銀杖の担い手 ライト版   作:海に流れるアリ

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四章 (6)依頼斡旋所に行こう

 

 今日は朝から依頼斡旋所でお手伝いである。どうせなら観光をしていきなさいよ、と竜種の友人たちに諭されたものの俺は他領の営業の仕方を知りたいのである。今日の露店は夜なので、時限式の討伐依頼に参加するのだ。予め俺とウィナフレッドの器の情報は採取復元できないことは証明済み。あのヴーヨン・ザゴ殿が太鼓判を押してくれた。双方の細胞一片どこに落としても第三者に触れる、一定の距離を開く、改変を行うと消失して元の器に戻る性質がある。これが無ければ参加は許されていなかった。何をしても情報を渡すことはない防衛機構の中で討伐をするのでどんな魔術理術亜術も使い放題。やったね。

 

「アーティファクト巡りは良いの?」

「ヘズさんが何処まで動けるのか興味がある。」

「君ずっとそれだね……。」

 

 ちなみに宿できちんとウィナフレッドにも許可をもらったものの、同伴すると在って頑なに別れてもらえなかった。同一の興味もあったらしいので、そこまで食い下がられたら俺も拒否はできない。

 時限式の討伐依頼は個人だろうが団体だろうが、班に別れて指揮官から指示を受ける。ニ・ハイで受けたゲイザーたちのような潜伏型の指導官も居り、万が一に備えて死亡せぬよう専門術士が一人混ざり、そこから必ず指揮を通達される。

 今日の討伐依頼は停止術を敷いて封印している小規模異界の制圧である。ヴーヨン・ザゴ殿が初日の穴は全て塞いで祓ったものの、稼働し始めた時間と共に再び寄ってきた『灰色』の世界が凄まじい速さで収束してきているらしい。俺のせいかな、と慌ててヴーヨン・ザゴ殿に尋ねれば否の回答。全力で遊んでいいですよ、というお達しを受けてお墨付きが出たのでやる気は満々である。基本依頼斡旋所は軍の補佐が主であり、階級と信頼が無いと討伐、人員依頼に関しては、本当の意味での個別依頼はもらえない。

 斡旋所の依頼はおおまかに六種類に分かれており、巷で募集されている掲示文などは紙面の色で依頼傾向が推測できたりする。

 

 運搬、人員、採取。調査、派遣、討伐。

 

 白、黄色、緑。青、赤、黒。白は特定対象の運搬、黄色は人員募集。天の罅割れが去った後も収束してきた灰色の世界で大忙しらしい。

 緑は採取。青は調査、赤は派遣、黒は討伐。主だった依頼は前二つで、赤や黒は予め既定の資格が問われる。黒の依頼がいくつも出てるのは珍しく、基本手薄な時や緊急制が無い限り数か月に一度出るか出ないかだ。実は昨日、初っ端から黒を見つけていた俺は意気揚々と参加を決めていた。一番難易度が飛びぬけてる品は紋章もちでないと受けれない特別仕様。これがいいと声を上げれば一斉に引きつる竜種の友人たちの貌。僕は参加できますよね、ね?、と無言で圧を掛けるウィナフレッドサンが直接ヴーヨン・ザゴ殿に許可をもらった。逆鱗型のアーティファクトの効果で問題ないらしいが、念のため手の平の方に紋章を刻んでもらったらしい。

 こういった形式で気軽に参加できるのはありがたいな。時限式で加速、遅延が可能な領主の器量と、停止術という人類史上最大の切り札が在るために出来る芸当であるが。

 

「ガゼットさん、悪いこと考えてる?」

「俺の知る宵影との決定的な違いを知りたい。ニハイで視た首級は器を持っていた。祓えてもあれらは要素の集合体だったがゆえに消滅するものだったが、宵影の自然な進化を視れたら一番早い」

「あーー、動物とかから変異した怪異もいるけど、それらって普通死骸が基本だよ?」

「変転して生を受ける者も居るだろう。生来、俺が知る宵影は植物の種のようなものだった。種の新しい成長の形だったんだよ。以前にも伝えた通りだが。」

 

 話し込んでいると、竜種の友人たちも参加することになったらしい。よろしくガゼット殿、と背を叩かれてたたらを踏めば、面をまん丸くされた。防衛機構を素通りしたのもまぁいつも通りなんだが、今の器、まじでイークスランフの器なんすよね。強化掛けられるかな、と『炉』で理力を編めば、ふっつーに理寄りに戻った。首を横に振られる。これで参加はさすがに駄目と、はい。暫く頑張ったが戻れない。

 

「……、なんで?」

「……ええと、バシ・ガファ様の術式曰く元の器の機構は弄ってないらしいです。」

「なんてこったい。」

 

 大型の募集には前後で班員を入れ替えると在って、定められた時刻までに受付を済ませなければならない。『理力』を回したら戻らんかった。裏口の専門位相でマジで良かった。

 

 ///

 

 俺だけ縛りプレイ続行確定。強制ワンユオ殿の『眼』による操作訓練で実地に投入される形となった。許可を得ていざ参戦。理回さずに『炉』から直接魔力をぶち抜いてるから生来の器が元気元気。貫通したら、小石が飛ぶと普通に痛い程度に防御力が堕ちているが、そこは『眼』と旅人の服の亜術の障壁で光系列の最上位の魔術で破砕されない限り大丈夫。

