銀杖の担い手 ライト版   作:海に流れるアリ

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三章 (2)等価の女神の島

 

 ウィナフレッドが目が覚めた時には意匠は出来上がってた。丁度きっちりとスーツ一式着こんで、アクセサリーがあーだこーだと組み合わせを選ばれているときだった。

 

「靴はどうするか、登山用で良い?」

「靴の種類は問わないけど、サンダルだけはやめたほうが良いかな。」

「ガゼット、さん?」

 

 確認されるように振り返れば、腰元にウィナフレッドが此方を見上げていた。どうしたのやら、と屈めば、ウィナフレッドが此方をじっと見つめている。

 

「やっぱ似てる」

「誰に?」

「思い出の人?」

「おじいちゃんか?」

「ううん、違う、一度異界で助けてもらったことがある人に似てたなって。」

「治癒士は異界にまで赴くのか?」

「少人数の編成で最低二人は組み込まれる。あの時のウィナフレッドは最年少だったね。」

 

 目ざとく右腕のギブスを見つけられて、無言でウィナフレッドから圧を受けると、ジャツ殿が疾風の身のこなしで部屋を出る。

 補助具の代金は後で支払うので、と開きっぱなしの扉越しに声を掛ければ、ジャツ殿は既に全速力で戻ってきていた。

 

 ウィナフレッドとオブスサーバー君の代金は今日はいらないから、とジャツ殿が揃えてきた一式。

 

「いや、さすがに金は払う。安いものじゃないのはあの婚姻届け見てもわかるし」

「何も、言わず、受け取り給え。主に僕の心の平穏と大親友ウィナフレッドとの未来を祝福するために」

 

 僕のこれからと、僕と親友との人生がかかってる、と半ば説得するように押し付けられた。蔦の柄の黒い金細工の指環だよ。右腕が動くのは素晴らしいんだが、よりによって蔦かい。

 

「ちなみになんで指輪薬指なんだ?」

「……、……、集中力でも高めればいいんじゃないかな。」

「ジンクスっつっうなら親指でも小指でもいいだろがい!」

「魔除けで右も左も婚約だろうが一人身だろうが着けるんだからそれでいいんだよ!!!」

「ガゼットさん?、ジャツ?」

 

 負傷した右手の薬指には、ガラスケースに入っていた指環を問答無用で嵌められた。

 

 

 誂えたコートと他の代金を無理やり支払って、俺は今、正装で通じる一式を身にまとっている。

 白シャツに青いジャケット、スラックスのセットアップだが。さすがにベストと灰色のオーバーコートまではこの時期は暑いんじゃないかね。

 しかし真昼なのに涼しい。コートの質の良さが良くわかるな。保温性はあるのかはわからないが、熱は籠らない。

 

「?、夜は冷えるよ南は」

「この都市、区画ごとに季節でも変わるのか?」

「違う違う、砂漠に面してるから冷えた空気が一気に流れ込んでくるんだ。それを点間の術で風力に変えてる。光示列車の蓄灯装置は風と光だよ。」

「本気で仲がいいんだな君たち」

「ジャツとガゼットさんはどうなの?」

「仲良しだよな!」

「うん仲良しだとも!」

 

 俺の左側をウィナフレッド、右側をジャツ殿に護衛されている。

 ウィナフレッドは治癒士の正式な軍師式の正装を纏って。ヘイニーの家紋を示す紋章の緑色のバッジが襟元についている。

 この世界は男女の正装の形式に決まりは特にない。その代わり、必ず正装のくくりの中には紋章持ちであれば証明の品と、下着、上着を着ることが義務付けられている。

 

 ジャツ殿も正装中。一見東洋の着物だが、麻木色の羽織は獣人族らしく尾が隠れるように薄手ながらも膝下まであった。尾の長さで背広が変わるらしい。 

 ジャツ殿はオーダーメイド後、君が死んだら僕の面目が丸つぶれだから、と称して、半ば無理やりプラチナ色のチケットを持参してやってきた。

 

「ウルクフ女史、食べたい屋台あるか?」

「ヘイニー、あの葡萄酒はどうだい!」

「飲みません。食べません。二人とも、僕らは時間に成ったら中に入らなきゃいけないんだよ?」

「俺じゃなくてジャツ殿じゃダメ?」

「指名されたのはガゼットさんでしょ。」

 

 二周の四時、あと二時間が長い真昼である。暇つぶしに蚤市に行きたいな、とこぼしてみたが駄目だった。

 今はもう入場が始まってるし、すりとかに合ったら目も当てられないらしい。帰還のまじない全部かけてるけどだめだった。

 ウィナフレッドに二人して屋台の食べ物を分けていると、中からやって来たゲイザーに声を掛けられた。

 

「あの偉丈夫の兄ちゃんは?」

「ランテッドは別行動です。チケットもないので。手に入れてくる可能性はありますが」

「ブルーチケットならまだ残ってるが、あの兄ちゃんなら自力で問題なさそうだな。……げぇ、なんでバーニウがいるんだよ」

「ゼケンロビ、お前宝剣ちゃんと質に流したか?、お前が使ってると先祖が泣くぞ?」

「残念でした~~俺様運がいいので啖呵切った時どおり買い戻してやりました」

「うそだろぉ!?」

「こいつのせいだ。」

「やめろ、やめろジャツ殿、俺は悪くない。戦果を挙げたときに一緒に班を組んでくれたゲイザーさんが悪い」

 

