たきなの代わりにフキが出向する話   作:沼田もんざえもん

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その2

 

 

 

 

 

 

「京都支部じゃやんねえのか」

「多分どこの支部でもやってませんよ」

 

 つい先程までの泣き声が嘘の様に、大人しくフキの腕の中に納まる赤ん坊を見詰め、たきなは憮然と答える。

 東京支部内でもこんなことをしているのはこのチームだけなのではなかろうかと、普段は司令部からの命令とリコリスとしての使命を第一に考え行動するフキのらしくない行動に内心呆れつつ、それでも一応チームの一員なのだからとたきなは余計な詮索はせずに口をつむぐ。

 もっとも、半年近くも共に行動してきたパートナーはその程度の機微は言わずとも解るらしく。

 

「お前、これがリコリスの使命に関係のない余計な行動だと思ってんだろ」

「・・・・・・」

 

 分かってねえなあコイツ、という目と溜息にたきなは早くも口を開きかけるも寸での所で押し止まる。

 何故か負けた気になり勝手に意地を張り出すたきなは口を閉じたまま視線だけで説明を求め、そんなたきなにフキは赤ん坊を抱えているからか、普段よりも幾分か柔らかな口調で語り出す。

 

「知っての通り、表沙汰になってないだけで孤児の失踪率はかなり高い」

「・・・・・・」

「出生届も戸籍もある孤児ですら、何時の間にか消えてそのまま忘れ去られるなんてこともざらだ」

 

 養成所でも教えられる隠された国の内情の一つ。

 自分達は運が良かった。

 口にはしていなかったが、たきなは確かにそう言われた気がした。

 

「クリーナーに全部任せても結局は DA 管轄下の外の施設行きだが、女児は違う」

 

 それは自分達の後輩となり未来の国防を担う存在となる可能性。

 

「素養があれば DA に。なければそのまま別の施設か里親へ」

 

 薄暗いリビングの中、一人また一人とリコリス達が集い、フキの言葉に耳を傾けつつたきなが持つ手提げ袋に探していたものを入れていく。

 手縫いらしきベビーウェアに小さな桐の箱。

 使い込まれた哺乳瓶とおしゃぶり。

 包装されたままの可愛い箸とフォークにスプーン。

 それらは養成所のリコリス達には必要のない物。

 けれど、安全で安心な世界では確かに必要な物。

 

「何も知らないままならそれで良い。ただ DA の中じゃそうもいかん」

 

 赤ん坊を器用に片腕で抱え直す少女は消音器付の拳銃を引き抜く。

 倣う様に少女達も消音器付きの拳銃を手に、床に膝を突き涙を流す女性へ向ける。

 

「ある程度デカくなれば自分の産まれや身の上を知る可能性も出てくる」

「・・・私達が親の仇だと知る可能性も、ですか?」

「そうだ」

 

 それは小さな可能性。

 この国を守るということは見ず知らずの親を助けるということであり、同時にこの国の為に戦うということは見ず知らずの親を殺してしまうかもしれないということ。

 そしてそれらは己自身にだけではなく組織全体にも言えることで。

 育ての親が。

 仲間達が。

 パートナーが。

 誰かが誰かの恩人であると同時に仇でもある可能性があった。

 

「・・・いいんですか。復讐に来ても」

 

 よくはないだろうなと思いつつも「私は嫌だ」と言わなかった時点で、もしくはそれよりももっと前に、たきなの覚悟も決まってはいた。

 それでも確認せずにはいられなかった。

 

「そん時はそん時だ。我々はリコリスとしての使命を優先する」

「・・・・・・」

「お前は如何する」

 

 向けられる十四の瞳から少女は目を逸らさなかった。

 少女は俯き涙に濡れる女性の胸元で光るペンダントを正面から抱きしめるかの様に、優しく腕を回し首から取り外すと、随分と重くなってしまった肩の手提げ袋にそっと仕舞い込む。

 

「その時は私もリコリスとしての使命を全うしましょう」

 

 八つの静かな銃声が重なる。

 国の為、使命の為に腕の中の赤ん坊に恨まれることを良しとした少女達は引き金を引く。

 

( 貴女達だけが背負うことはない )

 

 少女は想う。

 きっと最初は、歴代のファースト達が一人で済ましてきたのだろうと。

 そして隣の彼女もまた、自分達が嫌だと断れば何も言わずに一人で済ましてしまうのだろうと。

 

「お前の親を殺したのは他でもない私達の意思でだ」

 

 何時の間にか小さな寝息を立てていた赤ん坊に小柄な少女は語りかける。

 

「お前が何時か親の仇を恨むのなら、それはこの国に対してじゃない」

 

 それは少女達の覚悟であり、赤ん坊に向けた国防の為の呪いの言葉。

 

「私達を恨め」

 

 本部の大人達も知らない、少女達のささやかでおぞましい儀式だった。 

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