 まぁ浮遊を掛けて弓兵型で援護できるとあって需要は在った。後方支援一択であるが。白兵戦は今日は駄目らしい。

 

 バシ・ガファ領地でも討伐依頼を斡旋所に回す程ひっ迫している状況を観察していると、どうやら植物型の規制種に手間取っている様だった。燃やしても燃やしても増えるこいつら、火への耐性ができている。ようはたまねぎのように何層にもなっており、完全に灰にしないとそこから爆発的に増えるのだ。逆に下手に燃やすと耐熱性の種が弾けて算段宜しく散らばる模様、えげつないなー。

 領域破壊を選ばない理由は灰色なった文明の遺跡があるためなのと、万が一火花が残存していたら、最後の藁に縋って接続してきた火花が堕ちる為だ。どの神域においても空間ごと光系列の魔法で破砕するのは最終手段なのである。俺は光系列が苦手過ぎてその手段をとったことは一度もないが。

 ぼこぼこと土に畝を作って農家の如く耕してくれる土壌からタケノコ宜しく急成長した固い種の外側の皮が生物、建物に突き刺さっては対象に注いでくれる便利仕様。口に入り込まれたらマジで嫌だな。というわけで全員面をつけている。基本俺とウィナフレッドは風印があるために外敵は接触すら不可能だが、現地の加護が在ろうとなかろうと、討伐隊の触れた端から硬化した皮が伸びて罠、竹やりの如く突き破って来るので見つけた端から燃やしている。花が咲けば鉄を腐食させる酸を吐くと在って、大事な剣を腐らせたくない猛者が多数いる模様。次元乖離の薄膜を張っている冒険者はバカスカ切断して時々空気もかよと罵声を吐いているが電撃を流して信号停めた後燃やしている模様。すげぇ。

 風で土壌ひっくり返してぽんじゃダメなのか?、と竜種の友人たちに尋ねたものの、こいつら空間を捻って点間門染みた光系列を使ってる来るんすよ、という一言で俺は単身での撃破をあきらめている。反則だよこの宵影共。

 

「つまり、点間門を使うと乗っ取られるために虱潰し出潰せと」

「そうなりますね」

「無理ゲー、さっさと人員派遣してマッピングした後破砕しようぜ」

「それがまだ全域の調査が終わってない為に、いまだ人員募集を掛けている始末でして」

「ワンユオ殿とか呼べないの?」

「シュゼーロポキさんは実はこの小規模異界が切断された大本を単身討伐に行ってまして。俺らもその人員派遣を交代制でしてます。」

「もしかして、マッピングが終わったらヴーヨン・ザゴ殿が燃す手筈?」

「はい。この討伐依頼は練度上昇のためにまぁ、その、シュゼーロポキさんが励めよ、と通達を出したものでして。どんなに損傷を行っても死にませんので、大半はほぼ強制的に死ぬ気でやらされてます。」

「やり方がスパルタすぎる」

 

 トラウマとか刻まれたらどうするんだと尋ねれば、尊厳破壊が起きそうな場合監視役と指揮官が予め敷いた陣で器から火花を外して回収するらしい。う、うわー、まじでこの依頼難易度だけでいったら最高峰じゃないか。そこに祈りを捧げて尊厳をあきらめてる子がいるんだが、と指し示せばウィナフレッドサンが慌てて飛んでいった。内側から串刺しは厳しいよね。アラームはどんな分類で成されているんだろうと観察してて御免。波長が若干喜んでたからいいかなって。ウィナフレッドには言ってないけど。

 なるほど、趣味と合致するなら一定の需要はあるのか、と盛るの禁止と大々的に罰則まで提示されていた訳を知る。はい指揮官、今左側十一時方向に種を秘匿の箱で確保した複数人が洞窟に走っていきました。

 

 花火を打ち上げられる上空を見つめながら三分の一の時刻が過ぎる中、俺とウィナフレッドは同時に感想をこぼした。ニハイの方が練度が高いと。

 

「……死なないですし、器もすぐに復権できますし、トラウマ級の破壊が来ない限り永遠と疑似復権可能な最高の戦場ですよ?」

「でも血を流す奴が多すぎていたちごっこになってるんだよな。流石に全員に風印は不味いだろうけど、そういった加護を与えることは出来ないのか?」

「風の要素を吸うんですよアレ」

「うわ。」

 

 ニハイってどんな地獄の指揮官が居たんですかね、と遠い眼をしている竜種の男性型のツサニーが云う。どんなだろうね、とウィナフレッドサンを見ればさっと視線をそらされる。簡単な減点要素を尋ねれば、まず種となる因子汚染を食らった時点で準備が成ってないって怒られる、とウィナフレッド。それは厳しすぎじゃない?

