その後のクオリディア・コード   作:逢庭一八

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序章――④南関東防衛都市の六人

「――で? どうなん、ほたるん。ぶっちゃけ」

 

「怪我の具合か。順調だそうだ。おかげさまでな」

 

「や、あたしなんもしてないし。お礼言うならおヒメちんにっしょ」

 

「ほへ?」

 

「はい、ひぃちゃん。お手拭き」

 

「あひがとカナひゃん。むぐむぐ。ひんごおいひいへ」

 

「……食べながらしゃべるな天河」

 

「ほい、リンゴ。もいっこ剥けたよ―。食べるひと? お兄ぃは?」

 

「や、大丈夫。お兄ちゃんね、いま胸いっぱいだから。明日葉ちゃんが友達の為に積極的にリンゴを剥いてる姿。マジ感動」

 

「や、友達の為とかそういうのいちいち言わないでいいから。だからお兄ぃ友達いないんじゃん?」

 

「と、とととと友達くらいおるわ!」

 

「マジ? キモいのに」

 

「ふっ……」

 

「あれ? 凛堂……凛堂さん? いまアナタ笑いました? 鼻で笑いました?どういう意味の笑いなんですかねそれは」

 

「ははははは」

 

「い、いっちゃん失礼だよ」

 

「あれれ? おっかしいぞ―。明らかに友達いなさそうな東京の首席さんまで笑ってるぞ―。おいなにがおかしんだよこの野郎」

 

「なんだ。今のは笑うところじゃなかったのか?」

 

「笑いどころだろうな」

 

「笑えないんですけど!?」

 

「んぐんぐ。ごっくん。大丈夫だよ、かすみん! だいじょーぶ!」

 

「そ、そうだよ霞くん。大丈夫だよ」

 

「いやだからなにが大丈夫なんだよ……全然大丈夫じゃねえよ……主にメンタルが……」

 

「えっ。えっとお……と、友達がいないときは笑顔。笑顔だよっ」

 

「ウケる。友達いないのに笑顔とか誰にむけてんのそれ」

 

「ねえやめない? そうやってここぞとばかりにキャリーオーバーしたいじりっぷりを俺にぶつけてくんのやめてくんない」

 

「あ、ほたるん。これタッパー借りんね―。切り分けといたからテキトー食って」

 

「……見事なものだな」

 

「え、へ?」

 

「千種妹がまさか包丁さばきに定評があるとは思わなかった。こうも皮をひとつなぎで剥けるものなのか」

 

「や、あ、え……あ、ありがとう、ございます……?」

 

「あは。あすちゃん照れてる」

 

「は、はぁ!?  照れてとかないし。なにカナちゃんやめてよマジ」

 

「いや感心している。午前中は母親の見舞いといっていたが。これも教育の賜物という事か」

 

「や、ち、違うし。料理はちょいちょいお兄ぃから教わってたから。おか……母親かんけ―ないし。朱雀、さんも……そういうのいいんで」

 

「ジャガイモだってつるっと剥けちゃうんだな―これが。どうウチの妹。すごくね?」

 

「あのね、ほたるちゃんもすごいんだよ、こうお野菜を投げてね? しゃばばばば――って切っちゃうの! とってもカッコイイんだよ」

 

「「「あ――。やってそう」」」

 

「どういう意味だ」

 

「こわっ。なにこの病人、俺だけ睨んでくるんですけど?」

 

「あはは。やだな――かすみん。ほたるちゃんは病人じゃないよう。怪我人だよっ」

 

「怪我させるひとの略称かな? そうなったら俺が怪我人……お見舞いの品は毛ガニ……蟹工船」

 

「お兄ぃがなんか一人でごちゃごちゃ言っててウケる」

 

「なによ明日葉ちゃんしらない? かにこうせん」

 

「知ってる。キャンサービームっしょ」

 

「それはカニ光線なんだよなぁ……誰からきいたの」

 

「一ついただこう」

 

「は?」

 

「おい。霞、なぜリンゴを遠ざける」

 

「いやいや、なに朱雀サン? あれ? おたくそういうキャラでしたっけ? 明日葉ちゃんのリンゴ食べたいとか本気?」

 

「べつにあたしのじゃないけど」

 

「ほたるちゃんのりんご!」

 

「僭越ながら私が提供させていただいたんだよ、いっちゃん」

 

「誰のかは聞いてない。いいからよこせ霞」

 

「ちょ、ちょ、なになにやめてくれません? きいたでしょ、これ凛堂のだから。凛堂のりんごだから」

 

「そうだな。おまえのではない。よこせ」

 

