銀杖の担い手 ライト版 作:海に流れるアリ
上位以下の宵影の性質は一律負の走光性を持つ。
宿日が祓いの効果があるために、晴れた日は闊歩できる。曇りの日は魔物が紛れ込むことが多い。雨の日は地脈から蓄えられた星の要素を求めて活発になる。それは人類にとって救いの法則であった。
逆に言えば晴れた日は安全ということで、天気予報は有力たる情報となった。ちなみに現在領域内の上部は勢力対抗の為に開けている。上部からも殲滅するためだ。今日は雨模様の夜間近。ダイスファンブル最っ悪な天候である。
張り付いた前髪を後ろに流したゲイザーがサングラスを外して、筋肉痛は嫌いなんだよなぁ、と両手にグラディエーター型の剣を構えている。
騎士殿がヘンリックから借りた槍を構えて、颯爽と視界に『線』をなぞっている。視野範囲、生命探知後の切断は圧巻である。槍を借りた意味があるのか不明であるが。
騎士殿がヘンリックに声をかけて腕輪を借りて外に出た。ブラッグドッグを借りる旨を伝えられ了承して二手に分かれる。
「……体力底なしかよ、ガゼット。汗一つかきやしねぇ。本当に旅人か?」
「今の時代迎撃ぐらいできないと山も越えられないんですよ。まぁ、いやー、ヘンリックさんたちが注視を集めてくれるから、狙撃が楽ですね楽です。」
「ほんとーに山を越えたことがありそうだなお前、つか、お前、爆発する矢とか、絶対人体に向けるなよぐろいから。雨の中よく爆発を起こせるな?」
「鏃に爆破の術式刻んでますからね」
「……お前、資金面大丈夫か?」
「トントンになれば御の字です。」
耐久値が少ないから、一発で沈む。物理ストックは四桁分あるけど持つかな。持つよな?。帰還式を鏃に刻んでるから、一定時間したら復元して回収できる仕組みだし。盗られたら物騒だし。
物理鏃は固いやつへ、雑魚は理力の矢で穿ってく。
指輪のお陰で一回で十本は理力の矢が作れるから、行動手順と動作を維持すれば、簡単に沈められる。回路を通した術式は駄目だが、理力だけは無駄に余ってる。
風籠の応用で障壁を作り、飛来する宵影の針の弾丸を防いでいく。こいつら寄生する群生体だから体制がないと幻影症候群に陥る。
飛来する針を叩き落としながら、大規模な風籠を編んで魔方陣の周辺を覆った。花形たる魔法使いは全て門のポイント近くに飛んでしまっている為、俺は籠城の手伝いである。
物理的が迎撃が間に合わない分、ほかの参加者が連携を汲んで討伐してくれていた。
正直STGやってる気分だった。騎士殿がブラッグドッグの権能使って各地に救助に向かってくれてるし、西側は大丈夫だろう。
東側で戦線を維持している各所君、すでに数百を超えて数千を超えそうである。迎撃数が異常なのにまだ始まったばかりだというのがこの戦況の異常さを物語っている。
両手に剣を構えたまま、ゲイザーはしばし休憩していた。俺らはお前ら底なしと違ってただの人類系譜なんだぞ、とゲイザーがシャツを仰いでいる。
普段使う魔法術式はどうした、とヘンリックが声を飛ばせば、姫さんに全部持ってかれてんだよ!とゲイザーがやけくそ気味に叫んでいる。ゲイザーには契約関係の雇用主が居るようだった。
「くそ、あっちぃ、何匹いった」
「がんばれーがんばれー」
「がああー新人水買って来いヤァ!」
「へい。」
汗だくのゲイザーが水を求める。あらかじめ購入していた水筒を投げると振り返ることなくゲイザーが掴んだ。礼と共に銅貨が投げられる。
休憩と称してゲイザーが足を止めても、ヘンリックは何事もなく穴を埋める。ヘンリックが槍を構えて動くたび、風が起こっては飛来する宵影をいなしては両断。線形に振れば式神の鎌鼬を起こしてその個体が雨の如く分散、その飛来した先で大気を吸っては大きくなり、鼠講よろしく、新たに鎌鼬が生まれて軍と成す。動作は一撃で数重の鎌鼬を起こし、回数に伴って速度と効果が累乗していく。
あちぃ、と水筒の残りを頭に掛けるゲイザーが姿勢を変えぬまま、横に左手、指をふるうだけで数匹まとめて三分割している。双方ともに長期戦に特化している。こうした術者は一度組むと非常に厄介だ。
「絶好調じゃねえか」
「今日は特別バックアップが有るからな」
「あああ、俺と真逆じゃねーか!ガゼット『切断の陣』単体で使えねぇのか!」
「今の俺じゃ無理です。」
