似て非なる二人   作:clearflag

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かぐや様は勝ち取りたい

 放課後、才雅(さいが)のバイト先に集まった男女四人────才雅、白銀、かぐや、早坂。テーブルの上には、各々が注文した商品が並ぶ。

 早坂は、隣りに座る才雅にジト目を向けた。甘党(・・)かつ辛党で、野菜が苦手な彼に。もう少し健康を気遣っては如何だろうか。恋人になった暁には、栄養バランスの取れた手弁当を作ってあげようなんて、彼女は頭の片隅で考える。

 

「ケーキに、ほうじ茶ラテって甘くない?」

 

 才雅が選んだ飲み物は、アイスのほうじ茶ラテ。追加で、ホイップが乗ったグラスは何とも甘そうである。ちなみに、早坂はアイスティーを頼んだ。ケーキの甘さを考慮し、ストレートにした。

 

「クラブサンドもあるから、ヘーキだよ」

「そー言う問題? てか、夜ご飯食べられなくなんない?」

「直ぐお腹空くから」

 

 彼は笑う。決して、大食漢などではないが、一応は成長期の男子高校生、それなりに食べるのである。ただし、体育以外の運動はしないため、いくら食べたところで、なかなか筋肉にはならない。とは言え、高等部から始めた自転車通学とバイトのおかけで、細い体に少し肉が付いた。

 

「あっ!! ちょっと待ってよ!!」

 

 テーブルの上に置かれたケーキに、才雅がフォークを落とそうとした時だった。早坂が慌てて止めに入る。

 

「心配しなくても、ちゃんと半分にするって」

「そーじゃなくて、写真撮るから」

 

 早坂はスマホを取り出すと、慣れた手付きでグラスと皿を動かし、構図を決めて行く。そして、シャッター音が切られること数回。彼女が満足したところで、才雅が、ケーキの取り分けに取り掛かかるが────。

 

「まぁ・・・・・・食べたら同じだ」

 

 擬音を付けるなら、グチャアと言う感じだ。イチゴタルトのケーキを半分、同じくメロンのケーキを半分にしたが、見栄えは宜しくない。口の中に入れば同じではあるが。

 

「店員さん、これお客さんに出して良いの?」

「ごめん。やってみたら難しかった・・・・・・」

「ま、良いけど」

 

 不満を漏らしながら、早坂はケーキをパクつく。もちろん、本気で言ったわけではなく、現に頬は緩んでいる。ケーキの状態がどうあれ、自身をもてなそうと頑張る彼の姿は好感が持てた。

 向かいの席で、二人のやり取りを眺めていた白銀の心はザワついていた。彼女いない歴=年齢の自分と同じ立場の友人は、クラスメートの女子とずいぶん仲が良いらしい。

 

(お前らのデートに来てんじゃねぇぞ!!)

 

 白銀は、ついつい妬ましい視線を向けてしまう。二個のケーキを分け合う男女、白銀にはカップルのように見えた。だが、所詮は陽キャの戯れ合い、自分より先に彼に彼女が出来るはずがない。だって、そう言う話を聞かないし、意外と理想は高そうだしと、敗北感から目を反らす。

 

(早坂・・・・・・私は、お金に厳格な会長を気遣って飲み物だけにしたと言うのに。百歩譲って、黒野(くろの)くんに奢って貰う約束があって、ケーキを食べるのは許しましょう。それを半分にしてお互いのケーキと交換するって何なの!? 私も会長とそれやりたい!!)

