魔術師上がりの錬金術ーMagician's Alchemistー   作:エヴォルヴ

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忘れてた人間関係

マーリオゥ:ガチでまともな人なんだよなぁ……いつもお疲れ様です。あ、皆さんもお茶どうぞ。
最新の魔法使い:志貴がお世話になったようで。お姉さんには俺がお世話になったので、魂の兄弟どっちも助けられてますね。ところで……お姉さんと仲悪いんです?


6.賢者の石

 何だ、肉体を取り戻しに来たわけじゃないのか。

 ま、そりゃそうだ。お前、死んじまったわけだしな。だがまぁ……一応解説行っとくぞ。

 くくっ、『教えて! シエル先生』ならぬ、『教えて! 真理先生』ってな。

 

「ふっふっふっ、どこにであろうと私は存在する。こんにちは。バッドエンドのソムリエクイーン、ネコアルクです。デッドエンドを体験したバッドボーイ&バッドガールを導いてやろうじゃあないか」

 

 ああ、そこにいるナマモノの話は無視して良いぞ。気にしたら負けの存在だしな。

 

 さぁて……早速、今回の死因検証だ。今回の死因は至ってシンプルなもので、あの真祖サマを楽しませ過ぎたことにある。

 

「ダンスはお好き? みたいなお誘いだったしなぁ。この少年結構ジゴロだったりする?」

 

 ……逃走のために使った『氷結の錬金術』、『雷霆の錬金術』、『手合わせ錬成』、【マジカル八極拳】までは許容範囲だったが……『焔の錬金術』も使うのは悪手だった。真祖サマがノリノリになってお前を十八分割しちまったってわけだ。

 

 シンプルだっただろ? 分かったらとっとと出ていきな。また会う時があるかもしれねぇが……ま、その時はその時だ。

 

 あばよ、身の程知らずの大馬鹿野郎。次は上手くやるんだな。

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 ────目が覚める。

 

 名状しがたい酷い夢を見ていたような気がするが、思い出せない。真っ白な場所で、脚だけが実体化している不思議な奴に何かを言われたような気がする。

 ……思い出せないなら、記憶にないのと同じだし、忘れてしまおう。

 

「やっと起きたか、錬金術師」

 

「…………マーリオゥさん!?」

 

 薄ら笑いをする知り合い目視して、一気に目が醒める。

 マーリオゥ・ジャッロ・ベスティーノ──司祭代行のお偉いさんであり、聖堂教会で一二を争うレベルでの常識人。常識人だからか、部下の尻拭いもやったりするそうで、胃痛や頭痛に悩まされてそうな人だ。

 そんな人がなぜ俺の部屋に、と思ったがここは俺の部屋ではなくリビングで、俺が寝ていたのはリビングに設置したフェイクレザーのソファ。周囲は汚れていないが、マーリオゥさん及びその部下の方々が少々──いや、滅茶苦茶ボロボロなんだけど、一体何をしたんだろう? 

 

「──お前の爺さん、化け物過ぎるぞ」

 

「はい?」

 

 俺の爺ちゃん? 

 

「あの爺、俺らを見つけた直後に『興が乗った。あの老獪の頼みもあるしな』とか言って、瞬間移動してきやがった」

 

「ああ……」

 

 もう話が見えた。見えてしまった。

 

「その後、お前が起きるまでとか言って俺ら纏めて扱きやがったんだよ! どうなってんだあの爺!? 本当に七十代後半か!? 化け物か!? てか何で見た目が三十代なんだよ!?」

 

「ああ、それは……」

 

 御愁傷様としか言えないというか、お労しやマーリオゥさんとしか言えないと言いますか……

 爺ちゃんは、その……あれだから。婆ちゃんもだけど、フィジカルゴリラなのだ。魔力無しで魔力有りの婆ちゃんと殴り合いができるレベルの化け物で、槍と拳を使わせるともう止まらない。爺ちゃんの十字槍は二度と味わいたくない代物である。

 ちなみに婆ちゃんは、爺ちゃんに正面から立ち向かって勝ち筋を持っている人だ。……足技で。

 もう一度言おう、足技で。足技で爺ちゃんと渡り合えるんだよ! 何でだ! 何で槍が足に負けるんだよ!? 何なんだ、何なんだよ俺の祖父母! カッコいいよりも怖いが先に来るわ!! 

