だんだんと目の前がはっきりとしてくる。赤い膜は剣を伝い酒呑さんの体を覆って、左腕のあった場所へと集まっていく。左腕が形成された時、うめき声が聞こえた。
「つっ!」
―酒呑さん!! 大丈夫ですか?
「あ? 此処は、空?」
―ええ。そうです
びゅんびゅんと風切音がする中、私たちは確実に空に落ちていく。私たちが飛べていたのはアラガミの力と機械の力。私が使っていた飛行機械はさっきの戦いで完全に破損している。だからこうして私たちは地面めがけて落ちていっている。
このままいくと酒呑さんは生き残れるかもしれないけど、私は間違いなく死んじゃうのだろうな。そう思っていると、
「大丈夫。死なせはしないさ。何が起きたかは分からないけど五月が俺を救ってくれたんだろう? なら今度は俺が助ける番だ」
その言葉が嬉しくて、顔を真っ赤にしてしまう。この顔を見られたくなくて、酒呑さんの胸元に押し付けて見られないようにしてしまう。
「それに、カボチャの馬車ではないが、魔法の箒ならあるからな」
え? そう思った瞬間、私はお姫様抱っこをされていた。
「ふぇ! あ、ああああの、sysyしゅ、酒呑さん!? いきなり何を!!?」
「舌をかむから口を閉じたほうが良いぞ」
すぐにその答えが分かった。
何かを足場に酒呑さんが着地したからだ。視界がぶれて、その着地の衝撃の凄さが分かる。
「うわっ! とと」
「ありがとう、ネギ君」
「いえ、此れ位しかできなかったので。良かったです酒呑さん」
あっ、ネギ先生。そっかさっき会ったときに今の状況を説明したんだった。
今、私たちは先生が使っていた杖の上に立っている。酒呑さんがそこに着地したから。って、つまりこの姿が見られているってこと?
「ど、どうした、五月!?」
あ、あわわわわわ!! 如何しよう! 如何しよう! 恥ずかしい!
『お~っと! 何と、子供先生とラスボス超の戦いに割って入った異形が人の姿になってお姫様抱っこだ! その正体は魔法をかけられた王子様か?』
あ、朝倉さん! 余計なことを!
「何だ? 下の方が騒がしいな」
「あははは、酒呑さん。下に行ったらある程度は覚悟した方良いですよ?」
「それは如何いう事だ、ネギ君?」
「行けばわかりますよ」
ネギ先生の言った言葉に嫌な予感がして下を見ると、
「おお! さっちゃんとさっちゃんの王子様のご帰還だ!」
「あれ? あいつって確か数か月前行き倒れていた……」
やっぱり騒ぎになってる!
というより、誰ですか酒呑さんと私の関係を邪推している人は!
けれど、恥ずかしい中私は、酒呑さんと一緒に入れることが嬉しくて自然と笑っていた。
何とか解決したか。俺はアラガミ化しちまったようだが、五月のおかげで誰一人犠牲にしないで済んだようだ。赤くなった五月を抱えて俺とネギ君。それに超はいったん人気のない場所まで移動した。
「酒呑さん」
「超……」
そして、今の問題は目の前の超をどうするかだ。おそらく、超はこれから拘束されるだろう。神機という特性にこれほどの騒ぎを起こしたのだ。拘束しないはずがない。
だから最後に、一つだけ質問した。此れが分からなければ俺は恩を裏切ってまで麻帆良と敵対してまで超と話し合わなければならない。
「超、お前はこの世界を、いや世界をまだ救いたいのか?」
「そうね。けど、もう今回のような強攻策はとらない。私は私の方法で、これから先の世界を救いたい」
驚いた。俺が覚えている超はどこか意固地になっていたような気がしたんだけど。これも、ネギ君と五月のおかげかな? これなら安心できる。そう思っていると、
「酒呑さん、此れを」
「? これは」
手渡されたのは全体を金色の金具で飾り付けられた時計のようだが、これが何だというのだろうか? 腕輪には時計の機能もあるからこういったものは邪魔にしかならないんだけど。
「それは、完成品のタイムマシン。周りの魔力を吸い取って使用可能になるものね。使ったら指定したたった一か所に、必ずその場所へ向かえるはず。
すまなかったね、酒呑さん。私が未来から過去、ううん、この世界に来た時に違う時空にいた貴方を巻き込んで転移させてしまった。世界が世界だからね。資材も技術も完全ではなかった転移しか行えなかった。だから違う時間軸の貴方を巻き込んで転移してしまった。その結果貴方はこの麻帆良へ訪れた。だからこそ、私は貴方を帰らせないといけない。それは義務ね。けれど私としては貴方にこの世界にいてほしいとも思っている。でも、帰るか帰らないかそれを決めるのは酒呑さんだけ。貴方が決めてほしい」
受け取った時計が重く感じる。俺は、あそこの世界へ帰らなければならない。けど、この世界に未練が無いわけではない。五月たちに、学園長。詠春さん。彼らとの出会い。そしてアラガミのいない世界で過ごした平和な世界。それらが俺を縛り付けようとする。
―酒呑さん
そんな時、五月が俺に話しかけた。
―こんな時言うのは可笑しいかもしれませんがそれでもあなたに伝えなければならない事が有ります。
貴方と出会っていろいろな事が有りました。最初会ったときは空腹で倒れていましたね。超包子で働いていた時も私が作った賄いを本当においしそうに食べてうれしかったです。
「五月?」
―酒呑さん。私は貴方の事が好きです。
え?