 

「真空にした場合空間破砕を行い始めるとかもうお手上げじゃん。これ本当にただの宵影か?、可笑しすぎないか?」

「ねぇねぇハーゼックさん、この植物たち、怪異の眷属でしょ?」

「語るには某に情報が無くですね、十中八九それでしょうとは思うのですが、某には何も。ツサニーが何か知っておられるかと」

「団長俺にお鉢回すの止めてくださいっ!」

 

 あ、ツサニーが縦に割けて死んだ。うっわ、久しぶりに内側から串刺しになって焼かれたぞ、と地獄を這うような声でツサニーが復権して鱗を一枚剥がしている。鱗というか、残機貫通すんのこいつらまじ?

 焔を吸って直接霊核に、えいっ☆ってきます、とか言ってるけど笑い事じゃないんだけど。なんで鱗今剥がしたの?

 

「呪いを付与されたんで閉じ込めて剥がしました」

「それ!絶対やばいやつじゃん何の呪い!?」

「同種に堕ちる因子要素です」

「これ絶対もう燃やさないと駄目な奴じゃん、俺の領地に来る厄災級じゃないかよ一夜で国が亡びる奴じゃん!!!」

「だから難易度が三桁ぐらい堂々と違かったの?」

「はい。」

 

 トラウマ級って絶対その霊核にえいっ☆が前提じゃん。器再構築できてもさすがに霊核と理は無理だよ。しかも全部貫通持ちとか普通に小規模な神域なら普通に滅びるわ。

 そんな強い宵影なら変転して味方にできないのだろうか。わざとらしく進言すればアルカイックスマイルでその言葉が口にできるのはガゼット殿ぐらいですね、と友人達である。

 ワンユオ殿はマジで殲滅しに行ってるらしく、大本をぶっ潰せば無限供給染みた権能は消えるであろう、と種が無限に湧く現象の原因を燃やす気満々らしい。でもこいつら、眷属というより分霊染みてるんだが、とウィナフレッドが解析したであろう結果を指揮官に報告して知ってますと連絡が帰ってきてやる気をなくしている。これ実質、無限に討伐できるから投入してる実地訓練だろう、絶対。だって軍人っぽい人しかいないもの。『眼』をフル活用するしかねぇな、と空中をにらんでいると、ウィナフレッドサンが閃いた。

 

「ガゼットさん」

「なんだいウルクフサン」

 

 ウィナフレッドは頬を上気した後、ちょっと『眼』を試してくると指揮官に許可をもらい深層の方に向かってしまった。

 

 

 言い忘れていたが、この領地に置いて死者蘇生は片手間に行われる簡単な術である。正式には器の構築術が全土に敷かれており、予め保全機構に登録してあれば、祝福及び領地に所属する者ならば全て、火花が致命的な汚染を受けない限り『元』の情報を完全に再現してもらえる。流石に器の残機やアーティファクトの類は不可能だろうが、祓いは全て領主が行うために無視していいという前代未聞の優位がある。再生機構はこの領地の方が上だが、戦いについてはニハイの軍人が上。非常にあべこべな現象が起きている理由は不明だが、あのウィナフレッドの時代、世界に至った神域の存在が居ないはずがない、と俺は踏んでいる。だけど、騎士殿が嘘を吐く理由もない。なら、神域が全て壊れ、神域の存在が居ない理由は何故だろうか。

 

 そもそも、祓いの術士の件だってそうだ、扱える術士が圧倒的に少なすぎる。仮にこの時代の人間なら、観察した限りでも死して穿つというか、絶対に未来でも打倒してやるぞという執念が見えるんだが、……あー、あの上位術士達の基盤になってる?。それとも軸や時間軸の楔を打つために封印状態?。あの時代で祓えない理由は何故だろう。術の試行、すでに多重にかかっているのであれば、不可は累乗に比例するが、祓いに関しては意思たる『灯』さえあれば誰だって簡易な祈りはできるはずだ。祓うのではなく、もっと別の件。ツサニーが立った今行ったように、因子を付与する型が常時普通なのであれば、祓いだけでは済まないことは解る。たった一度の種の萌芽で、鱗一枚消費して因子を消しているのだ。……。うわ。

 

「ウルクフ女史ー、ウルクフ女史ー」

『なに?』

「これ、前提から俺が間違って話していたのかもしれないんで急遽お尋ねしたいんだが、君たちの時代、汚染されたら因子解除必須?」

『?、必須だけど。当然じゃないか』

 

 う、うわー。難易度地獄超えて無間地獄ゥ奈落の底。

 

 

 予定を超えて普通に討伐を夜通し参加した後、報酬を貰って懐が潤った。ヴーヨン・ザゴ殿に土産物の菓子と花束を持って帰ってくると無言でウィナフレッドにアイコンタクトをされた後、普通に頭を撫でられた。何故。

 

「結論から言うと俺の血の術式はこの領域において特攻といえる権能を有していると思われます。」

「そうですねぇ。ですが、そこで貸しますよ、と提案されましたら、私が代行者殿の傘下に下らないといけなくなりますね。」

「そこなんですよねぇ。だからワンユオ殿を従者にしないかと持ち掛けたんですか?」

「いえ、それは私的な理由で私の下に居てほしくないというのが大きな理由ですね。」

 