 

「言っておきますがね、爺ちゃん加減してくれますから! それでもヤバいですけど!」

 

「加減!? あれでか!?」

 

「爺ちゃんが本気出したらこの家吹っ飛んでますからね!?」

 

 大方地下の訓練所使ったのだろうが、爺ちゃんが本気なら消し飛んでる。

 

「……お前、よくここで生活できるな。俺ならさっさと一人暮らしの算段立てるぜ」

 

「あはは、あの二人を説得できるとでも?」

 

「目が死んでんぞ」

 

 一応、一人暮らしを提案してこの家を出ようとしたことはあった。だが、爺ちゃんには「ここを出たくば儂を倒してからだ」と言われ、婆ちゃんには「蛍さんを倒したら、次は私ですからね」と言われ、戦いはしたものの一本も取れずに一人暮らしを諦めたのは記憶に新しい。

 放任主義が過ぎて俺の体が滅茶苦茶になったのが相当堪えたのか、過保護過ぎるのだ。

 

「もう諦めてます。あ、お茶淹れますけど何飲みます?」

 

「いらねぇよ。そんな気楽な話をしに来たんじゃねぇからな」

 

 まあまあ、そんな遠慮しないでくださいよ。そう言いながら、台所の飲み物コーナーを漁る。確か、前に買っておいた紅茶のセットがあるはずなんだけど……あれ、どこ行った? この棚に入れてた記憶があるんだけどなぁ……

 

「いいから座れ。お前には聞きたいことがある」

 

「ぐえっ」

 

 絞まってる、極ってますマーリオゥさん。ソプラノさんとメゾソプラノさんを止めて! 首が! 肩が! 悲鳴を上げてるので! 

 

「じゃあ早く座れ」

 

「人の心を読まないでくださいま──あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

 

 畜生、この人絶対楽しんでるよ! 

 仕方がないから大人しく座ると、笑っていたマーリオゥさんが真面目な表情となる。

 

「時間が惜しい。本題に入るぞ。──『賢者の石』について、何か知ってるか?」

 

「────!」

 

 ドクン、と心臓が跳ねた。

 

「あ?」

 

「どこで……知ったんですか……!!」

 

 賢者の石。その名前を聞いた瞬間、俺の理性が消し飛んだ。処分した、処分したはずだ。あの研究内容は全て消し去ったはずなのに、なぜこの人が知っている! 

 視界が赤く染まりかけている中、マーリオゥさんが当たりを引いた、と言わんばかりの表情を浮かべて口を開く。

 

「……その反応からして、知ってるみたいだな」

 

「答えろ! どこで知った!? どこから聞いた!?」

 

「落ち着けよ。話が進まねぇ」

 

 洗脳魔術を使ってすぐにこの人から聞き出してしまいたいと思ったが、俺は魔術を使えない。驚愕、戦慄、恐怖──様々な感情で震える体を押さえ付けながら、浮き上がった腰をソファに沈める。

 

「……マーリオゥさん。それを聞いて、どうするつもりですか」

 

「どうもしねぇ。仕事の関係で聞いておきたいだけだ」

 

 嘘は、吐いていない。

 

「…………マーリオゥさん。誰にも口外しないと約束してください」

 

「あ?」

 

「約束してくれるなら、話します。あの、悪魔の研究について」

 

 まだ十二歳だという司祭代行を、真剣な目で見据える。誰にも口外せず、心の中に留めておくことを約束してもらえるように。

 ──時間にして一分弱、といったところだろうか。根負けしたように溜め息を吐いたマーリオゥさんは、部下に指示を出した。

 

「ソプラノ、アルト。周囲の警戒をしろ。盗み聞き、盗み見してる奴がいないかどうかをな」

 

 何も言わずに修道服の女性二人が消える。マーリオゥさんの命令通り見回りに行ったのだろう。心配じゃないと言えば嘘になるが、とりあえずこれで話すことができる。

 

「じゃあ、話してもらうぜ。賢者の石とやらについてな」

 