 基本騎士殿とは別行動なので、影にいるブラッグドッグに食べたがってる屋台の食べ物を次々と渡していく。でたゴミはブラッグドッグが責任をもって分解再生するので大丈夫である。

 残った分は俺とジャツ殿が消化した。

 

「カジノがあるぞ」

「ウルクフ女史、すまんちょっと俺用事思い出したわ」

「ガゼットさん、先方の用事が先。ゲイザーさんもつれていこうとしないで!そもそもゲイザーさんが連れていってくれなきゃわからないよ」

「小粋なジョークだよヘイニー嬢ちゃん。番号は青色の三番だ」

「ここ侵入者対策に対応したチケットがないと部屋に入れないのわかってていってますよね?」

 

 小粋なジョークだよ!と二回ゲイザーが告げた。

 

 

 オークション会場は南の噴水広場の要塞の地下で行われていた。

 入口から正面に位置する青の線は三面に広がっていた。

 遠い海の景色を模したように、嵌めこまれた水槽が下三分の一を残し、壁一面青の線がライン上に覆っている。

 照明は白色、敷かれた赤いカーペットは靴で踏むにはもったいないほど品質。

 三十段以上の段差を降りる先。噴水広場より一回り小さいものの、天井までの高さは優に百メートルを超える。

 入口の右上部、集まる人だかりを見れば、会場内の受付作業が始まっているようだ。

 

 受付を通ると二重扉の奥、関所と同じ仕組みで番号の描かれた『木札』を渡された。

 駅のホームのように白線が敷かれ、その内側と外側を区別するために透明な幕がある。

 チケットの認証を組み込まれた印をかざすことで通す。透明な幕が扉を開くように縦に割れた。中へ通と再び閉じる。傷一つ内膜に戻った内側、四方に照らされる証明の中央に半径五十メートルほどの大きな魔方陣がある。

 オークションは各部屋から入札が可能で、回線が面倒なものや、実物を生で見たいものは会場の整理番号の席に行く。

 俺は部屋の中で良いかな、と思っていたのだが、ジャツ殿がウィナフレッドと離れることを大変渋ったために一緒に会場内へ入ることになった。

 

 番号は百番まであり、チケットの整理番号ごとに魔方陣が変わるらしい。

 魔方陣の変更方法は簡単。装置の上部に木札を仕込み、下のカードキーよろしいチケットキーで、備え付けられた装置にチケットを通すだけだ。

 中には二人の作動員がおり、腕章とわかりやすいバッジを襟元につけて来場客を受け入れていた。

 

「色別ですか?」

「色別だ。俺とこの嬢ちゃんと、この青年は同色。後ろの女は別口」

「おいおいゼケンロビ、ついてくぐらいいだろ?」

「馬っ鹿、なんのための識別だよ。魔方陣に仮に入ったとしてもお前だけ会場外にはじき出されるぞ」

「ちぇー。ヘイニー時刻通り待っててくれよ?」

「うん、ジャツも忘れないでね?」

「当たり前だろ!」

 

 渋ッていたジャツ殿が一度出てくると、ウィナフレッドと抱擁を交わして三回転した。恥ずかしがったウィナフレッドが俺に助けを求めるのでジャツ殿が自力で降ろす。一度認証すれば魔方陣が起動するまで出入りが可能なんですよね、と作業員が朗らかに語る。急な忘れ物しても、未対応の場合いつでも出入りは大丈夫とのこと。

 

「げー、皆連番じゃん、僕五十番台だからまったく席会わないじゃんー!」

「元から右と左に分かれるだろ、買いたいものでもあったのか?」

「ゲンブレンの鉄鉱石があったらほしかったんだけどさー、御金足りるかなー」

「貸そうか?」

「いい、いい。」

 

 ウィナフレッドが控え目に提案をすると、ジャツ殿は頬にキスを落としてウィナフレッドの頭を撫でた。

 一瞥俺を見ると、ふと目を細めて俺の手も取られる。ぶんぶんと俺の両手を上下に振って、ジャツ殿がまたね~と中へ入る。

 

「え、プラチナ」

「今日は初めてか?」

「まだお一人さまだけですよ、今日二十五人しかいませんし。……チケットの販売記録は残ってるので機密ではないのですよ?」

「なにもいってないぞ。」

 

 オークションの受付の門は実は各国にいくつかあるらしい。

 特定の時間しか派遣してないので、その時刻に間に合わなければ本国に来る必要がある。白金が二十五枚な~と、ゲイザーがしみじみと顎をさすっている。

 

 オークション入場チケットの識別装置が組み込まれた『印』は未使用の場合にのみ、透明なテープがついている。

 テープをはがすと、内蔵されたチップが所有者の理力に対応する。一度理力を通したチケットは他の人間の手に渡っても使えなくなる。

 理力を通すと白色の紙面が対応した階級の色に斑に染まる。水玉模様のチケットが一般的だが、青、赤、白金、黒金の四段階で特別制のチケットは紙面そのものの色が変わる。

 色の変化は五秒ほどだが、写真や動画を撮るぐらいの時間はある。

 ジャツ殿が誤って理力を通してチケットを渡した際、受付の者は二度見していたが、ここの作業員はすぐに余所行きの笑顔に戻った。素晴らしい仕事精神である。

 

