似て非なる二人   作:clearflag

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早坂愛は踏み出したい(前編)

 早朝五時。早坂愛は、目覚まし時計より先に目覚めた。今日は、数少ない休日である。二度寝して昼まで寝ていようが咎められることはない。しかし、彼女にとって、今日と言う日は何物にも変えられない大事な一日だった。

 

(────今日は、(さい)くんとデート!!)

 

 バクバクと高鳴る胸が脳を覚醒させて行く。

 

(シャワー浴びて準備しないと)

 

 早速、ベッドから体を起こし行動を開始する。彼との待ち合わせの時刻は、午前十一時とやや遅め。もうひと眠り出来るだけの時間は充分にあったが、今日の彼女は気合いの入れようが違かった。何せ、彼と二人で遊ぶのだから。

 そう。早坂は、意中の相手である汐崎才雅(しおざきさいが)をゲームセンターへ誘うことに成功した。少々強引になったのは言うまでもないが。よって、この約束をデートと呼んで良いかは意見が分かれるだろう。少なくとも彼女の中では、才雅と二人の時点で、即座にデートに位置付けられた。もしこれが、ただの友人ならば、ただの遊びと答えるのは間違いない。人とは都合の良い生き物である。

 

 五時間後。約束の一時間前に、待ち合わせ場所に到着した早坂は、周辺の服屋やアクセサリー店を覗き時間を潰していた頃────才雅は、自宅のリビングで食パンを口に頬張っていた。ちなみに、Tシャツと短パンの寝間着姿だ。

 ソファーで本を読む母親は、ダイニングテーブルの椅子に座り、皿も出さず、食パンを袋から取り出したそのままの状態で食べる息子の背中を怪訝そうに眺めていた。ご飯派の彼がパンを選ぶのは珍しいと思う半面、栄養が無さ過ぎると心配になる。

 

「才雅、冷蔵庫にジャムあるよ。少し塗ったら?」

「いーよ、別に。あ、昼は外で食べて来る」

「そ、気を付けてね」

 

 男子高校生と母親の会話は、こんなものである。母親は、彼の性格を理解した上で小うるさくは聞かないし、親子二人の生活である、才雅も大事なことはちゃんと話をするよう心掛けている。また、母親は舞台女優と言う職業柄、家を空けることが多かったが、思春期の彼には良い距離感だった。

 才雅は自室に戻るとクローゼットを開いた。これから、友人の早坂愛とゲームセンターに行く約束があるため、着替えて支度をしなければならない。彼が手を伸ばしたのはネイビーの薄手のワイシャツ。袖を捲れば、見た目も着る方もそんなに暑苦しくはないはずだ。下には、チャコールグレーのパンツを合わせた。

 

(とりあえず、ダメ出しはねーだろう)

 

 早坂は、クラスのファッションリーダーである。普段の制服の着崩しから分かるように、身なりには力を入れている。腰巻きにしているカーディガンは、数万円するとか。金額を聞いた才雅は驚いたが、欲しいものはバイトで稼いで買うと言う彼女のスタンスには尊敬の念を抱いた。秀知院の友人らは、みな親からの小遣いで大抵を賄えているようだから。そのため、秀知院は私立には珍しくバイトが認められているにも関わらず従事する生徒は少ない。

 何はともあれ、制服しか知らない相手に私服を見せるのは、緊張するもの。中等部時代の才雅には無かった感情だ。高校デビューに成功した彼ではあるが、早坂愛はそれ以上に強敵である。適当にTシャツと短パンを引っ張り出して行ったら、ぶっ飛ばされそうな気がした。ただ、行き先はゲームセンターなので、それくらいラフでもダメ出しは回避出来そうな気もしたが、無難なところを選んだ。最後に、愛用のサコッシュを斜め掛けにして才雅は家を出た。

 

 

 

 

 池袋駅東口。待ち合わせ場所に着いた才雅は、周囲を見回し早坂を探す。人通りも多いが、自身と同じように待ち合わせなのだろう、近くを往復している人や壁に持たれてスマホを操作している人が目に付いた。早坂からは、もう着いたと電車内でラインのメッセージを受け取っている。

 

「さーいくん」

 

