魔術師上がりの錬金術ーMagician's Alchemistー 作:エヴォルヴ
自分を鑑みる月食神波
変なやつ? そんなに変かな、俺。そりゃあ、嫌なことはあんまりないし、警戒解くのも早いけど……血が通った人間だぞ?
好きなものもあるし。その好きなものって何か? うーん……錬金術、笑うこと、頼ってくれる人……とかか? 良いことも悪いことも、全部倍以上で返ってくるって言うだろ? 笑ってればいいことあるだろ。父さんと母さんにも笑ってろって言われたし。
家族に幸せであってほしい。
そう思ったのは、いつからだったか。多分、生まれた時から、だったと思う。
家族が喜ぶなら何でもやった。笑っていてほしいと言われたから、ずっと笑うようになった。
「■■様、そこはこうです」
「■■様、ここの問題もう一回復習しましょう」
「正解です、■■様」
才能がないから別の方向で根源を目指せと言われたから、錬金術に手を伸ばした。僕のお世話をしてくれているホムンクルスのアルファ、シグマ、デルタに教えてもらいながら、たくさん。
きっと、これで家族は笑ってくれる。お父さんとお母さんは喜んでくれる。だって、お父さんとお母さんは僕にそうあってほしいって望んだんだから。望んだことを、望まれたようにやるのは、間違いじゃないんだ。
「魔術回路が少なすぎる」
「これでは根源への到達も、錬金術師としての頭角を現すこともない」
なら、僕はどうすればいいの? どうすれば、お父さんもお母さんも喜んでくれるのかな?
何度も、何度も考えた。考え続けて、僕の価値は何なのかを考えた。ずっと考えてたけど、見つからなかった。
……だから、お父さんとお母さんに聞いたんだ。どうすれば二人が喜んでくれるの? って。そしたらね、お父さんとお母さんがこう言ったんだ。
「その場に座っていなさい」
「私達は準備をするから」
それだけでいいの、と首をかしげたけど、お父さんとお母さんはそれだけでいいと言ってた。だからそこで大人しく座って、準備が終わるまで待っていた。
「これで準備は終わった」
「あなたは、最期まで私達の誇りよ」
その言葉が何よりも嬉しかった。僕を必要としてくれている人が、僕を必要としてくれている家族がいることが、とても嬉しかった。
「な、何だこれは!? 貴様、何を──ゴアッ!?」
「当主様からの、ラストオーダー完了」
「人形、風情が……! なぜ……! ──そうかッ! どこまでも、邪魔をするかッ! 月喰らいィイイイ!!」
「■■様、お暇をいただきます」
「■■様、お元気で」
お父さんの怒鳴り声が聞こえる。アルファ、シグマ、デルタの声も聞こえた。
「■■! 生きなさい! あなたは、あなただけは──」
ねぇ、お父さん、お母さん。僕は役に立ったんだよね? 役に立ったのなら、褒めてよ。褒めて欲しいな。よくやったって、僕は役に立ったよって、褒めてよ。
あ、でも、それもいいけど、この痛いの止めて……止めてほしい。痛くて、痛くて堪らないんだ。
「■■……!」
「ああ……■■! ■■! ごめんなさい……ごめんなさい……!」
痛くて目が覚めた時、お父さんとお母さんはいなくて。その代わりに、お爺ちゃんとお婆ちゃんが白いお部屋で僕の手を握っていたよ。
ねぇ、お爺ちゃん、お婆ちゃん……お父さんとお母さんはどこ? 僕、役に立ったよ。役に立ったから。お父さんとお母さんに褒めてもらうんだ。
いっぱい頑張ったんだよ。お父さんとお母さんの言うこと聞いて、全部頑張ったよ。
「■■、もういい。もういいんですよ。自分のことを心配しなさい」
何で? 何も心配することなんてないよ? お父さんとお母さんの言うことを聞いてればいいんだから。
「──ごめんなさい。■■……」
どうして謝るの? ねぇ、お婆ちゃん、その目と喉のそれ、怖いよ。どうしてそんなものを向けるの?
──────────────────あ、れ? 何で、こんなところに……俺は、いるんだ?
「…………」
あれ? 爺ちゃんと婆ちゃんだ。どうしたんだよ、こんなところで。……というか、俺の足、凄い軽いんだけど!
「──おはよう、■■。久しぶりに月食家に行ってみたら、血塗れで倒れてたのだから驚いたぞ」
「ええ、本当に。何をしたんですか?」
え? 何を、って……あ、そうだ。父さんと母さんがぐちゃぐちゃになったんだよ。アルファと、シグマと、デルタ崩れ落ちたし。
いきなり、俺の真下に大きな目が出てきたと思ったら、引きずり込まれて。何か通行料? ってのが欲しいって言われた。
「……それで、■■は何て言ったんですか?」
えーと……ああ、脚と魔術回路! 俺、父さん達に魔術師としての才能は無いって言われたからさ。いっそ捨ててしまおうって考えたんだ。どう? 我ながら冴えてると思ったんだけど!
