銀杖の担い手 ライト版   作:海に流れるアリ

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四章 (2)神域の領地

 

 眼鏡をかけて構成物質を解析した結果、竜種を呼んだ原因がこの生贄の子供だと判明。厄介毎確定。

 治癒士として真っ先に気付いたウィナフレッドが、子供の体をゆっくりと解析して同じ判断を下す。怪異だ。

 

「……、素体が竜の、変転した怪人?」

「そうであるなら、ここまで竜種への要請は来ないだろう。神域でなんらかの干渉が行われたと見える。厄介毎だな」

「でも、この子は生きてる。」

「そうだなぁ……」

 

 たとえ生まれが違くとも、同族の保護を願われたのなら救難信号に答えるべきだろう。

 次々とひび割れが増していく神域の消失具合を見ても、ここは『灰色の世界線』に囲まれている。

 あの八回の陣の移動は、既に陣地を隔離封鎖していると視るべきだ。混濁、神域への接続は古くから起きる現象だ。願う性質が神域の成り立ちに呼応し、『厭』たる宵影の質が生存するための対価を探す。オクの世界は上下を冥界、神域に挟まれているのだ、だから古くから次元侵入を防衛、遅らせることができていた。上下の異界を対価に。

 

「あー、ウィナフレッドは宵影の成り立ちを教わったことはあるか?」

「自我の崩壊した魂が変質したもの、霊核はなく、存在も剥奪され、浄化されねば戻ることもできない、負を独立した厄災たる現象。だから僕らは浄化を彼らに向けるし、まとった構成物をはらうために剣をふるう」

「そうだな。」

「ねぇヘズさん、あなたがいう『灰色の世界線』って、何」

「君が感づいていた終わってしまった世界線。時間の中に取り残された総称たる名称たちだよ。災禍の渦の接続先、その根源とでもいおうか。」

「……あなたが知る大厄災とは、なに?」

「災禍の渦が複数重なり合い、そして『灰色の世界線』が共鳴してしまったがゆえに生まれ落ちた概念。全てを模範し、解析し、置換して取り込もうとする『厭』の属性の大厄災。初見殺しの死者の呼び声を使うくそったれなこの世界における最終討伐目標だ」

「……僕、今弱音はいていい?」

「駄目。俺も気分が落ちるから」

 

 なんで囲まれてるの?、とウィナフレッドに首を傾げられる。普通に無理案件だったね、安全地帯とかいってゴメン。

 竜種も死ぬと解ってても、この領域に来た理由はこの子供の生存を神域の存在に呼びかけられたからだろう。

 

 

 竜種が鳴いている。その音色は悲鳴に近く、ウィナフレッドが顔を悲痛そうにしかめる程だった。

 食われると解っていても、子供を保護した神域の存在に一つ浄化の祈りを送る。具体的に言うと、足元から地面の下へ魔方陣を広げると浸食された陣地の汚染を俺の理力で押し戻した。この神域の、祝福された領地ぐらい残してやりたい。一番大きな個体が俺を見た。俺は軽く手を振ると、副武装の弓を取り出して理力の矢を右手に三連指の間に成造した。

 最初に決壊した場所に多くの竜種が飛ぶ。俺はその背後から追尾の矢を穿ち、物理の鏃に爆破を刻んだ『矢』もはなって、追撃して加勢する。

 あふれるようにひび割れの蜘蛛の巣が広がり、神域の晴れた春のような気候の中に、夏の雷雨のような黒い雲に似た、墨汁の様に中の瘴気を空間に展開していく。

 すぐさまウィナフレッドが隔離の術を展開し、子供を保護。俺はその結界の外に飛び出し、竜種たちの要請に従って浄化の陣を展開する羽目になった。

 

『真名は。』

「……、ガゼット・ライラック・ヘズ・セモニ・リンギーチ・オブスサーバー」

『なるほど、リンギーチ領の女神殿か』

「この世界に名前が届いてます?」

 

 竜種の『長』が楽し気に話しかけてきた。念話で。馬鹿正直に真名たる本名を全部つづれば、大笑いの合唱。あんだよ。

 

『ご高名たる象徴の杖がないようだがいかがした!』

「未来に置いてきちまったよ!」

『なるほど、ならば我々も微力ながら協力を致そう。兵站の礼なり!』

 

 ごく自然に地脈を通して展開したから、ウィナフレッドは気づかない。俺の真名を知った者たちが俺を縛る。

 俺を通して魔力が運ばれるが、ちょっと待て、お前ら色と属性が違いすぎるぞ!!!

 白色置換できる術者じゃなきゃ汚染事項の一つだろうが!、と叫べば、かの女神がその程度の工程を下ろせぬはずが無かろうという声。こいつら俺のこと濾過装置かなにかと勘違いしてない?

