く。火ノ口と駿河は、恋バナを始め、校内の情報にとにかく耳が早い。その彼女らと学校生活で行動を共にするのである、むしろ気付かれない方がおかしいと言って良いかもしれない。ならばどうするか。早坂には、彼への好意を否定する選択肢はない。想いを寄せているのは事実だし、主人である四宮かぐやの後ろ盾を得た今、誤魔化す必要がない。むしろ、彼との関係を進めるに当たり、二人を味方に付けた方が得策である、と彼女は答えを導き出す。

 

「まぁ、その・・・・・・うん。才くんが好き」

 

 溜めに溜めて、早坂の口から答えが告げられた。頬を染め、俯き加減に肯定する姿は、まさに恋する乙女。火ノ口と駿河は、黄色い声を上げ、ついにあの早坂に春が来たと盛り上がる。見た目と性格とは裏腹に、彼女のガードが硬いことをよく知っていたからだ。

 

(何これ。恥ずっ・・・・・・)

 

 いくつもの顔を容易く作り出せる早坂だったが、この時ばかりは、割と本気で照れていた。この気持ちだけは絶対に嘘を付きたくない、彼女の強い意思がそこにあった。

 

「ウチら、協力するよ!!」

「何でも言ってね!!」

「あ、ありがとう・・・・・・」

 

 かつて、早坂は二人に零した。「男子って苦手なんだよね」と。あくまで、かぐやの警護が第一優先の学校生活。恋愛する時間も無ければ、目立つ行動は避けなければならない。『男子が苦手』と印象付かせておけば、周囲から余計な詮索もされない。故に、校内擬態早坂愛は、男性経験はおろか男の子と付き合ったことが無いのが悩みと言う設定(・・)

 一方、二人は、過去に良くない経験をして、恋愛に臆病になっているのではと考えていた。何せ、早坂愛はモテる。可愛くてノリが良くてギャルで、チャラそうな男子に言い寄られたり、放課後や休み時間に呼び出される姿を何度も目撃していたから。だが、全く靡かなかった。その友人が今日、好きな相手がいると告白した。これは、成就させるべく、動かなければならない。

 

「で、ちなみにいつからなの?」

「・・・・・・中一の時から。初恋で」

 

 中一発言に火ノ口と駿河は顔を見合わせると、指折り数える。

 

「待って、四年も片思いなの!?」

「正しくは三年半だけど」

「いやいや、充分長いって!!」

「私は、どこを好きになったのかが気になるなー」

 

 驚く火ノ口に、マイペースな駿河。文字通りの質問攻めが始まった。早坂は、少し戸惑いを感じながらも、束の間の普通の女子高生の時間を楽しんだのだった。

 

 

 

 

 火ノ口と駿河から開放された早坂は、校内を彷徨いていた。新たな協力者を得られた、これは非常に大きな成果である。尚、流石の彼も弁当の件は二人に話していなかったようで、彼女の首の皮は繋がった。

 主人曰く、彼は恋愛に慎重なタイプ。つまり、押して押して押しまくったりした日には、引かれる可能性が大と言うことであろう。あからさまな行為も敬遠した方が良いかもしれない。失敗した時の心の傷も大きそうだしと思いつつ、かぐやの言葉を全て鵜呑みにして良いものかと疑問も残る。

 

(健全な男子高校生なら、可愛い女の子に迫られたら嬉しいものなんじゃないですか。才くんだって付き合うなら、女子が良いって言ってたし)

 

 早坂も主人に負けず劣らず、自身の外見には自信を持っていた。ハッキリした目鼻立ちに、キメの細かい白い肌。青い瞳と金の髪は、大好きな母親譲りのもので、彼女にとって自慢だった。他、メイクや美容に対し手を抜かないのはもちろん、毎日の膨大な仕事量と主人の無理難題(ワガママ)をこなして行った結果、運動部並の体力と程よく引き締まった体を手に入れた。

 

(まぁ、私もそんなに大きくはないですけど、かぐや様よりは確実にあるし、スタイルだって良い方だと思うんですけどね)

 

 地味にかぐやをディスる。早坂の足は、ある教室へ歩みを進めていた。友人に思いの丈をぶちまけ、どこか心は清々しい。この勢いで、彼に一つアクションでも起こそうと考えていた。

 特定の活動場所を持たない軽音部は空きの教室を使用する。以前、彼を見かけたことのあった教室を覗いてみる。しかし、スクールバッグと譜面らしきものが机に置かれているが、人の姿はない。

 

(前にここの教室使ってたけど。休憩中?)

