「先行くぞ」
「えっ?ちょ、早っ?!待って待ってもう終わるから!!」
ヴァイオリンケースを片手に、非常階段を降りて行くフキの後ろ姿に千束は狙撃銃の分解も中途半端なまま急いでギターケースへ押し込むと肩に担ぎ後を追う。
カンカンと、一定のリズムで響く音にガダダダッと雑音が混じり、程なくして二人の足音は静かに重なる。
「せっかちな現場リーダーは嫌われんぞ~」
「そっちの手際の悪さを棚に上げてんじゃねえよ」
「それは仕方ないじゃん。リコリスって基本長物使わないんだしぃ」
「使えてこそのファーストだろうが」
「ふぅーん」
先程の口喧嘩が尾を引いているのか、態々狭い非常階段で横並びになりちょっかいをかけてくる千束に苛立ちを募らせるフキは足音を速める。
「隠れてたヤツも見付けれなかったクセにファースト語っちゃうんだあ」
「ああ?」
再び横に並ぶ足音だが今度は段差を一つ飛ばしにフキを追い抜いて行く。
「見付けといて見失うアホがデカいツラしてんじゃねえ、よっ」
「んだとこら?」
更にもう一段二段と、ほぼ落ちる様な形で段差を飛ばし降りるフキだったが、ダンッと一際大きく響いた踏み込む音に思わず足を止め振り返ってしまう。
顔にかかる影の中、白色の生地は嫌でも目についた。
「フキのエッチ」
頭上を飛び越え、ズダンッと踊り場に着地して見せた千束は得意気にフキを見上げる。
しかし当のフキはその絵に描いた様な生意気な顔ではなくその足下を見詰め。
「・・・お前、太ったろ」
「え?」
それは無意識だった。
若干引き気味の視線の先を何時も通りの慣れた動作で、正確に、無警戒のままに追ってしまったのだ。
「・・・えっ?」
幾ら普段の鞄に加え金属カップ入りのローファーや銃器入りのギターケースを装備中とはいえ、その予想以上の凹み具合に千束は顔を青ざめさせ固まってしまう。
「・・・えぁ?・・・えぇ?」
両足を中心に大きく窪んだ踊り場を直視出来ないのか、この非情な現実を否定して欲しいのか、震える大きな赤い瞳がフキへ再び向けられる。
「その、あれだ。私もその装備でこの高さから飛び降りればそんな感じには・・・」
然しものフキも、「え?」しか発しなくなった相棒の姿を不憫に思ったのか、フォローの言葉を口に。
「・・・まあ、なる訳ねえよな」
する筈もなかった。
連続して響く小さな発砲音をとらえた瞬間、裏通りの階段口で出待ちしていた四人のサードリコリス達は逸早く体勢を整える。
音の発信源が頭上であり、その高さ故の小音だと判断を下した彼女達は一人が鞄を掲げ一人がその影に入り銃を構えるという姿勢を採った。
「井ノ上さん達と連絡を」
「今呼び出しています」
「フキちゃんと千束ちゃんからは?」
「・・・ありません」
四人の内誰かが、もしくは全員だったかもしれない。
息を呑み込む音が銃声に混じる。
「つまり、ファーストが二人係で対応を?」
発砲音は徐々に大きく、更には回数も増していく。
ファーストリコリス二人を相手に立ち回る得体の知れない何者かが現れた。
その事実に四人の緊張は一気に高まる。
「本部に繋ぎます!」
「止しなさい。先の作戦終了後、その本部の方から何の連絡も入らない時点でここは既にラジアータの管轄外よ」
「・・・ということは」
「うん。本部の準備が整う頃には交戦終了かな」
相手の人数。
武器の種類。
その目的。
何もかもが不明瞭な状況のなか、それでも明確に定められた瞬間が彼女達に訪れてしまう。
「二人は井ノ上さん達と合流しなさい」
「なっ?!」
解いたリボンタイで両肩にかけていた後ろ髪を一纏めに縛りつつ決断を下す。
「私達はフキちゃん達の援護に回りつつ出来るだけ情報を流すから、後はたきなちゃんの指示に従ってね」
「・・・でっ、でも」
茶髪のショートボブを揺らし笑顔で、戸惑う二人の背中を押し覚悟を決める。
今日がその時なのだと。
勿論。
今日がその時なこともなく。
「しゃぁッ!!いっちばあぁー・・・ん、って皆さんお揃いのようで」
二階の高さからコンクリの地面へ、ワイヤーと回転で勢いを殺し着地を決めた千束が唖然とする四人の前でなんとも尻窄みな勝鬨を上げ、そのまま気まずい沈黙が流れること数秒。
手摺を掴みつつではあるがワイヤーも無しに三階の高さから、スカートを押さえる余裕も見せ無傷のまま静かに地上へ着地したフキは「見られて恥ずかしがる様なはしゃぎ方してんじゃねえよ」とぼやく。
「無駄弾撃ちやがって。一発幾らすると・・・どうした?」
「あー・・・私のせい?呆れさせちゃった?」
「お前に失望される程の人望なんてないだろ」
「それもそう・・・ってオイっ!!」
「見ての通り馬鹿が馬鹿騒ぎしてて目立つ。人が来る前にさっさと撤収するぞ」
「無視すんなよ~~」
緊張の糸が切れがっくりと肩を落とし項垂れる四人の前を二人は尚やいのやいのと喧しく過ぎ表の通りへ。
「・・・懐かしいわね」
「あの二人が揃うと、何時もこんな感じだったよね・・・」
「その、お疲れ様です」
「・・・早く帰って休みましょう」
落とした肩に鞄を、そして銃を収めた四人は周囲を気にするフキに急かされ後を追うのだった。
思ってたよりもふざけてたので書き直すかもしれません。
最後少し修正しました。