 覆う程の巨大なものを要請されたので、魔力酔いという類まれな現象に三半規管がメリーゴランドしながらも、地脈に展開した術を複数点火して円を作る。

 竜種の『長』から何かが飛んできた、でけぇでけぇ真黒な槍。以前開拓時代に『長』を三度刺し殺した宵影の持っていた槍らしい。汚染事項じゃねぇか!、と手を放しかけたが、浄化されている。

 

「今の俺の器、白兵戦できないんだよ?」

『術を作動する媒体にはなろう、ほうら構えろ、其方は今しがた作った魔法を展開して維持し続けるだけで良い』

「それが一番難問だっつってんだろばーか!」

 

 竜種の『長』が俺の首根っこを加えて、ウィナフレッドの方へと放り投げやがった。

 円筒形に貼られた結界に衝突する前に緩衝壁のように薄い白郡色の膜が俺を受け止めた。着地までゆっくりと膜が変形して俺を包み、中へおろす。やっぱり繊細な作業できるじゃねーかお前ら。

 身の丈超える真黒な槍を構えて戻ってきた俺を見て、ウィナフレッドが一瞥するが、集中は途切れない。さすがである。

 ウィナフレッドは子供の汚染具合を見て、ひどく顔色が悪い。先ほど見たエステラ氏よりも悪そうだった。

 

「確認したところ、神域冥界含め、人型の生存反応は俺たちを含めて三人。君と俺とこの子だけだ。竜種の群れはきっと、これから浸食してくる渦の中身を相打ち覚悟で潰し合うだろう。再生と浄化が無ければ、だが。……先ほどかけた俺らへの加護はきっと餞別。あの座標に戻すための竜種の魔法だ。カウントダウンが始まっている。まぁ、加護が無くても誰から連れ出してくれるようだったらしいが。竜種は他者への治癒は専門外らしい」

「……だからあの子たちは僕らをこの子の下へ連れてきたの?」

 

 施術をしながらも、ウィナフレッドが顔を向けず応えてくれる。

 要請に足元の陣を通して、複数のひび割れに向けて浄化を展開していく。高笑いうるっせ。面倒なので地面に槍を刺せば竜種の『長』の大笑いから群れ全体の爆笑に代わりやがった。

 

「その割には、ひどく余裕そうな戦況なんだけど」

「浄化のストックと、兵站が行えたからみたいだな。聴いたところ、この現象は複数の領域で起きている。彼らは既に七度目の要請にこたえて、今回が八回目。」

「ねぇガゼットさん、竜って、永久機関でも実装してるの?」

「あいつらに限っては有り得そうだな。間近で見てて信じられなかったけど、俺が残機使って費やす工程、あいつら鱗一枚でなすんだぜ」

「き、規格外だね。」

 

 あの竜種の群れ、浄化がある限り死にそうにないんだが。その代わり俺が馬車馬のごとく働かされてる。断言できる。

 

「この子の浄化は、もしかしたら半日以上かかるかもしれない。」

「……体力は持つか?」

「僕は集中をすればいいだけだから。ほとんどの工程はこの青杖が行ってくれるし、動力はガゼットさんが刻んでくれた魔石が成してくれる。ただ、ルンイガキンカ様と違って、この淀みは幻影症候群の五段階目の浸食によるものだから、施術工程が異なるんだ。その間ここを維持すること、ガゼットさんはできる?」

 

 確信めいた目でいわれれば頷かざるを得ない。半日ぐらい頑張ります。竜種の回答も得たので是をつげれば、ようやく和らいだ表情でウィナフレッドが微笑んだ。

 もうひび割れのポイントは千五百を超えているが竜種の『長』が全てのポイントをマルチロックして掌握、個体が居る方へ順次時間を稼いで一定数飛ばしている。

 点間作業を額に刻んだ鱗の理術で行っている。瞳の光彩には収縮に合わせて、視野領域への概念干渉。これは間違いなく上位個体であり、人類系譜の竜種の知性だ。

 術の過程に無駄がなく、研究されつくした短略式、いっそのこと芸術染みている。

 国を成す規模の高い地位にいれば、これは後々面倒なことになるぞ、と冷や汗が一つ。真名も知られてしまっている。ウィナフレッドはともかく、俺は逃れようがない。

 

 ウィナフレッドの目には浮かび上がる瘴気が、ジグゾーパズルの上の模様のように見えている。

 模様が分解しているパズルの破片を元の形に戻す作業を延々と片手間にやりながら、もう一つの工程を青杖を握りながら、壊死させられている回路の復元、そして霊格の淀みたる呪いへの浄化を、子供の手を握りながら直接行っている。

 補助できることはないか尋ねれば、一番目のジグゾーパズルの補佐がほしいらしい。はいよ。

 俺が子供の額に指をあてると、薄り灰色の瘴気がどす黒い汚泥のように一転して濃さと密度を増した。ウィナフレッドが一瞬怯えたが、俺が声をかけると施術に戻る。

 

「……中にいるな」

「……、中に、いるよね。どうしよう」

「施術を続けてくれ。俺もちょっと干渉するけど、邪魔になったら言ってくれ」

「う、うん」

 

 今の工程で十の存在が変転してる。一瞬で瘴気が掻き消えた。

 要請の声がうるせぇ。こっちも今山場なんだよ、と念話に答えれば、周囲が暗い。ウィナフレッドに絶対に顔を上げるなと告げて領域の天を見る。真っ黒に染まっていた。

 どす黒い汚泥に反応して、一瞬でポイントが入れ替わったらしい。これは他は間に合わないな、と立ち上がると、真黒な槍を抜いて眼鏡を掛けた。

 