 聞き慣れた声に足が止まる。振り向いた正面には、手を振りながら駆け寄って来る早坂の姿があった。

 

「おっす」

「おはよっ」

 

 透き通るような金髪のサイドポニーテールが、青空を背に煌めく。早坂の顔には満開の笑顔が咲いていた。彼と久々に会えたのも嬉しいし、これから二人だけの時間を過ごせるのが何よりも楽しみだった。本日の彼女のファッションは、夏らしい服装だ。襟首のあるモスグリーンのノースリーブシャツに、白いカーディガンを肩に引っ掛け、デニム生地のショートパンツからは、白い足が惜しげもなく晒される。何とも眩しい。

 

(本当、モデルみたいだな・・・・・・)

 

 才雅は視線を素早く動かし、早坂の頭から足元までを確認する。その感想は、決して口には出さないが。

 

「才くんって私服そう言う感じなんだ〜」

「え。変?」

 

 見られているのは自身も同じ。彼女の言葉にドキッとする。

 

「んーん、似合ってるよ。行こ」

「ん、うん」

 

 早坂の案内の元、二人は歩き出す。才雅が評したモデル顔負けの容姿を持つ彼女には、すれ違う多くの人から視線が向けられる。第一に、日本では金髪碧眼が珍しいのもあるだろう。可愛いより綺麗が似合うハッキリした目鼻立ちと平均より少し高い身長、長い手足は視線を惹き付ける要因には充分だった。当然、そこには様々な感情が込められる。羨望だったり、邪なものだったりと。当の本人は慣れているので、今さら気にすることは無い。何より、自分が欲しいものは一つしかない。

 歩き出して間もなく、才雅は口を開いた。その目はジッと早坂を見る。

 

「背、伸びた?」

「ん?」

「いや、終業式の時よりも目線が近いから」

 

 相変わらずのマイペース振りを発揮する才雅に対し、早坂は吹き出した。口元を隠し笑いを堪える。何かと思えば、そんなことかと。

 

「それ、背伸びたんじゃなくてソールね」

 

 立ち止まり底の厚いスニーカーを指差す。才雅に、女の人はヒールのある靴を履くと言う認識はあったが、靴の全体が厚底の作りになっているところまでは見ていなかった。

 

「あ、本当だ。盛ってる」

「盛ってるって言うか、これオシャレだから。ウチ、身長は高一で止まったし」

「ふーん。俺はまだ止まってないぞ」

「そこで張り合うつもりないんだけど」

 

 早坂はクスクスと笑う。本当、子供だなーと思いつつ、素であろう彼の姿を見るのがたまらなく好きだった。そんな彼のことをもっと知りたい、今度は早坂が質問を投げ掛ける。

 

「夏休み何してた?」

「えーと。バイト、バンドの練習、後はライブ行ったり、白銀とか優とかと遊んだりかな」

「いーな、エンジョイしてんじゃん!!」

「早坂は?」

「ウチはずっとバイトだよ〜。ま、学校ある時よりは遊べてるかなぁ」

 

 友人らの間では、バイト戦士として認識されている早坂愛。彼女は、アクセやら服を買うために日々バイトに勤しんでいる。学校がある時よりは遊べていると言うことは、多少の息抜きは出来ているのだろう。才雅は一学期の終業式に記憶を遡った。

 

「カラオケの時に色々誘われてたもんな」

 

 カラオケの時とは、一学期の終業式後に開かれたクラスのお疲れ様会を指す。その際、早坂が、運動部の男子を中心とし、熱心に声を掛けられていたのを才雅は記憶していた。

 彼が言わんとしていること、早坂には、色んな男と遊んでいるんだろと言われたような気がして、全力で否定に移る。いくら見た目が良くても、見え見えの下心と俺イケてる感を出す男子は苦手だった。

 

「だーかーらー、ウチはチャラい人に興味はないの!!」

「あー・・・・・・ごめん。真面目な人が良いってことだよね」

 

 彼女自身は、チャラい見た目とチャラい喋りをしているが、相手にそれは求めていないようだ。全く持って人の好みは分からない。

 

「別に正反対の人なら良いってわけでもないけど」

 