 

 一方のかぐや。澄ました顔で紅茶の入ったティーカップを啜り、心の内でのたうち回っていた。

 様々な感情が蠢く中、意気揚々と才雅は話し出す。

 

「じゃー、始めよっか」

 

 スクールバッグから取り出したタブレット端末を片手に、プレゼンテーションを始める。事前に白銀と話し合い、候補地を決めていた。

 

「白銀と話してて良いなって思ったのが、海の公園ってとこで。横浜市だから都内からも近いし、アクセスも良いんだよね」

 

 タブレット端末でサイトを開く。青空と綺麗な海が画面に映し出された。白銀は、我に返ると補足をする。

 

「側にはバーベキュー場がある。予約は必要だが、食材の持ち込みの必要はないし、向こうで準備をしてくれるから手間はないな。あと、歩いて十分くらいのところに八景島シーパラダイスと言う施設があって、中には、水族館も入ってるんだ。午後は海の生き物を見に行くのも良いかと思ってな」

「丸一日、海って言うのも飽きるだろうから、俺らは周辺の観光も含めて考えてみたよ」

 

 この男二人は、海に行こうと人を誘っておいて、海には半日しか居ないつもりである。

 長らくヴァイオリニストとして、第一線で活動をしていた才雅は、指を守るため学校の体育をずっと見学して来た。高等部に入ってからは参加をしているものの周囲との持久力、経験値の差は大きい。決して、運動音痴ではないが、間違っても得意とは言えない。付け加えて、彼はカナヅチである。

 これまでの人生を振り返れば、驚きはないが、そんな彼に「汐崎(しおざき)が楽しめるように海以外も行こう」と気遣いを見せたのが白銀御行だ。一見、友達想いの発言。しかし、彼もまたカナヅチだった。四宮かぐやに良い姿を見せるべく、夏休みは勉強とバイトに加え、水泳の特訓と予定を立てていたが、カナヅチの友人を利用すれば、自身のカナヅチを上手く隠せるのではないだろうか、脳裏を過ぎった。

 ちなみに、秀知院の高等部には、水泳の授業は無い。義務教育課程の中等部までだ。

 かぐやは、笑顔の裏で策略を巡らせる。

 

(会長、黒野くん。やはり、立ちはだかって来ましたね・・・・・・。午後から水族館などに行ったら、海の夕焼けの中、会長が告白してくるシチュエーションに持ち込むことは難しい。まして、そんな大衆の海水浴場ではムードがない・・・・・・)

 

 かぐやの評価は低かった。それもそのはず、彼女は四大財閥の一つ、四宮家の令嬢なのだ。超が付くお嬢様なのである。夏になるとニュースで流れる、人がひしめき合うような海に行くわけもなく、庶民の海水浴場については、早坂から情報を得ていた。

 

(人が多い上に、ナンパ目的の輩が紛れた海なんて、あまりにも危険だわ。何としても、会長を四宮家(うち)のプライベートビーチに連れて行かないと)

 

 そこで、ネックとなるのが白銀本人だ。彼は遠慮する可能性が高い。主に金銭面で。白銀が引き目を感じないよう誘導しなければならない。

 

「早坂は何処か良いところあった?」

 

 才雅から、早坂へパスが回る。

 

「うーん。特にここってところは無いけど、日帰りだと神奈川か千葉辺りが良いのかな? 少し足を伸ばすなら、静岡とかも海キレイみたいだよ」

「静岡かー。新幹線も良いな」 

「いや、それ目的変わってるし。て言うーか、乗り物とか好きなの? 超意外なんだけど」

「好きってほどじゃないけど、何か旅してる感があって楽しいじゃん」

「おいおい、今回は海に行くことが目的であって、交通手段は二の次だぞ」

 

 白銀は、自分たちの案を蔑ろにする気かと彼に視線を送る。当の才雅は、白銀と違いカナヅチを隠すつもりもなければ、自分たちの案にそこまでの拘りも無かった。

 思い出したように、かぐやが口を開く。 

 

「あ、静岡でしたら四宮グループ(うち)が運営するホテルがありますよ。直ぐ側にプライベートビーチがありますし、ホテルの宿泊者しか居ないので混むことはありませんね」

 

 淡々とかぐやは述べる。百歩譲って、四宮グループが運営するホテル、そう言いくるめれば白銀も納得するだろうと彼女は考えた。

 反応を示したのは才雅だ。

 