「お次はどなた様でしょうか?」

「先に『その二人』を通してくれ。ペアチケット登録済みだ」

「かしこまりました。」

 

 機械の装置が二つに割れる。一定時間内にセットで識別しないとペアが解除される仕組みらしい。厳重だな、と問えば暗殺闇討ちなんでもござれだからな、とのこと。オークションの闇。

 ウィナフレッドの説明を聞きながらとりあえず一緒にチケットを通す。

 ぴぴ、と音が鳴り、木札の上の装置にあるホログラムが黒一色に染まったチケットを識別子、正常の反応を示した。

 あんぐりと口を開けている作業員の代わりにゲイザーが無言で魔方陣へ向かうよう指示を出した。頷いてウィナフレッドの後を追うと、魔方陣に体が収まったと同時、魔方陣の外側が真っ白に染まった。

 

 青空が見える。部屋の中央に一メートルほどの直径を持った球体が浮いている。

 球体の中にはホログラムが浮かんでおり、空の上、雲海を下に、島が浮いている。

 

「大きな部屋だねー!」

「……ホテル?」

「ヘズさん空島は初めて?、僕一度おじいちゃんと来たことがあるんだ。すごい綺麗だよねここ!」

「ウィナフレッドセンセー、オークションはどうなりましたか?」

 

 あ、ごめんね、僕だけはしゃいじゃって、とウィナフレッドが照れながら中央の球体に案内した。

 手のひらを触れると、カーソルを動かすようにホログラムが動く。菱形の赤い印が今の座標らしい。オークションの間解放される島がいくつかあり、その座標はどんな大物にも不明なのだという。移動しながら安全地帯を確保しているのだとか。なるほど。わからん。

 飛ばされる場所は階級ごとに分かれており、プラチナ、ブラックチケットの場合、同色ごとに島は括られている。

 同じ組数字、同じ色に限り、組数字内の同一の階級チケットの所有者と面会が可能なのだとか。

 俺とウィナフレッドの番号は、青色の二の一、二の二となっていた。

 

「青色の番号は三番までしか発行されてないから、実質僕らとゲイザーさんだけかな」

「連番でペア、っつってたなら、俺とウィナフレッドが二番、ゲイザーが三番だろ?、じゃあ一番が居るんじゃないか?」

「あ、そうだったね。……貸切にしてまで僕らに会いたい人なんて、いたかな」

 

 じっと見つめられるが心当たりはない。あるとすれば、ゲイザーを通してこのチケットを送った者しかいないだろう。

 

 盗聴、防衛、迎撃、次元攻撃なんのその。買えば国が吹っ飛ぶ予算の島はどこの管轄でもないらしい。『等価の女神』という概念に対価を示した場合にのみ、その扉は開かれる。『神域』の一つとされているらしいが、オークションの開催するときに限って、『等価の女神』もチケットを発行してくれるらしい。不思議な世界観だ。

 

「オークションは一般のチケットを除いて、この色とチケットの種類事に座標が変わる仕組みなんだ、ゲイザーさんが言った通り暗殺とか過激な武装をした刺客が今日はたくさん来るから」

「そんな気軽なノリで暗殺が行われるもんなのか?」

「チケットあらずば死にに行くっていわれてるぐらい!」

「なんかこのオークションのノリが怖くなってきたぞ」

 

 空島の中では自由に遊んでいいらしい。優雅に過ごしてもいいし、植えてある全てを採取しても良いのだとか。

 概念なので、不変であるが、対価を支払ったものにのみ自由を与えるとか云々。

 ここの島は三段に分かれてて、上部がホテルのある建物の敷地、中部中央が植物園宜しく自然地帯、下部は古代遺跡がずらりとある。古代遺跡はおかしいだろ。

 

「チケットの種類事に対価が違くて、その開催される日によって要求が違うんだ。ブラックチケットだけは確かずっと変わってなくて、錬成難易度、階位一位の『霧』の刻印石、の、宝玉じゃなかったかな。」

「刻印石?」

「寄木細工の模様を持ったオパールみたいな、その層がたまねぎみたいになってて、全部の面が一万枚を超える『削』の因子を持った人工宝石。……物自体にも価値があって、魔石純度二十ぐらいの品。難易度の高いことで有名で、千年の専門術士でも生涯に一つ作れるかどうかだった、気がする素材が貴重すぎて」

「……、オークションでそれを売ったらいいんじゃないか?」

「僕もそう思うんだけど、その対価を払うと、唯一この空島に来れるんだ。贅の極みと言われればそうなんだけど」

「なぁ、仮にそのブラックチケットを買うためにその『霧』の刻印石がオークションで質流れしたらいくらになるんだ?」

「魔紋札の単位で八桁ぐらい?」

「それ買い手いるのか?」

「骨董品の番組で価値を付けるとしたらこの世の至宝の一つだっていってたぐらいだから、そうだよね、僕も今そうかんがえたら……なんで僕らここに居るの?」

「それはですね、私があなたがたの等価を支払うべきだと判断したからです。」

 