「全く冴えとらん!」
痛ぁ!? 怪我人なんですけど俺!!
「もっと自分のことを考えて行動しなさい!」
ん? いやいや、考えたよ? 考えた結果がそれだったんだって。ほら、脚が無くても生きていけるじゃん? それに、魔術の代わりにもらった力もあるんだ! そっちを勉強したいって思ってる。
「……はぁああああ……仕方ない……いくつか、条件を出す」
条件?
「お前自身の心に従え。誰にも負けないように強くなれ。──いいな?」
心? 心かぁ…………うん、分かった。そうする。そうすれば爺ちゃんと婆ちゃんも納得するし、嬉しいんだよな?
「……ええ、とっても」
「……ああ、もちろんだ」
うん、じゃあそうする。自分の心に従って、強くなれるように、俺は頑張るよ。約束する。
爺ちゃんと婆ちゃんがそう望んでくれるなら、俺は頑張るよ。父さんと母さんの分まで、俺の世話をしてくれていたアルファ、シグマ、デルタの分まで。
──────────────────────────────
死徒、ロア。俺の研究内容を知っているかもしれない存在。
誰も望まないものを、望む害悪のような存在が、この町に来ているのだという。
「……」
そもそも、賢者の石を造ろうとした理由は何だったっけ……あの時の俺は確か……錬金術師が到達したことのない領域を見たくて……じゃないな。俺は元々真理を見たんだし。……なら、どうして造ろうとしたんだろう?
「……あれぇ? どうして造ろうとしたんだ?」
分からない、思い出せない。うーん……まぁ、いいや。それよりもマーリオゥさんにも言われてしまった、変な奴ってどういうことなんだろ?
人形っぽい、って話?別に西洋人形みたいな見た目をしてるわけでもないし、ホラー映画みたく人形が喋ってるわけでもじゃないんだけどなぁ。俺の在り方? みたいなのが人形っぽくて気持ち悪いとか言われたけど、別に人形っぽくはなくない?
頑張れって応援されたら嬉しいし、困ってる人に頼りにされたりしても嬉しい。人として当たり前だと思うんだけどな。変な奴ではないでしょ、きっと。
「どう思う、シエル」
「はい? 何の話ですか?」
ビルの屋上から人の営みを眺めていたシエルに声をかけると、首をかしげた。
「俺が変な奴って話」
「はい……?」
「ああ。マーリオゥさんとかに言われたんだよ」
「変な奴、ですか。……まぁ、確かに……私はそこまで気になりませんが」
えっ、あるんだ。
「あなた、人のお願い断ったことありませんよね? 自分の陰口言ってる人でも」
「ん? そりゃあな。だって、やれないことじゃねぇし、あいつらも用事あったみたいだし」
度々小さなことから大きなことまでお願い、相談されるため、手伝ってたりはするけど……それが変な奴ってことなの? だったらお人好しは全員変な奴判定かよぉ!?
「あと、何もかも拒もうとしないところとか、でしょうか」
「? 普通じゃないの?」
「……そこです」
普通だろ。暗示をかけようとしてきたのも、必要だと感じたからだろう。その後、俺は暗示を無理矢理外したし警戒もしたけど、シエルはちゃんと素性を明かしてくれた。今までの関わりも鑑みて、問題はないと判断した結果なんだが……
「……気持ち悪いか?」
「まぁ、普通に考えれば。あと、あなたの考えの中に、自分がいないことも起因しているのかと」
「え、いるぞ? ちゃんと心に恥じない選択をするために」
そうあってほしいと爺ちゃんと婆ちゃんが言っていたから、そうあれと生きてるんだけど。
「んまぁ、いいや。んで? ロアって奴はどこにいるのか目星は付いてるか?」
「とりあえず三択です。一つ目はあのホテル付近ですね。気配が強いものがある」
そう言って指し示したのは、総耶にある建物の中で一番大きな建物。人が多く集まるし、あれだけ大きなホテルとなれば、相当な魔術工房にもなるだろう。攻め落とすとなればそれ相応の準備が必要となるはずだ。
「その次は?」
「総耶高校の地下です」
「地下? ……ああ、あの下水道から行ける?」
大昔、戦争があった頃に建造されたという大きな防空壕みたいな地下。学校の下にあるというのが大分不吉だが、子供を守るという観点からすれば正解だったのだろう。だが、あの防空壕っぽいのはそこまでのサイズを有していなかったはず……ロアとやらは穴掘り名人なのか? マインクラフターなの?
