「でっかい犬ですねえ、オオカミみたい!」
膨らんだレジ袋を二つぶら下げ買い出しから戻ってきた錦木千束は、喫茶リコリコの前で出くわした散歩中の犬に飼い主の許可を得て撫でようとするも両手が塞がっている事実に気づき開店準備もあるからと諦め手を振りドアを背中で押し店内へ。
「店前で騒がしいぞ。近所迷惑だろうが」
「うっせえ。そのご近所様との交流だろうが」
「犬触ったんならさっさと手ぇ洗ってこい」
「触ってません~。両手塞がってましたあ~」
「触ってなくても手洗いうがい必須だろうが飲食店従業員」
「従業員でもないフキに言われたくな・・・・・・フキ?」
入ると同時にかけられた声にテンポ良く反論しつつ、両手のレジ袋を座敷席に置きそのまま手を洗いに行こうとした千束はようやく店内に居る筈のない存在に意識を向ける。
「・・・いや何で居んの?」
目を丸くする千束の先には喫茶リコリコのもう一人の女性スタッフ、元 DA の情報部員、中原ミズキにたすき掛けを手伝ってもらっている紫色の着物姿のフキが。
千束の疑問にカウンター向こうの男性、この喫茶店の店長で元 DA の司令及び訓練教官だったミカが答える。
「リコリスが一人来ると話したろ」
「いやいやいやセカンドって話だったじゃん!ファーストじゃん!!しかもベテラン!!何っ?!降格でもしたの!?」
何時もの様に大声で元気よく返す千束に詰め寄られたフキは耳を押さえつつやはり何時もの様に舌打ちを飛ばす。
「私がセカンドに降格ならテメエは今頃サードだろうが。もっと自分の立場自覚しろ大ベテラン。さっさと後進に任せて引退しやがれ」
「はあ?なあんで私が引退する話になってんのっていうか何でフキが来てんのかって訊いてんだけど??」
「ああ?私が来ちゃ何か問題でもあんのか元看板娘。ここは私が引き継ぐって言ってんだろ」
「んだとこら」
「やんのかこら」
「相変わらず仲良いわねえ」
「「ミズキうっさい!!」」
「あ~やだやだ。喧しいのがふ~えた~~」
ミズキにちょっかいを入れられつつ、止まる気配を見せない久し振りに見せる二人の舌鋒にミカは静かに首を振った。
「いや~、ほんとごめんなさいねえ~。悪いヤツじゃないんだけどほら、ああいう性格だからさあ」
「お前は私の保護者かっ」
「イタイっ?!」
「もう切るぞ・・・あ?知るか。じゃあな」
「叩かなくたっていいでしょって何勝手に切って・・・ちょ、ギブギブギブっ?!」
取り上げられ叩き付けられた受話器を再び取り寮の管理室へ、たきなへ取り次いでもらうため電話をかけ直そうとする千束の腕を取るフキは関節を極め抑え込もうとしていた。
「フキ、そろそろ怪我をする前に止めなさい」
「はい、先生」
「うわっちょ急に放すな!」
「千束、お前もだぞ」
「ええ~私も~~?」
あれから喫茶リコリコへ来た経緯を一部ボカシつつ語ったフキに千束は何を思ったのか店内の電話へ跳び付き、その聞こえよがしの通話内容に今度はフキが千束へ跳びかかるという事態に。
「私なにも悪い事してないじゃん」
「余計な事し過ぎなんだよ」
「誰かさんの為に間取り持ってあげてるだけだしぃ」
「誰も頼んでねえだろ」
「あれれ~?誰もフキの為だなんて言ってないんだけど~~?可愛い可愛い後輩の為なんですけど~~??」
煽る千束にフキはすぐさまガンを付け二人は性懲りもなくメンチを切り合う。
「・・・ねえ、やっぱ DA に送り返さない?割と本気で」
「そんなこと出来る訳ないだろう。というかファースト自体そんなにホイホイと移動させる事は出来ん・・・ただまあ、確かにこんな状態じゃあ仕事も「「出来ます(ぅ)!!」」・・・・・・」
「少し休んだら?私、コーヒー淹れるわよ」
「いい。自分で淹れる。お前達も飲んで少し落ち着きなさい」
「はい」
「はーい」
「「・・・はあ」」
これから始まる騒々しい日々の予感にミカは苦笑いを、ミズキは頭に響くと酒を呷りつつ溜息を溢した。
ミズキとも顔見知りというていで。
千束もだけどフキもそこそこ DA で有名だといい。