 話し込んでいたら、なんか普通に扉の外に人影がいる。

 女性、そう識別した目が姿を理解した瞬間、全力で呪いを作動せんとする回路が開きかける。自分の面を自分で押さえつけるという道化染みたことをして、ブラッグドッグに回路事次元の外に出してもらう。呪いの一件で物理的排除を覚えたんだ俺は。ブラッグドッグがいる時限定だけどな。

 ウィナフレッドが不安げに此方を見たが、にっこり笑って何でもないことを告げると、女性が目を細めた。

 

「あら、我慢強いのですね。」

「……、あなたが、俺たちに望外なチケットを寄越した張本人ですか?」

「そうです。そう、気前がいい女とは、私のことです。」

 

 なんだこの女性。

 

 

 同じ色の番号内のみ、許可が出たらその部屋に訪れることができるらしい。

 許可を出した覚えが一切ないんだが、とウィナフレッドを見れば、ごめんさっきタッチミスして何かの許可のボタン押しちゃった、とのこと。そういったミスはあるよね。ある。

 仁王立ちしてババーン!という効果音が聞こえてきそうなほど決めポーズをとっている女性の姿は意外なことに、俺と同じぐらいの背丈であった。

 気づきませんか?、と女性が言うので、何に対しての質問だろうか、と返せば女性は一瞬で姿見を変えてとんがり帽子を召喚。頭にかぶり、眼鏡を掛ければ、ほらこのとおり。

 

「関所であった魔法使いの方か!」

「ふふふ、化粧はいくらでも人を変えるのですよ!、ふふ、二人を視たかったかいがありました。これも仕事を超特級で巻いて巻いて!討伐も完膚なきまで終えて反対の声を押し殺しましたからね!」

「よくわからんが、お疲れ様です。」

「お疲れなんです!労わってください!」

「あの、単純に寝たほうがよろしいかと思われますが……。」

 

 ウィナフレッドが気の毒そうに女性を見ている。うわ、疲労値過去類を見ないほどひどい、と引きつって行ってるから本気で疲れているようだ。

 優秀な治癒士がいると聞いて飛んでやってきました!とずっとうきうき、ご機嫌な女性である。

 

「ゲイザーさんからチケットを下さった理由は分かりませんが、滞在中は羽が伸ばせそうなんで、ありがとうございます。」

「あなたの傷ついた体も果樹園の果物を食べれば一発で直りますよ、保証します。私が丹念に育った仙薬ですから」

「ワーアリガトウゴザイマスー」

「信じてませんね!?」

 

 待ってなさい今とってきますから、と飛び出そうとする女性を一旦引き留める。用件は何ですか。

 

「そうでした、いつまでたってもあの人が来ないので私の方から出向こうと思っていたのですが、来客が先に来たので挨拶に来たのでした。こんにちは!」

「こんにち、は、?」

「はい!挨拶ができて良いことですね!」

「あ、はい。」

 

 女性は自然な動作で胸ポケットをあさると名刺入れを取り出した。銀色の肌地が綺麗なカードケースなことである。

 渡された名刺をウィナフレッドと共に一枚ずつ受け取り、書かれている役職の長さ。よくわからないが偉そうな人であることを理解した。ウィナフレッドは正式に本人であることを確認して、なんだか顔色が真っ青であった。

 

「あの、大統領、なんでここにいらっしゃるんですか?」

「バカンスとプロポーズに来ました!!!」

「わあ、おめでとうございます?」

 

 ウィナフレッド、突っ込むところ違うと思うぞ。

 

 

 女性がやって来て五分。ゲイザーがやってこない。不審に思った女性が中央のホログラムの球体を弄り通信デバイスを開いた。

 

「結論から言いますと、ゲイザーは逃げましたね」

「……、……、ヘンリック、手引きしました?」

「してませんよ。ただ宝剣担いでオークションの裏を書いて、チケットの転移陣の座標選択を忘れ物と称してガーランド国へ変更した後、エステラ様から承りました名誉たる紋章を破棄した後、十秒後に渡航してます。」

「いいでしょう、逃げられるほど熱く燃える女です。私は」

「修羅場ですか?」

「修羅場です。」

「お兄さん、よく質問できるね……?」

 

 通信デバイスをもってして、なぜかヘンリックに通話をしている女性を二人して見つめる。

 既にゲイザーはブラックチケットを『等価の女神』に交換を願い出て、対価の『霧』の刻印石を返品してもらっているらしい。すごいね。

 一代で財を成せるのでは?、と女性に聞けば、それを込であの人にも送りましたから、とのこと。さいですか。

 

「まあ足が付きますし、売れるわけがないですからね。あくまで骨董的な価値しかありませんからこれは」

「でも魔石純度二十相当の品は使い道があるのでは?」

「お兄さんこれね、とってもきれいな代わりに、一つでも寄木細工の模様の『封』を解くと気化しちゃうんだ。だから霧の刻印石っていわれてるぐらい」

「気化するとどうなる?」

「単純に場が浄化され、空気が美味しくなります。」

「……それだけ?」

「それだけです。」

 