 彼の言葉に頷き、痛いぐらいに動く心臓を落ち着かせるように息を吸って、大きく吐く。グッ、と震える体を押さえ付けて、あの研究について語り始めた。

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 今から大体八年前のある日。車椅子生活をしていた俺は、馬鹿みたいな研究をやらかした。賢者の石と呼ばれるものを作り出す研究だ。

 俺の理論上、錬金術の最高峰……凄まじいエネルギーの凝縮体。石、と呼んではいるけれど固形物、半固形物、液体──どれであろうと良かった。便宜上石と呼んでいるだけだったし。

 

「うーん……? 理論上はできるはずなんだけどなぁ……」

 

 永久に壊れることのない完全物質、そんな代物を造ろうとしたが、何をやっても上手くいかない。

 等価交換の原則に背くようなものを造れるはずがないと、すぐに思い至るべきだった。なのに、当時の俺は全くそれには気付かず、完全物質を造れると思ってずっと研究を続けていた。

 

「エネルギーを濃縮、固定すればいいんだから……えーと、うーんと……あれぇ?」

 

 研究していく度に、不可能であるという現実にぶつかった。なのに諦めようとしなかった俺は、ふと思い至る。

 

「そもそも何のエネルギーを使えばいいんだ?」

 

 そう、それが分からない状態で賢者の石を造ろうとしていたのだ。愚かな話だと今思えば笑ってしまうが、それと同時に気付かなければ良かったと思ってる。だって、それさえなければ悪魔の研究は完成するはずがなかったんだから。

 

「エネルギー……膨大なエネルギーかぁ……核のエネルギー? いやぁ、さすがに難しいだろうしなぁ。じゃあ火力? それも難しいだろうし」

 

 あれでもない、これでもないと膨大なエネルギーを有するものを考えに考え続けて、至ってしまったのだ。

 

「あ、人の魂……?」

 

 そう、その結論に至った瞬間に全てが繋がったように研究は完成へと進む。全能感にも似た感覚に突き動かされて、気でも狂ったかのように研究の成果をノートに綴った。

 

「そうか、そうか……! 人の魂はそこにあるだけで凄まじいエネルギーを持つ! なら、それを大量に集めて凝縮加工すれば──すれ、ば……?」

 

 すればどうなるというのか。真理を見た俺の知識が答える。

 魂を抜かれた人間の肉体と精神は崩れ落ち、魂は石の中で肉体を失った苦しみにずっと苛まれ続け、怨嗟の声を叫び続けて魂の暴風雨となる。

 そして、賢者の石は人の魂の数が多ければ多いほど高純度のものとなると理解した。一より十、十より百、百より千、千より万。多ければ多いほど、賢者の石の力は凄まじいものとなる。それを知ってしまった幼い俺は、理性を取り戻して胃の中のもの全てを吐き出した。

 

「お゛ぇ゛……! ぁえ゛っ……!」

 

 何もかも吐き出しても吐き気は止まらず、悪い夢から醒めたばかりのように体が震えた。

 これは、ダメだ。完成させてはいけない。俺以外誰も知らないまま、処分しなければならないと、研究資料全てを燃やした。万が一もないようにガソリンを錬成して、焼き捨てた。

 

「………………これで、大丈夫。大丈夫……だよね……?」

 

 それで、終わり。賢者の石も、それを生み出す研究も全て。俺の狂気の研究は、誰にも知られることなく終わったのだ。

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 黙って話を聞いていたマーリオゥさんは、嫌悪感を滲ませて口を開いた。

 

「つまり、だ。お前の研究は……」

 

「ええ、人間の魂を抽出、圧縮、固定して加工。永久機関とも言えるものの作成、でした」

 

 思い出すだけで吐き気と寒気がする。なぜあんなことをしたのか、あんな研究を完成へと進めてしまったのか。全く分からない。あんなもの、存在してはいけないのに。

 

「擬似的な第三魔法……いや、それに似て非なるもの、か」

 

「一応言っておきますが、ホムンクルスでの生成は無理です」

 

 ホムンクルスはクローン。オリジナルがいて、それをコピーしているため、魂の形……というよりも強度が脆弱なのだ。造る前に崩壊してしまうだろう。

 そんな最悪な研究について話した俺は、マーリオゥさんに問いかけた。

 

