たきなの代わりにフキが出向する話   作:沼田もんざえもん

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最近方々で二人に関する供給が増えて嬉しい限りです。
ハピバ!


その4

 

 

 

 

 

 

 

「あの、さ・・・」

「・・・・・・」

 

「その・・・」

「・・・・・・」

 

「えっとね・・・」

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

「ごめん。やっぱいい」

「ああ」

 

 もう何度目になるかも分からない無益な遣り取り。

 言いたいことも聞きたいことも纏まらない状況。

 それに文句も言わずただ黙って付き合うフキの態度に千束はやはり以前とは違うものを感じてしまう。

 

( 少し前だったら “ 何が言いたいのかハッキリしろ! ” ・・・ってイライラし出しててもおかしくないのに )

 

 ここ最近の流れで誘われるがまま、フキに腕を引かれ町中を行く千束は指まで絡められた重なる掌を見詰める。

 フキがリコリコへ移動してきた初日に千束が軽いノリで絡めた際には嫌そうに払われてしまったが、今は何も言わずフキから絡めてくる事の方が多かった。

 

( なんだかなあ )

 

 それらは豹変、とまでは言わなくても明らかに普段とは違う行動。

 些細なことで口喧嘩や意地の張り合いに興じ、先程の様にふざけた姿を見せれば手荒く窘められることもある今まで通りの行動の中に差し込まれる違和感。

 ただそれは千束にとって不快なものではなく、さりとて茶化して指摘できる程に気安いものでもなかった。

 

( 何時振りかなあ )

 

 互いに腕を引き合い手を重ねる。そんな時分が確かにあったことを千束は思い出す。

 太腿に頭を乗せられ、足を引き摺られつつ背負われ。胸は苦しくとも確かに嬉しさと温かさを感じていたことを。

 何で私だけ。そんなことを呟いたのは映画の中の誰かだったか、一人でいた時の自分だったかは忘れてしまった千束でも、それは確りと覚えていた。

 

( 早く話してくれればいいのに・・・ )

 

 ミズキに言われずとも何か隠し事をされているのは千束も気が付いていた。

 ただ、優しく接するのは隠し事の後ろめたさ故ではなくミズキの指摘通り、普段とは違う行動に喜ばせつつフキの気持ち(優しさ)を疑いさせその罪悪感から強く言及させない為のものだろうと千束は当たりを付ける。

 知らない誰かとの仲の良さを見せ付けるのも友人を取られまいとする千束の嫉妬心や独占欲を煽り気を逸らさせ原因がそこにあるとミスリードさせるものだろうと。

 そしてほぼ間違いないと思われるフキの不自然な行動の答えに行き着いた千束は空いた手で顔を覆ってしまう。

 

( ・・・いや本当に何なの??ていうか私のこと大好きかよっ?? )

 

 顔を真っ赤にして口元を上下に引きつらせる千束は声にならない甲高い鳴き声を上げる。

 そう。これら全て千束がフキを友人として大切に想っていることを前提に何をすれば喜び何をすれば不機嫌になるかを理解しての行動なのである。

 

( でもって確実に “ うっわチョロ。コイツ私のこと大好きかよ ” とか思われてるぅ~~っ!! )

 

 更にまんまとフキの狙い通りの行動をしていた自分に千束は悶え地団駄を踏む。

 もう隠し事が何なのかなんてのは如何でもよかった。

 いや、よくはなかったがそれを上回る羞恥心に千束は打ちのめされそうになる。

 

「いっしょひちょおもひにこりょせぇ・・・」

「・・・さっきから何バタバタもにゃもにゃしてんだよ」

「うるしゃいやい」

 

 流石に奇行や奇声まで黙って見逃すことは出来なかったのか、立ち止まり振り返ったフキは咄嗟に肩紐を外してまで顔を隠すのに使う千束の鞄を何がしたいんだと戸惑いつつも取り上げよう空いた手で引っ張る。

 

「態々両手塞がない様にしてんだから鞄から手を放せ」

「なんだよぉ。だったら繋いだ手ぇ放せばいいじゃんかよぉ」

「だったらお前から指解きやがれ。さっきから手汗が気持ちワリィんだよ」

「何か負けた気がするからやだ~~」

 

 

 

 

 

 

 