 理論上範囲を狭めると、という数字の話で、実際は魔石の代わりにもならないらしい。

 どれだけ緻密な文字を書けるかってぐらいと同等の限界への挑戦。職人魂を凝縮した品らしい。なるほど。産廃か。

 錬成できるなら錬金術や調合で過負荷をかければ圧縮はできそうなものであるが。極限の収縮状態がこの石の形らしい。なるほど。

 一度開けば雲のように消えていく。霧のごとく湿気のように周囲に浄化の作用を含ませて無くなってしまうのだ。

 

「やはり産廃なのでは?」

「産廃ですよ?」

 

 他にも使い道は無いのですか、と尋ねてみれば、女性はしばし考えた。

 

「七代豪遊できる黄金財宝を灰にして泥にして無価値白紙へ消滅させるぐらいの気概が消せます」

 

 ドブぽちゃはさすがに失笑なんだよな。

 

「まあ我が魔術で無限に施行して生まれた副産物ですから気にしないでよろしいですよ。」

「さらっとすごいことを言ってるのは分かるんですけど、処理落ちとかしません?」

「次元選択の解析等、この世で一番無意味では?」

「俺この人は嫌いになれないわウルクフ女史」

「え、なんで今の一言で熱い信頼を得てるのガゼットさん?」

 

 この人はま~じで苦労人だということが一瞬の瞳の陰りで俺にはよくわかった。

 冥界でこれぶつければ広範囲の汚染が浄化できる程度の空気清浄機機能はありますよ、とのこと。いっぱいありますし、と胸ポケットのピルケースから出てくる一センチ径の『霧』の刻印石。骨董的価値は何処へ行った。

 

「あと五百ぐらいは軽くありますね。一つ作るのに神域一つ消し飛ばしますけど」

「なぁ、神界の神域消した張本人だったりする?」

「正解です!」

 

 ウィナフレッドに説明する前に情報を尋ねる。どうやらなんでも答えてくれそうだし。これが対価か?

 

「神域を消したのは自分の意志?」

「いいえ。」

「霧の刻印石は狙われている?」

「はい。」

「俺たち、ここから出たら狙われる?」

「はい。」

 

 よしわかったぞ、俺たちこの女性殴ってもいい権利があるわ。

 

「打撃をふるうのは構いませんが、逆に骨が折れますよ?」

「自然に思考を読んでくるのやめてくれません?」

「存外素直な反応をするのだなと思っただけです。それに次の思考を予測しただけで、別に読んではいませんが?」

「拉致?」

「拉致の意図はありません。単純に慰労を込めて呼びましたが、あの人が逃げたので、片棒を担がせようと思いまして」

「ゲイザーさんのせいか!?」

「その通り!」

 

 女性の発声は大変よろしい。

 

 

 

「あれだけの戦果をあげた所属不明、フリーの傭兵が居たら囲うに決まってるだろ」

「逃げた理由は?」

「本気で抵抗したのにこうもあっさり、一時間も持たないのはつれぇぞ、お前よぉ」

「脅されたのは此方なので言い訳は聞きません。」

「俺だって脅されたようなもんだろう!?」

 

 俺たちはブラッグドッグがものの数秒で確保したゲイザーを堂々と捕まえに行った。先ほどの女性が転移用の魔道具を借してくれたためだ。解析とか入ってそうだけど、こちら側の解析は不可能と俺の防衛装置に関して、ブラッグドッグにお墨付きをもらった。

 ブラッグドッグ様様だな、とウィナフレッドに頷きながら所属不明の傭兵は就職対象になるのかと尋ねる。是。

 

「確保しましたー」

「子飼いに成りません?」

「次それ言ったらゲイザーさん逃がしますね。」

「冗談です。」

 

 新たなブラックチケットを発行してきた女性がゲイザーの前に現れた。ホログラムで。

 手続きは終えたので、経由したガーランド国の保管庫からチケットを受け取って、さっさと先ほどと同じ番号を告げてきなさいとのこと。

 先ほどゲイザー自身が返品、取得した霧の刻印石は予約料として気前良く上げるらしい。よ、太っ腹。

 

「なぁ、姫さん。もらったものはすぐに俺は使うぞ?」

「物は使うためにありますが?」

「……、オブスサーバーくんよぉ、お前は俺の死神の使いだよ」

「同じ鬼籍一直線程な意味でですかね」

「わかってるじゃねぇか」

 

 すげぇだみ声。

 ゲイザーはがしがしと頭をかくと、縁石に降ろしていた腰を上げて土ぼこりを掃った。

 

 重厚な鋼の扉の前。右側を俺が、左側をウィナフレッドが陣取り、真ん中のゲイザーが深呼吸を二回する。

 

「開けなきゃダメか?」

「案内買って出たのゲイザーさんですよね?、なんか後ろめたいことでもあるんですか?」

「俺様の運命が決まっちゃうだろ!」

「あの、僕たち急ぎの用もないですし、後回しで良いですよ?、どうせ前後したって、事の順序は変わらないでしょうし」

「心強い味方が二人いるのといないとじゃ、俺様の覚悟も違うんだよ!一緒に来てくれ!」

 