「マーリオゥさん。何で賢者の石について、聞いたんですか」

 

「仕事関係……って、そうか。お前が理論を組み上げたなら、お前も一応当事者ってことになるのか。だから……なるほどな……」

 

 何か勝手に納得してる。当事者ってなんだよ。確かにシエルには錬金術を教えてるし、総耶に出た吸血鬼共をぶっ殺してるけど。

 

「【鋼脚(こうきゃく)の錬金術師】月食神波」

 

 その声に凄まじいプレッシャーと真剣さを感じ取り、背筋が伸びた。

 

「聖堂教会からの依頼だ。埋葬機関の代行者と共に、【アカシャの蛇】ミハイル・ロア・バルダムヨォンを討伐しろ」

 

「……はい?」

 

 アカシャ? ミハイル・ロア・バルダムヨォン? 誰だよそいつ。話から察するに、死徒なんだろうけど……え、誰。

 

「言っておくが拒否権はないからな。憐れな当事者さんよ」

 

「あのー、話が見えないんですが……?」

 

「察しろよ! お前の研究内容を知ってる奴が日本に来てるんだよ!」

 

 研究、内容……賢者の石? えっ、研究内容全て処分したのに? 知ってる奴がいるの? マジで? ……マジっぽいなぁ……マーリオゥさんってつまらない嘘は吐かないし……マジ、なんだな。

 

「お前の研究がどこで漏れたのかは知らねぇ。だが、ロアが賢者の石について何かを知ってるのは事実だ」

 

「……」

 

「自分の尻拭いぐらい、自分でしろ。お前の話が確かなら、下手すりゃこの町の全員が──」

 

「させねぇ。そんなこと、絶対に」

 

 させてはいけない。それを知った奴を、やろうとしている奴を逃すわけにはいかない。もし、やるとすれば、この町が消え去ることになる。それは絶対に阻止しなくてはならないものだ。

 俺にはその責任と義務がある。賢者の石の存在を実証してしまった俺が止めなければならないのだ。

 

「やるんだな?」

 

「やります。それが俺のやることなら、やらなきゃならない」

 

 その言葉に、マーリオゥさんは何を思ったのだろうか。少なくとも、良い感情を抱いたとは思えない表情を一瞬見せた。その意味を、俺は全く分からなかった。

 

「──ああ、そうかよ。……なら、報酬の話をしておくぜ。報酬は……そうだな、聖堂教会が保有してる領地の一部……とかどうだ?」

 

「いやぁ、それはさすがにキツいのでは?」

 

「まぁな。お前が聖堂教会に所属すれば、話は変わってくるかもだがな」

 

「あっはっはっはっ、面白い冗談ですね」

 

 あなた、俺のこと使いたくもないでしょうに。

 

「冗談はこの辺にして、本格的な報酬だが、これくらいでどうだ?」

 

 突き立てた指の数は四本。

 

「高い。二」

 

「何で下がるんだよ。聖堂教会の面子もある。このくらいは当然だ」

 

「それが高いから言ってるんです! せめて一.五!」

 

「だから何で下がるんだ!!」

 

 だって庶民には高過ぎる金額ですし……大金貰っても、古くなった鍋の買い替えとか、喫茶店の資金に少し使うとか、爺ちゃんと婆ちゃんの夫婦二人旅の資金にしてもらうとか、募金とか寄付になりそうだし……俺が貰っても……

 そんな思いを抱きながら、俺とマーリオゥさんの報酬の話は続き、結局報酬は最初に提示した金額の八割ということになった。……それでも高過ぎるんだけどなぁ……

 

 

 




マーリオゥ:大丈夫か、こいつ。本気でこっち側から足洗った方がいいんじゃねぇの?
最新の魔法使い:志貴の友達? というかその義足……なるほど、姉貴の機嫌が良かったのって君のせいかぁ。ところで君、自分の歪みに気付いてる? 直した方がいいよ、それ。いつかきっと、誰かを泣かせるか、君自身が後悔することになる。君が心から大切だと思える人を見つけたら、変わるのかもね。
???:あれは想定外だったが……まぁいい。
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