 槍は得意じゃないんだが、と構えて、円筒の外へ飛び出した。落ちてきた剣戟の音、真黒に染まった全身鎧の騎兵が一人。乗るは漆黒の竜種の怪物で、その口元の歯茎は真黒に染まっている。

 漆黒の騎兵は一撃を流すと即座に距離を取り、指を鳴らして黒い領域から一回り小さな漆黒の竜種を生み出していく。これは終わるだろう。

 

『さっさと祓って重ねを続行してくれ』

「この状況みてよくそんな台詞はけるな!?」

『其方なら一工程でおわるだろう、さっさと祓ってもう一度槍を点してくれ』

「おれは魔力循環装置じゃないんだがな?」

 

 槍に刻まれた術式は三つ。浸食、接続、瓦解。……、瓦解。慌てて地面の構成を見れば、槍を通して俺が張った陣地が新たに祝福されて活性化している。

 祝福や加護の改竄や改定は許可を取らずに行うと果たし状を叩きつけるようなものなのである!。待って。浄化の陣を槍に作動させた瞬間、邪魔するようにやって来た騎兵を問答無用で切り払えば、長剣ごと紙がちぎれるように二等分された。矛先自体に存在の領域を確定して切断する術が刻まれてる。こわすぎるこの槍。

 

『痛快!爽快!流石かのリンギーチ領の女神なり!』 

「まって、この槍の構成された術式、解析する暇が無かったんだから不幸な事故だろ!」

『その前から自身の浄化の術式で地脈を塗り替えていたが?』

「汚染された浸食領域を消しただけだろう!?」

『祝福たらんとこの領域の霊格へ祈っただろう、それは立派な代行措置である!さすがかの女神なり!』

「あああ゛ー!!!」

 

 槍刺した時点で俺がこの陣地の構成打っ壊してるし、刺した時点で汚染された元へ浄化を使ったから祝福の上書きもされちまってる。

 術式を確かに刻んだけど、それだけで領地審判に引っかかるとは思わないじゃん!。この神域が消えてないってことは、大本の霊格は死んでないんだろう!?

 

『神域の主人はその子供の中だ。交渉するならさっさとその幼子を救い出すことお勧めする。時間はあまりなさそうだぞ』

「早く言え!」

『まぁ、今其方が切り払った騎兵が消えたことで、大本の呪いが消えた。子供を刺殺した本体が消えたので呪いも溶けようぞ。』

「はやくいえっつってるじゃん!」

 

 ウィナフレッドが目を丸くして、子供の内側から出てきた白い腕を見つめていた。

 腕の持ち主は豪勢な羽織の模様を真っ黒に染めさせながらも、絹の意匠を保全しながら、その身は無垢なまま出てきた。

 煌びやかな赤い髪、金色と紫色が一文字、上下二分した二色の一対の瞳がウィナフレッドをやさしくみて、俺をにらんだ。

 

「まさか、まさか。女神代行たる者が、神域の祝福の介入に対する意味を知らなかったととぼけるおつもりではないですよね?」

「その、知らなかったとは信じてもらえません……よね」

 

 もしかしなくても、その、この神域に喧嘩売ったことになりますよね。ですよね。

 『ヴーヨン・ザゴ』と名乗った煌びやかな女性は俺の後ろに指を一振りした。すると展開していた黒い領域が一閃されたあと、黄金色の光を伴って轟音と共に端から一瞬で蒸発していく。

 戻る晴れ模様、春の気候。ひび割れも一気に閉じていき、おまけとばかりに女性が指を鳴らすと、内側から爆発して、白く変化した。木漏れ日のような光が渦巻いた後、空間のひび割れが完全に塞がっていく。格上も格上だよ、この神域の主。女性が一度手を鳴らすと、隔離と封鎖の術式が解けて、全領土へと座標が戻った。固唾をのんで、おもわず姿勢を正せば、女性が鋭い目つきで真黒な槍を構えていた。俺の持っていた槍を『領域掌握』の実権で取られたのである。ゴメンウィナフレッドサン、多分銀杖あっても、全盛期の俺でも、単身じゃこの女性に通じないわ。

 女性は一度槍をふるうと、真黒の槍を真っ赤な槍身に変えて矛先を地面に落とした。簡単に概念干渉が行えると、流石です。両手を胸の前に掲げて白旗を示し、瞼を閉じて処罰を待っていると、女性が少しだけ驚いた気配でウィナフレッドの方を見た。ウィナフレッドの苦笑が聞こえてくる。

 

「……さて、では処罰の方を。まず初めにリンギーチ領の代行者殿、初めまして。そして、さようなら。とりあえずそうですね、死んでください。言い残すことがあれば百字以内で聞きます。」

「あの、死んだら完全に死ぬので、その、一切関与のないそこの存在への温情をいただけると助かるのですが」

 

 二つ分のため息はさすがにひどいと思うんだが。竜種の『長』の大笑いがうるっさい。誰のせいだと思ってんだ。

 目を開けなさいと許可が出たので困りながらも明ければ、一瞬だけ息をのんだ気配がした。

 

「……、知らずやったのなら天才的な計略の素質がありますよ、まさか女神代行の印たる眼が合って視えなかったとはいわせませんと言いたかったんですが……、……シュゼーロポキ?」