 お前ら二人が居ないと俺の心が決まらねぇんだよ、と若干泣き声交じりでゲイザーが天を仰ぐ。この期に及んでまじで逃げようとしてるよこの人。

 ちなみに陣の外側の出入り口にはジャツ殿が居た。先ほど、外に一旦出るとあって、魔方陣の外に出た拍子、蚤市から戦利品を意気揚々と買い戻ってきたジャツ殿と鉢合わせしたのだ。

 一瞬走ったノイズに逃走を確信したため、ゲイザー確保に一緒に付き合ってもらった。ゲイザーが干渉する次元の位相の抜け道に隠れるものだからブラッグドッグに探してもらった。

 俺が経由して的確に隠れた位置を探し出し、ジャツ殿に体術で無効化、ウィナフレッドに風で浮かせてもらった。

 

「ゼケンロビ、白兵戦もうちょい頑張ろうよ。なまったんじゃない?」

「年中練度を増すおめぇ見たいな規格外と一緒にすんな!」

「なにおう!?僕だってお前みたいなやつと一緒にされたくない!規格外っつったら僕よりお前の方だろ宿無しの魔法使い!」

 

 喧嘩を始めそうな二人を引き離し、ゲイザーの両腕を拘束する俺の前でウィナフレッドが唯一、本気で嫌なら家の院から逃がしますけど、なんて甘いことを言っている。

 腕を引かれてウィナフレッドに抑えられているジャツ殿と俺が冷めきった目でゲイザーを見ると、さすがに応えたのか胸を押さえて首を横に振っている。

 時に無邪気な言葉は無敵の盾を凌駕するものだ。

 

「あの契約内容の改定は?」

「あれ以外譲る気なさそうでしたよ。仮にゲイザーさん抜きだと俺を引き入れるメリットが薄れるんじゃないですか?。まじでプロポーズ狙ってますよあの人」

「そんなわけあるか!さすがに……、……。」

「ブラックチケットをわざわざ二枚用意した人です。これを蹴るなら俺も擁護できませんよゲイザーさん」

 

 頭を抱えているゲイザーから視線を逸らしながら、アイコンタクトで訳アリですか、とウィナフレッドを見た。さっと視線を逸らされる。

 

「おいゼケンロビ、あの子がここまでするのにお前は聴くことすらしてあげないのか?」

「逃げれなくなる」

「覚悟を決めろっつってんだよ。元は自分の蒔いた種だろ」

 

 ジャツ殿が呆れてゲイザーの背中をたたく。真っ赤なモミジができたゲイザーが涙目でジャツ殿をにらんだ。まじで痛そう。

 ジャツ殿がウィナフレッドを促して、俺もゲイザーの腕を掴む。次逃げたら俺はもう一生あの人と会いませんよと囁けばゲイザーは観念したようだった。

 

「なんだかんだいってこいつはゾスを優先するんだ。最大限の抵抗はするけどな。」

「おい、バーニウ!」

 

 じゃ、僕はここまでしか付き合えないから、ヘイニーをよろしく、とジャツ殿に魔方陣越しに頼まれた。ゲイザーはジャツ殿に足で押されて俺たちより先に転がるように中へ入っていった。

 

 拗ねてるゲイザーをソファーに放置すると、女性は『ユラドデ・ゾス・ヒューヌ・グセカンジパン・ショリュエドン・ロソンシソバ・エントゲスヨ・ルンイガキンカ』と名乗った。

 ウィナフレッドと俺は丁度グラスとマグカップを渡されていたところだったから、席について一番に真名全部名乗られるとは思っていなかった。これ身命形名全部はいってるよな間違いなく。

 

「なぁウルクフ女史と既知の人間は真名を名乗らんと行けない決まりでもあるのか?」

「な、ないよそんな決まり!僕だって度肝を抜かれてるんだから現在進行形で」

「これで誠意が伝わるかと思いまして、どうしましたゼケンロビ」

「なぁ、姫さんよ、昔から問答無用で俺も巻き込むのやめてくれよ!?」

「裏切らない懐刀とあらば、二度手間を省くのは基本でしょう」

「人間としての感情が有るから了承を得てくれ?」

 

 エステラ一族の首領であり現在進行形で大統領に成った、ルンイガキンカ閣下だ、とゲイザー。

 

「現在進行形?」

「粛清中です。」

「さらっとすごいこといったぞこの人」

「まぁ、愛称を込めてエステラと呼んでください。外で読んだら即捕縛しますが」

「恐れ多くも、コミュニケーションとる難易度高すぎませんか?」

「よく言われます。」

 

 涼しい顔で二杯目のハーブティーを頼んでいる。ホログラムの球体が震えると、エステラ氏のグラスを入れ替える形で新しいハーブティーが出てきた。

 何か食べます?、とメニューを呼び出して料理を注文しようとしてる。自由だなこの人。

 ドーナツでも食べるか、とウィナフレッドに尋ねれば苦笑が返ってきた。ごめん、さっき食べさせてたからお腹いっぱいだよな。

 俺がドーナツを頼んで食べ始めると、エステラ氏が興味深そうに俺を見つめた。

 ゲイザーを振り返り、あなたの直感を疑うことはないですが、改めて見ると信じられませんね、とのこと。どういう意味だろうか。

 