 普通に私情だった。別にこの権能自体は俺の個人の所有物なのでどう扱って頂いても構いませんが、と提案すれば無言で竜種の友人たちが首を横に振る。他領において勝手に権威内の所属に手を出すと普通に喧嘩を売ってる扱いを受けるので一切手だししてないが、普通に選択肢として在りだと思うんだけどな。俺もう一介の従者でもないし。未来の俺はノーマークですよ?、と述べれば非常に生暖かい視線。

 

「提案はありがたいですが、この時代の代行者殿が居る限り不可能でしょう。その提案は秘匿が必須ですし、頂いた力を持ってしても、自領だけ救済するというのもあまりにも不義理です。それを成すならばこの時代の代行者殿を引っ張り出して依頼して馬車馬のごとく働いてもらいます。ええ……、なるほど……、お気の毒ですが、未来は変えられそうにないですね。」

「今、俺も同じ結論に至りました。悲しいです。」

 

 やめてくれ、無言で憐れまれても俺は今を生きてきたから既に過ぎた出来事なんだ。自身の歴程を変えたいわけじゃない。必死に生きたから、それは胸を張って誇れることだし。

 

「理術亜術で再現するのは不可能なんですよね、異常なほどメモリと要素食うんで、ほぼ俺のエーテルが必須ですし、あー、あれなら、ウィナフレッドとの帰還の道筋を探ってもらう期間内であれば魔力炉でもエーテル製造機なんでもなりますが」

「代行者殿の与えたがりも騎士が居て初めて成立した性質ですね。よく骨まで至りませんでしたね。テフ殿に称賛を捧げます。ヘイニーさんもよく頑張りましたね」

「はいっ!」

 

 ここ一番の気持ちのいい返事なんだが?、自覚はなかったが、そんなに無理して頑張ってもらわなくていいんだが、と答えればウィナフレッドが無言でヴーヨン・ザゴ殿を見て深く再度返事している。何で二回返事したの?

 

「でも実質俺は馬車馬担っても死にませんでしたし、今の俺は怪異の要素が固定されているために線引きを誤らない限りは狂いませんので、この提案は本気ですよ。これはヴーヨン・ザゴ殿の計算でだって、降ってわいた棚ぼたじゃないですか?」

「……、……」

「ほら」

「ヘズさん。人の良心を限界まで試しちゃだめだよ、ヴーヨン・ザゴ様が可哀そうだよ」

「なんで俺が責められる。合理的な判断だろう」

 

 青杖に額を寄せてヴーヨン・ザゴ殿と意気投合しないでくれ。一つ開示しなければならない情報がありまして、とヴーヨン・ザゴ殿が気の毒そうに告げた火への耐性。曰く、業火じゃないと燃やし尽くせないらしい。

 悲痛にウィナフレッドを一瞥した後、ヴーヨン・ザゴ殿は瞳で俺に謝罪を述べた。ゆえに私たちは業火の担い手を探していますと告げられて、俺はウィナフレッドと共に顔を合わせたのであった。

 

 検討してみます、とヴーヨン・ザゴ殿が撤退を示したため、花束と土産物を置いた俺たちは特級の宿に戻っていた。遊んでいる期間はどちらに泊まってもいいよ、とのこと。でも指定した宿以外は駄目らしい。

 

「業火かー……」

「上位到達級のスペルの一つだなぁ、一応魔術のくくりなんだけど、神域の存在でそれを扱えるものはいない。何故かというと、禁則事項に引っかかる概念浸食の最たる魔術だから。扱う場合、落ちたとみなされるし、領域阻害を自ら設定して、戻れなくなる。信を置いた領域ならば招かれるかもしれないけど、基本、どの領地からも弾かれて彷徨うことになるだろうな。……ウィナフレッド?」

「うん、業火ってさ、簡単に施行できる魔術なの?」

「とんでもない。火花を燃やさないとそもそも発動すら出来ないよ。世界条文によって発動条件が定められているんだ。堕ちる以前の絶対要素に、不屈たる意志と、……器の要素を引き受けて、祓う祈りが無いと使えない」

「……、祈り?」

「悪いやつには使えないんだ。だからこそ、だからこそな、大厄災や呪われた果てにあるものが業火を使う定めに在ると、……救ってやらねばならないと神域の誰もが思う。最後の手段なんだ。」

「ヘズさん、それ開示できたの初めて?」

「あ、この時間軸じゃ初めてかも。君の時代じゃ、文献としては残っていないんだったか、伝聞によるところが大きいし、基本禁忌とされている為に緘口令が敷かれている場所が多い。ヴーヨン・ザゴ殿が口にした理由は、未来に置いて業火を探す必要があるためかもしれない。」

「……、業火は種類がある?」

「……いや、一種類だけだ。業火について知っている者ならば、誰でも開示できる。だが、見たことが無いものが大半だ。それは存在の対消滅と同じように、眉唾として信じられている。……聴いたとしても信じられないと笑われるだけだ。なにせ黒い焔が何の前触れもなく、光が在るだけで金色に燃えて降ってくるんだから。そもそも、業火は魔術として括られているが、魔術じゃないんだよ。権能なんだ。世界からのギフトは君も知る所だろう?、その世界条文に適合して選ばれたモノだけだが後継者に選ばれる。」