『うむ、代行者の印が消えてたのでアワラギの風印を編み、私の加護と祝福をやった』

「大変失礼を致しました、リンギーチ領の代行者殿。この不敬はなにとぞお許しください。そしてシュゼーロポキ、あなた今度こそ本気で死になさいな。」

『五回ほどで許してもらえるだろうか?』

「竜種特有の煽りは本当に頭に来ますね。百篇死んで出直してきなさい。」

 

 手を引かれてウィナフレッドの方を見れば、とりあえず無言で座らされた。すごい速さで風を起こさない竜種の『長』が神域を駆け抜けていく。

 

「千年戻らなかった槍がこうもあっさりと戻ってくると、幻覚の錯覚すら覚えますね」

「あの、大丈夫ですか?」

「ありがとう人型の客人殿、善意はありがたいですが、私の方の治癒は結構です。その代行者殿、申し訳ないですが、どういった経緯であの者とあったのか教えていただけると助かるのですが」

「かの竜種の群れが派遣されて八回目の要請に遭遇、砂漠からの安全地帯への場所を尋ね、同行の許可を得たので運んでもらいました」

「五百、いえ、鱗が全部生え変わるまで剥き身ですごしてもらいましょう」

「いや、俺が無理を言って連れてきてもらったようなもんですから、交渉も此方から持ち掛けましたし」

「ねぇリンギーチ領の女神代行者殿。あなた本当に女神代行者なんですか?」

 

 色んな意味合いが含まれてて、意味が全部読めない。とりあえず按配の回答を選んだ。

 

「この時代ですと言葉が前後しますが、意味合いはおおむね。」

「この時代に女神代行者殿が二人いるんですね、理解しました。今回の不敬は観測しないという確約を持って不問としていただければ幸いです。」

 

 やべーよこの女性。ちょっと浮かべただけで全容抜かれたんだけど。とりあえず頷かざるを得ないので、是を返せば、女性個人への宣誓が結ばれた。簡単にしていいもんじゃないんですけどそれ。

 

「曲がりなりにもこの領域を救ってもらった礼です。その槍は代行者殿の眼のように、理の供給元の魂魄に神域の祝福を受けてないと使えません。あの馬鹿や他の者が持っても使えません」

「そんな権能を持った槍なのですか?」

「死ぬ寸前であの者が槍の代わりにいままでの全てを不問とするように交渉をしてきました。苦渋と辛酸をなめた末私はそれを了承し、あの者をこの領域にまねいたのですが、少々予想外のことがおきまして、あの子供の中に食べられていました。」

「それは、あの子供の内側から来ていた『永劫回帰の呪い』ですか?」

「……、なるほど、未来から来たというのは事実のようですね。どうやって門を開きました?」

「不明です、ただいくつか条件は絞れていて、等価の女神の用意した『領域』から『淀』に内在していた長期とみられる『記憶の術式』への干渉を行いました。俺ではなく、この子がですが」

 

 ずい、と女性の貌がウィナフレッドに顔が近づいた。青杖を傍に置いたウィナフレッドは居心地が悪そうだ。しばらく見つめ合って、名前を尋ねられたウィナフレッドが真名を名乗る。俺も名乗って、女性が頷く。

 

「名に偽りはないようですね。その二つ名はここを出たら他の者には読めないようにしておきましょう。知っていても、全て捻じれるように『条文』を加えます。」

「あの、そこまで保護をしていただくわけにも」

「私がするべきだと判断しました。代行者殿、あなたはこの領地を救うために身命をさらしたのでしょう。これはこの領地の主たる私が示す等価です。それとは別にきちんと礼と報酬も用意致します。そうですね、ほしいものがあればなんでもいってください。複数でも構いませんよ」

「さ、さすがに、ヘズさん何もないよね?」

「この領域から未来に戻る術を探しています。軸はこの子と俺なんですが」

「へ、ヘズさん!」

「ふむ?」

 

 俺の手を引くウィナフレッドを見て女性が眉を寄せる。失礼、と称してウィナフレッドの額に右手の人差し指を伸ばすと、円を描いて、右手の親指で押した。

 すると、ばちり、と二人の間に雷光が走って、女性が離された。心底驚いたようにウィナフレッドを見ている。俺を見て、訳アリかどうかをアイコンタクト。是です。

 

「……、……、領地を救ってもらった礼です。秘匿と保護をすることを宣誓しましょう。」

「あの、ヴーヨン・ザゴ様、そんな簡単に宣誓しては駄目ではないのですか?」

「……女神代行者殿、この子うちにもらってもいいですか?」

「流石に駄目です。」

 

 ウィナフレッドが状況を読めずに目を瞬いている。現代の情報を共有すれば、冷たいものを食べた様に女性が額に手を当てた。

 ウィナフレッドへ。どう考えてもこの人が神域の主で、この領域の女神なんじゃないかなと思います。告げる前にウィナフレッドが尋ねればあっさりと肯定が返ってきた。

 

「安心なさい。回帰の誓約条件は意識が同一の次元、この世にない時に限る。あなたが存在していることを知っているだけでは対消滅の条件には当てはまりませんよ。あなたの記憶が正しければ、オクの世界に長い間いなかったのでしょう?」