「術を使うそぶりも見せていないのに、全部弾かれてます」

「……、俺狙われてたんですか?」

「ウィナフレッドさんは避けましたよ?、危機感すら抱かれず、無意識に対処されてたとあってはさすがに矜持が折れそうですが」

 

 知らないうちに暗殺されかけてたんだけど。一口でドーナツの半分を食べれば、ウィナフレッドに目を瞬かれる。怒ってないよ。

 まぁ、今直接反応を見た限り、あなたは真っ白だという双方の意見は正しいでしょう、とエステラ氏。

 

「あの時から俺の動向の観察をずっとしてたのか?」

「ええ。匂いすら辿れぬ術の使い手、熟考を重ねてなお、手掛かりの薄い次元の幾重にも重なった進路を飄々と飛ぶ。忽然と表れ、戦果を一番に上げる。これほどおかしい対象はいないでしょう」

「確かに。」

「まぁ、私自身はそういった分析はできても本能で感じることが不可能ですが、ゲイザーと直接コンタクトを取るまで荒唐無稽な話だとは思っていましたがね。」

 

 あの反応を見るに二人が白ということは百割白ではありましたが、とエステラ氏。

 あの院への干渉は一手でも国際問題になるので接触できませんでしたが、とエステラ氏。騎士殿と接触を図ってたな確実に。

 めったに外に出ないオブスサーバーさんの素行を調べるのは骨が折れました、とのこと。わりかし日常も綱渡りしてるな、俺。

 ウィナフレッドに関しては以前一度面識があったらしい。それは国際業務の式典での話であったが。

 今回エステラ氏がここに居る理由は単純明快。バカンスで、本気でプロポーズに来ただけらしい。仕事を問われれば、ようやく大きなヤマを片付けました、とのこと。その顔は疲労に満ちている。

 

「それは、関所の一件ですか?」

「はいその通りですウィナフレッドさん。あの大討伐でようやく裏のつながりが取れたんですよ。ニハイには悪いことをしましたが、一網打尽にできて私は大変助かりました。代わりに私自ら戦場に打って出たのですから不問にしなさいと、室長殿に脅しをかけたのですが。」

「かわいそうな室長ですね。」

「あの人はニハイで一番尽力してくださってる方だぞ。反省してくれ姫さん」

「だが私は悪びれない。」

 

 ウィナフレッド、これが本当に国家元首ってマジ?

 調べていくうちに二人の名前が浮上、一人は厄災級の反応を示したポイントを単身で移動させた俺。もう一人は治癒士として軍と一緒に行動していたウィナフレッド。

 僕実は南の方に居たんだよね、とウィナフレッドが頬をかいてぽつりと応えてくれる。国に所属している職業柄、業務を詮索するのはご法度かと話題に出したことはなかった。今は公平な場での質問なので口に出せるらしい。大変だな。

 

「あの働きを見て、是が非でも。他にとられる前にフリーの二人を囲い込みたいと思いました。ぶっちゃけた話ですね。ウィナフレッド・ヘイニーさんのタバヴ・ワポ・ルの扱いはぬるすぎる」

「あの、それはその、僕の祖父が尽力してくれた結果なんですが」

「それでもです。本来であれば教職などさっさと免停させて軍にぶちこみ馬車馬のごとく働いてもらうのが道理!」

「姫さん、ドン引きしてっから合理的思考は今やめてくれ。」

「ゼケンロビ、話は最期まで聞きなさい。」

「はい。」

 

 ごめんな、姫さん一度火が付くと全部話し終わらないと止まらないんだよ、とゲイザー。苦労してるね。

 

「ぬるいと指したのは処遇の話ではありません。正当な評価がなされていない。手回しされている。しかし、タバヴ・ワポ・ルの堅牢さがなければその評価もその通りには行かない。」

「危機的状況に陥った時、真っ先に白羽の矢が立つ場所にいると?」

「その通りです。最近、この国を出るように勧められたばかりでは?」

「ガーランド国が異界侵攻をするので、早めに院を畳むようにとはいわれました。」

「院を移動することはできるのですか?」

「緊急措置を使えば、座標から消失することは可能です。ただ、再展開にはあまりにも膨大な魔石が居るので、躊躇していました。」

「ふむ。……オブスサーバーさん」

「なんすか?」

「正直に腹を割って話しましょう。私は偽りを口にしないことを誓います。ですからあなたもひとつ此方が質問に答えるたび、一つ確実にヒントで良いから答えてください」

「聞きたいことがないんでいいです。」

「遠慮なんておよしなさい!ほらほら!一番のデータバンクと自負している私が答えて差し上げるのですよ!今なら一つ目は真実を話しますよ!」

 

 面倒くせぇな。

 

「じゃあエステラさん、冥界にガーランド以外の国を落とす予定はありますか?」

「……ほー」

「……おい、オブスサーバー、お前その話何処で?」

「協力を俺たちに願うなら願い下げですよ」

「この空島を出て君たちに安全地帯があると思いますか?」

「ないなら、作る。二度とこの世界に出てこない。少なくとも俺は。」

「ウィナフレッドさん、この方の手綱を握ってはおられない感じ?」

「ええと、僕はむしろ、手綱を握られている方でして」

 

 ウィナフレッドさん、人聞きの悪いこと言わんでくれ。

 