障害物を利用する素早い敵はゲイザーが。飛翔する空域の的は俺とヘンリックが相手する。役割を分担しているが、ゲイザーも地上を切り祓うと即座に飛ばされた鎌鼬を捕まえては、借りると称して手の中に吸い込み、それを足場に出現させては付与を成すと、固い上位個体の首を切断して沈めていく。
班の前衛をヘンリック、中衛をゲイザーが、そして俺が後衛を兼任して凄まじい速さで下り坂を下る様に風に後押しされて足を止める暇もない。トランポリンの要領で風が器を掬い上げると、一度の跳躍で加速をつけて上空に飛び上がる。視覚範囲が全て的と笑うゲイザーが歯噛みすれば各所で膾切りの核破壊が発生する。寸分変わらぬ切断面を見ると、明らかに何らかの権能を持っている。
索敵を終えた場所でも、この乱戦での救助はやり辛そうだった。宙に待機している救護班に指示を出すヘンリックと共に俺も潜って風籠で援護する。その繰り返しを行ううちに、何故か救護班たちに『隊長』と呼ばれる我が三十二番班である。
ホログラムの地図上に支援班一覧の項目に『三十二番』がいつの間にか入っていた。赤文字で緊急要請対応班と在る。内部のオペレーターの判断だな、と半笑いのヘンリックがゲイザーと共に目を反らす。
応戦して補助に入って、視覚の補助をゲイザーの指示でする俺が何時の間にか索敵員にされてる。ちょっとー!お金は出るから、と両方から肩を抑えられてお願いされる。ヤダー。馬車馬のごとく働かされるでしょこれ。
「こっち側の大半が子鬼型でよかったな、分布別れるのは珍しいが収束規模が異常だからな。足場に球根とか埋まってたらやりにくいったらありゃしねえからな。」
「これが植物型だと?」
「燃やすか潰さないと死ない。根の張る命核が壊されない限り無敵。此方に魔法使いは二人だけなので確実に詰む。」
「なんだ、花火出来ないからってここぞとばかりに嫌味かモフモフ」
「ゲイザーァ、この戦闘が終わったら罰金の件で話がある」
「いいぜ、お前がそれを持ち出すってなら、次取りこぼしたら援護抜けて単身で動くぞ」
「弓兵がいるから大丈夫だ」
「あぁあああくそ、ガゼット仕事スンナ」
「金がほしいんでやりまス」
「お前の目的は無料滞在の延長だつってただろ!」
ヘンリックのここぞとばかりの激励の笑顔が眩しい。でも今、巻き舌のヘンリックさん本気で怖かったぞ。
ヘンリックが尾を回すと風が起こる。尾の先にくくられた銀の装飾が術具のようでそれに式を成す『鎌鼬の術式』が彫られている。先ほどと同じ式は全てここから来てるらしい。へー。
式は全て自立行動をしているが、指示はヘンリックが細かくしているらしかった。……指向性を持ってこれを操作して、今は万単位自由行動させつつ指令を循環させてるらしい。常時マルチタスクで先導役(オペレーター)。ヘンリックさん普通にやべぇな。これは極限の技能持ちだな、と感嘆の意を込めて見れば照れた顔。存外褒められることが少ないのだろうか。遠目点のような冒険者たちを自立したイタチが擁護しているのが見える。式の種類は三種類あり、水色、赤色、緑色で変化している様だった。水色が盾、赤色が付与、緑色が矛かな。
ヘンリックの足元に緑色の光を纏ったイタチが数十匹現れた。尾をふるう度増えているので当然であるが、今ここにいるイタチ、実は百分の一だぞ、とゲイザーの耳打ちが届いて戦慄する。さらに百倍処理できんの!?とヘンリックを見れば片目を閉じている。集中を始めると視野を切るらしい。処理能力高すぎ。加えて他者への付加が可能ということは、専門の付与術士の可能性が高くなる。
ヘンリックが鎌鼬を飛ばすたび、ゲイザーがその残った魔力を赤色の鎌鼬に変換させている。式の真ん中に降り立っては横からかっさらって指揮権を借りては両足にまとっているが、ヘンリックさんが気にした様子はなかった。現状魔法が使えない原因は解らぬが、ゲイザーは既に式神を利用して疑似の風籠を編んで空中を闊歩している。空中戦で足場を作れる利点は大きすぎるので俺も止めようがなかった。
「正直貴様にくれてやる魔力はないんだが?」
「俺様かつかつで動いてるだけ褒められてもいいんだから大目に見ろよ」
「貴様は治せるんだからゾンビ戦法で行け」
「慈悲はないのかおめぇはよぉ!?」
「あ、上空から大型反応飛行型です」
屋根から屋根を伝い、三人で迎撃を成していく。腕輪から別の班の魔法使いの指示が直接ゲイザーに入ると、矢を打つ方向を指示をされる。