「混まないのは良いな。バーベキューとかは出来んの?」

「もちろん、バーベキューも出来ますよ。私たちは、日帰りで部屋を抑えることになりますので、ホテル内のプールや温泉も利用出来ます」

「へー」

「ちょっと待て!!」

 

 異を唱えたのは白銀だ。かぐやの提案は魅力的ではある。彼女の家のホテルなら、きっと高級ホテルに違いない。だがそれも、泊まりではなく、日帰りなら多少の費用は抑えられるだろう。しかし、今回はお金が問題ではない。海に行く話は前々から出ていたわけで、四宮かぐや対策費は日々積み立てをしている。そこから、捻出すれば済む話だ。だから、何とかなる。いや、何とかするのが白銀御行である。

 今、問題なのは海での長時間滞在。カナヅチをバレずにやり過ごせるかどうかなのだ。無論、水泳の特訓はするが、どこまで習得出来るかなんて全く分からない。そもそも、何で海に行こうなんて自分の口は言ってしまったのだろうか。完全に後の祭りである。

 

「確かに四宮の提案は魅力的だ。しかし、一日、水の中と言うのも疲れるだろう」

「ご心配なく。疲れたら、部屋で休むことも出来ますし、希望があればエステが受けられますよ。他には、ボーリングやカラオケ、ビリヤードにダーツ、屋内のアクティビティは充実しています」

「むう・・・・・・」

「それに、ホテルから海は目と鼻の先です。気軽に行き来は出来ますから」

 

 勝った────かぐやは、不敵な笑みを浮かべ、反論があるなら反論しなさいと自信に満ちていた。

 流石は十年の主従関係と言えよう、主人が言い切った直後、早坂は白銀にとどめを刺しに行く。

 

「ウチは、四宮さんのところでも良いかなー。最悪、天気が悪くてもどうにかなりそうだし、水族館は夏じゃなくても行けるじゃん? またの機会に皆で行こうよ」

 

 またの機会。

 その言葉は、白銀に強く突き刺さった。夏休みに一度だけではなく、二度、三度と会える可能性があるかもしれないと言う淡い期待。友人の汐崎才雅は元より、早坂愛もノリの良い性格と見て取れる。もしかしたら、次は彼女が新たな企画をしてくれたりなんてと、白銀は他力本願に走った。

 

「汐崎、ここはレディーファーストで行こうじゃないか。我々が誘った側とは言え、何もかも決めてしまうのは良くない。彼女たちの希望を反映しなければ、この集まりに意味はないだろう」

 

 白銀は、真面目な顔でキリッと答える。

 

「俺はどっちでも良いけど」

「なら、決まりだな。今回は、四宮のところに世話になろう。良いな、四宮?」

「ええ、喜んで」

 

 四宮グループ運営のプライベートビーチに決定。

 

 

 

 

 かぐや、早坂を見送り、才雅と白銀は店裏に居た。駐輪していた自転車のカゴに荷物を乗せ、鍵を差し、帰りの準備をしている。

 

「汐崎。このあと少し時間あるか?」

「ああ、良いけど。うち来る?」

 

 目黒駅が最寄りの店は、才雅の自宅からも近く、徒歩数分だ。自転車なら直ぐの距離である。

 

「いや、ちょっとカラオケにだな」

「・・・・・・ぇえ」

「露骨に嫌な顔すんなよ。実は最近、特訓して上手くなったんだぞ」

 

 照れ臭そうに白銀は話すが、才雅は血の気が引いた顔をした。何故なら白銀は、なかなかの音痴だから。絶対音感を持つ才雅にとって、少しの音のズレは、それだけで不快に感じるもの。勘弁してくれよと彼は思うが、キラキラした目を向けられては、拒否したくても出来なくなる。

 その特訓で、藤原千花が物凄ーく苦労したのは、また別の話である。

 

