「「っ!!」」
その姿を見たリンドウとソーマは驚愕する。
黒いオラクルが体を侵食し、酒呑がアラガミになりかけている。
その姿は二足歩行だがコンゴウ種のように太い脚ではなく、人間の歩く形に適した形に変化したオラクル細胞でできている。
腕は一回り以上膨れ上がり、強固な結合ということがみるだけで分かる。
顔は半分ほど侵喰され、左側の額には角が生え始めていた。
「おい。あれは」
「間違いない。アラガミ化だ」
今もなお酒呑の体は黒く染まり続けている。
そして、眼に映ったリンドウとソーマを茨木を傷付ける存在と判断し襲いかかる。
「GGGGGGGGAAAAAAAAA!!」
巨大な腕をこちらにたたきつける。
それだけでコンゴウのたたきつけのような衝撃が出る。
「くそっ!」
リンドウは自身の腕を銃形態へ変えスタンさせるためのパレットを撃つ。
その間ソーマは酒呑の気を引き、リンドウの方へ向かわせないように誘導する。
「GGGGA!!?」
突然自分の体が動かなくなり驚愕の声を漏らす酒呑。
酒呑を人へと戻すためにかつて自分がされたようにリンドウは言葉をぶつける。
「馬鹿野郎! 戻ってこい! お前がいないとアナグラはどうなるんだ!」
酒呑はもはやゴッドイーターの代表と呼んでもいい存在だ。
だがそれだけではない。仲間を二人も失うことがアナグラにいる仲間にどれだけの悲しみを与えるかリンドウでも分からないのだ。
それでも、リンドウの姉であるツバキ、ペイラー、第一部隊、第二部隊、第三部隊、そのほかの人間たちが深い悲しみに落とされるのが分かる。
「お前は言っただろう!! 生きることから逃げるなと。今のお前はただ逃げているだけだ」
「さっさと起きやがれっ!! 隊長よ!」
ソーマもまた剣をふるう。
酒呑を傷つけるためではなく、酒呑を止めるため、戻すために。
「GGGGGGGAAAAAAA!!」
だが、それでも酒呑は止まらない。
体中を侵喰され、それでもなお戦い続ける。
「らああああ!!」
一瞬のすきをついて、ソーマがチャージクラッシュを決める。
それにより体勢を崩した酒呑をリンドウが捕食する。
「「さっさと目を覚ませ!!」」
二人の斬撃により限界を迎え、酒呑は倒れる。
だが、それでも酒呑は動き続けようとする。
「GGGGAAA、ああああああ、いい茨木、待ってくれ」
もはや意識が朦朧としているのだろう。アラガミと人間の意識の奪い合いが始まったのだ。
酒呑は少しづつでも、這ってでも茨木へと近づいていく。
その様子をリンドウたちは酒呑がアラガミに勝つと信じ見守り続けている。
「茨木 GGAAああAAGGあああああ」
だんだんと茨木に近づいていく。
茨木に近づけば近づくほど肉体のアラガミ化は進む。
だが、精神は人間に戻っていく。
「茨木、ごめん。お前のこと守れなかったよ、俺」
そう言い、酒呑は茨木の横たわる体まで行き手を握った。
その瞬間、茨城の体の中にあった微量のオラクル細胞とP53偏喰因子が腕輪を通じて酒呑の体の中に入り込んでいった。
見る間に酒呑の体を赤いオラクルが身を包んでいき、黒いオラクルを喰らっていく。
そして赤いオラクルが黒いオラクルを喰いつくした後、左手に集まり無くなった腕を作っていく。
そこまでが、酒呑が認識できていた全てだった。
酒呑は今病室に入院している。
茨木を失ったショックで外界へ一切の反応を示さなくなっているのだ。
「やあ、久しぶりだね」
そんななか明るい声が病室で響く。
「いやはや、ツバキ君もまさか君をぶん殴るとは思わなかったよ」
数日前にツバキはこの状態の酒呑を見て、殴ったのだ。
殴られても何も反応しなかった酒呑だったがそれでもツバキは殴らずにはいられなかったのだ。
「助けた子供がいつの間にか腑抜けになっていた、か。彼女もなかなか辛辣だね。
まあ、こんなことはなしに来たわけではないからね。本題を話そうか」
ペイラーはそこで一呼吸を置くと、
「今の君の状態だよ。君本来の偏喰因子にリンドウ君の神機のオラクル細胞。
そして、茨木君が残していった偏喰因子にオラクル細胞。この三つの細胞により、君はもはや人とは言えない。
本来微量のオラクルがこのバランスによって暴走して増加している。君の体の七割がもはやアラガミだ。
そんな君を危険視する声が出てきている。極東支部ではないがほかのフェンリルでね」
自身の身の危機でも、酒呑は反応せずそれを見たペイラーは
「これは本来私の仕事ではないのだがね。だがそれでも伝えなきゃならない様だね。
今もなお茨木君は生きているよ」
その言葉に酒呑はここに搬送されて初めて反応した。
「い・・きて・・いる?」
「ああ、そうだよ」
ペイラーは説明を始めていく。
「君も知っての通りオラクル細胞とは考え、喰らう細胞だ。もし、人の脳のみを喰らったオラクル細胞があればシオ君のように人に近いアラガミとなる可能性が高い。
茨木君のオラクル細胞は茨木君の体のみを食べ最後の瞬間に茨木君の脳細胞を喰らった。
それにより、茨木君のオラクル細胞が茨木君そのものとなった。
君の左手は茨木君だよ。君は彼女の意志を否定するのかい?
彼女はすべてをかけ、君を救ったというのに。君はいつまで燻っているんだ!」
最後にはペイラーとしては珍しく怒りを含んだ声となり叫んだ。
「おっと、失礼」
そう言い、ペイラーは立ち上がり、病室を出ようとし思い出したかのように言う。
「今第一部隊の隊員によって茨木君の仇であるツクヨミと交戦が行われている。
君の神機のロックは解除してある。よく考えたまえ。このまま彼女の意志を無駄にするか。それとも彼女の意志を胸に秘め戦い続けるかを」
今度こそペイラーは病室を去っていった。
「お、俺は・・・」
「うおおおおおお!」
コウタの神機がパレットを撃ちだしていく。
「はああああ!」
アリサが剣形態でツクヨミを切り付ける。
「ふんっ!」
ソーマがツクヨミを粉砕する。
だが、それでも月読は倒れない。
「くそ、どれだけタフなんだよ、コイツ」
「固い!」
「ちっ、この化け物が」
だが、三人の攻撃はツクヨミに効果が薄かった。
酒呑のオラクル細胞を喰らい、神機に強い耐性をツクヨミは得ていた。
だんだんと追い込まれていく第一部隊のメンバーだったが、
「っ!!?!、?!!」
突然パレットがツクヨミに降り注ぐ。
あれほど強固な結合を見せていたツクヨミの体は簡単に結合崩壊していく。
「遅くなって悪かった。みんな」
パレットが放たれた方角にいたのは、見たこともない神機を手にした酒呑一鬼だった。
「隊長! 本当に遅いですよ」
「ようやくか、さっさと戦え」
「よっしゃ、これで百人力だ」
そうして彼らはアラガミに立ち向かう。
神を喰い、人々を守るために。
そうして、彼は二年の歳月が過ぎアナグラにアラガミが侵入した。
彼がこの地を訪れた時まで魔法は見せ続けて。
「これが俺のいた世界の出来事だよ」
こうして俺はこの場にいるすべての人間の俺の過去を見せた。