文章追記しました(2024/3/2)
「恋愛相談?」
また、校舎から離れたこの広場は、クラスメートの早坂愛と二人で弁当を食べた場所として、彼の記憶に新しい。
話を戻そう。何故、彼は眉をひそめたのか。彼は、白銀御行が四宮かぐやに惚れていることを知っており、且つ、白銀の相談を日常的に受けている。学食を敬遠したことは元より、改まって『恋愛相談』と言われると、ちょっと身構えてしまう。良い話なのか、悪い話なのか。どう言うつもりで自身を呼んだのか、真相を知るため、才雅は問い掛ける。
「・・・・・・四宮へ告白するのか?」
その言葉に白銀は目を見開いた。驚いた人間がする顔だ。
「ち、違うわ!! これは俺の話ではない!!」
木のテーブルに勢い良く手をつき、白銀は木のベンチから立ち上がった。顔を真っ赤にし、肩を上下させ、見ている方は引いてしまう必死さだ。
────普通に否定すれば良いのに。
才雅の冷静な部分が客観的に判断する。どちらかと言えば、論理的な思考を持つ彼は、感情的な人間に対し理解は低い。故に、一目惚れとか信じないし、これまではもちろん、この先も誰かに一目惚れすることはないだろう。
「じゃあ、誰の話なんだよ?」
「・・・・・・まずは聞いてくれ。同じクラスの奴から恋愛相談に乗って欲しいと相談を受けたんだ」
「つまり、相談された相談をしているのか、己は」
白銀御行に恋愛経験は無い。だが、決してモテないわけではなく、むしろモテる方である。ただ、類は友を呼ぶと言うべきか、変人は変人と結ばれるケースが多い事実を鑑みるべきか。
「汐崎は、俺より女友達が多いだろう・・・・・・」
「初等部からの知り合いが多いだけな気もするけど」
秀知院は、幼稚園から大学までを持つ一貫校のため、生徒同士の多くは幼馴染みの関係にある。高等部から入学した外部生の白銀と比べ、初等部から通う才雅の方が広い交友関係を持つのは、何らおかしな話ではない。
「だから、今日の放課後に少し時間をくれないか? 彼と話をする約束をしている」
「いきなり俺が入るのは不味くない?」
「心配はいらん。もう一人、呼ぶと約束の上だ」
「ずるっ」
とは言え、才雅自身も恋愛経験は無い。最も、彼が所属する軽音楽部はそこそこの部員数を抱え男女数は半々、部活繋がりで女友達が多いと言うのは間違いないだろう。また、プライベートで遊びに行くこともあり、白銀より一歩リードしていると言えよう。ちなみに、二人きりではなくグループで遊んでいると付け加えておこう。
「準備が良いと言ってくれ」
「で、相手は? 巻き込むなら情報くらいは寄こせよな」
「分かってるよ、助かる。彼は、田沼翼。俺と同じB組の生徒だ。恋愛相談とだけで詳細は聞いていない」
才雅は、記憶にアクセスをする。田沼翼は純院の生徒だ。今は別のクラスだが、彼とは過去に何度か同じクラスになったことがあった。その頃のイメージそのままであれば、大人しい性格のはず。クラス内や異性に対し積極的だった覚えはない。
「田沼か。なら、告白か、仲良くなりたい子が居るかのどちらかが濃厚だな」
「その心は?」
「田沼に彼女が居るって話聞いたこと無いし、噂もないだろう? となると、これから関係を築きたいってことじゃないか?」
「なるほど。相談をある程度予測しておけば、上手く行きそうだな」
白銀は頷く。その白銀の田沼に対する反応を見るに、クラスにおける二人の交流は少ないものだと、才雅は推定する。その上で、言葉を漏らした。
「三人の話し合いに持ち込んだのは正解だったかもな」
「ん、どう言う意味だ?」
「上手く行かなかった時に恨まれたら困るだろ? でも、相談相手が二人居るなら話は別だ。そのアドバイスをどう聞き入れて、どう行動に移すかは受け手次第だからな」
善意でクラスメートの相談を受けた白銀だったが、何だか後ろめたさを感じる。基本的に人当たりの良い才雅だが、疑り深いところがあると、白銀は気付いていた。日常の姿だけを見れば、ノリの良い軽い奴だが、実は結構人を見ている。的外れな発言も多いが、心の内を見透かしたような発言をする時もある。そんな奴だ。
「・・・・・・本当、お前は良い性格してるよな」
「互いの腹の内を知らないんだ。何をどう受け取られるか分からないだろう?」
「それはそうかもしれないが、田沼くんはそんな風には」
「表面上で人を判断するのは浅はかだぞ。人は簡単に裏切られたと口にするが、その人の見えなかったものが明るみになったに過ぎない。相手の本質をいかに見抜くかが大事なんだ」
「それは、まぁ、一理あるが」
「だいたい、俺はよく知らない奴に相談はしない」
「うん、だろうな。とにかく、放課後は頼んだぞ」
生徒会室で落ち合う約束をし、昼休みは閉幕となった。
●