「神域とオクは別次元のくくりなので?」

「正確に言えば神域ごとに次元が違うと判断されます。まず、あなたがここを訪れた形跡はないのでしょう?、なら、領域への救難信号を応じてもらった対価として、羽休めの場所を提供いたしましょう。」

 

 未来への時間への足掛かりについては一先ず保留とさせてください、と女性が呟いた。

 

 

 ヴーヨン・ザゴと呼び捨てる様に、と言明された俺はどうにか敬称を付ける許可をもぎ取ってウィナフレッドと一緒に戻った神域の領地を案内された。

 指の一振りで表示された領域全体のホログラムは、軽くニハイが四つ入るほどの巨大な陣地である。ここ、小規模だけど神界規模じゃないのかね。物理的にも渡された地図を眺めていると、ヴーヨン・ザゴ殿が苦笑する。

 

「ここは八つある領地の一つですが、一番小規模です。二番目の半分以下でしょうか。ここは一番『灰』とつながりやすい場所なので、私が常駐しています。他の領地は他の者に治めさせています。」

「一番最後にあの竜種の『長』殿が来た理由は?」

「端を潰していく必要があったので、大本であるこの場所を最後に回すように指示しました。あの者たちが四つ目の救難信号の要請に応じている間にあの者たちの術を解析した『黒』の首魁が侵攻をかけてきたので、四つ防衛しているうち、三つ取り戻す前にこの落とし子が送り込まれてきました。私の防衛が失敗した全ての領地の魂が封じられた竜の死骸でできた器です。」

「……、勝機を分けたのは、」

「あなたたちです。視たところ、他は全て灰になったようですね。黒に取り込まれたようです。この領域浸食は全次元に同時に起こりました。すべての神域で対策が行われている事でしょう。代行者殿が奔走していた時期と重なるのでは?」

「小規模の神域だったんですけど、やけにうちに救難信号が来たのはそのためか……、実は、俺が全容を知ったのが百年ぐらいの後なんですよね」

 

 ヴーヨン・ザゴ殿、心底気の毒そうに俺を見ないでください。

 白白など珍しく、さらに器の持ち主が構築した容器に適合して生物として成り替わるのは異例中の異例ですよ、とヴーヨン・ザゴ殿。初耳なんですが。

 

「『等価の』は『天上の』と同列なのはご存知ですよね。あなたは等価の女神が招来した領域から来た。その時、等価をはらって滞在していたのではないですか?」

「あ、はい。」

「あの領域の果物を直に摂取しました?」

「俺と、ウィナフレッドと、その、俺に器を譲ってくれた大厄災の変転した白の概念が、ですね」

 

 全部言い終える前に、全ての概要を把握したヴーヨン・ザゴ殿がぐりぐりと米神をほぐしている。爆弾というより火薬庫そのものですね、あなた、と言われる。

 念を探らない、無条件で情報を引き抜かない温情はありがたいですが、今のは絶対いうしかなかったじゃないですか。

 

「……今の時代のあなたは代変わりした女神の守護で忙しいんですよね?」

「俺が仕えた先代の領地は、この領地を同じような侵攻を受けやすい深淵に有りました。長期の防衛が不可能と結論を付けると、自身の概念を解体し、領地の条文を加える等価に自然に戻りました。」

「リンギーチ領の女神、三年前の代替わりですね、存じております。あなたはその代行を司ったのは?」

「引き上げられたのは十年前になります。眼は先代から、……その、もう一つの方は当代の女神からいただきました。」

「……、先代女神殿からあなたの名を窺ったのは既に百年ほど前になりますが、当時から代理措置の修練を受けていたわけではないのですか?」

「いえ、俺は全くの無関係な理由で依頼を受けてそのまま領地内の役職に雇用していただきました。」

「……、代行者殿、役職をお伺いしても?」

「侵攻対策・解析部門の情報部室長ですね。当時の騎士殿が部長でした。」

「……、なるほど。」

 

 遺跡調査が成人(七代)から十年後だったし、先代女神殿と出会ったのがその二巡後だからほぼ先代女神殿と関わっている計算になるな。ここでなぜか条件と共に加護を受け賜わって、敵意を阻害する次元規模の術式を手に入れた。条件が外での見かけた術式を解析して情報を持ち帰ること。当時ガウスが傍にいた俺には簡単すぎて、釣り合いが取れないから二度聞き返したもん。実質対価の無い報酬だった。次元規模の阻害をしてくれる加護とか当時から今も有用すぎて承諾せざるを得なかった。太っ腹だよね。

 役職もこのころから。金なしの旅人だったから、毎月振り込まれる給料が本当ありがたかったし、一巡ごとにコンタクトを取るように言われてて、そのたびにお小遣いくれてたし。孫扱いされてた気がする。

 同門であるガネンメーデと出会ったのもそのころで、物理耐性を身一つで体現させたあの脳筋と意気投合したのは懐かしい。神秘も概念も物理で殴るの意味わからねぇよな。

 

 神域での部下、嘱託の専門術士として取り上げられたのがそれから五年後。当時旅人だった俺はガネンメーデとは別の同門に要請される形で応じた。

 ここらへんで察せられるが、当時異端審問日常茶飯事だったバラガラの術士協会の後ろ盾がリンギーチ領の女神殿だったのだ。女神殿は古株だから任せろと称して多くの神域からの要請苦情を一手に引き受けてくれていた。フラグ管理してくれるってならこれほど心強いものはない。