「……あなたはずいぶん、業火について詳しいね?」

「俺の召喚対象に業火を扱う友人がいるので、少しな。」

「……どうしてその人をヴーヨン・ザゴ様に教えてあげなかったのか、聞いてもいい?」

「そいつは神域の存在が大嫌いだから、俺個人の理由でしか動いてくれない。」

「なるほど。」

 

 業火の効果を尋ねられた。俺は答えた。祓い、清め、そして器の要素をすべて奪われて火花だけにされるが、慈悲の果てだよと。

 

 

 業火を扱う必要が出てきた。

 これを担わせるのは少々意地悪だろう。俺が別のモノに擬態して業火を扱うか。否、手段はかかるが、俺や業火以外で祓う手段あるはずだ、と講じてみて、光系列を扱ってくるあの怪異の権能が全てのプランを台無しにしてくれる。反則だろ光系列はよ。

 

「というわけで今日は実地訓練で白兵戦のみで参加してみようと思う」

「なんて?」

「安心してくれ、今日は午前中で終わらせて昼は遊ぶぞ!どうにでもなるって解ったから放っておいても大丈夫そうだし」

「が、ガゼットさん!とうとう働きすぎて気が狂ってる!?」

「俺は至って正気だぞ」

 

 混ざってる発言が確かなら、術式阻害が始まっていてもおかしくはない。だけど、この時代ではそういった傾向はない。なら混ざった時刻が二百年の前後に在るというべきなのだろうか。久方ぶりに副武装を身に纏って主武装が無いために魔法の手袋で白兵戦である。この時代で買ったアーティファクトの短刀引っ張り出してスパスパ亜術の切断の術を乗せて切っていると種は内部の小さな核を切断すれば再生しないことに気付く。だがめっっっちゃ小さい。でも的のリンクさえ結べば一発なのでは?、と試しに風の弓矢で『眼』を開けば、『炉』に楽し気な打音のように催促。へいへい。ウィナフレッドにリンクの結び方を教えて半信半疑で実行させれば、大気中に存在するだけで全ての植物型の怪異が一瞬で破砕した。

 

「え、ガゼット殿何しました?」

「嫌って程共通要素を解析したので、ウルクフ女史に情報を渡して一致する要素に追尾を結んでもらった」

「訳わかんない調理を簡単に述べてますが、それ前提は?」

「俺の血と星の魔力」

「俺等には無理だー、え、要素なんで食われてないんですか」

「俺の置換、そもそも要素の改変、浸食、置換だし。浸食する瞬間に星の魔力で一部掃ってもらって、次元阻害張ってもらって、そこを足がかりに置換かけてる。」

「意味不明な高度な技術、無詠唱でできる理由は?」

「俺の特性スーツのおかげ」

「量産しましょう」

 

 目がマジなツサニーに転移で依頼斡旋所の最奥の会議室に呼び戻されると、旅人の服を解析してもらう。あんだこれなんだこれメモリに納まってる理由が説明付かねぇ、と頭を抱えているツサニーに登録前の真っ白なの在るけど、とバラガラの術士協会の旅人の服を見せれば頬がひきつってる。虹色のオークション通貨を見てこれが前提ですか、と悔しそうに椅子に掛けていた白衣を叩きつけてる。

 

 どこも考えることは一緒で、術者の底上げ補佐が可能な装備は開発しているのだ。ヴーヨン・ザゴ殿にそういえばあえて遠慮されてた手前言ってなかったな、と告げれば無言で空間に文字の通信が入る。再現不可能。だろうね。

 でもメモリは可能なんじゃなかろうか、と今着ている現行の服を脱げば無言でツサニーがヴーヨン・ザゴ殿に返事を仰いでいる。

 

「ガゼット殿、あなたなんで女神代行者やれてたんですか?」

「俺もいっつも不思議に思う。不思議だよね。」

「多分あなたと俺の回答がすれ違ってるのはよく解ります。ガゼット殿、俺が死にますのでどうか立ち振る舞いだけは気にしていただければ」

「そんな危機感煽られる言動した?」

 

 無言で眉間をほぐされる程度の振る舞いをしたのは解った。

 

 

 現場に戻ると、ウィナフレッドが八割ほど祓い終えていた。

 根を燃やさない限り完全討伐は不可能だけど、この祓いの方法なら強靭な繊維が対魔力と耐性防火でいけるのでは、と目がマジな職人たちと一緒に狩猟者のように採取の作戦を立てている。タイムアタックをしてたらしい。でもものの数秒で数割が復元し始めてるから、一度殲滅したらすぐに停止術敷かないと駄目だね、と一同。封印処理だと光系列の破砕で壊されちゃうし、と悩まし気にウィナフレッドが青杖に縋っては弾かれるように顔を上げる。

 

「僕の魔力はガゼットさんによるバックアップがあってほぼ無尽蔵なんだけど、ワンユオさんのバックアップがあるあなた達ならどのくらいで可能ですか?」

「あのえげつないマルチタスクがあってもあれほどかかるなら、俺たちだと万分の一が最高値ですね、そうなると復元の方が早くて処理が追い付かず、それ、切断からのコンマ数秒で同一個体を共通切断して置換しないと駄目なんですよね……?一個体一万から十万程の種があるんですけど。」