放課後、生徒会室。廊下側のドアノブには『会議中』と手書きの札がぶら下げられた。そして、ドアを開けば、流石は、全校生徒の代表と言うべきか、教室一つ分はありそうな広さと生徒会の威厳ある空間が出迎える。棚やテーブルは木で統一され、賞状やトロフィー、腕を広げた大きさはありそうな絵画まで飾られており、校長室で通りそうな雰囲気である。
四人掛けの深緑のソファーに座るのは、才雅と白銀。ミドルテーブルを挟み、向かいのソファーには相談者である田沼翼が座る。白銀は咳払いを一つ、進行を始めた。
「では、揃ったので始めるとしよう。田沼くんと汐崎は面識があるようだし、さっそく本題に入らせて貰うぞ。じゃあ、内容を聞かせて貰えるかな?」
田沼は、緊張を帯びた表情で口を開く。
「クラスメートの柏木さんに。彼女に告白をしようと思うんです!!」
『告白』のワードに才雅と白銀はアイコンタクトを交わす。田沼の言葉は続く。
「でも、断られたらと思うと・・・・・・もう少し関係を築いてからの方が良いんじゃないかとか。色々、考えてしまって」
自信の無い彼に同意するように白銀は静かに頷く。相談を聞く上で大切なのは傾聴。相手の言葉を否定せす、共感し受け止めることだ。
「なるほどな。ちなみに、その子と接点はあるのか?」
「バレンタインにチョコを貰いました!! ・・・・・・チョコボール、三粒ですけど。これって義理ですかね?」
才雅は思った。これは紛れもない義理であろう。田沼自身は『義理』だと分かってはいるが、認めたくない、そんな様子に見える。しかし、気付かせるのも相談を受けた者の務め。
「そうだな。俺は義・・・・・・」
真横からの圧。言わずとも白銀である。絶対に義理とは言わせない、そんな意志の強さを感じる。才雅の言葉は圧に押され、途切れた。見逃すことなく、白銀は割り込む。
「間違いなく惚れてるな!!」
「は? お前、何言って────」
「いいか、女ってのは素直じゃない生き物なんだ!! 常に真逆の行動を取るものと考えろ!! つまり、その一見、義理に見えるチョコも────」
「逆に本命!?」
ハッと声を上げる田沼。一瞬期待をするような顔をしたが、直ぐに曇る。
「だけど、彼女にその気なんてないと思います。こないだも、彼女が居るかどうか聞かれたんですけど、友達に笑いながら、僕に彼女が居ないことを報告してて。からかわれてるだけなのかなと」
残念だが、からかわれているだけであろう。才雅は、白銀を横目に彼の言葉を心の内で肯定する。とある女子からは、気遣いがないとか、デリカシーがないとか色々と小言を貰う才雅であるが、不本意ながら勉強にはなっていた。そして、隣から邪魔が入らないよう、出来るだけオブラートに包むようにして話す。
「俺は、もう少し関係を進めてからでも良いと思うな。向こうから話しかけて来るってことは少なからず関心はあるわけだし、接点を増やして行くことが今は大切だと思うんだ」
「やっぱり、今の段階で告白は早いんですかね? 一体どうすれば・・・・・・」
「まずは休み時間に沢山話しかけよう。最初は些細なことで良いよ。授業の話とか、音楽は何を聴いているとか。で、少しずつプライベートの話が出来るようになったら、ラインを交換して、そっちでも話そう。そしたら、放課後に友達を誘って遊びに行こうって誘うんだ。いきなり、二人はハードルが高いからグループで行くのがベストだな。それを何度か繰り返して、好感度が高まったところで彼女をデートに誘って────」
「待て待て、待て!! お前は告白までに一体どれだけの時間を掛ける気だ!!」
才雅の案に異を唱えたのは白銀。白銀は、田沼から恋愛百戦錬磨と呼ばれ、大いなる期待を背負ってしまっている。そこで、一人は不安なので才雅に頼み込んだわけだが、彼の話で上手く纏まってしまうのは、それはそれで困るもの。と言うのも、万が一、白銀御行は恋愛音痴。アドバイスを請うも全く役に立たないなどと噂されれば、完璧な生徒会長の看板はガタ落ちである。
「まぁ。ざっと、半年?」
「いや、それもう冬になっちゃうから!! て言うか、好感度を高めて行ってて、恋愛シミュレーションゲームじゃねえーんだからさ!! こう言うのは、お互いのフィーリングが大事なんだよ!! 付き合いの長さや濃さだけでは測れないフィーリングが!!」
立ち上がった白銀の姿は、去年の生徒会選挙の演説を彷彿させる。拳を握り、熱く語り続ける。
「田沼くん。よく、もう一度思い出してくれ。君を笑っていたと言う彼女と友人たちのことを。どうだ、聞こえて来るだろう? 強がりで素直になれない彼女たちの君への本当の想いが。良いか。君は今、モテ期が来ているんだ!!」
「そんな、馬鹿な・・・・・・」
信じられない、そんな表情を浮かべる田沼に才雅は同意を示す。
「そうそう。あまり知らない人からの告白って困────いっ」
才雅の肩に鈍い痛みが走る。そこには肩を鷲掴みにした白銀の手。元々の鋭い目付きを更に鋭くし、有無を言わせない圧を放つ。「お前は黙っていろ」と言っているようだ。
(何だよ、めんどくせー!!)