 交渉のテーブルにつけたらしい。エステラ氏は失礼、と称して写真を入れ替えるように、一瞬で衣装を討伐時の恰好に変えた。

 軍服に外套を羽織っている状態、上着を外し、とんがり帽子を外すと机のわきに置いた。エステラ氏が隻眼の眼帯を外して顎を指でさする。

 

「視えませんね」

「いきなり見ようとしないでくれません?」

「常時阻害を張っている術士が何を言いますか。一度もあなたは緊張を解いてませんね。ウィナフレッドさんにつけている守りもあなたのものですね?」

「……、あなたの流儀に乗っ取って、探られたら探り返しましょうか。ゲイザーさん、あんたが主の主従契約か?」

「あー、オブスサーバーそれを言外すると俺はその時点でお前を殺さにゃならん」

「成り立ちが歪だな、両者ともに一度冥界に落ちたことがあるな?」

 

 ざっと二人して攻勢を仕掛けてきた。地雷を発言した時点でウィナフレッドは別の次元にいる。ブラッグドッグが危機的状況を察知したら逃がすように、という言伝通り現状を判断したためだ。

 エステラ氏もゲイザー並みに動けるな、と評価を改める。エステラ氏がゲイザーの魔術の師なのだろう。術の稼働までの構成が一緒だった。

 

「入国履歴を洗いざらい舐め回しましたが、一つもあなたの履歴は出てこない。オブスサーバーさん、君は何処からの来訪者なんです?」

「未来でも過去でもないどこか。」

「『外』?」

「近いんだけど、一致する言い回しがないのが現状だ。あえて言うなら、あなた方が知る過去の歴史の一端だろうか。断片といっても良い」

 

 熟考を重ねる。ゲイザーは俺の首に剣を当てたまま、片手でコーヒーを飲んでいた。

 剣はゲイザーが認めるだけで俺の首をはねるだろう。これは魂魄だろうと器だろうと両方一緒に切る剣だ。そういった術式と素材で剣が作られ彫られてる。

 宝剣とはよくいったものだ、とゲイザーが持つ創造品、アーティファクトをまじまじと見る。ゲイザーが呆れたような声を出した。

 

「修羅場くぐってるのは間違いなさそうだが、この状況でお前、逃げれると思ってんのか?」

「なぁ、ゲイザーさん、あなたは裏のない善意の行為だっつってたけどこれ裏しかないだろ」

「いいや、善意だ。選択肢を与え、身元不明、素行明らかにならぬ不審者のそちらから、あえて意見を組む程度には、耳を傾けている。最上の善意だ。」

「二百年前にこの世界が次元に門を開けた時、同時に大厄災の呪いが落ちなかったか?」

「君は何かを知っていますね?」

「面倒だから最初から結論を言うが、俺は大厄災を討伐した一員だった。」

 

 とんとんと叩かれていた指が止まった。目を瞬いて、寝ぼけていたのかな、という表情を浮かべ、エステラ氏が俺を見つめる。

 

「なんと?」

「討伐した一員、結果は大勝利。大陸は沈むことなく、汚染は解除されたはずだった。……はずだったんだよ」

「第七大陸の最終処理は五十年まえだ。君の言う汚染の解除は決して起こっていない。」

「結果が混ざってる。これだけで聡明なあなたならわかるだろう。」

 

 一瞬だけ目を見張った。情報の統制が取れていないのか、と宝剣を素手で引けてテーブルに戻る。足蹴にした椅子を引っ張り、腰を下ろす。

 術式の方向を置換したら、逆に戻る。最強の矛と盾でも試すかもしれない。

 

「ゲイザーさん次その剣を俺の体に向けたら破片に変えます。」

「……嘘だろ?」

「もう一度素手で引けてもいいぞ。真っ二つに折ってもいい。戻せるだろ?」

「やめてください、その宝剣の術式はさすがに戻せないので。」

「お二人の立場は何となく察しました。が、それは俺には関係ないことです。俺は何処にも所属していない。むしろあなたたちとは敵対する立場にある。」

「いいえ、君には理由がありません。」

「大陸全土を巡ったならわかるはずです。俺は何処から来ましたか?」

「第七大陸の座標、わずかにあなたの魔力反応があった。」

「正解です。そして、そこに俺の領地がある。正確には二百年前に、でしたがね。」

「姫さん、これは少しカードを整理したほうが良い。ここが空島でよかった。そしてお前が聡明でヘイニー嬢ちゃんの院でしか緊張を解かなかったのは正しかった。よそにこの情報が耳に入っていたら、俺はお前を見つけ次第殺さなければならなかった。」

「あなたたちの立場が分からない。公平に行きましょう。落す立場か、阻止する立場か。前者か後者かの二択の回答を俺は求めている。」

「あなたは一体、何を毛嫌いしている?」

「俺は優位に立つものの無意識な傲慢が大嫌いだよ。選択肢を与えるだなんてよく口が聞けたもんだな。これは始めから終わりまで全部脅しじゃないか。」

「……金銭で動かぬものが一番厄介だと、ゼケンロビで理解していたつもりですが。」

「俺様を引き合いに出さないでくれ。」

 

 エステラ氏が両手を掲げて降参を示した。

 

 

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