「眼の模範は?」

「その『眼』は残念ながら俺たちの身にも余る高度な術式でして、適合できないと脳が爆発して死ぬんですよね。もしくは等価の権能並の並列処理が出来ないと死にます。」

「あー図らずしも僕はワンユオさんへ一度決闘申し込まないと駄目な感じ?」

「が、ガゼットさんは大丈夫です!頭がおかしいってお墨付きでしたから!」

 

 頭おかしいのお墨付きは初めて聴いたわ。でも疑似的に模範はできるらしい。ただ、規模によってはめちゃくやカロリーを使うので鱗と等価らしい。無理のない範囲であれば波長を広げれば解析可能、班を組んで分割すれば効率は上がる、と訓練を始めると権能の模範を可能にした竜種の友人たちがウィナフレッドの解説でどんどん精度を上げている。すげー。

 

「あ、ガゼットさん朗報!僕の魔力があれば疑似的に亜術が組める!」

「でもその要素、君が居ないと駄目な感じだろ」

「えへへ」

 

 あー、ヴーヨン・ザゴ殿が渋っていた理由俺じゃなくてウィナフレッドかー。なになに。停止術を組んで?、同時に切断して?、爆破して置換を掛ければ業火じゃなくても殲滅可能と。すごいね。でも存在疲労で根気勝負なやつだねそれ。

 

「あ、なら星の魔力で代替可能なら、ウィナフレッドの魔力で魔石作って亜術組めばいけるんじゃないですか?」

「ガゼット殿、枯れますよ?」

「そしたら俺が頑張りますし」

 

 無言で首を横に振るウィナフレッドが悟ったように竜種の友人たちと手を取り合っている。無言で生暖かい眼でアルカイックスマイルは止めてほしいな、皆さん。

 

 

 この時代の術者達を観察していたが、ニハイに比べて消費要素が少ない。少ない対価で大規模な術式が操作できている。身に積んだ精霊と導管が凄まじい練度なのだろう。術式練度だって領域補佐が受けれるために格段に跳ねている。そんな世界が後手に回っている。

 そして滅びかけた、俺たちが降り立った最初の天の罅は何だったのだろうか。

 あんな簡単にあっけなく終わったのに、とこの討伐を見てると肩透かしを食らう程簡単だったな、と今では思える程単調な作業だったように見受けられる。

 

 亜術を開発しよう、と銘打たれたホログラムの球体の文字が照らす、ヴーヨン・ザゴ殿の私邸の中。無言で笑いをこらえているヴーヨン・ザゴ殿が失笑を防ごうとしてお待ちくださいと庭に出ている。

 

「ワンユオ殿ほどの御仁が後手に回ってるってことは、多分この浸食はもう防ぎようがないんだと思う。だから、文献に残せないほどの激戦の末神隠しを行ったのなら、手段を選んでいる場合じゃないんだよ」

「ヘズさんが僕のために一番最善な方法を選んでくれたのは解るんだけど、その方法はよーーーーく胸に手を当てて考えてみてくださると僕も助かります。」

「なんで?」

「魔石作る量さ、一個に二個でたりるかな?」

「わけないだろ。加速敷いてもらって、この大厄災級に匹敵するカブの魔物を切除するのが最優先なんだから、ざっと無限増殖バグ状態の個体が千億近くいるんだろ?、なら、一度君の魔力で『虹』を作るために頑張ってみるしかないかなと思うんだが」

「ヘズさん、ヘズさん、最悪僕が馬車馬のごとく働くから大丈夫」

「なにも大丈夫じゃないが!?」

 

 未来に置いて変則式位相世界、すなわち『本線』が開けないという理由は冥界落としの件でエステラ氏が肯定している。何故頭を悩ませているかというと、どう考えても未来じゃ詰む。ヴーヨン・ザゴ殿の再生機構と不屈の参加者がいるから均等を保っているのだ。停止術を定期的に解く理由は術者側の負担解除もあるだろうし、正直、この一件だけは最悪が極まりすぎて、先延ばしにすると普通に未来が滅びるって俺の直感がうるさいんだもん。冷静に考えたってさ、無限に光系列打ってくる相手とサシで勝負なんで馬鹿らしくてしない。俺だって位相世界に閉じ込めて『空振』で壊す方を選ぶ。ちなみに『空振』は俺の亜術を利用してるためにほぼ無償費で無限に打てる。やったね。

 あ、俺が空振で壊していけばいいのか?、と冷静に考えてみるが、それは権能と俺のエーテルが要になった波長を前面にばら撒いて置換を掛けるので普通に宣戦布告になる。やっぱなし。そもそもばらばらにしても捻って戻って来られるので、種切断が前提なので根気勝負になるのだ。千億同時はちょっと無理だわ、そもそも多重位相で相手取っても、俺の観測領域に収まらない。

 実は俺と同じ戦術で、一度この領地、『波形の鈴』でぐちゃぐちゃに混ぜてる。そしたら学習して波を感知してそこに霊核感知、次元貫通を覚えた、というわけだ。まったくいらん進化をしやがった。俺の亜術の防衛の方が上だが、現在十段階で云うと三レベルまで進化してるので、これがさらに進むとちょっと防ぐのも一苦労になってくる、というわけで、現在進化を促さないように光系列の反射を回避しつつ、物理的対処と火への耐性を無限に上げているのであった。嫌だね学習装置付きの人工知能は。