 

 教室を覗く早坂の肩に、人の手が触れた。相手に気付かせるように、トントンと彼女の肩を叩く。素直に彼女が振り向けば、肩を叩いた手の人差し指が、彼女の頬を押した。両者は、見つめ合い無言となる。先に吹き出したのは、才雅だった。

 

「ははっ。良い顔」

「ちょ、何するんだし!!」

「何か怪しい奴が居るなーって思って」

 

 楽しそうに才雅は笑う。

 早坂の顔には段々と熱が集中して行く。自身の気の抜けた顔を見られたことによる羞恥心、よりによって彼に見られるとは最悪過ぎる。そもそも、何故、普通に声を掛けなかったのか。そう、彼女が問い正そうとする前に、才雅の口が動いた。

 

「今日はバイト無いの?」

「・・・・・・まぁーね。才くんは部活中?」

「そ。練習中。と言ってもバンドごとの練習だけどね。てか、戻って来たら誰も居ないってどう言うこと? 俺のヴァイオリン放置して消えるなよなーマジで」

 

 早坂は、徐ろに机の上のヴァイオリンケースに近付く。

 

「これ、才くんのヴァイオリンだよね?」

「うん。練習用の安いやつだけどね。コンクール用で使ってたやつは、ライブとライブ前にしか基本使わないから」

「へ〜」

「ちょっと弾いてみる?」

「・・・・・・良いの?」

 

 才雅の問いに、早坂は戸惑った。校内擬態早坂愛として、彼のヴァイオリンに触れるのはもちろん、間近で見たことはない。嬉しそうにニィーっと口角を上げる顔を前に、彼女の迷いは直ぐに吹き飛んだ。ヴァイオリンを左手に、弓を右手に、自身の中のイメージで構えてみる。

 

「そうそう。だいたいそんな感じ。習ったことある?」

「・・・・・・少しかじった程度だけど」

「うちの学校、小さい頃にやってたって人、結構居るよなー。みんな、今はやってないけど」

「まぁ、習いごとって括りだと途中で辞める人が多いかもね」

 

 才雅の指導の元、早坂は弦に弓を当て弾く。か細くゆっくりと、だが旋律と分かる音が途切れながらも紡がれて行く。

 

(ヤバイ。才くんの顔が近過ぎるんだけど!!)

 

 緊張のあまり彼の話が全く頭に入らない。それどころか、ヴァイオリンの話をする彼は三割増しで格好良く見えた(早坂比)。出来る限り、普段通りの表情とヴァイオリンを弾くことに集中する。

 

「早坂」

 

 結果、他への意識が疎かになるわけで。

 

(絶対に見ちゃ駄目、顔は駄目)

 

 声を掛けた相手に反応がない時。人は、どうするか。

 

「────早坂!!」

 

 才雅は、早坂の顔を覗き込むようにして大きな声を出した。早坂は、目を見開くと、弓を持つ右手で才雅の肩を軽く押した。

 

「顔、近いから・・・・・・」

「ごめん」

 

 才雅は、一歩下がり距離を取る。両手を挙げ、降伏のポーズ。こう言う時、男の立場は弱いものである。

 

「あ、別に嫌とかじゃなくて。ちょっと恥ずかしかったって言うか・・・・・・」

 

 視線が泳ぐ彼女には、いつもの勢いがない。何か企んでいる様子もなく、初めて見た顔に才雅は少し驚く。そして、生まれたのは純粋な興味だった。

 

「なぁ、夏休みってもう予定入っちゃってる? バイト?」

「・・・・・・あ、バイトもあるけど。今なら全然予定は入れられるよ?」

「実はさ、白銀と夏休みに海に行こうって話しをしてて、女子も誘おうってなってさ。俺と白銀と四宮さんで行くんだけど、早坂も良かったら行かない? あと一人、女子が欲しくて。日程とか場所はこれからで」

「────行く」

 

 即答だった。

 

「マジ?」

「マジって何だし。今、誘ってくれたんじゃないの?」

「いや、そうだけど。メンツがどうかなって思って。ほら、秀知院(うち)の生徒会長と副会長だよ?」

「別にそれは関係なくない? 才くんが一緒に行きたいって思った二人とだったら、きっと楽しいと思うし」

 

 前向きな回答である。早坂は、白銀とかぐやとは明らかにタイプが違う。しかし、タイプが違うから仲良くなれないと決め付けた見方をするのは、偏見である。才雅は、一人心の内で反省する。

 

「早坂が良いなら良いけど」

「じゃあ、決まりだね!! どこの海が良いかな〜」

 

 早坂の顔に笑顔が咲く。彼女の喜ぶ姿に、才雅は今年の夏休みが少しだけ楽しみになった。

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