似て非なる二人   作:clearflag

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文章追記しました(2024/2/27)


かぐや様はいただきたい

 四時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。教科書や筆記用具を片付け、生徒らは昼休みへと入る。

 二年A組の教室。汐崎才雅(しおざきさいが)は、部活の友人と学食に向かおうとした、その時だった。他の生徒が友人らと一緒に食べようと、机を動かし机同士をくっつけようとする音よりも目立つザワつきが耳に届いた。音の方へ視線を向ければ、教室の出入り口に見慣れた顔が居た。

 

「あれ、会長だ」「珍しい。何か用かな?」「四宮さんじゃない? 生徒会だし」生徒たちは各々の反応を示す。

 

 とかく他クラスの生徒が他の教室に居るのは違和感を覚えるもの。特に彼、白銀御行は昼休みになると生徒会室へ姿を消すため、今の時間帯に彷徨いているのは珍しい光景だった。

 どうしたものかと、才雅は様子を見ていると、二人の視線が交差する。見つけたと言わんばかりに白銀は一直線に近付いて来た。

 

「汐崎」

 

 白銀は、手に持つ風呂敷に包まれた何かを才雅へ差し出した。少し厚みのある長方形の形から察するに、弁当箱であろう。

 

(何で、弁当?)

 

 微笑む白銀とは対照に才雅は訝しむ。数日前、白銀は父の田舎から野菜が大量に送られて来て、しばらくは手弁当だとボヤいていた。その際に「良ければ汐崎の分も作るぞ」と確かに声は掛けられた。しかし、才雅は冗談だと思っていた。「世の中にそんな男子高校生いる? 俺は作らないよ?」と言うのが彼の主張である。

 

「ほれ。遠慮はいらんぞ」

「・・・・・・本当に作って来たんだ」

「ああ、一人分も二人分もそう変わらないからな。お前は、少し野菜を食え。あんな紙パックだけでは補えないぞ」

 

 教室内のザワつきは一際大きいものとなる。「会長って、四宮さんと良い感じだったんじゃ」「黒野(くろの)くんが彼女作らないのって」「二人ってそう言う」など、様々な憶測が囁かれる。

 才雅は苛立ちを感じた。何故、直ぐ色恋に結び付けたがるのか。表面上だけで物事を判断し、本質を見ようとしないのは、あまりにも浅はかだ。しかし、言いたきゃ、好きに言えば良いと、彼は無視を決め込む。白銀は何も悪くないのだから。

 

「ありがと」

「放課後までに返してくれれば、明日も作れるから」

「おう」

 

 繰り広げられる光景に理解が追い付かない者が二人。一人は、才雅の隣りの席の早坂愛。一般的に手作り弁当は特別な間柄ではないと、発生しないイベントである。彼女は、二人が仲の良い友人なのは知っていたが、それ以上の関係性である可能性を想像したことは無かった。だって、白銀の想い人は、かぐやで間違いないはずだし、才雅だって────彼女は居ないと言う彼。中等部時代に同級生の告白を断った彼。まさか、初めから自分にチャンスはなかったのだろうか。早坂に一抹の不安が生まれる。

 

「おい、黒野。愛妻弁当か?」

 

 才雅の肩にクラスメートの腕が回される。

 

「愛妻じゃねぇよ」

「良いな、お前は。男からも女からもモテて」

「バーカ、アイツが世話焼きなだけだよ」

 

 この光景に理解が追い付かない者がもう一人、四宮かぐやは殺気立っていた。

 それを感じ取った才雅の背中には悪寒が走る。まさかと思い、かぐやを見れば殺意に満ちた目とぶつかる。言葉が無くとも本能で分かった。これ以上、教室に留まるのは危険であると。

 

「は、早く学食行くぞ」

 

 部活の友人に声を掛け、逃げるように教室を去った。

 

 

 

 