「地下は死徒が潜むには最適な場所ですから」
「なるほどな。で、最後は?」
「最後は廃病院です。町の外れにありますが、あそこは可能性が一番低いですね」
廃病院……霊的なものを扱う上では優良物件だが、総耶からは遠すぎる。シエルの言う通り、可能性は限りなく低いだろう。ならホテルか、学校の地下……なんだけど。
「シエル、他の死徒が出張ってきてる可能性はあるか?」
「はい? ……まぁ、あり得ますよ。ロアは結構な規模の派閥を持っていましたから」
「ふーん……」
なら、それをよく思わない連中がいたりする可能性だってあるわけだ。その辺りはよく知らねぇからいいや。
さてさて、どうするかなぁ……ツーマンセルが一番いいんだろうが……シエルと共闘なんてしたことがない。下手に合わせようとして失敗するのは愚の骨頂だ。
「シエル、質問なんだが……あんたパートナーとかいないのか?」
「ああ、いますよ。いますが……その……私の動きに付いて来れないので、ほぼ事後処理担当……ですね」
「ええ……」
「あ、多分
ああ、なるほど。シエルは強すぎて、組むとしても上位の代行者じゃないと話にならないと。多分、ミスター麻婆豆腐とか、メレムさんとかが当てはまると思われる。
「もうすぐ夜明け。今夜、または明日の夜で終わらせます」
「了解。ならさっさと行くか」
「──あの……なぜ私は抱えられているのでしょう?」
ん? 妙な話をするじゃねぇか。何でシエルを抱えているのかって、そんなの分かりきっているだろうに。
「一気にホテルまで一飛び──いや、二飛び? どっちでもいいか」
青い稲妻が両方の靴から輝き、持ってきていた大量の金属が電流を帯びていく。
「さぁ、馬鹿弟子。ここで授業だ。一様磁場を仮定した場合、金属片に働く駆動力Fはどうやって求める? 磁束密度はB、電流強度をI、レール間隔をαとする」
「え? はい?」
「正解はF=αI×Bな」
これを、今やろうとしていることに当てはめる。駆動力、というか砲弾が俺とシエル。磁束密度、電流強度は今回省略する。ちなみにこれはレールガンの真似事で、アルクェイドから逃げた時の切り札となったものだ。
「目標捕捉、方位角固定……風圧及び摩擦熱への対策完了!」
「月食君!? まさかとは思いますけど──!?」
「落とすつもりはないけど、掴まってろよ」
バチバチと電流が迸り、俺とシエルという名前の砲弾が今──
「レールガンで飛ぶ準備はいいか?」
「できてませんけど!?」
「
放たれた。
──────────────────────────────
「真祖の姫。その心臓を、おれに──?」
突然、ヴローヴと名乗った吸血鬼の言葉が止まる。
……何が、起こっている? そう思った時だった。
「こんばんはー! 配管工事レールガンでーす──オルァアアアア!!」
「──!?」
何かが壁を貫きながら、ヴローヴの土手っ腹を蹴り飛ばしたのだ。雷光を纏った見事なまでのライダーキックだったが、ヴローヴは直感に従うままに飛び退いていたようで、そこまでのダメージにはなっていない。
「何だか嫌な気配を感じて貫通し続けてきましたが、いかがお過ごしかな、マイソウルブラザー」
雷霆の如く突っ込んできた存在は、俺の魂の兄弟とも言えるほど仲がいい先輩、
「か、神波!? それに──」
「あれ、この子気絶してない? 頑丈なんよね? 頑丈なんだよな? ヘイヘイヘーイ、甦れ甦れ」
「シエル先輩まで……!」
目を回しているシエル先輩を抱えてるとか何て羨まし──いや、何でこんなところにいるんだこの二人!?
「で? あんたがロア──じゃあねぇよな?」
「“──恐れを知らぬ少年よ”」
「“あ? 北方の言葉分かんねぇよ。せめて古ノルド語で話せや”」
いや、神波の言ってる言葉も普通は分からないからな? 言語を理解できる俺も大概だけどさ。
「“それは失礼した。……月を食む一族がいると聞き、この
「“月を食むだぁ? 確かに俺は月食って名字だけど……”」
何だ。何かがおかしい。
ヴローヴの気配……幽鬼のような雰囲気が消え去り、理性を取り戻しているような気がする。神波が来てからのあいつは、真面なような……?
「“知らぬ、か。……じきに夜明けだ。此度はここまでとしよう”」
「“へぇ、俺があんたを逃がすとでも? ”」
「“ああ。少年は、守りながらの戦いに慣れていないようだ”」
そう言って、ヴローヴは炎を生み出し、神波の後ろにいる俺達を狙おうとした。だが、それを許す神波ではない。
手を合わせ、炎を防ぐ大理石の壁と水の壁をほぼ同時に作り上げた。
「あ、これじゃあ追えねぇや。実は筋肉痛だし!」
「最後の最後で締まらないな……」
壁がなくなった先にヴローヴはおらず、外は白み出している。死を覚悟した夜が、やっと明けたようだった。