二人のやり取りを前に田沼は揺らぐ。
「僕なんかにモテ期が来るわけ・・・・・・何とか、柏木さんだけでも」
「君に一番最初に話し掛けたのは、彼女だろ? なら、間違いなく君に惚れている。今はまだ照れ隠しの状態なのだろう、しっかり気持ちを伝えれば向こうも分かってくれるはずだ。万一、はぐらかすようなら、友達からと言う逃げ道を作ってやることも出来る」
「おお!!」
「でも、それ言われる方は結構身構え────」
肩の上の手が才雅の首に回る。
「お前はもう黙ってろ」
「分かったから、ギブギブ」
「では、俺が秘技を授けよう」
白銀は、生徒会室のドア前に立つと、説明を始める。
「ここに
右手の平を思いっきり、ドアに叩き付けた。ダァンとなかなかの大きな音が響く。
「俺と付き合え────と。突然、壁に追い詰められた女は不安になるが、耳元で愛を囁いた途端、不安はトキメキへと変わり、告白の成功率が上がる。この技を俺は『壁ダァン』と名付けた」
ドヤ顔の白銀であるが、才雅は冷めていた。もう口を出す気にもならない。
(俺が女だったら、コイツ嫌だな・・・・・)
「天、才・・・・・・。ありがとうございます!! 会長のお陰で勇気が出て来ました!! 流石は、あの四宮さんを落としただけあります!!」
羨望の眼差しを向けた田沼から爆弾が投下された。
「いや、俺と四宮は別に付き合ってないぞ」
「そうなんですか? 端から見てたら良い感じに見えますけど」
「むしろ逆だ。最近、何かめっちゃ嫌われてるんじゃないかなって思う」
(まさか、弁当の件か?)
日頃、白銀とは付き合いのある才雅。かぐやの機嫌を損ねるような最近あった出来事と言えば、それくらいしか思い当たりがない。生徒会室で他にやらかしてしまっているのであれば、それまでだが。
「会長!! 大事なのは自分がどう思ってるかですよ!! 会長は、四宮さんのことをどう思ってるんですか!?」
「・・・・・・そうだな。正直、金持ちで天才とか癪な部分はあるな。案外抜けてるし、内面怖そうだし、あと胸も。でも────そこが良いって言うかな!!」
豹変した白銀。今日のコイツ、不安定過ぎないだろうかと、才雅は視線を向ける。その時、生徒会室のドアが少し開かれていたことに気付く。ドアノブに引っ掛けた会議中の札を見て、入るのを止めたと言ったところだろうか。
(まさか、四宮? 不覚だった、白銀は気付いたのか?)
「可愛いよ実際、美人だし!! お淑やかで気品もあるし、それでいて賢いとか完璧過ぎんだろ!! 四宮マジサイコーの女!!」
仮に本人が居るとして、告白も同然の台詞。吐いた毒で嫌われるよりはマシと言うことなのだろう。白銀は田沼の肩に手を置き、最後のひと押しを決める。
「とにかく、告白しなきゃ何も始まらん。変に策略を練って駆け引きなんてしても話がこんがらがるだけで良いことないぞ!!」
「僕、頑張ってみます。本当にありがとうございました!!」
元気よく立ち去る、田沼。一方の白銀はひと仕事終えたような、やり切った顔に変わるとソファーに座り脱力した。恋愛相談によるものか、生徒会室の少し開いたドアのせいか、はたまた両方か。彼の気持ちを考え、才雅は触れないことにする。
「あんな焚き付けちゃって。吉報を待つしかねぇな」
「この俺が助言をしたんだ。きっと上手く行くさ」
「どーだか」
そして、帰宅後のかぐやは早坂に伝えたそうだ。才雅は恋愛に慎重なタイプである。今は、友人としての仲を深めることに専念せよと。しかしそれは、
後日。田沼は白銀の助言そのままに『壁ダァン』で、柏木に告白し、何故か付き合えたそうである。