 昼休みの生徒会室。かぐやが見た白銀の手弁当。それは、子供の宝物入れのようだった────煮物、ウインナー、だし巻き卵、梅干し、ハンバーグ。そして、白米には、ふりかけをかけ、和洋のジャンルを問わず、食べたいものをとにかく詰め込んだかのような自由な献立。特に心を打ったのは、絵の上だけの存在だと思っていたタコさんウインナー。

 対して、彼女の昼食は、四宮家の専属料理人より昼休みの時間に合わせ、温かい出来立てが届けられる。栄養バランスはもちろん、旬の食材を基軸とした調和の取れた弁当。それが、かぐやの知る弁当だ。

 彼女は、白銀の弁当が気になり、食べてみたい気持ちがあったが、淑女として物乞いのような真似は出来ないとプライドが邪魔をした。だがそこで、「一口分けて下さいよー」の一言で、恥じらいもなく目の前で食したのが、藤原千花。かぐやは、その様子を物凄い目で見ていたことは言うまでもない。 

 

(どうすれば、会長の手弁当を・・・・・・)

 

 就寝時間が迫る中、自室で頭を悩ませるかぐや。自ら頼み込み、白銀に弁当を分け与えられるのはプライドが許さない。ならば、向こうから頼み込んで来るように仕向けなければならない。例えば、『おかず交換』。白銀の好物を詰め込めば、欲しがるのではないだろうか。いや、藤原以上に許せない存在が居る。幼馴染みの黒野才雅だ。彼においては、弁当自体を作って来て貰っている。だから自分も同じように弁当一つが欲しいと、彼女は思う。

 

「あの、帰っても良いですか?」

 

 かぐやの直ぐ後ろに立つ早坂は不満を漏らす。毎日、毎日いい加減にして欲しいものである。今日に至っては、呼び出しておいて、ずっと放置だ。せめて、考えを纏めてから呼んで欲しいものだ。

 

「そうよ!! 早坂、明日は貴女が黒野くんのお弁当を持って行きなさい。そうしたら、会長の作った弁当は必然的に余るわ!!」

 

 名案とばかりにかぐやは瞳を輝かせるが、早坂は溜め息を付く。

 

「私を巻き込まないで貰えますか」

「────早坂は、このままで良いの?」

 

 何処か冷たさを感じる落ち着いた声。でもそれは、かぐやの真剣さを物語っていた。

 

「仰っている意味が分かりません」

「じゃあ、貴女は欲しくないの? ()のこと」

 

 冗談や高を括った言葉ではなく、彼女は確信しているのだ。早坂の()への気持ちを。

 

 ────ならば、いつ気付かれたのか?

 

 天才と呼ばれるかぐやは、人の心理を読み取る力に長けている。早坂は彼のファンである、と言う事実をかぐやが思い出したことが運の尽きだったのかもしれない。早かれ遅かれ指摘されるのは時間の問題だと彼女自身も思っていた。だから指摘された時、彼への気持ちを誤魔化すつもりはなかった。

 

「ええ、欲しいですよ。才くんの心も体も」

「こ、こ、体!!!?」

「自分で振っておいて何なんですか」

「早坂が変なことを言うからでしょ!!」

 

 恋愛経験のない二人であるが、その手の話は早坂が上だ。

 かぐやは話を戻そうと再度提案を持ち掛ける。

 

「それで、この話にはもちろん乗るわよね?」

「一つ忠告させて頂きますが、彼はかぐや様、会長と近い関係にあります。行動を間違えば、私とかぐや様の関係を怪しまれる可能性もありますので────」 

「だから、今のままで良いって言うの?」

「そうは言っていません。私には私のやり方があります」

「良い、早坂。四宮家に仕える人間として、欲しいものは必ず手に入れなさい。そのためには、時に大胆になることも必要よ」

 

 良いことを言っているように聞こえるが、かぐやは特大ブーメランを投げていることに気付いていないようである。とは言え、主人が使用人の色恋にここまで言うのだ、これ以上の反論は野暮であろう。以前、全面支援するとも宣言をされた訳で。早坂は、諦めの溜め息を一つ。

 

