大柄な体を生かして目の前のアラガミは腕を振るう。素早く振るわれるそれはコンゴウ種とは比べ物にならないほど早い。一度振るった腕を戻す勢いで右手の腕とそこに掴んでいる黒い棍棒によって追撃をかけてくる。
「っく!? かすったか。
始めて見るアラガミと戦うなんて運がついていない」
振るわれた棍棒が私の肌を傷付ける。この速度に威力。第一種接触禁忌アラガミレベルだ。
「なるほど。第一種接触禁忌アラガミ並みの力を持っているというのなら私も本気を出さねばならないか」
両腕の神機が蠢きだす。うねうねと、グロテスクな光景だが私の望む姿へと変わっていく。
「その体、喰わせてもらうぞ」
今の私はきっと醜悪なまでの笑みを浮かべているだろう。私には人の部分は脳と体のわずかな部分しか残されていない。つまり、私の体の大部分はアラガミであり、アラガミの性質にひかれやすい。全てを喰らうという貪欲な食欲へ。
「ぉおおおおおおおお!!」
捕喰形態へと片腕を移行させて噛みつかせる。残りの片腕は至近距離からの砲撃を浴びせる。神属性のパレットで的確に相手の顔に浴びせていく。
「如何やら此奴もほかのアラガミと同じで顔は結合がもろいようだな」
その証拠に先ほどから些か派手に血しぶきが舞っている。顔に付着したその血をぺろりとなめて、
「神機解放!」
バーストモードへ移行する。体の奥底から力があふれて軽くなる。
いったん離れて、アラガミの繰り出した蹴りを避ける。凄まじい暴風とともに繰り出されたものだが避けてしまえば意味が無い。
「ラス・テル・マ・スキルマギステル」
オラクル細胞を魔力へと。その為に体を削って魔力を生成する紋章が体中に浮かび上がる。
「っ、ふふ、悪いが少し惑わさせてもらうよ
火精召喚!」
五体の私が現れてアラガミを囲む。総勢六人まで増えたことで行われるダンスについてこれるか?
「まずはステップの確認と行こうじゃないか」
二つのデコイが突撃をかます。ショートを構えて刺突しようと高速で接近する。しかし、それはアラガミによって防がれる。
「パートナーとの呼吸は?」
三人目と四人目でその後方から斬撃を。だが、それはすぐさま反応したアラガミによって迎撃される。器用なことに後ろ回し蹴りをして迎撃した。
「此れでダンスは終了だ!!」
最後に私は突撃する。一回目のデコイが体勢を崩させて、二回目のデコイで背後を向かせる。これで最期私の一撃を避けることは不可能になる。
だが、此奴はそこらのアラガミとは違ったようだ。
「っが!」
後ろ回し蹴りの勢いを維持して棍棒を振り回して私を迎撃した。
そう、
デコイの真後ろで突撃していた私には棍棒は当たらず、目の前を過ぎ去っていく。
「これで終わり!!」
五体のデコイを使った錯乱戦法。一人の人間の操作だからこそ完全なコンビネーションになる。まるでダンスを踊っているように。
両腕を交差させてなで斬る。
「GGGGUUUUU!!」
どうやらなかなかの一撃となったようだ。体からオラクルが噴き出て手にもつ棍棒を振り回して活性化し始めた。あと少し。そう思った瞬間、棍棒の形が変わりだす。
「え?」
白い長弓。その弦がひとりでに引き絞られてその中央にオラクルが集まる。
「飛び道具!!?」
そんな馬鹿な! 先ほどまでそんなものを持っていなかったのに!
発射されたパレットを間一髪回避する。チリっという音ともに軍用強化服の一部が喰われた。
「っく!」
こちらも銃形態に変えて反撃のパレットを撃つ。幸い、こちらは二つ。あちらは一つ。連射性能はこちらの方が上。
だんだんとこちらの方が押してきた。けれどこのままではオラクルが足りなくなってしまう。
「一か八かのごり押し!」
だからこそ、このままではなぶり殺しになるのを避けるために私は両方の神機を剣形態まで戻して、パレットをよけながら近づいていく。近づけば近づくほど攻撃は避けるのが難しくなり、バックラーを使わなければならないが何とか近寄る事が出来た。
「喰らえ!!」
両腕の神機でもう一度頭を切り裂く。それと同時に頭についていた両方の角が崩壊した。
「GI、GYAAAAAAA!!?」
どうやら結合崩壊を起こして崩れたようだ。ここまでくればもう後少し。振るった両腕で更に連撃を加えていく。一撃ごとに確かな手ごたえを感じると同時に、
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
一つの叫び声を聞いてしまった。
間に合った。
「五月!? 何でこんな所に!」
―ダメです! そのアラガミを傷つけちゃ!