 早坂は、ジト目で彼を見つめる。今日の約束も彼の中ではただの友達とただの遊びなんだろうなーなんて、頭の片隅で考える。

 大通りの人混みの中、二人は歩みを進めて行く。今回の遊びの仕掛け人は、言わずとも早坂愛である。以前、彼がUFOキャッチャーで取ったと言うキーホルダーを貰ったことを逆手に取り、UFOキャッチャーで欲しい景品があるから手伝って欲しいと頼ったのだ。安定の才雅は他の友人も誘う前提で話を進めて来たが、そこは何とかかわしきった。彼と二人で遊ぶチャンスをそう簡単に手放すことは出来ない。

 ちなみに、才雅が初めに誘おと提案したのは石上優。ゲームが得意だと言われたが、早坂自身は接点のない相手である。そこを強調し断った。次は、白銀御行。よく一緒にゲームセンターへ行くと言うが、四宮さんに悪いから声を掛けない方が良いと伝えた。早坂と才雅は、相合い傘をする白銀とかぐやを共に目撃して以降、二人の仲を陰ながら応援する立場だ。他にもまぁ、上手いこと理由を付け、最終的に二人で遊ぶことになった。

 しかし、ここで重要なのが双方の認識。男女二人で遊ぶ=デートと認識する者も居れば、ただ遊ぶだけはデートにはならないと口にする者も居る。そう、デートのボーダーラインは個々によって異なるのだ。

 

 そうこうしている内に、目的のゲームセンターへ到着した。目当ての台のアクリル板に、才雅は顔を近付ける。

 

「コップ?」

「うん、マグカップ。木のやつだよ」

 

 前回のアームを開いて景品を掴むタイプとは異なる。景品は、箱になっており、表にはコップの写真がプリントされていた。箱は、無造作に並んでいるのではなく、二本の棒の上に箱が乗っている。棒の下は、そのまま景品口に繋がっており、アームを操作し棒から箱を落とすタイプだった。通称、橋渡しと呼ばれる。景品は、動物をモチーフにした四コマ漫画のキャラクターで、早坂の好きな作品だった。

 

「パンダに入れ替えて貰おうか?」

 

 才雅は問いを投げる。早坂のスクールバッグには、パンダのキーホルダーが付いている。手乗りサイズのぬいぐるみだ。今、棒の上にあるのは、どう見てもネコのキャラクターだった。狙うならば、やはり推しだろう。ネコの他、パンダ、ライオンなど数種類あるようで、こう言う場合は、店員に声を掛けると、景品の入れ替えを行ってくれたりする。

 

「いーよ別に。ネコも可愛いし。こう言うのって店員さんに入れ替えて貰ったら、最初の位置に戻されるんでしょ?」

「まぁ、確かに」

 

 今の箱の位置は、プレーした痕跡がある。今ならば、ワンチャンあるかもしれない。悩む才雅を他所に、早坂は財布からお金を取り出していた。百円で一プレイ、五百円で六プレイ出来るシステムだ。

 

「じゃ、お金入れるね。五百円で良いかな?」

「んー、そうしようか。こう言うのって何回かズラして行って取るパターンだろうから、ある程度は掛ける感じかな」

「オッケー。はい、どうぞ」

 

 お金を投入した後、早坂は操作盤の前を才雅に譲った。

 

「あれ、やんない?」

「才くんがやってるの少し見てからが良い」

「お、おっし。オケ」

 

 気合いを入れ、光りの灯った矢印のボタンを指で押し込む。状況を確認しよう。二本渡された棒の上に、景品の箱が乗っている。ただ、箱は棒に対して平行ではなく斜めの状態である。重心が後ろにある今、手前を持ち上げて落とすのが定石だ。

 隣から熱い視線を感じながら、二本爪のアームを操作する。まずは、箱の頭上に持って行き、アームを開く。アームが閉じる力を利用して、箱の手前を持ち上げる。箱は持ち上がるが、直ぐに落ちてしまう。棒に対して平行に近付いた。重心は変わらず後ろにある。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 才雅の口から思わず息が漏れる。そこからは、少しずつ箱を動かして行く。プレイが残り一回になったところで、早坂へ代わる。箱は、落ちそうで落ちない状態で、棒と棒の間で上手い具合に挟まっている。才雅の経験上、ここまで来れば取れたも同然だ。