「かぐや様。手作りの弁当は脈アリなら良いですけど、好感度が高くない相手にやると、普通に迷惑ですよ。重いです」

「あなた達、仲は良いでしょう?」

「ええ。友人としては良い関係を築けているかと・・・・・・」

 

 切れの悪い間に、かぐやの頭の中で昼休みの記憶が蘇る。

 

「え。まさか────だって、映画館で私と会長、良い感じだったのに。これはきっと何かの間違いよ!! 早坂、二人の関係を直ぐに確かめて!!」

 

 主人の命とあれば、拒否権はない。早坂は、一息つくと口元に笑みを零した。

 

「かしこまりました」

 

 

● 

 

 

 翌日。四時間目が終わるチャイムと共に、才雅は廊下に飛び出した。白銀を待ち構えるためである。

 才雅は、色恋に鋭い方ではない。だが、そんな彼も薄々感じていた。最も白銀本人が四宮は自身に気があると主張していたことによる先入観が大きいかもしれないが、かぐやとの会話の中で、五回に一回は白銀の話題が挙がるのだ。つまり、昨日に続き再び弁当の受け渡しを見られるのは非常に良くない。そうこうしていると、B組の教室から手弁当を携えた白銀が出て来た。

 

「白銀」

「おう。廊下で待ち伏せなんてそんなに楽しみだったか? 素直じゃない奴め」

 

 危機的状況を知らない白銀は誇らし気に笑う。そして、才雅はあることに気付く。彼から弁当を受け取って尚、その手には、二つ弁当が残っている。

 

「まだ弁当あるけど、四宮の分?」

「いや、藤原のだ。昨日、俺の弁当を少し分けたんだが、あまりに褒めて来るものでな、ついつい腕が鳴ってしまったよ」

 

 聞かない方が良かった真実を知った才雅。背中に緊張が走る。逃げる間もなく、一番来て欲しくない人物が現れた。

 

「あらあら、本当に仲が良いんですね」

 

 二人に声を掛けたのは、かぐや。

 才雅は悟った。これはもう手遅れかもしれない。そんな彼の心の内を知らない白銀は普通に会話を始めてしまう。

 

「ん? 仲が良いとは俺と汐崎が友人関係だと知っていたのか」

「ええ。席替えをする前は彼と席が前後だったもので。話をしてみたら、会長が共通の友人だったと言うわけです。ねぇ?」

「うん、まぁ・・・・・・」

「それにしても、殿方同士で弁当を作るなんて、本当に仲が良いんですね」

 

 才雅の背中には嫌な汗が伝う。この窮地を脱出するには、手に持つ白銀の弁当をかぐやに渡すしかない。

 

「あ・・・・・・四宮は白銀の弁当って食べたことある?」

「いえ、ないですけど」

「凄い美味しいからさ、食べてみない?」

「おい、こら。四宮が俺の弁当なんて────」

「まぁ、黒野くんがそこまで言うなら食べても良いですけど。どうしてもと言うなら」

 

 先程の漆黒を纏った雰囲気は何処にやら、かぐやの嬉しそうな反応。才雅の舵取りは間違っていなかったようである。このまま、弁当を彼女に渡せれば、任務完了だ。

 

「なぁ、白銀。俺と藤原は食べて良くて、四宮は食べちゃ駄目なんてことはないよな。友達なら(・・・・)

「それは、確かに・・・・・・」

「はい、決定。俺は昨日食べてるし、この弁当は四宮行きで」

 

 弁当を押し付け、生徒会室へ向かう二人の背を見送る。

 

「さて・・・・・・学食に行きますか」

「才くん、ちょっと来て」

「え、何。昼飯・・・・・・」

 

 一難去ったと思いきや今度は早坂だ。いつから巻き込まれ体質になったのだろうかと才雅は思いつつ、空腹もあり抵抗する気は起きなかった。

 連れて来られたのは、校舎から離れた広場。ベンチや木のテーブルが並べられており、食事を取ったり、本を読むことが出来る。ただし、校舎から距離があるため使われるのは放課後がメインだ。

