似て非なる二人   作:clearflag

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似て非なる二人は防ぎたい

 放課後の生徒会室。今日はオフ日となっていたが、生徒会室には、かぐやと白銀の姿があった。秀知院のツートップであるこの二人、他の役員と比べ、負担する仕事の量は多いと言える。特に生徒総会前や活動を自粛する試験期間前などは、先を見越して仕事を進めておく必要がある。しかし、二人にピリついた空気は無く、むしろ、ゆったりとした空気を纏い談笑していた。

 かぐやは、才雅(さいが)に海へ誘われたことに対し不満を並べながらも、内心ではよくやったと、ガッツポーズを決めていた。うっかり、口が緩まないようツラツラと白銀に感想を述べる。

 

「本当にビックリしましたよ。いきなり、海に行こうだなんてメールが来るんですもの」

「アイツは、思い付きで突っ走るところがあるからな」

 

 二人は、フフフ、ハハハと、喜びを声に漏らし終始和やかな雰囲気が漂う。

 才雅、白銀、かぐや、早坂の四人で夏休みに海へ行く────白銀に頭を下げられた才雅が、白銀とかぐやを急接近させるべく仕掛けたものである。

 しかし、かぐやがガラケーで、ラインを使用出来ないことが発覚。グループラインの立ち上げは断念となった。結果、幹事の才雅が各々と連絡を取り、今日、その話し合いの場がオフ日の生徒会室に設けられた。

 

(会長と共通の友人の話題。意外と盛り上がるものですね。黒野(くろの)くん、感謝するわ)

 

 かぐやは、ほくそ笑む。秀知院における彼女のコミュニティは読んで字の如し、広く浅い。何分、四宮家の名が大き過ぎるが故に、四宮家と接点を持とうと近付く者、恐れ多いと距離を置こうとする者、様々な人間が入り交じる。これまでの経験を踏まえ、かぐやは信用に足ると判断した者だけと親しくする。そのため、個人的な結び付きのある友人は少なく、生徒会メンバーを除いた白銀と共通の友人となれば、才雅をおいて他に居ないだろう。

 

「しかし、まだ一時間はあるか」

「そうですね。黒野くんは部活に顔を出してから来るとのことで、早坂さんはそれに合わせるそうですよ」

「こう言う時に限って、仕事が無いんだよな。だからまぁ、オフにしてたんだが。勉強でもするか」

「会長、コーヒーは如何ですか? たまには、ソファーにお掛けになって楽にされて下さい」

「ああ、すまんな。頼むよ」

 

 白銀は、生徒会長とネームの置かれたデスクから移動し、ソファーにどっかと腰を下ろした。彼の目の下には、隈。日頃の勉強とバイト漬けによる寝不足に加え、近眼により、目付きの鋭さに磨きが掛かっている。常人ならば、約束の時間まで仮眠を取ると言う選択肢を選びそうなところ、勉強を選択するのが白銀御行と言う人間だ。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 差し出されたコーヒーカップに白銀は口を付け、喉に流し込んで行く────そして、間もなくして白銀を襲ったのは睡魔。強烈な眠気に抗おうとするも、段々と意識は遠のいて行く。白銀は、呆気なく眠りに落ちた。

 

(想定通り。やはり、お疲れのようでしたね)

 

 かぐやは、腕時計をチラりと見る。補足するが、睡眠薬を混入していたとかでは無い。かぐやが入れたコーヒー、それは、カフェインレス(・・・・・・・)コーヒーである。慢性的に寝不足の白銀は、三時間おきにカフェインを摂取しないと電池が切れたように眠ってしまう、言わば重度のカフェイン中毒。彼女はそこに目を付けたのだ。

 前日に早坂へ指示を出し、カフェイン入りの瓶とカフェインレスの瓶を入れ替えさせたのは正解だった。しかしながら、かぐやは発案のみで、深夜の生徒会室に忍び込み、作戦を実行したのは、彼女の近侍(ヴァレット)である早坂愛。使用人として、早坂は有能過ぎるが故に、かぐやの無理難題(ワガママ)は、際限を知らない。当の本人は、そんな意識一つ無く、メジャーを取り出し、準備を始める。

 

(さて、二人が来るまでの時間を有効的に使いませんと)

 