 

「ヘズさん」

「なんだい」

「最悪、さいあくね、そういったことになったら、ヘズさんは受け入れられるの?」

「手段であれば仕方ないだろ」

「すれ違ってるね?」

「何の話だろうと、根気勝負なら負けないぞ」

「無限残機に近い措置を講じられるなら、僕はほぼフルで働いても存在疲労を防げるかもしれない、っていう結論がヴーヨン・ザゴ様と出てるんだ。ほぼ、今の作戦なら、ヘズさんに負担をかける戦術をとらなくてもいいようになってる。」

「え、いつの間に俺を蚊帳の外に置いて軍師してるのウィナフレッドサン」

「のけものにしたんじゃなくて、あなたは切り札であり、秘匿すべき性質なのを忘れているわけじゃないよね?」

「怪異だもんな」

「そう。ヴーヨン・ザゴ様の名誉に置いて、万が一怪異の性質を広げたと在ったらこれはどうやっても取り返しのつかない最悪の失態になる。あなたがヴーヨン・ザゴ様の名誉と信頼を重んじるならば、あなたは軽卒に動けてはいけないんだ。たとえ効率の良い手段であっても、もし、あなたが語ったニハイでの共鳴措置、厄災が宿った異界が降ってきたらどうしますか。その時に使った切り札はもうないよ」

「……だが、俺は君が馬車馬のごとく働かされるのは嫌だ。」

「その回答は一字一句僕もあなたに思っている感想なんだけどね。」

 

 指を結ばれてふにゃけた笑顔で絆される。負担をかけて申し訳ないと額で指に合わせればくすぐったいよと逃げられる。

 いちゃついてるところ悪いんだがの、といつの間にかウィナフレッドの後ろに控えていたワンユオ殿が膝をついて目線を合わせていた。

 

「結論から述べる。敵わんことが分かったので戦線放棄することになった。理由は前回と同じく、数の暴力にかなわないからである。」

「……俺が動いた場合どうなります?」

「数が増える。無用。許容限界を推測したが、其方たちであっても後手に回り逆に進化が進んだ場合、もう防衛が出来ぬと結論が成った。下手に動かれると戦況が崩れる。断固として其方は動くことを控えてもらいたい。禁じはしないが、連鎖的に灰色の数が増え、苗床、寄生された種族が増えるほど後手に回る。今、この連鎖が起きているのはバシ・ガファのみではない。ゆえに一度壊す必要があると全領域で結論付けた。通達はすでに済んでいる。この領域、時間軸は滅ぶ定めにある。何か質問はあるかの?」

「ウィナフレッドの星の魔力を全面的に投じた場合どうなりますか」

「良くて拮抗、悪ければ永遠に停止術を敷いてここで存続の歯車となってもらうことになる。アーティファクト化だ。決定打が欠ける理由は偏に光系列を扱うために、……加速を奴らが扱うのである。同調した時間軸の『何か』がある。部分的に視える範囲で停止術を敷いても、感知できない領域で増えていた。としたら、疲弊したところに全てをぶつけて来るであろうという結論が出た。そうなれば、其方もウィナフレッドもどちらも失う。それは最たる忌避すべき結末だ。」

「壊す理由は無限に増える連鎖に一度終止符を打つため?」

「是である。既に囲まれていると考えるべきであろう。どれだけ戦力で上回っても、生物として在る以上数の繁殖の速度からして、此方が絶対的な不利なのだ。オクの世界を巻き込んで滅ぶことだけは絶対に避けねばらならない。それが我らが存在する第一の理由であるために。」

「……意外なのですが、まだオクの世界には被害が及んでないんですか?」

「すべての座標を外しておるからの。最悪、閉じた後ならば、すべての神域が消えても被害がないはずだ。裏を返せば、今、接続領域にある全ての位相を閉じねばもう手がない。」

「俺の時代が存続した理由が説明付かない」

「我々も一番の希望であり、悩みの種となっている。何が正解なのか、未だ誰にもわからぬ。だが、この世界で骨を埋める者は皆、もう選んだ。天の罅が入った時に既に通達は出されており、最後の便はもうすぐだ。ゆえに、お主たちはオクの世界に降りるべきだ。」

「無理だ。確実に冥界に降りて遅延を行わなければならない事項がある。あなた方のどちらも不可能だろう」

「そのために其方が沈むとでも?」

 

 ワンユオ殿が面白いの、と笑うものの、眼光鋭く、火が口から洩れている。真情を重んじるワンユオ殿から見れば、それはこの領地の主の厚意を無下にする行為だ。それは全面的に戦争を吹っ掛けるに等しく。ヴーヨン・ザゴ殿に協力するワンユオ殿が許すはずがない。

 最悪極まりない現状をさらに上回る侵攻がこの後に控えている、とあって、誰も希望を口にできない。

 

 

