それでも僕らは生き延びたい 作:膳乙
空を見上げることが多くなった。空を見上げていると、その間は悩みを忘れる事はできる。パイロットとして活躍を果たせるのか、開発室の期待に応えられるのだろうか? そして──
「全員揃ってますねー、それじゃあSHR始めますねー」
この女の花園で、数少ない男として放り込まれたここで、果たして生活など出来るのだろうか。そんな逃避的な思考で教卓の前に立つ山田先生の話を聞き流し、どうしてこんな所に来てしまったのだろうと自分の成り行きに思いを馳せた。
IS学園。それが今自分のいる場所だがここがどのような場所か説明するにはあるパワードスーツのことを説明しなければならない。
そのパワードスーツの名称はインフィニット・ストラトス、通称はIS。日本に住まうある天才が発表したそれは、宇宙空間に適応する為の圧倒的な耐久性と、デブリや小惑星に対応する為の高い攻撃力を誇りながら、現在では本来と全く違う使われ方をされている。その原因となったのが《白騎士事件》だ。
ISの発表からさほど時間が開かないある日、突如として世界中の軍事サーバーがハッキングされ、機械制御されていた約二千ものミサイルが日本の東京に向けて飛来したのだ。
着弾すれば日本の首都圏は壊滅、国力に致命傷を負う事は確実だったが、そんな国家存亡の危機に現れたのがISだった。
真っ白な前身装甲は動画編集で追加したみたいに突然東京の上空に現れ、迫り来るミサイルを次々に切っては、飛び散る破片には空中から召喚した超電磁砲で撃ち消し炭にした。
全てのミサイルが撃墜されるまでおよそ10分、それから機体は登場時と同じように消え、空は元の景色に戻った。
誰の目から見てもISは優秀な武力だった。
それからISは軍事兵器として見られ、各国はこぞって欲し、抑止力として、外交の切り札としてそれを求めた。
最初にISを手に入れたのは日本政府、早速研究が始まるがすぐにある欠陥が見つかる。
ISは、女性しか扱えない。
初めはこの事実は隠された。しかし、続々とISを手に入れた各国も研究の初期段階でこの欠陥を見つけ、特性だと受け入れられるまで時間はかからなかった。
それからは、世界のパワーバランスがまるっきり変わってしまった。
女性しか使えない、つまり一方的な蹂躙は女性のみが行える。この事実を盾に女性の地位が向上、各地で支配構造の変革が起きた。アメリカやイギリス等の先進国は比較的穏便に事が進み──それでも尚燻りが見えるが──政治家の男女比が入れ替わるだけで一年以内に日常が取り戻されたが、男女格差の激しかった中東や元々国が不安定だった東ヨーロッパ諸国では、ISを使った襲撃によって政府が崩壊、どこの国にも属さない無法地帯となった地域すらある。
しかしそんな混乱の中でも、数年すれば慣れてしまう。連日放送された世界の
この地IS学園は、そんな世界を変える代物を操縦する者を育成する世界唯一の教育機関であり、東京湾の真ん中の人工島に校舎を構えて世界中から有望な女子を集めている。
さて、長々と前置きを語る事となったが現状を簡潔に言うと、男性が介在し得ない女子高のど真ん中に放り込まれる構図となっている。どうして放り込まれたのか。その理由は単純、女性しか動かせないISが動かせると解ったからである。
遡ること3月の中旬、世界初の男性操縦者の発見というニュースと共に始まった男性の起動調査。多くの人が見る中で自分もISを纏い、男性の中で動かせる人の一人だということが発覚したのだ。
それから調査は続いたものの、結局海外からもう一人見つかっただけだった。それからは身柄の保護から始まる様々な手続き、自分でも何が起きているのか実感がないままこの教室に押し込められたという所だ。思い直してみると誘拐とほとんど変わらないのだが、そうでないと思いたい。
「……フくん、グリフくん。次自己紹介お願い出来るかな?」
「は、はいっ」
突然、声をかけられ上ずった声を上げてしまう。心あらずな意識をとり戻して辺りを見回す。すると前方には頭を抱えてる黒髪の男の姿があった。
「時間も押している。早くしろ」
