それでも僕らは生き延びたい 作:膳乙
「そうだ、クラス代表を決めないとな」
三限目の授業が始まって間もなく、教壇に立った千冬先生が思い出したかのように議題を上げた。
「クラス代表者とは、そのままの意味だ。生徒会や委員会で会議があった場合の参加や、行事への参加もある。まあ早い話、クラス長だ。代表者は再来週のクラス対抗戦に参加してもらうが、これは1年間変わる事が無いのでそのつもりで」
グリフは、先生の説明になるほど頷いた。話を聞く限り代表者の役回りはクラスを束ねる以外に、選抜選手の意味合いもあるらしい。となると席に着くのは優れたリーダーか、それとも力のあるIS乗りのどちらかか。どの道自分達が注目される事は無いだろう。そう思ってた矢先──
「はい! 一夏くんを推薦します!」
「あ、じゃあ私はグリフくんで!」
真っ先に僕らが指名された。これは予想外である。一夏も指名されるとは思ってなかったのか、薄く頷いている。
「織斑とレウムか。他にいないか、自薦他薦は問わん」
「……えぇ!? お、俺そんなのやらな──」
「他薦された者に拒否権は無い。期待されて選ばれた以上覚悟を決めろ」
ようやく状況が飲み込めたか、一夏は拒否しだす。しかし織斑先生は知った事かと却下して受け入れるよう詰め寄る。そこまで一夏を代表にさせたいのか。グリフ厳しいのは当然だがそれ以外にもなにか目的があるように聞こえた。
「ええと……じゃ、じゃあグリフと……後はシルヴィオを推薦する!」
一夏を代表にさせて何をするつもりなのだろう、と考えを巡らしていると、自分にも指名が入った。押し付けるようなやり方は些か不満ではあるが、織斑先生曰く拒否が許されない。ならばやれるだけやろうと考えたがシルヴィオはそうでなかったらしく、立ち上がると語気を強めにして話し始めた。
「拒否します」
「言ったはずだ、他薦に拒否権は無い。お前も期待に応える気概を見せろ」
「これを他薦と呼ぶんですか? どう考えても思いつきで名前を言っただけじゃないですか。これのどこに期待があるんですか!」
「お前が感じないだけで、期待されているかも知れないぞ。一夏はどうだ?」
問答の末に話題は一夏に投げられる。ただこれだと一夏の答えは一つに絞られるのではないのか……彼に視線を向ける。
「ええと……俺は期待してるぞ! すっごい期待してる!」
予想の通り、清々しい程の棒読みだった。実感なんて無いと確信させるには十分過ぎる、でっち上げの文面だった。
「お前今適当に答えただろ……」
「期待されている以上、辞退は出来ないな。他にいなければ候補はここまでに──」
額に血管を浮かばせて意を唱えるシルヴィオと、それを無視しちょっと誇らしげな表情で募集を締め切ろうとする先生。このまま理不尽に決められるか、そんな時だった。
「茶番はここまでにして下さいまし!」
金髪の縦ロール少女が席を立ち声を荒らげた。男子2人に注がれていた視線は彼女一人に集中する。その顔は苛立ちと怒りが入り混じったような険しい表情をしていた。
「セシリア・オルコット。何か意見でもあるのか」
「大有りですわ! 実力からすればこの私、セシリア・オルコットこそがクラス代表に相応しいはずですわ! なのに全く見向きもされずただ物珍しさと責任逃れだけで代表が決定してしまうなど言語道断!! この一年間私に屈辱を味わえと言うのですか!?」
確かに彼女の言う事は最もである。しかしそれを素直に受け止めれば、彼女は自ら立候補する気が無い事を肯定する事になってしまう。果たしてそれでいいのだろうか……
グリフが疑問を抱いている間もセシリアの主張は続く。
「そもそも文化としても後進的な国で暮らさなければいけない事自体、耐え難い苦痛で──」
「イギリスだってたいしたお国自慢無いだろ」
「な……ッ!?」
セシリアの発言が余程気に食わなかったのか、一夏が割って入り、教室内は静まり返る。
グリフはシルヴィオに目線を向けた。これまでの交流から、この手の話に噛みつきそうだと思ったからである。しかし彼は予想に反して静観していた。
「飯は不味い、料理もゲテモノばかり、世界一マズイ料理で何年覇者だよ」
「あ、貴方、私の国を侮辱しますの……!?」
「先にしたのはそっちだろ」
売り言葉に買い言葉で口論は白熱していく。この場を収めるなら、自分が割り込むしかないだろう。そう思ってグリフが立ち上がった瞬間、織斑先生の声で中断される。
「そこら辺にしておけ」
静かな声で、しかし威圧感を感じさせる声音だった。途端に言い争っていた二人は黙り込み、空気が冷えたような感覚さえ覚えた。
「オルコット、貴様実力が優れた者が相応しいと言ったな?」
「え、ええ……」
「私からすれば皆ひよっこだが、実力に自信があるなら三人と戦い示してみろ。クラス代表は決闘で選出する」
先生の提案に、シルヴィオが真っ先に反応し席を立つ。
「織斑先生、正気ですか?」
しかし織斑先生が答えるより先に、一夏が反応した。
「なんだよ、四の五の言うよりわかりやすいだろ」
「いやだから、マジで戦うのかって。俺たちが、オルコット嬢に?」
一つ一つ確認するかのような口ぶりに一夏も何かを感じたのか、手を叩いて同意を示し、セシリアに問うた。
「ハンデはどのくらいつける?」
「あら、早速お願いかしら?」
「いや、俺らがどのくらいハンデつけたら良いのかなーって」
シルヴィオは思わず吹き出した。グリフも口を開けて唖然とする。クラスメイトは爆笑した。セシリアも呆れ果てて言葉も出ない様子だった。
「俺、変な事──」「あのさぁ!」
唯一状況を理解できてない一夏は、言葉を続けようとしたがシルヴィオが遮り言葉を捲し立てた。
「お前なんにも知らねぇのか!? なんだよ今の言葉、なんも知らねぇのか!? それとも蹴落とすつもりか!?」
「い、いや俺はただ……」
「ただも何もねぇよ! 状況を把握してねぇのに勝手に巻き込むな! 押し付けるな!」
「なっ、押し付けるなってお前……」
「お前が今やったのはそういう事だろ!! お前の頭は脳味噌の代わりにワラでも詰まってんのか!?」
「い、いやそこまで言わなくても……」
「言ってやるよ!! お前は馬鹿でマヌケで、ついでに姉の絞りカスだ!!」
シルヴィオの罵声は止まらない。普段の冷笑的な態度からは想像もつかないような激情だった。彼のあまりの剣幕に、一夏は返す言葉を失い、代わりに反論したのはセシリアであった。
「あの……そこまでになさっては? 周りの方々も引いてますわ」
「それはお前も……いや、いい」
息を整えながら周りを見渡し、ようやく我に帰ったのか、シルヴィオは席に座り直す。
シルヴィオが席に着いた所で織斑先生が話を再開した。
「……代表決定戦は一週間後、第三アリーナで行う。それまでに各自準備しておくように。以上だ」
シルヴィオ、キレた──!
次回「戦いは始まっている」
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