たきなの代わりにフキが出向する話   作:沼田もんざえもん

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何時も通り色々と夢見がちです。








その4

 

 

 

 

 

 

 

「見苦しい格好ですみません」

「そんなことないわよ」

「そうそう。〆切に追われてる時の俺達の方がもっと酷い顔してるって」

 

 作り置きのアイスコーヒーを取り出すフキを手伝い、一緒にキッチンに入りグラスと氷を用意する伊藤と米岡は気にするなと笑いかける。

 しかし、その草臥れ具合に普段との印象が違い過ぎて、一目で赤ん坊の横に眠る女性がフキであると気が付けなかったのも事実である。セットされず下ろされたままだった前髪を乱雑に掻き上げ、ヘアピンで留めて現れたフキの顔には確かに疲れが見て取れた。

 その見慣れないフキの様子に赤ん坊をデレデレと締まりのない顔で囲んでいた山寺達も不安気に声をかける。

 

「いくら親戚の子だからって、ほぼ一人で赤ちゃんの面倒を見てただなんて・・・」

「店長やミズキさ・・・ハツさんとかにちゃんと頼れてる?」

「我々も何時でもと言う訳にはいきませんが、お店に居る時位なら手伝えますからね」

「ありがとうございます。何かあればその時に」

 

 コーヒーを並べ終え頭を下げるフキの寝起きにも関わらず普段と変わらない背筋の伸びた、堂々とした姿勢の良さが常連客達の目には無理を気丈にも押し隠しているかの様に映って見えてしまう。

 勿論。

 そう見えているだけであり、齢一桁の頃から日夜問わず銃弾の飛び交う世界で生きてきた少女の肉体と精神が数日そこらの夜泣きや寝ぐずりで簡単に音を上げる筈も無く。

 

「寝不足や疲労感は否めませんが、許容範囲内です」

「本当かい?」

「はい。近くに掛かり付けの医院もあるので、何かあればこの子共々診てもらう事に」

「学校に行ってる時は?」

「先生達が見てくれています」

 

 割と本心で事実も織り交ぜつつ、千束曰く猫を被った、落ち着いた大人しい態度で受け答えをするフキだったが、世間知らずの箱入り娘というフィルターを通している常連客達から善意という名のお節介な追及は止まず。

 

「預け先の保育園が見付かるまでっていう話だけど、目処は立ってる?」

「今月中には」

「よく手伝いに行ってるていう保育園は?」

「あそこは三歳からなので」

「そういえばこの子の名前なんていうの?」

「・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

「・・・DA の施設に入れちゃうの??」

「・・・いや、何で入れられないと思ってたんだよ」

 

 千束は赤ん坊との手遊びを止めポカンと間の抜けた表情を隣でベビーウェアを畳むフキに向ける。

 

「リコリコで預かるって・・・」

「施設の空きがねえから都外での受け入れ先を探して見つかるまでだって説明したろ。ここで育てるだなんて一言も言ってねえ」

 

 相変わらず人の話を聞かない千束に呆れイライラと乱れた前髪を掻くフキは纏めた衣類を押入れ内の籠へ。

 

「じゃ、じゃあ DA とか関係ない普通の施設に・・・」

 

 千束の咄嗟の提案を聞いてか、襖を開けた際に上の段からクルミがチラチラとこちらを窺うも視線すら合わそうとしないフキはすぐさまぴしゃりと閉じてしまう。

 

「発見場所が DA 支部扱いの(ここ)の裏口前だ。警察に届け出た際にその記録は残るから候補生探しの際には必ず引っかかる。結局は遅いか早いかの違いだろうが」

「ボクならその記録ごと改ざ ─── 」

 

 内側から開かれた襖をフキは後ろ手に止め、今度は勢い良くスパァンと閉じる。

 

「その場合、当たり前だがこちらからの接触は今後何があろうとも二度と無しだ」

「・・・・・・」

 

 襖が開かない様に背中で押さえ、腕を組むフキは千束を見詰め淡々と語る。

 

「そいつに普通の孤児の暮らしをさせたいなら我々は関わるべきではない」

「でも、リコリコ(ここ)でなら普通の施設や DA よりも・・・」

 