 グイグイと腕と鞄を引き合う二人。

 先に折れたのはフキの方だった。

 

「はあ。もう鞄はそのままでいいから、ジタバタ騒ぐんじゃねえぞ」

「・・・うん」

 

 フキに腕を引かれ千束は再び歩き出す。

 らしくない。

 それはフキだけではなく千束自身にも当てはまることだった。

 ウォールナットの護衛依頼より前から、しおらしくなよなよとフキに甘えている自分に自覚があった。

 流石に仕事でまたあの様な醜態を晒す気はない千束だが、差し出される掌に何の迷いも無く重ねてしまっているのも事実で。

 

( 嫌だなあ。私だけ縋り付いてるみたいで・・・ )

 

 対等な存在。

 隠し事よりも醜態よりも、それが揺らいでしまうことに対する不安の方が千束には大きかった。

 同期で同室で幼馴染みで犬猿の仲で親友でライバルで。

 倒れた所を受け止められることはあれど、確かに昔は千束からフキの方へ寄りかかるなんてことはなかった。

 それは十年前の手術後も変わらず。

 リコリコと DA 。

 ファーストと候補生。

 生きる場所も制服の色も使う弾丸も全てがバラバラだった。

 それでも、その全てが同じになるまでの間でさえ確かに対等だったのだ。

 

( ・・・十年、かあ )

 

 らしくない。

 覚悟も理解もしていた筈だった。

 それでも十年振りに、毎日隣に立ってくれる存在に千束は無意識の内に寄りかかってしまっていた。

 

( こんな情けないパートナーじゃ、隠し事されて当然か・・・ )

 

 広い様で狭い二人部屋の中、毎日毎日顔を会わせて話して笑って喧嘩して怒られて。

 秘密や隠し事なんてなくて、あっても直ぐバレて。

 それが当たり前だったことを千束は思い出す。

 優しくなったんじゃない。

 優しくさせてしまっていた。

 それに気が付くことが出来た千束の行動は早かった。

 

「フキ」

「んだよ」

 

 鞄を肩にかけ直し、自分から立ち止まった千束は腕を引いてフキを振り向かせる。

 その些か急で強引な行動に、それでもフキはバランスを崩すことなく静かに千束へ向き直る。

 

「ありがとう。でもって、フキの旋毛を眺めるのはちょっと飽きちゃったかな」

 

 腕を引かれ後ろを付いて行くのではなく隣へ。

 どこかスッキリと、晴れ晴れとした笑顔を千束は隣に立つフキへ向ける。

 

「前みたいに並んで歩いてくれる?」

「・・・だったらウロチョロ余所見せず落ち着いて歩きやがれ」

 

 ぱっと手を放し制服の裾で払うフキに千束はすぐさまその腕を抱え再び掌を重ね合わせてしまう。

 

「おい」

「ウロチョロして欲しくないんでしょ?だったら繋いでなきゃ!」

 

 ニヤニヤ笑いに変わった千束の顔を見てフキは舌打ちを飛ばすも、「・・・ま、今日ぐらいは我慢しといてやるよ」と指も絡め。

 

「あんま強く握んなよバカ(ぢから)

「自分から指絡めといてそれぇ?」

「ここまで来て逃げられるのも癪だからな」

「逃げるって・・・何が?」

「お前が」

「私が?」

 

 首を傾げる千束を無視しフキは空いた手ではなく掴んだままの手を動かし人差し指を向ける。

 つられて目を向けたその先には。

 

「山、岸・・・医院」

「おう」

「何で??」

「今月は採血二本分に注射三本なんだってな」

 

 その場から動こうとしない千束の腕を引きフキはずんずんと進む。

 

「ねえ。もしかして最近あっちこっちに連れてってくれたのって・・・」

「リキにもよく同じ手使ったろ」

 

 出入り口前の柱にしがみつこうとする千束の脚を払いフキは自動ドアを潜る。

 

「じゃあ最近妙に優しかったのも?!」

「山岸先生ー、千束連れてきましたー」

「いーーやーーだーーーっ!!」

「ジタバタ騒ぐなつったろ!!」

 

 開店後、お互い爪を立て合って赤くなった手の甲と千束の泣き跡を見てミズキの弁明と説得が無駄になったとかなかったとか。

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