三回目の黒い罅が上空に走った瞬間、ヘンリックと共に雨が逆再生する様に地上から天に降り注ぐ。あ、弾かれた鏃を群生級に打っちまった。たーまやー。
「今回の報酬から引け、それなら文句が無いだろう」
「まだツケが残ってる」
「追々払うっつーの!」
「どんだけツケたんですか」
「百億」
「なんでツケで済ませられるんですか二人とも?」
これだけ軽口を叩いているのに、二人とも血しぶき一つ浴びていなかった。風の盾を受けて球状に保護されてるおかげで俺も砂粒一つない。
一つ要所を抜けるたび補給と支給が成された。逃げ遅れた冒険者と傭兵を回収しつつ、用無しになった備品を貰っては拡販に分配していく。
回復薬と札を駆使して、べたべたと首や腕、肩に札を張ったゲイザーが俺の分も勝手に背中に貼ってくる。それをみてヘンリックがまた深めのため息をついたがゲイザーは上機嫌であった。筋力が戻ったみてぇじゃねぇか、と囁かれては背中を強めに叩かれた。
たたらをふむが、風籠の術を作動させる前にゲイザーが片腕で米俵のように持ち上げては勝手に飛び上がってくれる。高所では歩く前に必ず『点間の中継ポイント』と『魔方陣』を暗記するように指示を受けた。
各所の細い戦力を逃がしている手前、時間と共に重要な局面に集中する戦力が双方ともに増えていく。
ガラスに似た破砕音が天から鳴り響くと、三回ほど大きめの振動を経て周囲に張り巡らされた防壁の色が黒に移り、青く染まった。
ゲイザーから一時間後の殲滅戦が始まったら手前でどうにかしろ、と宙づりになったまま運ばれる最中。理力の矢を雨の如く散弾していると高音を巻き散らすよう警告音が鳴る。
地上に巨大な一つの円が浮かび上がった。空中から滲みでた魔力が徐々に緑色の線を引き、ヘンリックの合図でゲイザーが拍手を一回。
魔法陣が真っ赤に染まると隔離された防壁の向こうでも同様の火柱が上がって居る。触れても熱くない、とヘンリックがその筒の中に入り込むと景色がさらに一転して周囲が真っ黒に染まった空間に出た。
一瞬だけ現れた騎士殿が腕輪の重なった槍をヘンリックに返すと、代わりにゲイザーから指環を受け取って宵の中に姿を消す。
座標の一斉転移、時軸座標の転移(シフト)が行われた。……緊急招集された残りの都市の戦力がやってきたらしい。全ての座標移動の返還は腕輪を通して独立して行われているらしく、同じ座標から転移しても物理的な距離を問わず一斉に入れ替えられている。
四つに分けられた境界線の出入り口は必ず表側の区画から入らないと、出入りできない制限がかかっていた。
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三人共に崩壊寸前の建物の瓦礫の上に着地する。周囲の彩色狼煙を確認しては腕輪で指示を出していくヘンリックの指示の元。瓦礫を一閃して二等分した中から生身の人型だけが切られずに芋虫の如くあらわになる。八名確保。ヘンリックが大型に作った風の式神、鎌鼬で背に乗せては点間ポイントに運んでいる。先による円筒の中で式による分霊体をいくつか作ったらしく、纏われていた式神が消えていた。マルチタスクは得意でして、というヘンリックさんであるが、普通七桁単位で稼働はできない。
『点間の中継ポイント』が集中している。この座標は何処だろうと尋ねれば、境界線を束ねる機構の中核だとか。捻じれている為に点間門を通す以外、つなげられなくなっている。
保護地点に等しい。この領域では唯一関所の点間門と繋がっている建物があり、座標ごと飛ばされてくる瓦礫丸ごとここで処理をしてそこへ移動しているのだとか。戦力は南に割かれているが番人としての傭兵と冒険者もここに一割ほど割かれているらしい。時間率の術式が張り巡らされている為、この領域は建物以外の全てが等しく時間が希釈されるのだとか。逆に建物の中に入ると加速が行われているらしい。平時の速度を一単位とすると、外側は百倍の速度で流れ、建物の中は一万倍らしい。オクの世界でこれを成せる機構があると。練度が高すぎる。
建物の中に案内されると、天上の高い木造の大館に招待された。治療を行っている専門術士が八名ほど広間に居るのは、トリアージの選別だろう。その中でも『治癒の光環』を行う治癒士が二人居ることから、重症者も多く運ばれているようだ。ゲイザーとヘンリックが一時的にここに居る様に指示を出すと離れる。嵌めこまれた『光球』の照らす室内は大型人類向けに家具が設置されていた。
