「あれはほら、実際にそういう場面に出くわした時とかの為に、頭の片隅に可能性の一つとして意識しておくことで緊張を和らげる的なヤツであって、別にポロっと口をついて出た本音とかじゃないんだって」
「どうだか~。もし盗聴でもされてたら用済みってことになってたかもしれないのに?」
「・・・・・・」
「・・・おい何だその顔。おまっ、もしかしてあんたその可能性考えてなかっ・・・ちょっとこっち向きなさいよっ!!」
ライトバンの運転席と助手席の間で繰り広げられる益体の無い会話を後部座席で聞き流すフキは見えない追手の影を気にしつつ、隣に座るスーツケースから出てきた小さな依頼主を見る。
自身よりも小柄な少女を。
凄腕天才ハッカーのその正体を。
「・・・あんまり見詰めてくれるな。そいつで穴でも空けられやしないかと冷や冷やする」
ウォールナットことクルミは手元のタブレット端末から顔を上げることなく、フキの手に握られたままの拳銃を横目に呟く。
「安心しろ。今のところお前に風穴を空ける理由はない」
理由が有れば何時でも撃つと、そう宣言するフキの目に迷いはなかったがクルミがそれを知ることはなかった。二人の視線は交わることもなく再び車外とタブレットへ。
「・・・追ってこないな。どうする、偽装は止めてこのまま空港に?」
「いや、もう近くまで来てる。次の通りで合流される」
クルミの持つタブレットには別々の窓で表示された走るライトバンとハイエースの俯瞰映像が。
「駐車場でのんびりし過ぎたな。もう新しいドローンが追って来てる」
「ああ、どっかの阿呆共が余計なサプライズかましてくれたおかげでな」
「作戦立案者は僕じゃない」
「ドローン潰した時点で説明できたろ」
「しかたないだろう。散々“喋るな”だの“証明しろ”だの、銃を向けられて脅されたんだ。本当に護衛グループの一員かどうか疑って然るべきだと思わないかね?」
「・・・・・・」
してやったりと言わんばかりに、得意げにふふんと鼻を鳴らすクルミはやはりタブレットに釘付けで隣の様子を窺おうともしない。
その呑気なクルミの態度にフロントシートの二人が慌て出す。
「ちょっとフキさんフキさんや?!子供相手にムキにならないっ!!」
「こらおチビ?!うちの番犬煽んないの!?どうなっても知らないわよっ!!」
「ん?」
「ちっ」
「??」
漸くタブレットから隣のフキへ視線を動かし見上げるも特に変わった様子もなく。安堵で息を吐き出す前の二人に向け小首を傾げるクルミだった。