たきなの代わりにフキが出向する話   作:沼田もんざえもん

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その4

 

 

 

 

 

 頭の奥で誰かの泣き声が聞こえる。

 

 誰かが横たわる少女の頭から零れ落ちた柔らかな塊を必死に戻そうとしていた。

 

 誰かは背が縮んでしまった少女の脚を抱え重い瓦礫を持ち上げようとしていた。

 

 

 

 頭の奥で誰かの笑い声が聞こえる。

 

 誰かを笑顔で突き飛ばした少女は代わりに穴だらけに。

 

 誰かにと微笑み綺麗な包を用意する少女は白く小さな壺の中に。

 

 

 

( 案外、みんな近くに居たな )

 

 遠くへ行ってしまった筈の、幼馴染や友人達の大小様々な鮮明な影が頭の中で駆け巡るもフキは至って冷静だった。じっと、静かに外の景色を見詰める千束の肩を引き振り向かせる。赤い大きな瞳に辛そうな微笑みが映り一瞬どきりとするも、それが崩れることはなかった。

 

「千束」

 

 聞いたことがない様な優しい声音に、出した本人すらも内心驚きつつ、大きく揺れるその赤い瞳をそっと手で塞ぎ閉じさせる。

 

「見なくていい」

 

 その言葉に千束は何か言いたげな様子で数度口を開けたり閉じたりと繰り返すが、言葉が見付からなかったのか言う気力さえなかったのか、スカートの裾を握り締め俯いてしまう。

 手の下で瞼が強く閉じられるの感じ取ったフキはそっと手を離し、そのまま小さな子供を言い聞かせるかの様に千束の頭を撫で話し始める。

 

「いいか千束。お前はここに居て、私が戻って来るまでじっとしていろ」

 

 これも素直に聞き入れてくれるかと思われたが、首を振る千束は途切れ途切れに、震えながらも何とか否定の言葉を口にする。

 

「・・・も、終わっ・・・た、から・・・帰ろ」

 

 確かに依頼主の、ウォールナットの死の偽装という点では成功で完了しており、これがもし DA での任務ならこの時点で撤収を進める事となる。しかし、フキも千束の言葉を否定する。

 

「それはダメだ」

 

 フキは何時の間にか自分の制服の袖を力なく摘まんでいた千束の手を取り優しく握りしめ、血の気の引いた頬も摩る。

 

「このまま終わっちまったら、ミズキとは直ぐさよならだ」

「あ・・・」

「もう少しだけそのままでいい。迎えも私が呼ぶから、な?」

「・・・わか、た」

 

 小さく頷く千束を見届け、フキは手を重ねたままゆっくりと立ち上がる。

 徐々に離れていく指先に千束は少し力を籠めるが、それ以上フキを引き止めることはしなかった。

 遠くなるフキの気配に連れ、強く意識してしまう外の光景に千束は目を背けたまま膝を抱える。

 

「・・・・・・早く・・・ね」

 

 その情けない小さな呟きに、ようやく自身の動揺の大きさを自覚する千束はもしかしたらと思い返す。

 不自然なほど優しかった幼馴染の態度に。

 だから、嗚呼と。

 

( フキも・・・久し振り、だったのかな ) 










本編よりもだいぶ千束がしおらしい気もしますがあの泣き顔だったのでこうなりました。
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