その合間、球体の上下に白環を浮かべた機構型のロボットが複数稼働している。
木製のマグカップで飲み物を配膳している。受付も兼ねているらしい。受付後、既定の時限で転移を行っているのだとか。
案内された蔦の植物が囲う最奥の左側の席に座らされると、マグカップを置いたと同時、死角からコインを弾かれた。思わず確保すると、ウルクフ女史と共に視線を浴びた傭兵が楽し気に此方に歩み寄ってきたが、きょとんとしている間にすぐさまヘンリックが足元の鎌鼬から戻ってきて接触する前に霧散した。
「……なんか不味い感じですか?」
「漁夫の利を得ようとする輩は滅んで可」
「そこまでいいます……?」
緩い笑顔で後数分で情報交換が終わるから、とヘンリックに連れられて二階に案内されることになった。
どの施設も、普段は稼働していない為、初見の者が多いのだとか。そらそうか。ウルクフ女史に案内された会議室同様円卓を囲んで疎らに座る十八名の姿。大半が大型人類だ。先ほど中に居た人もいる、と二名に目礼すれば視線を受けた一人がバシバシと隣人の背中を叩いている。
「ガゼット、お前、フアンイ・プルックか?、小型のイークスランフか?」
「中型のイークスランフですよ」
「だから外来種なのか。しかも純潔種たぁ、珍しい。ヒュラス・テラーじゃねえならその秘匿体質も解る。そんならどうにでもなるな。俺はオントガのクォーターだ。ま、先祖返りってやつだな。ちなみにそのヘンリックは見てくれの通りハーマーリネムーだ」
「二型のハーマーリネムーだ。四型にまでなれる。戦闘時は三型なので注意してくれ。」
「……ちなみにさっき俺の背を叩いた時どのくらいの割合でした?」
「半分弱」
にっと笑ったゲイザーが俺を指差しては白兵戦でも使えるぞ、とヘンリックに報告を述べる。
「北の方で始まったな。どうする。順繰り東から西を撃破した後だと遅れるぞ。司令官殿」
「我々は転送されたこぼれを撃破していく。ガゼット君、申し訳ないがここからは祓いに徹してもらいたい。式の大半を戻せそうなので後衛の役割も私が兼任する。君は余裕がある時だけでいい。もし要るなら杖を借りてくるがどうだろうか」
「あ、大丈夫です。」
秘匿の割合を上昇できるかどうか尋ねられて眼を瞬いた。視認できるように下げていたからその弊害が出ているらしい。そんなに?
ただのコインでも干渉できる緩さはまずいと告げられて段階を上げれば、もう一段上げてみてくれと尋ねられて六段階の内三段目まで上げる。
「ちなみに先ほどの割合は?」
「ほぼゼロ。一段回目の一メモリ。」
「……、……ここに来た時は?」
「首飾りの保護機構以外全て切って過ごしてました。下手に勘繰られても困るし」
「それが原因か。」
コインは返却しておく、と手渡す前に恐らく願われた祓いの術式を簡易に内側に彫っておいた。看破できる練度もあるし、悪い人達には見えなかったんだよな。ただのコインだけど次元貫通できる意味不明さを持ってたし。
ガゼット・オブスサーバーとしての情報は通知しておいた、とヘンリックが告げた後、俺達は再び三人で境界線の領域を動き回っていた。
真っ黒な視界の中、唯一照らす『光球』の道具が浮上しては点線連なって道中を照らしている。
ヘンリックが群れをけん制し、ゲイザーが各個撃破。俺はそのこぼれを援護して漁の如く周囲を埋めていく。鎌鼬の式神援護があって、肉体的疲労が限界に達するとヘンリックは俺と役目を入れ替わる。冷却期間が必要なのは眼に見えてわかる。
ゲイザーは先ほどとは打って変わって交代を辞退すると、穴を埋めるために十秒の時間を猶予に鎌鼬の式神を盾に首から吊り下げていた指輪で再生、というルーチンを組んでいる。式の加護を作動させているのは大気の中の微弱な魔力らしく、空間がある限り持続する意味不明さを持っている。もしかしてこの二人、籠城させたら不落の門番を出来るんじゃないか。
ルーチンをこなして二十回ほどで脂汗を垂らすゲイザーの顔色が急激に悪くなった。再生が不可能になったらしい。