 

「行けるかな?」

 

 不安そうな顔の早坂が才雅を見つめる。

 

「うん。多分、大丈夫。アームを後ろに持って行こう」

「アームを後ろに・・・・・・」

 

 ここまで横で見ていただけの早坂であったが、四宮かぐやの近侍(ヴァレット)として彼女が優秀なのを忘れてはならない。箱の重心、アームの強さや動きなど、何となく台の特性は理解した。つまりは、今の弱気なセリフは、あくまで彼の庇護欲を掻き立てるためのポーズ。生粋の使用人として生きて来た早坂は、仕事を円滑に進めて行く上の知識として、行動心理学を齧っていた。

 

「キタ!!」

 

 勝利確信した才雅は、ガッツポーズを決める。傾いていた箱は、アームに下から押し上げられて景品口に落下した。

 

「やったぁ!!」

 

 二人はハイタッチを交わし、早坂は、景品口から箱を取り出すと、大切そうに抱えた。

 

「最後の上手かったじゃん」

「才くんのお陰だね、ありがとう」

「ん。んー」

 

 才雅は照れ臭そうに顔を反らした。面と向かって人に感謝されるのは、何だかむず痒い。けど、気持ちとしては嬉しいものである。ゲームセンターでまだまだ遊ぼうと、気を取り直す。

 

「次、マリカーやんない?」

「マリカー?」

「マリオカート。車を運転するやつだよ」

 

 どうせなら、プリクラ以外でゲームセンターは利用しないと言う早坂に、ゲームセンターの楽しさを体感して貰いたい。才雅は、初めてでも楽しめそうなゲームを選んで行き、二人でプレイをする。マリカーに始まり、エアホッケー、太鼓の達人、シューティングゲームと回って行き、現在、才雅は、バスケットボールをゴールリングに向けて投げていた。

 少し休みたいと言う早坂は、後ろでその様子をマジマジと眺めている。運動は苦手と豪語する割に、高確率でリング内にボールが吸い込まれて行くのは意外だった。

 

「結構上手いじゃん」

「まぁ、これはたまにやってるからね」

「体育のバスケも余裕なんじゃない?」

「それは別。走りながら何かするのは駄目だから」

「うーん。じゃぁ、サッカーとかも?」

「そうそう、そう言うこと。良いよな、運動神経良い奴は。勝ち組じゃん」

 

 少し力の入ったボールはリングに嫌われ、外に弾かれる。

 

「勝ち組って。別に運動に限らないでしょ?」

「いいや。運動出来りゃモテるよ、男は。イケメン扱いされるし」

「モテたいの?」

 

 人の評価など、一番気にしなさそうな彼から、これまた意外な言葉だ。

 

「特別モテたいってわけじゃないけど、一日くらいは体験してみたいじゃん。全校生徒の女子全員からチョコを貰うとか」

「発想が小学生レベル」

「じゃあ、早坂の言うモテるって?」

 

 ここでも、彼からの思わぬ返し。今日の約束をするに当たり、才雅と直接電話をした早坂であるが、その際に彼はハーサカの一件(・・・・・・・)について、さほど落ち込んではいないと感じた。そして、待ち合わせから今に至るまでも、変わらぬいつもの彼だった。そう思っていたが、少しおかしい。いつもならば、自ら口にすることは無い話題だ。

 

「えーと。やっぱ、デートに誘われるとか、告られるとか、そう言うのじゃない?」

「実体験?」

「いや、聞き返すなし」

「・・・・・・ごめん」

 

 最後のシュートが華麗に決まる。後ろに振り向いた才雅は、微笑む早坂と目が合った。何だか、嫌な予感がした。

 

「お疲れ。ね、プリ撮らない?」

 

 もし、彼の心が失恋状態にあるのなら、全ては自分の責任であると、彼女は考える。絶対に振り向かせてやろうなんて、気合いを入れて来たが、まずは彼に元気を取り戻して貰おう。

 

「え・・・・・・プリクラ?」

「そ。今日の記念に良いでしょ」

「ぇえー」

 