 白々しくも『業火』の権能が見つかった場合、再建が可能かどうかを問えば、ワンユオ殿は苦々しい顔で眉間にしわを寄せた。良くて持ち越しは一割。そのほかの建物は既に根が張っていて『停止中』の為に、祓う為に時を動かしたのならば、建物の大半が領地と共に消失するだろう。残るは灰色に染まった砂塵のみ。灰の砂漠の上に建設するには精霊が回収されてしまう為に再び長い年月を有するという。

 ヴーヨン・ザゴがたとえ選んでも、私はその手段を選ぶならば滅びを選ぶと豪語するほど。だが、嫌がる理由が解らない。オクの世界を保護するのを優先するならば、この選択は確実に有力な切り札のはずだ。要素と伝承を残せるのだから。

 

「……オクの世界も滅ぶ?」

「全領地、一新せねば情報が『オクの狭間』に堕ちる。我らが手古摺っている現在進行形の経験値をそのまま引き継いで相対するとなると、一夜どころか数秒で滅ぶであろう。つまり強くてニューゲームしてくる強敵であるな!」

 

 その選択でも生存可能な領域がある。しかしそれは当然受け入れがたいことだった。神域の存在のために、オクの生物の間引きを成せと命令するに等しいから。接続の要素は怪異が『共鳴』で呼ぶこと。つまり発見された時点で詰んでいるのだ。

 まーじで奇跡の末に現在の攻防が成り立ってる。本来であれば最初の邂逅時に全領域が滅んでいた、と慰めのようにワンユオ殿が告げる情報を頭に留めて、必死に鈍い頭を巡らせる。

 

「……、領内にあの魔物が居なければ封鎖は可能ですよね?、バシ・ガファは成功しているじゃないですか。侵攻される要素を排除されているならば、堅牢なこの領地の結界が瓦解するはずがない。」 

「座標自体が抜けかけている。オクの世界自体が消失しかけている」

「……、オクの世界から派生した灰色の世界が絡んでる?」

「そうとしか言いようがない。もしくは、共通の要素を持つ種族が居るのか。……私にはもう定かではない。たとえ漂流者が逃げ込んでいたのだとしても、我らにオクの生物は滅ぼせぬ。……今を生きるモノたちを我らの都合でなかったことにするなど、それこそ巡っても否を突きつけねばならぬ傲慢の所行であろう。仮に宗主となる因子がオクの世界に在るならば、それはすでに我らの管轄ではない。天と地、同時に仕掛けられた時点で滅ぶ定めにあった。いずれにせよ、それが答ならば、オクの世界も自ずと滅びるであろうよ。学習する時間も、火花も知能も無いために、それは手に余る力となる。我らが消えた時点で共鳴要素も消えるために、オクの世界を最後にこの怪異の因子は滅びる。……座標が抜けかけている事実を踏まえて、神域で留められればオクの世界は存続する。我らの対峙した経験さえなければ、萌芽の対処はまだ可能だ」

 

 どうあがいても死ぬ定めにあるのだと語るワンユオ殿に悲壮感は一切ない。事実、敵を討って祓い、清めて逃がしても尚、もう追いつかないのだという。決定打が無い場合、最果ては冥界に落とす、と小さなため息とともに呟かれた言葉は奇しくも騎士殿と一緒であった。

 

「堕とした後ならば、どうにでもなりますか?」

「……、リンギーチ領の女神殿。あなたが何を考えているのかは読めぬが、それはいらぬ心配であろう。皆長く生きた。自裁する権利も有しておるよ。たとえ結末が覆らなくとも、……其方たちのおかげで過程は変わった。災害で死ぬ、事故で死ぬ、孤独に助けを求められぬまま死ぬ。そんな過程が消え失せて、終焉を迎えて、あるものは賑やかに、あるものは静寂に浸って逝ける。」

「……それでも、ワンユオさん。あなたもヴーヨン・ザゴ様も、まだ役目がある様に見受けられる。」

 

 がしがしと頭を撫でられて、ワンユオ殿の楽し気な笑い声と共にウィナフレッドの頭が前後に揺れた。

 

「其方達がどの領域から来たのかは誰も測定できておらん。なぜ、其方達がこの世界に来れたのか定かではない。それはこの領域が滅びが巡って新生したとしても、同一の時間軸として在ることはかなわんことから、一回限りの奇跡だと思われる。他の世界に其方たちがいた痕跡はない」

 

 笑ってるけど全然目が笑ってないワンユオ殿が、この一件に関して、其方達が責任も、負い目を追うことも許されないという。

 ウィナフレッドは静観していたが、無言で手のひらを机の上に置くと無言で肯定を示した。

 

「一度世界開闢が成されたのならば、古い世界は必ず滅び抹消される定めに在るのだ。そう世界条文が在るために、例外はない。もしあれたとしても、誰にも認識されず、世界に降りれず、在れた領域を除き、接続を求めることも、出ることはかなわん。虚空を彷徨うのとどちらが幸せであろうな。まぁ、長くなったが、ヴーヨン・ザゴ、そろそろ戻ってきたらどうだの」

「ここに来た要件を手短に。」

「あれは意思が死んでいる。解析した要素をいくら検査しても、未来から来た形跡はない。」

 

 件の竜の器の怪人の話らしい。

 

 

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