 これがあって、バラガラの術士であればリンギーチ領地の要請があれば応えるのが暗黙の了解だった。

 

 

 リンギーチ領地は冬の気候だが、星の邂逅期ごとに天候の概念が変わるという、摩訶不思議な領地だった。

 神域がリンギーチ領地に座標を固定していた影響らしいが、時期が来ると物理を無視して、白昼夜である夜空に浮かぶ天体の星図が全て変わるのだ。概念条文の神秘に守られている世界の理であれば、普通は起こらない。女神殿曰く、探し物をしているためにちょちょっと概念を弄ったらしい。そのために千年規模で年中戦争してるのはどうかと思う。

 まぁ、女神殿の探し物、これが原因で類を見ない頻度でリンギーチ領地は『領域浸食』を受けていた。領民が戦闘狂や研究者、専門術士がリンギーチ領の中に多くいたのは人体実験が合法にできる為であっただろう。俺もその類だったし。

 

 『領域浸食』の大半が異次元からの『灰色の世界』、『終末の世界』は終わった線形時間の接触だった。それは一過性のもので、引き合う要素が消えれば縁も消えて、再び果ての無い虚空の領域へと消える定めであった。二つの世界は時間の無い止まった世界。

 二つの世界は推移する過程にある。『終末の世界』は『灰色の世界』に推移する。変わる条件は内部から『冥界』が消えること。

 『冥界』の有無で、完全に時の連なりが消えてしまうのだ。

 多くの領地は『冥界』から縁を辿って『終末の世界』を見つけ出す。裏を返せば、終末に至る世界は、皆、等しく冥界に沈んでいるといえよう。

 

 基本、神域は『終末の世界』の救難信号を拾う。歴とした理由は、冥界が存在する世界の中には、『生者』がいる可能性が高いから。

 灰色に変わると時の全てが停止してしまう為に、取り残された火花は目的を失って、彷徨う。その段階で死に至っているケースが多く、火花は永遠だからこそ、後回しにされる。生きているならば、神域の存在は看過できない契約を世界に結ばされているのだ。

 この仕組みはきっと、灰色の世界には、牢獄に近かった。だからこそ、灰色の世界に生きたものなどめったにおらず、理が在ったとしても、自我が壊れているか、……自ら石になってしまうのだ。

 そしてももう一つ、『灰色の世界』に手を付けられない理由がある。死に至る過程で希望を見いだせない魂は、世界を厭うのだ。開いた瞬間に亡ぶ領地も少なくなく、誰も彼もが灰色に手を出せなかった。『冥界』があっても、『神界』が存在しない理由は多岐にわたるが、偏に規模に比例して『灰色』が寄ってくるために、危険すぎて分散の道を選ぶほかなかったのだ。

 多くの歴程で記されている結末は、木乃伊取りが木乃伊になる、という言葉通り、『概念浸食』が原因で多くの神域が滅んでいた。

 

 そんな中、リンギーチ領地は類稀に見る『灰色の世界』を専門に仕事を熟す領地だった。

 

 『終末の世界』の魂は『外』へ、生存者は『漂流者』としてリンギーチ領の女神殿が保護をしていた。

 この世界における漂流者は結構な頻度で渡ってくるが、それは神域の時間経過の限りではない。オクの世界基準で言えば百年に数人が普通である。本来であれば、汚染や浸食を防ぎきれず、『浄化』『破壊』対象だ。実質生きたままたどり着くなど不可能とされている。

 『漂流者』はなんらかの神秘を有しており、先天的な加護や祝福を受けている者が生き残る。アカウント作成基準の設定集ですね。わかります。

 

 ちなみに神域や冥界がこの『漂流者』を真っ先に保護する一端は概念干渉の汚染を受けていないかを定める為である。同盟時代からの制定された約束事だった。

 怪異化した対象であればその接触領域の主が責任をもって『浄化』と『破壊』を司らなければならない。

 当時位相世界が多くあったから、漂流者の線形時間の世界線があれば、望む場合、本線を探し、リンギーチ領の女神殿がそこへ帰還させてやっていた。

 

「ヘズ、あなた内外の時間をずらしているよね?」

「……やっぱ、契約したらわかります?」

「解る。でも、これはパスが無いと解らない。言いたいことは山ほどあるんだけど、先に一つ忠告。これは神域に置いて、停止術を収めている術者と遭遇する時、発動しない可能性が高い。冥界ならば強制的な停止を一律執行する命令条文が敷かれているから万全だろうけど、異界や意識の狭間に飛ばされた場合、このリンクが途切れるかもしれない。その術式は情報機構を経て組み込まれたあなたへの加護だ。……その上で、ヘズの星の光が閉じる時がある。ヘズは『理』に概念を持っている。それはあなたが『門の中』へ帰還しているとき、それはあなたが『内』で休眠措置を行っているときだ」