―やっぱり気づいていなかったですね。でも良いんです。それも貴方ですから。けれど、貴方はしなければならない事が有るでしょう? それをしなければなりません。本音を言えば私だって超と同じで貴方にいてほしいです。けれど、分かるんです。此処で貴方が居てもいつか貴方は全てを失うって。貴方には向うの、アラガミの居る世界で一緒に戦う仲間がいます。彼らと戦ってください。
「五月……。その、なんだ? 気づいてやれなくってゴメンな。それとありがとう。お前のおかげで一歩の踏ん切りがついた」
あ~あ、俺って本当に愛された女に敷かれるタイプだよな。そしてここぞって時に後押しされるんだよな。茨木も、五月も。
「五月。お前の願い、料理人になる事かなうと良いな。応援しているぞ」
―酒呑さんも向こうの世界で頑張ってください
タイムマシンを起動させる。幸い、俺の持っている道具はすべてここにある。すぐにいかないとまた決心が崩れそうだったから。
白い光に包まれた瞬間。
「っむぐ!!」
その瞬間五月にくちびるを奪われていた。
「えへへ、これくらい許してください。初恋なんですよ?」
参ったな。そんな泣きそうな顔じゃ、怒れやしない。
「ああ、じゃあな」
もう会えない。だからさようならは言わない。絶対に言ってやるもんか。
光は視界を塗りつぶして―
明るい。光が俺の瞼をすかして眼球にまで光を届ける。
「帰ってきたのか?」
あたりの様子を探るとどうやら贖罪の街のようだ。その時、耳になれた咆哮が響いてきた。
「GYAAAAAAAAAAA!!」
おっと、ヴァジュラとどこかの班が戦っているようだ。俺も応援に向かうとするかね。ついでに仕留めたら、アナグラまで連れて行ってもらおう。そう寂しさをごまかして下を見ると、
「何だ、あいつ等か」
白いバスターに、赤いロング。ガトリン具眼のような形状の銃。見慣れた第一部隊の隊員たちの神機が見えた。あいつ等に帰ってきたことを教えてやらないとな。
トンっと足場をけり、戦場の真っただ中に乱入する。
「! バッカ野郎! いつもいつも遅えんだよ!」
「本当だよ! こっちは三人だけで戦っているんだからな。後で初恋ジュースを丸呑みしてもらうぞ!」
「今更来るなんてドン引きものですよ。今ここで汚名を返上してください!」
これは手厳しいな。
さあ、悪いなヴァジュラ。此処に居るのは今までの獲物と違うぞ? 何せこっちは頑張るって約束したからな。お前程度で歩みを遅めるわけにはいかないんだよ。
「第一部隊隊長、酒呑一鬼。ただいまを持って、部隊との合流に成功。アラガミと交戦する!」
さあ、出番だ。いつも、いやいつもよりはるかに軽い神機を持って俺は目の前のヴァジュラへと走る。
世界は変わらない。たった一人が頑張っても世界なんて巨大なものは変わらない。けど、一人だけでも頑張れば変わるものはある。周りの人間だ。五月と、ネギ君がそれを証明してくれた。なら、俺はこの世界を変えよう。いつか胸を張って俺は頑張ったぞと言えるように。
「行ってしまったか」
「そうですね。これからあの人はアラガミと戦い続けるんですね」
―酒呑さん
胸が苦しい。好きな人ともう二度と会えないのがすごく悲しい。今にもこの小さな胸が張り裂けそうになる。
けれど、私は精一杯笑みを浮かべようとする。だって、私もがんばらなくちゃいけないんですから。だから、だから笑っていなきゃいけないのに、なんで涙が出てくるの?
―ふっぐ、ぐすっ。可笑しいな。笑わなきゃいけないのに。なんで涙が出てくるんだろう?
「五月、泣いて良い。泣くべきね。その涙は酒呑さんの思い出そのもの。此れから何度も泣きたくなるね。だけど、その時に泣かないために今思いっきり泣いておいた方が良い」
超さん。……そうですね。そう思ったら我慢していた分が一気に溢れ出してきた。
「五月。これを持っていると良い。きっとあの人の思いが詰まっているから。たとえ違う世界での同一人物とはいえ、殆ど変りはない。」
手渡されたのは古ぼけた腕輪。赤いゴッドイーターがつけている腕輪。
「それは私がずっと持ち続けていた形見。魔法使いに殺された酒呑さんが身に着けていた最後の品。きっと、五月の助けになる」
手渡された腕輪を抱えて私はいつまでも、いつまでも泣き続けた。
此れでこの作品、神喰らいと魔法先生は終了となります。作者が書いた二つ目の作品ですが、どうにかこうにか完成まで持って来れました。
設定などで気になる事、疑問に思った事は質問として扱いますので感想の欄にご記入してください。必ず返信いたします。
最後に、今までこの作品を読んでいただき、大変うれしく思います。此処まで続けられたのもひとえに皆様の温かい感想があったからです。今までありがとうございました。
次話にあとがきと少し設定を載せて投稿しようと思います。