くぁー!根こそぎ持ってかれた、と半泣きで叫ぶことから、別の供給先に引っ張られて動力源が枯渇したらしい。外付けではなく、動力は元々俺様の腹の中に入ってるのことで、なんらかの陣を彫っているらしい。普通に可哀そう。信じらんねぇと顔を覆っていることからイレギュラーが立て続けに起きているようだった。三分時間をくれとゲイザーが頭を振ると、ヘンリックがゲイザーの役目を変わる。
群生体の追っかけっこは苛烈さを増していた。複数の種族の群れが徐々に連携をとって狙いを定めて来るので風の盾を維持するヘンリックの負担が加速して増している。
それに加えて、ほぼ、数分に一回、ゲイザーとヘンリックは鎌鼬と共に跳躍して指揮系統まで飛び込み、大将級を討ち取っている。
色彩の無い灰色の姿と云えど、元となった種族特性は引き継いでいるらしく、進化の速さも相まって油断できない状況になりつつあった。
「……おい、大将首の桁がバグってんぞ、なんでさっきより増えてる」
「曰く、死にそうだったので強制的に別領域に降ろしたそうだ。分割したので後始末を頼むと。大隊が崩壊するよりましだ。流れて来るのは一種類の大将級だけだそうなので、ここで処理するしかないな」
「俺様ぜってぇ南にいかねぇぞ。」
「……ヘンリックさん、南に複数の首級が居るってことですか?」
「その通りです。……境界に降りてくる時間がまばらだから、南の時空自体が歪んでる可能性が高いな。先ほどのゲイザーの干渉術を最後に、時間の加速率が違う。もう合流も不可能だ。」
「俺様の秘蔵の品も持ってってるから姫さんの無事は保証するが、他が生き残れるか分かんねぇな」
不利な状況らしい。ヘンリックが耳を畳むと、がりがりと頭をかくゲイザーが俺を一瞥する。無言で訴えられる。長丁場になるようだった。単身でも構わないと答えれば二人そろって否の声。少なくとも現時点で祓える者を負傷させるわけにはいかない。ヘンリックが槍を垂直に立てると半球状に広がった黄緑の結界が三人を覆い隠す。
休憩と称して、ゲイザーは腰のベルトのフックを一つ探ると、水筒替わりにぶら下げていた拳ほどの水石を額に当てた。
滝のように水が額から地面に流れてはあっという間にずぶぬれになると、ゲイザーが別に痛くないからと放置していた脇腹の傷が塞がっていくのが見える。
「ガゼット、すまねぇが別の薬煙草吸っていいか。」
「あ、どうぞどうぞ。」
「二回までだぞ」
「まだこれが一回目だっつの。」
鎌鼬の循環式を器用に指で集めるゲイザーがやってらんねぇ、と一気に水を煽ると、再び剣を構えて討伐に繰り出した。
副流煙は此方に来ず全てゲイザーに集められている。水色の煙だ。しかしヘンリックが顔をしかめているので相当強い効果があるようだった。辛そうならばと前衛交代を尋ねてみたが、ヘンリックに首を横に振られるだけだった。
要請していた全体の侵攻データが送られてきた。
宵影は進化する過程で耐性持ちを持つ。物理で淘汰されれば固さを、魔術で滅せられればその属性の対抗値を持つようになる。
今回の宵影は上級以上がいわゆる属性の対消滅の簡易版を『表皮』に走らせていた。ゆえに魔法が利きにくい。この時点でこちら側の不利ポイント加算である。
現時点で、凡そ全ての魔術に対抗値を持っている。算出されたデータを見た結果、各班の人数、役割がさらに制限された。
膾切りにしているゲイザーがおかしいのであるが、現時点で特級の硬度が鋼より固いことが判明。火系属性の魔術耐性が一気に上昇している為に耐性温度を上回る熱量で溶かさないと耐熱によって反撃される。搦手を使おうにも生物と法則が異なるため、関節技が利かない。ものの数秒で骨が再生する。以上四つの点を踏まえ全体が苦戦を強いられてる。さらに厭らしいことに、時間が経つにつれて此方を学習している為に、戦力が分散できない。
ゲイザーが短剣を交差して、ポイント通算三十五回目の両断を軽く行うと、足元の刃こぼれした鏃を拾い上げた。
「……駄目だなもう中級じゃ貫通出来ないほど固さが増してる、これは通常の剣と矢じゃ無理だ。貫通する技術は多数あろうがこの馬鹿力に加えて厚みが尋常じゃねぇ。しかも多層の皮膚だ。盾が八枚とかイカレてんのか。もう槍刺しても穂先持ってかれるぞ」
「厭らしいことに群生体も三層になってるな。鎧代わりの対抗魔術、硬度を持つ皮膚、血での爆発要素か。素材になれば強度のある防具になりそうだが、外には流通させられないな」