「誰にでもわかりますか?」

「否、これは従者の契約をしてあなたの回路を解析して初めて分かった。そして、情報開示を一度求めたから出来ている。信頼の無い間柄で解析を成せば逆に忘却、属性の対消滅を辿って記憶の改変まで行うカウンターが組み込まれてるから、えげつないほどに守られてるよ。……だから、確信が持てなかったんだけど、微弱なずれが定期的に起こる原因を探って、ヘズの動向をしばらく観察させてもらって確信した。もちろん、面会しているときだけだよ。」

「優先事項を組み込んでいるので、何かがあれば俺に命令を託してください。俺の現在の上司はディゴン、あなただ。」

「……ヘズ、これだけは真実を応えて。内外の差はいくつ?」

「オクの世界と内部で百対一、神域でも同様の措置を取っています。俺は時間が過ぎるのが他者よりも百倍速い。制限を切っている時は別ですが、自動行動で反応している場合が多いんです。それは俺の特殊な理のせいなのか、生まれなのかはいまだに分かりませんが……休眠措置を行っているときは、俺の組んだルーチンが作動してます。器と理は作動しているが、意識の狭間に『存在』だけが消えていると思って頂ければ。内外の差はこの時、一万倍ですね。……指令を受けた時だけあなたの解析した概念で内部に停止術を作動させています。それは俺の理にだけ作用するものであり、それ以外に何の作用を持ちません。」

「……解除されるときの条件は話せる?」

「……俺の感情が大きく揺れる時です。一度解除されると、此方でも、『内』でも、時間の流れは、ディゴン、あなたと同じものになる。」

「……。感情を消してあげようか。」

「いえ、ディゴン、それは在る者への失礼であり、無いものへの冒涜ですから、お気持ちだけ受け取っておきます。口に出せない禁則事項も存在している、これは概念によって思念すら形成できません、ご容赦ください。」

「……わかった。ヘズ、あなたが何者であろうと、私の家族であり、頼りにしている従者だよ。それを決して忘れないで。ヘズが悲しむとき、必ず私は味方になる。」

「はい。」

「ところでヘズ。今はプライべートのはずだけど、口調はどうしたのかな?」

「大神殿内部では勘弁してください」

 

 ガゼット・オブスサーバーとしての偶像が経過百年になる頃に異界浸食が起こった。この時にガネンメーデと一緒になし崩し的に始まった全面戦争で従者という立場になってしまった。

 ガネンメーデと同門は防衛司り。俺は戦場を相手取る。当時侵攻に対応できるのが俺と同門二名、ガウスとリンギーチ領の女神殿だけだったんだもん。

 異界浸食の原因は女神殿の探しモノ。そしてその異界に付随する次元こそが女神殿が探していた忘れ物だった。

 

 女神殿が探しているという異界だという疑惑が浮上したのがこの時である。目の色変えた女神殿が秘蔵っ子の銀槍を招来して男神殿になったのは懐かしい記憶である。小柄な方なのに、アーティファクトの器を介して顕現すると、巨大種のワイアームを素手で討伐できる巨人類になるのだ。常に面布をかぶった術士スタイルに『偶像:秘匿』の状態だったから、衣服以外、青い影を持つ人型としか認識できなかったけど、そのおかげで一切の情報を渡さずに迎撃が出来た。

 

 その結果、五代に巡る侵攻は俺たちの全面勝利。完全浄化で異界という領地を手に入れた後、小規模異界の領地はリンギーチ領地にかぶせる形でボックス型の座標に浮上させた。

 『戦果』のおかげで異界の概念からの『競技世界』へのコンタクト許可が下りたのは嬉しいサプライズだった。隠しフラグ大好きです。同門三人で『競技世界』に入り込んで、実質無限に施行できる研究所であったために、戦術や研究を大いに利用させてもらった。

 

 従者に引き上げられて以降、俺が神域に半ば片足突っ込んだ生活をしていたのは間違いなくこの『競技世界』が原因だった。パスの経路がそもそも複雑で、『神域』→『異界』→『競技世界』の順序で接続しないと弾かれる。そもそも『競技世界』は先代女神殿の権能の一つで、『顕現』させているに等しかったから、等価に働く必要もある。よって、長期間遠征や異界に突っ込んでた。だが、異界が原因は間違いなく『競技世界』の概念が女神殿に引かれていた為。マッチポンプだと嘆いたのは久しいが、効率を考えたら顕現させておく方が他の領地に被害が少ないのは確かだった。

 苦労のおかげか、他の領域にはほぼ紋章を見せるだけで顔パスみたいに居れたし。じゃないと他領の神域に顕現してすぐに接続のパスなんて出るわけない。

 

 女神殿は『競技世界』を神代の黎明期に作り上げて、本選の出場者の場合、勝者に一番の『主武装』を譲るという条件を付与した『競技』を娯楽として作り上げていた。

 ちなみに最初期は女神殿の秘蔵っ子の『銀槍』を褒美にしたそうだが、未だに所持しているってことは、……勝ち残っているってことである。

 