「まぁ、ちょっとなら・・・・・・」

 

 才雅が渋々、白銀の提案を受け入れると、二人の自転車は駅前のカラオケ店に向かった。

 そして、着いて間もなく、部屋に入る否や白銀は真っ先に曲を入れ、歌い出した。現在放送中、話題の推理ドラマの主題歌で、男性シンガーが歌うバラード曲だ。才雅は、ドラマを見ていなかったが、母親が熱く語っていたのを思い出した。曲は、何となく聞いたことがある。

 白銀は歌い上げ、才雅にドヤ顔をキメた。

 

「・・・・・・三十二点」

「低っ!!」

「前よりマシになったけど、落第だな」

「マシになってそれかよ」

「うん」

「容赦ねぇな、本当に・・・・・・」

 

 そりゃ、音楽は妥協するわけないでしょうと、言葉にはしないが、才雅の態度が答えだった。その後、互いに曲を入れ交互に歌うこと数曲。白銀は、ふと切り出した。

 

「なぁ」

「ん?」

「早坂とは、すっかり仲直りしたんだな」

「んー」

 

 気のない返事。才雅の意識は完全にタッチパネルへ向けられていた。次は何を歌おうかと曲探しをしている。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 白銀の疑問。彼は、早坂愛をどう思っているのか。日頃から、女子とは仲の良い才雅であるが、早坂とは特に親しくしているように見えた。先程なんて、ケーキを半分にして、お互いのケーキと交換をしていた。白銀的には、かなり難易度の高い行為である。

 とは言え、ギャルな外見で元気一杯の早坂と、茶髪のツーブロにコミュ力が相まって遊んでる感を否めない才雅、実際は違うのだが。変にツッコんで『あんなで付き合ってるとか思うの?』とか、『そんくらい普通でしょ。童貞かよ』と笑って返されたら、結構キツい。

 

(いやいや、お前だって童貞じゃん!!)

 

 脳内でマウントを取りに来る友人に向かって、全力で反発する。何はともあれ、汐崎才雅と言う男は自身のそう言う話を口にしない。プライドの高さ故に話が出来ないとか、恥ずかしくて人に話せないとか、そんな雰囲気は一切ない。だからこそ、彼の真意は分からないし、攻めるにしても遠くから攻めるしかないのである。

 

「汐崎。一つテストをしよう」

「何急に」

「心理テストだよ」

「俺、そういうのは信じないタイプなんだけど」

「なら、信じなくて良い。ただの遊びだ、付き合ってくれ・・・・・・貴方は今、薄暗い道を歩いています。その時、後ろから肩を叩かれました。その人は誰でしょう?」

 

 少し前に、生徒会室で盛り上がった心理テストの一つだ。答えは、好きな人である。もしここで、早坂愛の名が出れば一気に信憑性が出て来る。

 

「俺、肩を叩かれる前に気付くよ?」

「これはそう言うのじゃなくて。直感で良いからさ」

「・・・・・・薄暗い道だろ?」

「そうだ」

「薄暗いって言ったら、多分夜とかだよなー。夜に出歩くって行ったら、基本バイトの帰りだから、バイト先の誰かかなぁ」

 

 才雅は答えは、自身の実生活に基づき導き出したものだった。全く持って、白銀が期待したものでない。

 

(何で、そうなるんだよ・・・・・・)

 

 あんなに生徒会室では、盛り上がったと言うのに。それとも男二人で、心理テストをやろうなんてのが間違いだったのか。でも、普通はやらないよな、なんて白銀は自身の内に溜め息を漏らす。

 

「で、何の心理テストなの?」

「・・・・・・さぁ、何だったかな」

「え。そこが大事なやつじゃん」

「すまん・・・・・・」

 

 何とも言えない空気が生まれたが、部屋を借りた残りの三十分。何事も無かったように、二人は歌い帰路に就いたのだった。

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