「ガゼット原資回収できそうか?」
「三割死んでる。中級までしか狙えない」
「あー、面倒だなー、縛り首も厳しい以上、燃やす火力が居る。下手に爆風吸うと因子をばら撒かれて汚染されるし、今回の初参加やつらが気の毒だな。救護班が足りねぇ」
「処置して回っているが、状況が悪すぎるな」
「酸欠が不可能な以上、抉ったほうが早い。新人どもが死ぬ前に殺して回る。」
生きてるだけいいもんだ、と指揮を取り始めたゲイザーが、通信越し群体を見ては面倒くさそうな顔をした。
有効の魔法系統は皮肉にも『火系統』のみ。光系列は爆風を起こすとのこと。水系列は焼け石に水だが、行動阻害は可能。ただ、中途半端に攻撃するだけ術式の対価が上回り疲労する一方のようだ。面を覆うヘンリック、腕を組むゲイザーが上空半ば足を止めた。
「やっぱ大将首が特級だな」
「え、これが特級分類とかまじです?」
「ここ以外じゃ首級の中でも厄災に近い扱いで通るが、ここでは特級だ。」
「先ほどの加速前に全土の首級が南に集められたようだな。」
大将首が特級。じゃあ首級は?、三人して顔を合わせる。周囲に爆発音を響かせながら。
「俺の知る限り、この大将首、一般的に大規模巣窟(ハイヴ)の首級並みなんだけど。……なぁ、これ首級を特級って言い聞かせてるだけで、南の全部厄災級なんじゃ?。」
「ガゼット君、この国では火が利く個体はまだ首級に分類されるんだ」
それ言外に他では分類されてますよね。
対抗値の高い魔力耐性持ちの、鋼より硬度がある相手を膾切りにするゲイザーとヘンリック。
巨大人類種の高さより何十倍もある大将首が出てきたが、ヘンリックの一言で風に飛ばされたゲイザーが両手の剣を交差するだけで首が落ちる。生命核の在り処を問われ左目と答えると、ヘンリックが鎌鼬で頭部の左側を細切れにしていく。途端、霞のように消えては、消滅前に堕ちた部位だけが残る。要素も全てどこかに消失するこの現象は大将級だけ。本日七度目のこの現象。流石におかしいのは嫌でも解る。
「……なぁ、こいつらリンクしてないか?、データが途絶えてる南以外、どこにも還元されてないんだけど」
「時差のバグの可能性ェ」
「ない。ゲイザーさんだって、ヘンリックさんも変だと思ってるだろ?」
「強化の原因は?」
「消耗させる前に一撃で殺している事じゃない?、生命核が最大の汚染源だから祓う前に壊してるじゃん。上位個体までは爆風を巻き散らして元素還元方法で浸食がきてたのにいきなり大将首がきれいさっぱり消えるのはおかしすぎるだろ?」
ゲイザーが米神を引きつらせながら本部に数字を仰いだ。既に七回南に首級が増えてるらしい。か、確定じゃん。
青ざめたヘンリックが南の討伐に向かわないとまずいという。だが、現状、俺たち以外に切れるものは皆手一杯。どこで戦線が崩壊してもおかしくない。西とどっこいの戦況だぞ、とガリガリと頭をかくゲイザーが胡乱気に空を見ている。
「南が一体討伐するたび、群れが召喚されてる。これは殲滅すると復活は無くなる。ってことは、循環が特級、首級、群になってる。さっき言ってたもんね。ほら、数字見てる他の人も同意してる。リンク繋げてるオペレーターが、凡そ南に割かれている原因がこれだろうって」
「だああ!被害を増やすか南に押し付けるかの二択か!?面倒くせぇな今回の討伐!」
「いや、選択肢もないと思う。特級のパスが上位首級に一方的に結ばれてるから、死んだら回収される仕組み。どう討伐しても『特級を』消し炭にしない限り合流する。消し炭なんてしてたら時間が足らないぞ。」
魔法使い諸君の顔色がさっと引くのが眼に見える。解るこんな自然の対魔法の個体燃やすのにどれだけ時間がかかるかってことだもんね。魔術師よりに戻れば秒で燃やせそうだけど、俺がそれするとさらに別の奴さん呼んじゃうしなぁ。白色オークション通貨の魔力を疑似的にアーティファクトに移すか?と考えたところでブラックドックから通達があった。さすが騎士殿。絶対やるなと、はい。
「騎士殿が南の最奥に向かってるって」
「……。大丈夫かお前の騎士ドノ」
「半分屠ったらすぐに戻って来るって、ゲイザーさんの貸してくれた指環の短剣で中に入るっていってるけど、できるの?」
「ランテッド殿ならやりかねないですね」
「……ヘンリックさん騎士殿とは既知?」
「ええ、古い時代に。」
