「まあ、仕事と言ってもお使い程度のものだ。気楽にな」
「はい。先生」
リコリスの赤い制服に着替えびしりと背筋を伸ばし堅い声で答えるフキにミカは相変わらずだなと特に気にも留めず、そんな二人を眺めているミズキは大丈夫かこいつ等と不安気に千束を見遣る。
それに頷く千束はお道化た調子でフキの傍へ。
「あー、フキさんフキさん」
「んだよ、気色悪ィ声出しやがって」
途端に柄が悪くなるフキの態度に千束も一瞬動きを止め臨戦態勢に入りかけるも思い止まり、出来るだけ表情を変えまいと眉間に力を入れつつ落ち着いた態度で、あることを確かめようとする。
「こ、この後の予定、覚えてる?」
「・・・いや、その確認何回目だよ。お前の方こそちゃんと覚えてんのか?」
既に更衣室で千束からダラダラと絡まれ同じ質問を三度も受けていたフキは至極真っ当な疑問を口に。
「うっ。いや・・・先生達の居るところでもう一度、最終確認しとけばいいかなあって・・・」
「・・・・・・」
「ほら、報!連!相!大事でしょ?」
千束の可笑しな態度に何か裏でもあるのかと訝しむも、そもそもが千束の説明を端から信用していないフキである。言われるでもなくミカに最終確認を取ろうと考えており、取り敢えず千束の妙な落ち着きの無さは気にしないことに。
「では、簡単に流れの確認を」
千束に背を向け、再びミカに向き直り背筋を伸ばすフキは空でこの後の予定を並べていく。
「先ず管内保育園にて手伝いと園児の相手。次に管内の日本語学校にて学生講師として授業の補助。その後は常連客である組頭へのコーヒーの配達と、同じく常連客の警視庁捜査官との顔合わせ。この間、相談等を受けることがあればこちらの判断で随時対応。以上で何か情報の抜けや齟齬等がなければ「とうッ!!」・・・は?」
それは一瞬の隙を狙った犯行。
「テッメ千束!?先生の前だぞ!!」
腹部近くまで捲れ上がったスカート部分を瞬時に押さえ付けるとフキは迷うことなく後ろを向き千束の胸倉を掴み上げる。
フキが順番に語る予定にミカがうんうんと頷き、最後まで訂正が入らずに終わり気が緩んだ瞬間の出来事だった。
「タイツ越しだからそんなに見えてないって~」
「見えてる時点でアウトなんだよ!!」
「ていうか結構可愛いの穿いてんじゃん、フキのくせに」
「うっせえ!!どさくさに紛れて手も入れてくんなブッ殺す!!」
怒髪天を衝くフキの顔は羞恥で赤くなったり青くなったりと忙しく、騒ぐ二人を他所にミズキから白い眼を向けられるミカは我関せずな態度で「いや、別にみてねえし?」といった感じの顔を明後日の方向に。
「そんなことよりも!」
「そんなことで済ますと思ってんのか!?」
「あーもう、ごめんってばあ」
首を絞めにかかるフキの手を振りほどき店内を所狭しと逃げ回る千束はカウンターの向こうに回ると手を突き出し「ちゅうもーく」と全員の視線を集める。
「これなーんだ」
その手には拳銃が。
「私の 26 じゃねえか返せ!」
「こっちは?」
「その 18C も私のだろ!」
「この 19 も?」
「そうだよ!」
カウンターの上に並べられていく拳銃の数々。しかもフキの背中にはまだ鞄がないことに気が付くミズキは「うわあ」と顔を引きつらせる。
「どこの特殊部隊員よ」
「ここのだよ!」
「ミズキ見て見て、ナイフもおそろ。折り畳みじゃないけど使い易い?」
「じゃなかったら持ち歩いてねえ!」
大声を出し過ぎて肩で息をするフキと宥めるミカを横目に千束は掏り取った拳銃を鍵の点いた戸棚に仕舞っていく。
「まあ、 DA の仕事なら確かにこれ位は・・・・・・いや、やっぱ持ち過ぎじゃね?」
「フキ。千束が実弾を使わないからといって、お前がその分を補う様なことはしなくてもいいんだぞ」
「あれ?もしかして私が原因??」
「・・・いえ、先生。別にその様なことは」
「そーそー。例え
「確かにいまの情勢は不安定なものだが、昼日中に人目を憚らず銃撃戦なんてのは早々あるものでもないと知ってるだろう」
「はい、先生」
「もしかして私達無視された?」
「アンタだけでしょ」
「いやミズキもされたって」
その後、落ち着きを取り戻したフキはミカとの話し合いの末、使い慣れた拳銃一丁と予備のマガジンを一つ鞄に容れて行くことに。
「フキ~、早くしてよ。時間押してるよ~」
「誰の所為だ誰の」
先に外へ出ていく千束に舌打ちを飛ばし、急かされるも慌てることもなくミカに「では、行ってきます」と声をかけるフキは二人に見送られつつ店の外へ。
DA ではなく、喫茶リコリコの一員としての日々が漸く始まった。
膝丈で生地も厚そうなので色々隠してそうだなという。
銃器については手探り状態です。