 早坂が歩みを止めると、合わせて才雅も止まる。人目も人気もない場所。静かな時間が流れる。そして、才雅は静寂を引き裂く。

 

「もしかして、告白?」

「違うし!! 何で、そうなるわけ!?」

「いや、そういう空気かなって」

「才くんって、本当にデリカシーないよね」

「えぇ」

 

 早坂はジト目で才雅を見つめる。彼女はたまに思う。どうして、この人を好きになったのだろうと。でも、そう言う部分も含めて好きなのだ。良くも悪くも本音でいてくれる、こんな自分にも素で向き合ってくれる、ちゃんと目を見て相手を知ろうとしてくれる、そんなところが好きだ。

 

「もし仮に、そういう空気を察知しても、絶対に今みたいに聞いたりしたら駄目だよ。女の子は、勇気を振り絞って気持ちを伝えようとしているんだから」

「・・・・・・分かった」

「じゃあ、一緒に食べよ?」

 

 その手には少し大き目の弁当袋。

 

「え、くれるの?」

「うん。実はウチのお母さんに才くんのこと話したら、何を勘違いしたのが二人分作っちゃってさー。食べてくれる?」

 

 嘘である。母が勘違いして二人分を作ってしまったと言うのは、全くの作り話。だが、嘘でも免罪符がなければ、早坂の心は持たなかった。自身が作った弁当を彼と二人で食べるなど、心臓が爆発してしまう。

 

「ありがたく貰うよ。今から学食行っても混んでるだろうし」

 

 才雅も男である。白銀から貰った弁当とは違った嬉しさがあった。この際、誰が作ったとかは関係なく、クラスメートの女子から貰うことに意味があるのだ。

 二人は東屋の下、木のテーブルを挟み、木のベンチへ腰を下ろした。作りとしては四人掛け、十分な広さがある。

 テーブルの上で弁当箱を開くと、卵焼きにハンバーグ、唐揚げと定番のおかずが詰められていた。空腹のピークも相まって、一度食べ始めた才雅の箸は止まることを知らない。夢中で食べる彼の姿はまるで子供のよう、早坂の胸は嬉しさで一杯だ。

 

「そんなに急がなくて誰も取らないから。味はどう?」

「うん、美味いよ。早坂は家で学校の話はよくするの?」

「んー。すると言うか、されると言うか。話はよくするかな〜」

「へー」

 

 食べながら他愛もない会話をしていると、早坂はおもむろにスマホを取り出した。才雅にスマホを向けるとカメラのシャッター音がした。写真を撮ったようである。 

 

「何で、撮ってるの?」

「良いじゃん、記念に。後で送るね」

「いや、いらないから」

 

 即答で断ったが、才雅はふと思う。始業式の日、彼女にラインを教えて欲しいと言われて交換したが、やり取りをしたことは無かった。毎日、同じ教室に居るわけだし、別段送る用も無かったのだ。

 

「あ、そうそう。才くんと会長さんは付き合ってるの?」

「はぁ?」

 

 才雅は思いっきり顔をしかめる。いくら何でも弁当一つで騒ぎ過ぎだ。

 

「だって二人は、二年の中のトレンド一位だよ。只ならぬ関係なんじゃないかって」

「・・・・・・アイツは普通に友達だよ。俺だって、付き合うなら女子の方が良いし」

「オッケー。じゃあ、二人は本当に仲が良い友達ってことなんだね」

「だから、そうだって」

 

 返事を聞いた後、早坂は何かをスマホに打ち込んで行く。元々、情報の早い彼女のことである。大方、よく一緒に居るギャルの友人にでも報告しているのだろう。

 早坂の様子を眺める才雅は、その話を聞きたいがために自分はここに連れて来られたのだろうかと、いらぬ可能性を一瞬考えた。だが、流石にそれは勘ぐり過ぎである。彼女にも悪い。今は、弁当を味合うことに集中しようと頭を切り替える。

 

(全く、どいつもこいつも)

 

 彼が早坂の気持ちに気付く日は来るのだろうか。

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