「お客様お客様お客様! 困ります! あ――ッ! お客様」

 

「誰がお客様だ!」

 

「ウケる。めっちゃイチャつくじゃん」

 

「あは、ははは……ゴメンね、ウチのいっちゃんが」

 

「べつにいんじゃん。お兄ぃも嬉しそうだし。てか、いまウチのってゆった?」

 

「えっ! いい言ったよ――な、言ってないよ――な?」

 

「? ヒメ。どうしたの」

 

「ん。ん――ん。なんでもないよほたるちゃん」

 

「そう?」

 

「うん。ただ、ずっとこんな日が続いたらいいのになって」

 

「……こんな日がくるとは思わなかった?」

 

「ううん。ちがうよ。ずっとこういう平和な日がくるのを待ってたんだもん。でもね。嬉しいなって。ほたるちゃんがいてくれて――」

 

「うん?」

 

「明日葉ちゃんがいてくれて、カナちゃんに、すざくんにかすみんもいてくれて。嬉しいな――って。最初はさ? 私、ひとりだったから」

 

「ヒメ……」

 

「あ、ちがうようほたるちゃん。違うの。責めてるんじゃないよ。こうしてね、三都市みんなでちからを合わせることができたのが嬉しいんだよ。ずっと、バラバラだったからさ」

 

「……東京のこと?」

 

「あれれ? ほたるちゃん話したことあったっけ?」

 

「調べたことがあるよ。物事はすべて観察から始まる」

 

「あはっ。そっかあ。……うん、東京の……すざくんの前の、前の、前の」

 

「主席?」

 

「うん。ちからを合わせる必要はない。すべて我ら東京がやるって、そういう男の子だったからさ。私は、ちから合わせたほうが絶対いいって思うんだけどな」

 

「なんでだろうね」

 

「でも実際とっても強かったんだ。だから会議とかね、東京の人たちだけこなくてもあいりさんもぐとくさんもなにも言わなかった」

 

「当時の記録をみるとヒメが一番で、あとのランキング上位は東京がすべて独占していたね」

 

「あ、そうなんだ? ランキングとか全然みてなかったけど……主席の男の子はもちろん、一緒にいる子たちもめちゃくちゃ強かったからね」

 

「東京都市の『両腕両脚』だろう。椅子を借りるぞ」

 

「すざくん」

 

「なんだ、霞と遊んでいたのではないのか」

 

「タッパーをもって逃げていった。まったくなんなんだあいつは……。それよりなぜウチの話をしている。それも両腕両脚とはな」

 

「すざくんしってるの?」

 

「当たり前だ。先輩にあたる。東京都市主席とその両腕両脚の四人と言えば未だに尊敬する連中も多い。俺が接する機会はほとんどなかったがな」

 

「公式の記録でも模擬戦でヒメと引き分けているよね」

 

「強かったよ。なかでも『右腕』と『左腕』って言われてるふたりは文句なしに強かった」

 

「俺はまるで対抗するように神奈川四天王ができたと聞いたがな」

 

「語弊があるな。今でこそ自覚もあるが神奈川四天王の歴史は周囲から自然とそう呼ばれるようになったという経緯が先にくる」

 

「ほへ――。そうだったんだ!」

 

「なんでお前がしらないんだ天河……」

 

「いっちゃんいっちゃん」

 

「つつくな。なんだカナリア」

 

「そろそろね、時間みたいだから。その面会、えと、ほたる、ちゃんの……」

 

「? なぜ照れている、カナリア」

 

「ななななんでもないようなんでもないんですからホント本当ほんとにホント」

 

「あれ、お兄ぃは?」

 

「ここにいますよ。面会時間そろそろね、終わりですって」

 

「そうか。ならば天河も……」

 

「ダメだよいっちゃん、ほら先にいこ?」

 

「そ――いうとこホントいっちゃんさんってばダメなんだな――これが」

 

「でも自分はわかってます感だすお兄ぃホントウケる」

 

「カナちゃん、明日葉ちゃん、すざくん、かすみん。えっと、ありがとね!」

 

「見舞い、感謝する」

 

「今度ね、お墓作ろうかなって思うの。……ぐとくさんと、あいりさんの。だからね、その時はまた、一緒にいこ?」

 

「時間があればな」

 

「時間は作るものですよ?」

 

「絶対いくからね、ひぃちゃん」

 

「ん。とりま連絡して」

 

「うん! またねえ!」

 

「また」

 

「じゃあな」

 

「じゃあね」

 

「またな」

 

「また~」

 

 

 

〈序章:了。その後のクオリディア・コード Re:code/01へつづく〉


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