 メモリの先端を引っ張り出し、次の作戦へ動く。今日はオフ日で仕事は無い。寝てしまって仕事が出来なかったと、慌てることもないのだ。おまけに、この後には約束がある。時間が近付いたら、白銀の耳元で優しく囁き起こせば良い。だって今日は、合法的(・・・)に起こせるのだから。かぐやは、自信に満ちた顔で、もう一度微笑んだ。

 

 

 

 

 軽音楽部の活動は、他の部活動と比べて自由度が高い。基本的に練習はバンドごと、空き教室を利用する。たまに先輩が回って来て、曲の進み具合を聞かれる程度で、後は自分たち次第と言ったところだ。バンドによって、熱量は異なる。

 才雅が属すバンドは、同級生と組んだ四人組のボーイズバンドで、高等部に入り結成した。彼は、ヴァイオリンとキーボードの二刀流。実際は、キーボードを弾くことの方が多いが。

 

「ラスサビのところ、上げなくても良いんじゃない?」

 

 譜面を片手に、才雅はボーカルの生徒に声を掛けた。譜面上は、一番、二番のサビに対し、ラスサビで半音上がる小節があった。しかし、歌いにくそうに聴こえたのが気になったのだ。

 

(あかし)のところ?」

「そう。歌だけなら良いけど、ギターありだと何か音程ズレるよね。一、二番と合わせちゃって良いかもよ」

 

 才雅は、歌の専門的な知識は無いが、絶対音感があるため、譜面を追っ掛け、歌声と聴き比べることは出来る。ボーカルの生徒はギターを兼任しており、歌いながら弾くと言う高い技量が求められるわけだが、高等部から音楽を始めたツワモノである。

 コピーバンドで始まったバンドも一年が経つ。今年の学祭はオリジナル曲をやりたいよね的なユルッとした話が出ていた。

 

「────黒野。早坂、迎えに来てるよ」

 

 声の主は、眼鏡を掛けた真面目そうな男子生徒。バンドのベーシストだ。彼の指差す方へ視線を向ければ、ドアの窓越しに早坂が手を振っていた。特に生徒会室へ一緒に行く約束はしていなかったが、迎えに来たようだ。

 

「あ。ごめん、もう行くわ」

「愛と仲良かったけ?」

 

 ボーカルが、ふと漏らす。彼は、女子を平気で名前呼びする、陽キャのお手本のような男である。

 

「今、同じクラスだから」

「ふーん。ついにハーサカちゃんから乗り換えたか」

「・・・・・・何でそうなるんだよ」

 

 去年、才雅のバイト先で内輪でのクリスマスパーティーがあった。中身としては音楽イベントのような形で、音楽をやっているバイト先の先輩らと同様に、彼はバンドメンバーに声を掛けた。だが、これが大きな間違いだった。オーナーシェフが店の常連客を招く中、「ハーサカちゃん、来れなくて残念だったな」と爆弾を投下。才雅は否定を貫くも、彼女はハーフで美人で同い年との情報まで得たバンドメンバーは、彼のただのファン発言に納得するはずもなかった。

 教室の後方で叩かれるドラムの音がパタリと鳴り止んだ。音が無くなり、静まり返る教室。続けて、ドラムのスティックが床に落ちて転がって行った。彼こそ、バンドの四人目。年中彼女募集中のドラマーである。

 

「まさかお前・・・・・・デートか? 練習サボって、放課後デートか!?」

 

(面倒くさ・・・・・・)

 

 才雅は顔を歪めた。早く彼女作って、大人しくなれよと彼は心の内に吐く。

 

「ちげーよ。これから生徒会室に行くんだよ」

「そうか・・・・・・ってなるかアホ!! 本命はどうした? 二股かけるような男は絶対に俺が許さない、モテる男は人類の敵だ」

「俺じゃなくて、リア充二人に言えよ」

 

 バンドのボーカルとベーシストは彼女持ちである。才雅は、冷たくあしらうと、逃げるように廊下へ出た。どうして人は、あの手の話が好きなのだろうかと、彼は思う。

 廊下に居た早坂と目が合う。彼女は苦笑いを浮かべて、聞いちゃいけない話を聞いちゃったけど、ワザとじゃないんですみたいな顔をする。これには、才雅も責めるつもりは無い。

 

「ごめんね、そろそろかなって思って」

「謝らなくて良いよ。行こう」

 

