なので百合ではないです。
多分。
「千束。今年の夏服はもう買ったか?まだならちょっと付き合え」
「千束。お前が観たがってた映画の試写会チケットが取れた。一緒に行くか?」
「千束。水族館の年パス持ってんだってな。ちょっと案内しろよ。は?私持ちに決まってんだろ?」
「千束。夕飯奢るからそっちのオーディオ機器使わせてくれ、欲しかった新譜が買えた。あ?じゃあ代わりに何か作ってやるよ」
「千束」
「千束ー」
「千束?」
「最近フキが優しい」
「・・・・・・それは、良かったわね?」
開店までまだまだ余裕がある暇な時間帯。諸々の準備も終えカウンター席で毎度の如くだらけていたミズキは神妙な面持ちで相談を持ち掛けてきた千束の話に首を傾げていた。
「え、それだけ?」
「ん~~、他に気になる事もあるにはあるんだけど・・・まあ、一応」
何時もは騒がしく生意気でこまっしゃくれた所のある妹分が何やらもじもじソワソワとしおらしく、暗さや重さを感じさせる雰囲気でもなかった為に、これはもしやアレか?恋バナか?と意気込んでいたミズキは肩透かしを食らってしまう。
「そりゃアンタあれでしょ」
「あれ?」
「あんなとこみせちゃあねえ・・・」
思い出されるのは少し前の出来事。
救急車内で泣き崩れる千束。
慰めるフキ。
縋り付かれ涎と鼻水でベトベトになるフキの制服。
起き上がる血塗れの着ぐるみ。
響く七人の絶叫。
クルミとミカのネタばらし。
六人から総スカンを食らうミズキ。
千束に泣いて抱きしめられるミズキ。
抱きしめ返し謝るもそのまま絞め落とされるミズキ。
「後半は余計よ。今話してるのは前半」
「いやまあ。確かにあんなヨワヨワなところ見せたのは久し振りだったけど別に初めてって訳でもないし・・・」
幼馴染に見せてしまった何時振りかも分からない幼子の様な醜態を思い出し顔が少し赤くなるも「それはない」と首を振る千束。
「だってフキが妙に優しくなったのあの依頼より前だし」
「ちなみに、あの子がアンタに優しくして何か困ったことでも?」
「いや別に・・・」
「じゃあ別に良いじゃない。優しくたって」
「でもなんかこう気持ち悪いっていうか・・・あ、フキの事じゃなくてね?こう、頭の中がもやもや~っとするっていうかさ」
要領の得ない千束の相談に今一つ興味の沸かないミズキだったが珍しく頼られているのは理解出来るため無下に出来る筈もなく、取り敢えず無難な所から突っついてみることに。
「他にも気になる事があるって言ってたわね」
「あ~~、うん。でも関係ないかもだし」
「いいから話してみなさいよ。情報ってのは色んな角度から色んな人が見てこそでしょ」
「ん~~~」
「ほら早く」
「でも~~」
せっつくも尚渋り、視線をあちらこちらに飛ばしては座りが悪そうにする千束に対し、ミズキは元 DA 情報部として嘗ては日夜戦う少女達の生存率を上げる為にフル回転で働かせていた頭脳をここぞとばかりに使い始める。
実際に相談したい内容は別で、恐らくはここからが本題なのだろうと。
( フキについての相談事であるのは間違いない。けれどそれは話し辛い内容。クルミの依頼は関係なし・・・ )「・・・アンタ、最近フキが嬉しさの余り優しくなっちゃう様な事とかしたっけ?」
それは軽いジャブ。
千束の反応を見て何に悩んでいるのかを探るもの。
「え?とくには・・・ない、かな?」
急な質問とはいえその内容は人が優しい態度を取り始める理由の一つとしては極々一般的なものである。
しかし千束の返答は NO 。
しかもその答えを出すのに僅かながら時間を要した。
これは千束自身心当たりが無く、端からその可能性を除外していた為、改めて過去の記憶を掘り返していたという事にほかならない。
「じゃあ、アンタを怒らせる様な事をしたとか?」
「全然全然。ないないない」
人が人に優しくなる理由の一つとして機嫌取りも十分あり得る。
ただしそれは相手の機嫌を取るだけのメリットがあってこそ。
ミズキの質問は喧嘩の可能性を考えてのもの。
仲直りが目的というフキ側のメリットを考える。
しかし千束はそれをすぐさま否定。
強く否定はしなかったものの、その回数は多い。
それは自分の方に原因や優しくされる様な理由があるとは考えていないからこその態度。
「優しくされて嬉しいは嬉しい?」
「そりゃまあ。優しくされて嬉しくない、なんてことはないけど・・・」
「ま、らしくない行動よね」
「でしょ!」
千束はその優しさを素直に受け取れない。
そもそもその行為自体が有り得ないと千束は考えているのだ。
付き合いの長い幼馴染としての好意そのものは間違いなくあるだろうが素直にそれを発露させることが出来る性格かと聞かれれば間違いなく NO と言えるのがフキに対する千束とミズキの共通の認識である。
( 問題はフキの方にだけある。それはつまり・・・ )
つまり、後ろめたさが故の優しさ。相手に対し何か疚しさを感じているからこそ普段とは違う行動で接してしまうのだ。
もしこれが今のフキに当てはまるのならそれは彼女の千束に対する優しさは純粋な思いから来るものでは無くなってしまうということに。
ここまで来ればそこそこ付き合いの長いミズキには千束が何を言い辛そうにしていたのか大体察してしまえる。
「アンタ、何か隠し事されてるんでしょ」
「・・・・・・まあ、そうなんだけどさ」
「でも優しくされて嬉しいは嬉しいからフキの気持ちを疑いたくはない、と」
「・・・そーですぅ」
目に見えて不機嫌な空気を出し始める千束にミズキは下らない時間を過ごしたとカウンターテーブルに背を預け伸びをする。
「浮気調査ならクルミに頼みなさいよ~」
「浮っ?!ちっげーしっ!!てか付き合ってもないしっ!!」
半分寝ながら書いてたので後で書き直すかもしれません。