 まぁそれはともかく、防衛し異界を完全確保した俺たちはそれが切っ掛けで従者として取り上げられた。対価として身命宣誓を女神殿と領地へ誓う代わりに、女神殿は従者の信頼を獲るため、成長するアーティファクトを授与してくれた。当時も今もどのくらいすごいのかは専門職人ではないのでわからないが、便利ものをもらったなと思う。その代わり、思考と傾向、属性、術式すべてが反映されるので要注意とのこと。最初はただの球体だったのに、十年で気が付けば指環型のデバイスになり、展開時は『銀杖』そのものになっていた。刻む術式はスロット型と固定用の空白の器の陣。俺の場合、向けられた、受けた陣を自由に刻めと言われた。このアーティファクトの利点は自動で行動してくれること。俺の場合、最初に登録を断った。これは登録すると暗号と許可を出す場合以外、固定された術者しか使えなくなるので、俺の場合未登録で通していた。第三者がこの杖を握ってくれるだけでマジで助かるんだよ。

 

 それぞれのアーティファクトは一応三人用に吟味してくれたみたいだった。だが、全て女神殿の性質由来のものじゃなかったので、同じく従者として取り上げられた同門二人が固まっていた隙に尋ねれば、譲ってもらったものだといっていた。

 

 私はモノづくりが専門外でね、という先代女神殿であったが、渡されたアーティファクトは全て未登録のものだった。曰く知り合いに作らせたらしいが、『器』のアーティファクトは主武装ごとにあったらしい。だから、女神殿時々オクの世界歩いてきてたんですね?、年末年始からお八つ時にやってくるのが当たり前すぎて忘れてましたよ。

 

 複数の属性がいのアーティファクトを女神殿が所持している理由は簡単である。『競技世界』を作った本人であるからだ。……誰と戦ってたんですか女神殿。ちなみに俺の副武装は代替わり前に最終確認と称した女神殿が本選を開いたので勝ち取った。私を正式に倒せたらもう一ついいものやるよっていうので頑張った。

 

 あの人、まじで記録された当時の概念を模範させてきちんと『競技』を行わせてきたからな。あのひと本気で本当にまっじでいやらしくってさ、私が授与したアーティファクトは禁止だぞつってな?。その代わり殺す気で来いや、って煽るもんだから同門三人で準備期間として渡された長期休暇三年で超がんばった。いざ本選に向けて、と勝負を受けたら、あの人、当時私が戦った中での精鋭を集めたって予選から持ってくるんだぜ。馬鹿だろ。予選からなんて聞いてねーぞ。そうして一月かけて三人で打っ壊した恩寵が主武装である。同門二名は俺がプラナリアという不名誉な渾名を受け賜わって下した。残り二つの主武装もきっちりもらった。その二つガウスに組み込んであります。ははは。

 

 上記のことからわかる通り、俺が戦闘狂といわれるには理由があり、別に俺は戦闘狂ではない。

 

 ちなみにこの本選、女神殿に敗れた場合にのみ条件が外れる。出直しておいで、とキレッキレの笑顔でのたまうのが我らが女神殿であった。煽り耐性が低いとキレる挑発効果があるらしい。いやっらしー。ちなみに本選に関しては百年に一度開催していたが、出場者には女神殿が空白の概念をあげていた。余ってたかららしい。意味わからねぇよな。本選出場の対価が大きすぎる。出場者は十人でバトルロイヤルである。組んで良し、潰して良し、裏切って可。駆け引きの模様も娯楽の一つだったのかもしれん。

 

 当時の情報収集と称した記録が残っており、同門三人は遊ぶ許可を得たので、疑似的な『競技』を行わせてもらっていた。

 当時から騎士殿この競技世界は活用していて、同門二人と俺に打っ壊されては切れていた。だって無限に巻き戻り、再生して遊べる遊戯なんて全力で遊ばないと駄目だろ。

  

「読みづらい魂魄をしていますね、私でも捻じれを解析して一回毎に変化する霊気の防壁を突破するのが難しいです。なにかつけてますか?」

「えっ!?、あ、すみません、私の時代の騎士から借り受けている道具を耳に。」

 

 耳環を外すと構成する星の性質がはるかに先の品ですね、とヴーヨン・ザゴ殿が肯定する。だが、数秒もしないうちに耳環をヴーヨン・ザゴ殿が自ら俺の耳に戻した。

 

「代行者殿、これは忠告です。この過去にいる間は決して外すのを禁じます。理由はあなたの存在が虫食いの様に食われた形跡がある。ヘイニーさん、あなたはこの方の状態をご存じですか?」

「初耳です。どういうことですか?」

「代行者殿は一度対消滅してますね、一瞬だけ無防備になった時分に存在そのものを、あなたに巣食っていた何かに食われてます。その何かは『黒』たるあなた方の評す、大厄災ですね?。類まれなる生還者です。代行者殿、あなたが対消滅から戻れた情報の共有を求めます。」

「……、ヘズさん?」

「同時観測された時代に、俺の上司殿、その、当代の女神が居まして、消える寸前に彼女の概念と引っ張って来ていた神域の条文で保護されていて、神域全ての概念を消費して俺の理を確保されました。」

「食べられたことを告げてないのですか?」

「食われた部分は、変転した大厄災の、器の形成の補助に回しまして……、俺の血の陣は置換と点間なので、治癒の術式を食われた魂魄の部分に刻んであります。魔石からの遠隔操作で」

 

 あの、二人揃ってその目は止めてください。

 問答無用で手招きされたので、ヴーヨン・ザゴ殿の質問に答えていく。わー、俺の経歴が丸裸になっちゃうー。結局三日の休養を言い渡された。

 

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