 二人は、生徒会室へ向け歩き出す。才雅が少し前を歩き、早坂が後を追う。彼の醸し出す雰囲気に話題として触れて良いものか悩んだが、早坂は確かめたかった。

 

「あのさ」

「んー」

「好きな人、居るの?」

 

 その言葉に才雅の体が一瞬強ばる。この流れで聞くのかよと彼は思うが口には出さない。

 

「別に、そう言うのじゃないよ。バイト先のお客さんで、俺のファンって言ってくれた子で。それで、アイツらが騒いでるだけ」

 

 表情も声のトーンも変わらずクールに返す。しかし、早坂の問い掛けに応じるまで、約五秒の間(・・・・・)。第三者が場に居合わせたら、この間をどう判断するだろうか。

 

「そっか。でもさ、熱心に応援されたら良いなーとかならないの?」

「・・・・・・無いよ。俺はファンに手を出したりしない」

 

 才雅の語尾に苛立ちが込められる。早坂は、追撃は不味かったかと、焦りを感じているとスカートのポケットに入ったスマホが震えた。かぐやからの連絡だ。文章は短く、『来るな』とだけ。

 

「才くん、ま────」

 

 生徒会室の扉が開かれた────そこには、かぐやの肩に頭を預けるようにして持たれる白銀、寄り添う二人の背中が視界に飛び込んだ。才雅は無言で扉を閉める。

 

「才くん?」

 

 そして、彼は扉をもう一度開き────再び閉めた。

 

「見てない」

「え?」

「俺は何も見てない」

 

 才雅、現実逃避に走る。

 

「いや、ガッツリ見てるし!! しかも二回!!」

「とにかく今日の打合せは中止にしよう・・・・・・」

「待って、良いのあのままで」

「あのままって?」

「だから、ウチらみたいに入っちゃう人が居たらヤバくない?」

 

 確かにヤバいかもと彼は思う。あの二人の相合い傘を早坂と目撃したことを境に、他の生徒には漏らしては行けない秘密として彼女と共有をしている。これは全て、二人の恋路を陰ながら支えるために他ならない。

 噂をすればのタイミングで現れたのは、生徒会の役員の一人、会計の石上優だった。

 

「忘れ物、忘れ物ー。あれ、才雅先輩?」

 

 才雅は、石上の肩に腕を回し彼に耳打ちをする。

 

「今は生徒会室に入らない方が良い。四宮、メッチャ機嫌悪いから。アレは、本当に殺されるかもしれない」

「え」

 

 無言のまま、華麗なるUターンで、石上は逃げて行った。

 

「会計くんに何言ったの?」

「秘密」

 

 しかし、この調子で人が来られたら、そう何度も追い返すのは難しい。才雅は、スクールバッグからノートを取り出し、紙を破く。シャーペンで、立ち入り禁止と書いた。

 

「早坂、テープある?」

「あるわけ無いし。てか、ショボくない?」

「もう少し字太くした方が良いかな?」

「それだけの問題じゃない気がするけど」

「じゃあ、職員室で画用紙とかマジック貰って来るわ。待ってて」

「え。ちょ────」

 

 駆け足で、消えて行った彼。早坂は溜め息を付く。彼が思い通りに動いてくれないのは今に始まったことでない。でも、少しくらい話は聞いて欲しいものだ。

 

(まぁ、対処は一人の方がやりやすいから良いけど────この気配!?)

 

 小柄で可愛らしい雰囲気の女子生徒が早坂に迫る。

 

「あーっ、早坂さん」

 

 ────対象(フジワラ)。彼女は、早坂の最大の脅威である。予測出来ず、思考が読めず、知らぬうちに場を掻き乱すこの少女(ド天然)。今まで幾度と無くミッションを壊滅状態に陥れた早坂の天敵である。

 

「えっ、書記ちゃんじゃーん☆ どうしたし〜? 生徒会に用事〜?」

 

 早坂愛、普段より声は高めにギャル力全開で挑む。

 

「用事ってほどでは無いんですけど、頭のリボン落としちゃって、捜してるんですー」

「リボン? 頭に付いてるじゃん?」

「違います!! これはスペア、よく見て下さい。色がちょっと違うんですよ!!」

 

 藤原は頭の黒いリボンを指差す。

 

