小説は少しずつ読んでいます。
「千束。暇なら管内の視回りに・・・・・・何してんだアホ」
「ぐえっ」
店の奥から顔を出したフキは逃げるミズキに千束がタブレットを振りかざし追いかけ回すという、頭の悪そうなじゃれ合いに興じる二人に一瞬面食らうも、すぐさま切り替え舌打ちを飛ばし止めに入る。
千束の襟首を掴まえ腕を回し押さえ付け、少し前に自分もスカートを捲られ店内で追いかけっこをしていたという事実もなかったかの様に窘める。
「いい歳してガキみたいに騒いでんじゃねえよ」
「そーだそーだ!」
「どうせお前が原因だろうがバカミズキ」
「ぎゃふ?!」
「僕のタブレット!?」
取り上げたタブレットを容赦なくミズキの額へ放り投げる呆れ顔のフキは千束の首に腕を回したまま店の出入り口へ。
「開店まで視回りついでにどっかで時間潰してくる」
「おう。ほどほどにな」
「遅れる程のんびり回らねえよ」
「じゃなくて」
「あ?あ~、すまん」
ハツの指摘で青い顔の千束からようやく腕を外すフキは大きく息を吸うその背中を摩りつつ外へ。
その後ろ姿をギャーギャーとまだ落ち着かない二人に挟まれるハツは「やっぱ仲良いよなあ」とぼんやり見送る。
「まあ、仲が悪いってんじゃなし。どっちでもいいっちゃあいいんだが・・・」
「どうした?随分と騒がしいが」
「ああ、店長」
遅れて奥から顔を見せるミカにハツは床の上で未だもんどり打つ眼鏡よりは詳しい話が聞けるかと、つまりはただ何となく、二人から「先生」呼びされている所を見るに漠然と師弟関係なんだろうなあというイメージから軽いノリで訊ねてしまう。
「店長は知ってるよな、あの二人の関係」
「どの二人の関係だ?」
「錦木と春川だよ。付き合ってんだろ?」
「え?」
発端は千束の相談とはいえ本人の居ない所で惚れた腫れたの話 ( 勘違い ) を保護者枠の人物へ不躾に世間話感覚で尋ねてしまったのは偏にこれまでの気安い空気感に加え、ミカの性的指向や千束の保護者代わりであるという事を知らなかったのも大きい。
「・・・まさか、千束
「「も?」」
別に隠す様な事でもないが態々改まって中年男性の恋愛観を三十半ば辺りな新入り従業員と年齢不詳の見た目幼女な居候に話す事でもなかった為に、当然それは思わぬカミングアウトという形で二人にそこそこの驚きをもたらす。
しかし、一番驚きを受けていたのは世間話感覚で自身が考えもしなかった身近な子供達の秘密 ( 勘違い ) を教えられてしまった方であり。
「いっ、いやだが・・・そうか、そうなのか?」
そうとは見ていなかっただけで実際には何やら心当たりでもあるのか、これまでの教え子二人の、娘とその幼馴染の挙動を振り返る父親はふらふらと小上がりになっている座敷席の縁へ座り込んでしまう。
「千束、フキ。何故話して・・・いや、察して欲しかったのか?私になら気が付いてもらえると?だとしたならやはり私はお前の親代わりには・・・」
例え千束もそうだったとしても自分になら話してくれる筈だ。むしろその様な事で悩む素振りでもあろうものなら真っ先に自分が気付き相談に乗れる筈だ。
そんな無根拠な自信がミカにはあった。
だからこそ受けた衝撃の大きさは人一倍なもので。
「・・・すまないっ」
本来なばそこまで深刻にすべき事柄でもない筈なのに、過去のあれやこれやに対する千束への個人的な後ろめたさもありミカの中で話が勝手にどんどんと大きく膨れ上がり重くなってしまう。
育ての親という自負と家族ならこれくらい出来て当たり前だろうという無意識に課していたハードルの大きさに気が付かず押し潰され頭を抱えるミカに、大事になってしまったと悟るミズキはこっそり逃げだそうとするも当然二人がそれを許すわけも無く。
「おい、ミズキ。お前が知っていてミカが知らなかったなんてことがあるのか?」
「俺の無神経が原因だってのは分かるがあれじゃあ謝るに謝れねえ。ちゃんと説明しろ」
「あ、あははは・・・」
両脇に腕を通され二人にミカの居る座敷席へ引き摺られるミズキは笑って誤魔化そうとするも見逃されることはなかった。