お前の騎士殿バグか何かか、とゲイザーが薬煙草の副流煙を示しながら告げる。これを伝ってきたらしい。うわまじで何吸ってんのゲイザーサン。最後の一息で煙草を掻き消すと、同時ゲイザーの目の前に紙のメモが落ちてきた。騎士殿の字だ。ヘンリックがそれみて顔をしかめた。
「確実に前回の討伐を学習してますね。先に南を片付けないと大変なことになる。南の首級を潰した後なら合流しませんね?」
「どーだろうな、群生体に戻る還元式が召喚された『宵影全体』に因子として刻まれてるとしたら、群の方式も大将首にあるんじゃない?」
「なんだその逆マトリョーシカ。」
「辛くなってきましたね。」
ヘンリックが銀色の腕輪を使って数値を可視化すれば、中級を消滅させた以後に馬鹿でかい大将首が現れてる。
実に解りやすい循環式の仕組みだ。ゲイザーがヘンリックの槍を奪って垂直に立てた。広がる黄緑色の半円状結界。
二回目の薬煙草を吸っては止まらない水石の水流にゲイザーが頭を冷やしている。嫌そうな気配を隠しもしていない。ヘンリックがゲイザーを一瞥しては俺を悩ましい顔で見つめている。
ヘンリックは申し訳なさそうな表情を浮かべた後、唐突に俺の杖のありかを問うた。正直に所持していないことを告げれば二人そろって目をまん丸くされる。指環が杖替わりって伝えたはずなんだけどな。
ゲイザーが薬煙草を半ばで大本を大気に掻き消した瞬間、俺の目の前に紙のメモが落ちてきた。『長』の字だ。
手紙によると強化解除には首級を先に消さなければならないようだった。俺たちが気付いた循環式の対策はゲイザーが叫んだ時点で行われている。
その為、全土に加速を敷いたために、首級を消すと『上級』と『中級』が同率で現れるという式に切り替わっているらしい。本来ならば首級と特級がモグラたたきのように現れる式が改変されて群の出現に時間稼ぎされている。おかげ様で特級への直接強化はないようだが、一方通行の共有網は消せていない。
『上級』の鬼型の一撃で地割れが起こる。個体差あれど、平均直線百メートルは水平に建物が半壊。速度は『走狗型』や四つ足よりも鈍いが、障害物があればそれを蹴って鞠のように飛んでくる脚力がある。爪と牙を武器にザックリと十人前後は屠っていくので皆戦々恐々。
人類水準の品だと銃も利かない、剣も利かない、下手な火炎は食われる始末、というわけで阻害の為に水を撒く術士は干からびる幻覚に襲われながら上級から撤退を支援しては、進化する前に中級以下を潰している。
ダンジョンのボスじゃないか、という叫びが聞こえる程度には、上級も頭おかしい性能をしているようだ。戦い方の知識があるんだよなこいつら。誘導もしてくるし。
部分的な『切替陣』が各所に敷かれ始めると、こちら側は一撃即撤退を繰り返し、蜂の如く部位を削る方向に戦い方を切り替えている。
変化してきた戦況に上位個体も気づき始め、群れを周囲に盾にしては、遠方から狙撃してくるようになった。やだー。
「これ中級って云えます?」
「まだ他の系統が利くから中級。火しか利かなくなったら上級」
「基準が緩すぎて涙が出ますね」
前衛突貫のゲイザーは相変わらず切っては急所を的確に潰している。後衛変わったヘンリックは俺と共に逃げ遅れた討伐隊の援護。風籠で俺が浮かし、その風の要素を使って鎌鼬の援護を増やしては寝転がる負傷者を浮かせて回収している。
高度が鋼以上になりつつある上位特級個体を前に降りてはヘンリックが自身を風に変えつつ、迎撃の片手間、触れた部分の風で切断している。
「駄目だ夜明けまで持たねぇ、点間門の起動許可!」
「駄目だ。本部に流れ込んだら壊滅する。戦力を此方に九割割いているんだ」
「残り一割を寄越せっつってんだよ」
口喧嘩をしながら二人が本部とやらに通信している。怒りの沸点が達したのか、両手の構えを捨てて指の動作で切り始めたゲイザーとヘンリック。瓦礫の山を浮かせて死にかけている冒険者六名と二名の救護班の隊員を持ち上げつつ、風籠を維持して指環の力で軽く祓っては、二人の隙間を狙う『中級の群生体』を理力の矢で弾いている。光系列は難しすぎて投げたけど、水の媒体式は得意なのだ。