「いや、微妙過ぎて分からないし!!」

「私は、あの極黒リボンが無くちゃ駄目なんです!! それで、生徒会室も捜しておこうと思って」

 

 だからと言って、素直に藤原を生徒会室に通すことは出来ない。早坂は、ある作戦を閃く。

 

「しっかたないなぁ〜。ウチが一緒に捜してあげるよ。書記ちゃんが今日行った場所を最初から順に捜してみよ?」

 

 これぞ、早坂の機転。予測不能な藤原対策として最も有効なのは物理的に引き離すこと。彼もそのうち戻って来るだろう。抜かりはない。 

 そうして、早坂と藤原は火の中、水の中、草の中、森の中と秀知院中を捜した────のだが、探していたリボンは藤原のスカートの内側に付いていた、と言う彼女らしいオチだった。

 

「本当に書記ちゃんは・・・・・・仕事ばっか増やして」

 

 疲弊した様子の早坂は、重い足取りで生徒会室へ戻る。

 

「早坂、どこ行ってたんだよ」

 

 スマホから顔を上げた才雅はお怒り気味だった。生徒会室の扉には、会議中に付き立ち入り禁止とマジックペンで画用紙に書かれ、テープで貼られていた。彼は意外と字はキレイなので、ちゃんとそれっぽく見える。

 

「ごめんね。書記ちゃんに捕まっちゃって」

「おぉ、マジか。それは仕方ないな。つーか、白銀は既読付かないし、四宮はメール返って来ないし。もう帰ろうぜ」

「そだねー。時間も時間だし」

 

 早坂の中で今、彼に対して黄色信号が点いている。二人の関係を守りたいと言う点で気持ちは同じだが、これ以上の長居は危うい。主に自身とかぐやの関係と言う部分で。

 

「ラーメン食べて帰らね?」

「えっ」

「いや、お腹空いたから。無理にはいいけど」

 

 突然の誘い。早坂としては是非とも同席したいところだが、かぐやを残して学校を離れることは出来ない。

 

「あ・・・・・・ごめん!! 今ちょっとダイエット中って言うか。本当は行きたいけど、行けないって感じで」

「分かった。じゃあ、また明日」

「うん。今度、絶対に行こ!!」

 

 せっかくのチャンスを棒に振ってしまった。でも、異性として意識していればラーメン屋には誘わない気もするが、早坂は考えないことにした。今は、生徒会室の中の二人が先決である。

 

 

 

 

 四宮家別邸。従業員用大浴場。

 肩まで湯に浸かり、火照ってた顔で、天井を見上げるのは早坂。一日の疲れを癒やしていた。だが、表情は芳しくない。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 好きな人に好きな人が居るっぽい────しかもその相手は、スミシー・A・ハーサカっぽい。ようは、自分だ。想定していなかったと言えば嘘になるが、いざ現実になると心は複雑だ。

 

「何で・・・・・・」

 

 何で、こんなことに。目の奥が熱を持ち、早坂の瞳がジワりと潤む。もし。もし、早坂愛として、彼のバイト先に足を運んでいたら、未来は違かったのだろうか。いや、いくら考えても誰にも答えは分からない。それに、彼は言い切った。ファンと関係は持たないと。

 仮に、本当にハーサカを好きだとしよう。だが、アプローチすることに対し、彼は断固拒否の姿勢のようだ。理由が分からない。既に彼女が居るとかではないし、誰もが名を知る演奏者で、ファンと付き合うと世間体が悪くなるとか、そう言ったこともないだろう。所詮はただの学生だ。最も、彼の父親は世界的ヴァイオリニストとして有名ではあるが。

 

「あ」

 

 早坂は、浴槽から上がる。蘇る不確かな記憶を頼りに、スマホで検索をかけた。彼は言った。俺はファンに手を出したりしないと。

 

「最悪・・・・・・」

 

 才雅の両親は、彼が中等部三年の春休みに離婚をしている。父親の不倫で。早坂に後悔の念が押し寄せる。

 その記事は、有名人と有名人を引き合わせるような安っぽいテレビ番組。昔、ヴァイオリンをかじっていたと言う若手女優が、会いたい有名人で指名したのが彼の父親だった。大ファンだとか言って。つまり、後の不倫相手とは、そう言うこと。

 彼がファンに手を出したりしないと言い切るのは、それが理由なのだろう、早坂の中で繋がった。

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