「何を言っている! アラガミは倒さなければ全てを―」
―そのアラガミは酒呑さんなんです!
「なっ!」
おそらく超さんは知らなかったのでしょう。驚愕の余り言葉も出てきていないみたい。
「ば、バカな! あの人が、酒呑さんがアラガミ化なんて!!」
―酒呑さんのオラクル細胞はバランスを崩してしまったんです。左腕を切り落とされたことで、茨木さんのオラクル細胞を無くしてしまって
「それこそ有り得ない。他者のオラクル細胞が適合できるなんて私は聞いたこともない!」
そうなんでしょう。けれどこのオラクル細胞は違う。人として生きて酒呑さんを愛した人の細胞。だからこそ、酒呑さんを守ろうとする。ほかのオラクル細胞から。
もしかしたら私の考えは違うのかもしれない。けれど、私はそう信じる。だから、
「だから超、どいて。貴方は世界を救えても酒呑さんを救えない。超はきっと信じられない。その感情を。けれど、私は信じる。人を愛することは時に全てを凌駕できるって」
「五月―」
「力を貸してください。貴方が、そして私が愛した人を助けるために」
酒呑さんの左腕がグネグネと変形して私を覆う。不安はある。けれど、こうすればきっと酒呑さんを救えるはず。
「五月!!」
―後は頼みました。茨木さん
赤い膜に覆われて意識を失い寸前、確かに聞こえた。
―あの人を愛してくれてありがとう。けれど、あげないわ。私が愛して、だれにも渡したくないんですもの。まあ、それでも欲しいのなら奪ってみなさい。不可能だと思うけど。
ずるい。けど、負けたくない。そう思って笑ってしまう。ああ、眠くなってきた。目が覚めたらきっと会えますよね、酒呑さん?
「莫……迦な」
そんなこと有り得ない。酒呑さんがアラガミ化したことも、目の前で起きていることも。
「何が起きている?」
「貴方が超ね。私は茨木。茨木鈴鹿。酒呑を助けるために少しだけこの子の体を借りているだけよ。心配しないでも良いわ。この子の体も酒呑も元に戻すから」
そう言って目の前の赤い髪をなびかせた女性は一振りの神機を掲げる。一本の朱い鋭い刀のような神機。みたこともない形状の神機でそれを、
「行くわよ、童子斬安綱。シュテンドウジになった酒呑をさっさと起こしてあげないと」
そんなことを言いながら振るう。ただそれだけでこちらに近づいてきていたアラガミの左腕を切り落とす。
「GUUUUUAAAAA!!!?」
耳をふさぎたくなるような咆哮が響き渡る中、目前で行われたことを信じられなかった。だって、アラガミの体を切り落とす? そんなことできるゴッドイーターなんていなかった。いや、あそこまで有効な神機なんて存在しないはず。
「私はこれでもね、酒呑がアラガミ化しないように何年も酒呑のオラクル細胞を喰らってきたからね。言ってしまえば私の攻撃はこいつにとって最悪の一撃なんだよ」
神機を翻してさらにもう一撃。ただそれだけでアラガミを構成する黒いオラクルが削れていく。
「それに、
火のような激しい意志が神機を振るわせる速度を上げさせているのだろう。私の目の前で繰り広げられている一方的な食事はもう終わりかけている。
「GUUYAAAAAA!!!」
「さあ、もう終わり。大丈夫。すぐに私が抑えるから」
それだけ言って彼女は剣を、神機をアラガミの胸に突き刺した。
茨木さん、登場。本当は五月が神機に変わった腕を使って倒すといったストーリーだったのですが、戦闘の経験がない彼女じゃ無理だなと思い、急遽この案に。