たきなの代わりにフキが出向する話   作:沼田もんざえもん

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その3

 

 

 

 

 

 

「親子・・・ですかね?」

「新しい常連さん?」

 

 定休日以外でも時たま急に休みとなることが珍しくない喫茶リコリコ。

 常連客達のボードゲーム会が開かれるこの日も、実際は営業日にも関わらず日中はその戸口を締め切ったままだった。

 ただ中止の連絡も無く店の明かりも点いたままとなれば、集まった常連客達は Close の掛札も何のその、何時もの事だと気にせず鍵の掛かっていないドアから店の中へ。

 そして出会うのは二階席下の奥の座敷席で横になる小柄な女性と赤ん坊の姿。

 

「誰か知ってる人いる?」

「う~ん、どっかで見かけた気もするけど」

「あんまりジロジロ見ちゃ失礼ですよ」

 

 毛羽立ったスポーツ用のスウェットパンツに大きめの色褪せたTシャツと、正に育児の為の汚れてもいい部屋着姿といった茶髪でショートヘアな女性が丸々とした赤ん坊と一緒に一枚のタオルケットを腹にかけ眠っていた。

 ぼさぼさに乱れた長い前髪で目元は覆われ女性の表情は窺えないものの、疲弊した様子はありありと見て取れ、日頃賑やかな常連客達もこれは起こしちゃ不味いと静かに一番離れた席へ。

 

「そういえば店長、出てこないね?」

「クルミちゃんも居ない感じ?」

「不用心だなあ。赤ちゃんも居るってのに・・・」

 

 ボードゲームの準備をしつつ、姿を見せないリコリコメンバーに常連客達も首を傾げる。

 

「・・・もしかして今日、中止とかだったりしない?」

「千束ちゃんが連絡し忘れてる可能性もあるわね」

「あー、確かに」

 

 それならちょっと電話かけて確かめてみるかと、伊藤は遠慮なく千束の番号へ。

 しかしコール音が続くばかりで終いには留守番電話の案内が。

 

「・・・出ない」

「店長もダメだな」

「クルミちゃんも同じく」

「誰かハツさんの番号知ってる?」

「ミズキちゃんはまあ・・・普段から出ないしかけなくていいか」

 

 千束へのコール途中ですでに見切りを付けていた山寺と北村も電話をかけるも繋がらず、通話を諦め SNS のグループチャット欄へ書き込むことに。

 ハツはまだ常連客達との適切な距離感を測っている最中らしくゲームも閉店後に時たま参加する程度で連絡先も分からず、ミズキに至っては普段の行いのアレさ加減故に出ないだろうと全員が確信していた。

 

「残るはフキちゃんかあ・・・」

「迷惑だったりしないかな?」

「バイト掛け持ちしてるって言うし、どうだろ」

 

 今年の春からリコリコで働き始めたフキに対し、ハツとは違いこちらは常連客達の方が距離感を掴みあぐねていた。

 千束の幼馴染で同い年。

 同じ学校の制服を着込むクラスメイト。

 ミカのことを千束と同じ様に先生と呼び慕っている。

 箱入りの様で少し前までは自販機でジュースも買ったことがなかったなど話題に事欠かない少女。

 

「何時もビシッとキメて真面目に仕事してるから気軽に声かけ辛いんだよねえ」

「なんかこう、デキる上司感が漂うというか、昔から学校には必ず一人は居る口も手も出る風紀委員長タイプというか・・・」

「分かります。分かりますよ。千束ちゃんやミズキさんを尻に敷いて上手くコントロールしてる感がもう」

 

 うんうんと頷く後藤に「そうそう」と、米岡と山寺も同意を見せる。

 男性陣からは苦手というよりは頭が上がらないタイプでフキは通っていた。

 一方女性陣からは。

 

「( 電話位で浮気疑われたりしないよね? )」

「( どうだろう・・・千束ちゃん嫉妬深いらしいし、不味いんじゃない? )」

「( フキちゃんが他のバイトのヘルプに行ってる日なんかあからさまに不機嫌だもんねえ )」

 

 店員内での誤解は解けたものの女性の常連客達の間では未だにフキと千束は恋仲で通っており、あまりそこには触れずそっと見守ろうという空回りした優しさから誤解されていること自体も千束達には知られていない状態だった。

 

「阿部さんか三谷君が居ればなあ」

「あの二人に対しては正に借りてきた猫って感じだよね」

「ハツ君やクルミちゃんも二人にはまだよそよそしさがあるけど、まあ刑事だって知れば誰だって身構えるからねえ」

「居ない人達に頼ってても仕方ないですし、取り敢えずかけてみますか」

「フキちゃんもダメだったら今日はこれでお開きですね」

 

 戸締りの心配をしつつ、身元の分からない赤ん坊連れの女性も起こさなければと常連客達は静かに話し合う中、数コール続く発信音と着信音が店内で同時に鳴り響く。

 

「「「「「えっ?」」」」」

『「・・・はい。春川ですが・・・もしもし?』」

 

 明らかに寝起きで不機嫌、更には疲労困憊といった声がスマホの通話口と同時に奥の座敷席からも届いてきた。 

 

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