 才雅は露骨に嫌な顔をする。プリクラで撮った自分の顔には違和感を感じるから。しかも、男女二人で撮るとか、ちょっとカップルっぽい。ギャルの間では普通なのだろうか。

 

「いーでしょ、友達なんだから。今度はウチに付き合って」

 

 早坂に腕を掴まれ、才雅は引っ張られる。男友達なら余裕で振り解いて逃げるが、女の子の手を振り解くほど、男を捨ててはいない。大人しく従っていると、プリクラの機械の一室に連れ込まれた。

 

「ライト眩しい・・・・・・」

「プリなんだから、当たり前でしょ。もしかして、初めて?」

 

 ちょっとした期待。もし、才雅の口から初めてと言われたら、私が初めての女じゃんと、彼女の頭には独占欲にも似た邪な思いが沸き起こる。

 

「いや。去年、軽音部の今の二年で撮ったけど、大人数だったし、何かこう言うのじゃなかった」

「そ、そっかあ。まぁ、プリ機も種類あるしね」

 

 会話もそこそこに小銭を投入し、撮影が開始した。早坂のリードの元、写真が次々に撮られて行く。撮影を終え、ラクガキコーナーに移動した頃になると、才雅はすっかり疲弊していた。

 

「何か、一番疲れた・・・・・・」

「ラクガキしちゃうから、見てていーよ」

「おー」

 

 力の無い返事をし、才雅は素早くペンを動かす早坂を眺めていた。世の女子高生は大変だなーと、他人事のように思いながら。それにしても、プリクラと言うのはなかなかのスペックだ。パソコンで使う編集ソフトみたいなものだろうか。視線を感じたのだろう。早坂から、お声が掛かる。

 

「何か書いてみる?」

 

 幸いにもペンは二つある。

 

「ん。じゃあ・・・・・・」

 

 興味本位で、いざペンを持ってみるものの何を書くか悩む。才雅の前の画面には、先程、UFOキャッチャーでゲットしたマグカップの箱を手に持つ早坂と箱を指差す自身が写し出されている。心を決め、サラサラと筆記体を更に崩した、自分の名前を書く。

 

「何それ?」

「俺の考えたサイン」

「っふふ、サイン?」

「将来、高く売れるかもしれねーぞ」

 

 ぶっきらぼうに才雅は言う。

 

「プリの時点で売れないと思うけど。あ、これまだだからお願い」

「おけ」

 

 全ての写真をラクガキし、プリントアウトされた。早坂が出て来たプリクラを確認し、自分の分を手元に残して、残りを才雅に渡す。

 

「はい」

「いいよ、俺は」

「せっかく撮ったんだから貰ってよ」

「あ。うん」

 

 差し出されたプリクラを断り切れず受け取ったものの、さて、どうするかと、才雅は考える。この先の取り扱いが分からなかった。

 

「待って、これ才くんでしょ?」

 

 笑う早坂が指摘したのは、プリクラの内の一枚。そこには、ピースサインをする早坂の頭に青ペンで三角が二つ、ネコ耳になっていた。ご丁寧にヒゲが左右に三本ずつ書かれている。当の本人は、ラクガキ無しの素のままだ。

 

「そうそう。早坂ってネコっぽいじゃん」

「あー、ネコ顔ってこと?」

 

 吊り目気味の早坂は、自身がネコ顔であると自覚があった。 

 

「ま、それもあるけどネコのマグカップ気に入ってたし、ネコ好きなのかなーって」

「いや。ウチ、ネコは嫌いだよ?」

「えっ!! いやでもさっきマグカップ」

「うん。あのキャラは別だよ、好きだから。でも、基本駄目なんだよね。昔、ネコに引っ掻かれたことあってさー」

「そ、そう言うこと。あの、何かごめん。余計なことして」

「んーん。大丈夫、ちゃんと好きなネコも居るから」

 

 才雅は、やっちまったと血の気の引いた顔をしているが、早坂の感情は全くの逆。確かにネコは嫌いである、これは事実だ。しかし、この四コマ漫画のネコは別なのだ。常にポジティブでギターが相棒のネコ。何となく才雅に似ていると思ったからだ。

 

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