 寝不足も相まって普段よりも数段険しいその視線から無意識の内に顔を背ける千束は赤ん坊との手遊びに戻ろうとするも、フキはその曖昧で無責任とも取れる態度を許さない。

 

「今度はそいつを先生に押し付けんのか」

「違っ、そんなんじゃない!!」

 

 千束の大声に驚き、先程まで手遊びに興じて機嫌良くクーイングまでしていた赤ん坊がみるみる顔を真っ赤にぐずりだす。

 

「えっ?!あっ、ちょ!?」

「退いてろ」

 

 フキは慌てふためく千束を押し退け、赤ん坊を横抱きに優しく揺れる様にあやし始める。

 火がついたように泣き叫ぶ声が瞬く間の内に納まり、フキの横であわあわと手をこまねくことしか出来なかった千束は胸を撫で下ろすもその顔は曇ったままで。

 

「・・・そんなつもりじゃないよ」

「・・・」

 

 その呟きに、赤ん坊の濡れた頬を拭うフキは応えない。互いに視線も向け合わず、赤ん坊が目の前で揺れるフキの長い前髪を掴もうと伸ばす小さな掌に千束は横から人差し指えを添える。

 

「フキがこっちに来てから人が増えるばっかりだったからさ」

 

 押入れの中のクルミには届かない、フキと赤ん坊のみに向けた優しく囁く様な言葉だった。

 

「クルミの護衛依頼の時に私が撃たれなかったのも、ハツさん達が転職して普通に働きだしたのも、全部フキのおかげじゃん?」

 

 思いの外、人差し指を掴む赤ん坊の力が強く千束は指を痛めたら不味いと咄嗟に指を引っ込めようとするも、どうにも普段の自分からは離れたフキに近い考え方の様な気がして、それが可笑しく感じ思わず笑みを溢してしまう。

 

「だからきっと、フキがこの子を抱えて“拾った”だなんて言うもんだから、この子もここの「名前」・・・え?」

 

 離そうかどうかと悩んでいた人差し指に心地よい熱が灯る。

 

「 DA の施設じゃ名前持ちなんて面倒事の元だが、普通の施設にやるんなら必要だろ」

「それって・・・」

「お前が決めろ」

 

 今度は向けられるその視線に、精一杯の譲歩を含んだその言葉に千束は背を向けず、それでも首を振り答える。

 

「ありがとう。でも、それはきっと私がするべきことじゃないよ。だってそれは ─── 」

 

 

 

 

 

 

「ふみちゃんか~」

「春川ふみちゃーん。こんばんわー」

「やっぱり片仮名?それとも漢字?」

「漢字だとちょっと堅苦しい気がするし、平仮名なんじゃない?」

「ねえ、どっちどっち?」

「あ、かっ・・・カタカナデ」

「・・・フキちゃん顔真っ赤だけど大丈夫?」

「本当だ。ごめん、疲れてるのに騒ぎ過ぎたね」

「ぃぇ」

 

 それは常連客達に加えハツとクルミも知り得ない事だが、春からほぼ毎日と言ってもいい程、幼い頃の様にミカと顔を合わせ続けたフキは慣れたのかそれらしい態度を上手く隠し始めたのである。

 赤面は勿論。どもりや小声といったミカに対するあからさまな反応は鳴りを潜め、間近でその様子を眺めていた千束とミズキからは最近落ち着いちゃって面白くないなあと思われる程だった。

 しかしこれは以前からフキのことを知る二人だからこその反応で、時たま見せてしまうボロに対して常連客達からはアルバイト先の店長で大柄なアフリカ系男性という慣れない存在に対する緊張から来る箱入り娘特有の反応だと思われていた。

 

( ・・・フミって、バカか私は!! )

 

 咄嗟に出て名付けてしまった赤ん坊の名前の由来と羞恥の余り悶え振るえる理由を知らない常連客達は小柄な少女の容体を心配するばかりだった。







お気に入り、誤字報告、ここすき等ありがとうございます。
特にここすきが一気に増え驚いています。
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