自分の席は窓側に位置することから、自分の番がもう来たのかと驚きながら織斑先生と山田先生の呼び掛けに応じ立ち上がり再び辺りを見回し、一人一人の顔を見つめてから、ゆっくりと口を開いた
「アイルランド出身、国際開発機関*1所属のグリフ・レウムです、皆さんよろしくお願いします」
当たり障りない名乗りを済ませて頭を下げれば、あちこちから黄色い声が聞こえた。これまでに経験した事の無いノリにどう対応すれば分からず、たどたどしく腰を下ろし着席する。
「これしきで騒ぐな小娘ども。次……と言いたい所だがここに来た男はもう1人いる。そいつの紹介をしてHRは終わらせよう」
にわかに騒がしくなった場は織斑先生が収め、次に移らせる。クラスの視線が後方にいる赤髪の青年に集まると、彼は眉をひそめて立つと口を動かした。
「3人目だ。名前は名簿を見れば良い」
少しの間をおかず二文だけ喋るとそのまま席に座ってしまった。自己紹介とは到底言えない言葉に皆もどう対応すれば良いのか分からないらしく、しばらく教室は無言に包まれた。
「……えっと、せめてお名前は言おう、ね?」
なんとも言えない空気に耐えかねず口を開いたのは山田先生だった。
「個人を判別出来れば問題ないでしょう」
青年は明らかに不機嫌だと分かる表情を向けると一方的に断言してしまう。しかしそれで話を終わらせ無かったのは織斑先生だ。
「他人の評価に委ねるつもりか?自己紹介をやり直せ」
目つきが鋭く、出席簿を握る手からは血管が浮かび、織斑先生は分かりやすい怒りのポーズで威嚇する。それが良く効いたのか青年はしばらく睨んだ後立ち上がる。
「シルヴィオ・フリート。3番目に見つかった男性操縦者だ」
ぶっきらぼうに名前を言いきった彼は周囲の反応を待たず、不機嫌そうな顔をそのままに席に座る。織斑先生はため息をつくと2回目のリテイクは下さず、これで終わりだと言い残し山田先生を連れて教室を出た。
────
「よ、グリフ」
HR終わりの休み時間、授業の準備を進める中で声をかけられた。顔を向けると先程頭を抱えてた青年がいた。確か名前は──
「ええと、一夏くん?」
「呼び捨てで良いぜ。男性同士仲良くしよう」
名前を呼ぶと一夏は気さくな調子を変えず手を差し伸べる。友好の握手を求めているのだろうと分かると自分も手を出して一夏の握手に応じる。
「よろしく。一夏」
「よろしく。シルヴィオも来いよ」
一夏が手を解くとそのまま上にあげ、先程から空中投影したディスプレイから目を離す様子の無いシルヴィオに振る。彼とも仲良くしよう、という所だろう。しかし彼はその声に反応せず、時折投影するディスプレイの数を増やしながらそこに映るテキストに目を通すばかりだった。
「おーい? 聞こえてるか?」
返事が無いことに痺れを切らしたのか一夏は再度声をかける。それでもシルヴィオは反応を示さずディスプレイばかりを見ている。
一体何を見ているのだろうか? 人の声を無視してまで読みたい文書とは何か気になり、背後から少し覗いてみる。書かれていたのはイナーシャルだの、パッケージだの、専門用語ばかりが並べられていて、一見難解だが見覚えもある文章だった。これはそっとしておいた方が良さそうだ。
一夏にも下がった方が良いと教えようとしたが時すでに遅く、シルヴィオはディスプレイを閉じてこちらを向いた。
返されたのは憎しみのこもった嫌味だった。
「友人でも無いくせに、馴れ馴れしく声をかけるな」
「そんな硬いこと言うなよ。居心地は悪いだろうけど、男同士だろ?」
先程自分と握手した時のように一夏は手を差し伸べる。が、シルヴィオはあろうことかその手を弾いてしまった。
「
そして対話を拒否した語気の強い言葉。周囲にいたクラスメイトは良い印象を持たないだろう。ヒソヒソと話声が聞こえ空気がどんどん邪険になっていく。しかし、それ以上の事が起こるのはチャイムが許さなかった。
「げ、もう授業か。じゃあ次の休み時間、またな!」
一夏はまた集まろうと言うと慌ただしく席に戻っていく。たくさんの女性、機嫌の悪いシルヴィオなど不安になる事はあるが、一夏とら仲良く出来そうと期待に思い自分も席についた。
穏やかなグリフ、拒絶的なシルヴィオ、溌剌な一夏、彼等は学園で生き残れるだろうか?
次回「接触」
感想、評価頂けると喜びます