雨を降らせて広範囲の汚染を浄化していると、雷鳴と共に西側に分厚い雲が出来ていくのが見える。俺の循環式の一部が誰かに引っ張られてる。電気信号染みた、広範囲の雨の要求。白色のオークション通貨の宝石を首飾りを通して維持すれば、途端丸ごと持ってかれる。非常時だからか加減がされていないのか、術式ごと掻っ攫われるのは初めての体験である。これは早急に西に合流した方が良いか。
救護班の魔法が軒並み効いてないが、雨を降らせた影響で前線に投入される線も術士の系統が切り替わった。
ヘンリックが救護班に西に行くよう命じると、ホログラムの地図上、この区画の支援班は俺たちだけになった。
ゲイザーに切殺せるかを問われる。是を答えれば、物理以外は駄目だぞと返される。えー。鏃の回収をしても破損がひどすぎて今は既に二割程。途中から道端の誰かから借りた式の彫られた巨大な斧を使って爆風を薙ぎ払っていたが冷や冷やすると云われて取り上げられたので、実質俺に白兵戦以外で物理切断手段はない。直接触れれば切れるぞと宣言すれば、それは駄目だと断言された。そんなー。
「規模の算出はでたか?」
「ようやく、うっわ、東だけで二千万超えてんな。都市の南部が異界へ接続されてる。そのしわ寄せが三区画に来てたってわけだ。……現状、大将首が一体いるだけで上級が軒並み成長はえーから時間との勝負だぞこれ」
「……よく参加者六千人前後で対応できてますね?」
「本来なら不可能な規模だが、幸運にも待機軍が他にもいたために回っている。五日後に開催されるオークションを目当てに人が来ているのもあるが、一周前(三十日前)、数か月に一度の大規模な討伐が行われたばかりだった。裏ではその五倍軍人が稼働している。さらに加えて、今日は運よく未参加の登録者がまだ千名逗留している。要請している手練れも含めて多くが登録外のメンバーと共に残っていた。……通常領域の防衛はしばらく大丈夫だろう。ただ働きになるが、他国の軍人が大勢いる」
「……報酬も出ないのにそんな都合よく協力してくれるんですか?」
「違反したら除名でこの国に入れなくなるからな。快く引き受けてもらえるとも!」
「こ、怖いなこの国」
「他の軍人がこの国に来る場合、必ず討伐の嘱託契約を結ばなければならない。最初の登録時に書いてある。ちなみに一般のものも、討伐参加者は次回、緊急要請には不測の事態を除き強制参加だっつーことよ。」
敵勢力の等級分けが終わったホログラムの地図の上に菱形のマーカーが浮かび始めた。横に討伐数の加点。水位は少しずつ。
銀色の腕輪越し転送して支給された青いカードケースと共に、黄色い箱に入った『回復薬』と『応急手当』の一式が札式で配布される。多くの場所で狼煙が上がり始めた。
多くの拠点付近に半円状の結界が敷かれては、部分的な加速が起こっている。緊急を示す赤と黄色のマーカーの場所には救護班が突入している。
結界の中で回復後、救護班と共に支援班を待つようだった。青いカードケースを開けば、三十枚ずつ。栄養バランス満点の『食札』もある。ぽんと優しくたたかれる肩の意味を察する。
個体値の算出も終わり全領域の立体ホログラムと共に完了の音が鳴った。読み込まれた危険度から算出された個体値が脇に表示された。色分けされて地図の上に表示されている。
「緑が一点、青が三点、黄色が二十点、赤が千点、首級と思われる黒と黄色の二重線のぎざぎざのマークが十万点。」
『群生級が一点、下級が三点、中級が二十点、上位固体が千点、大将首が十万点。』
「首級は?」
「乗ってねぇ。」
これに最終的に種族の評価点数が加算。厄介なものは点数が数倍跳ね上がる。ゲイザーは悩ましい表情で顎をさすると、西と南の境界を壊すしかねぇなと告げた。
戦況を把握するために、境界を抜けて東に降りた。ヘンリックが太鼓判を押して防衛可能と判断すると、支援班の務めを果たして補給物資を転移させて、東から西へ。そうして西の接合部分へ向かうと建物の全てが半壊していた。一定の高さで切断した痕跡がある。境界内に入れば、丸ごと転移させられた残りの上半分の瓦礫が暗い世界に積み重なっている。
「お前ら中へ戻れ、俺達が継ぐ」
「隊長たちだやっと助かった!」
霧雨の降る瓦礫の中、ずぶ濡れで救護班と共に支援班が戦闘班と一緒に群をSTGしていた。祓っては燃やし、濁流を起こしては瓦礫を使って距離を保っている。
霧雨が大粒の雨になり、雹になり、地表が凍り付いては地面から氷柱が生える。一気に冷え込んだ空気の中、ゲイザーは気だるそうに剣を構えた。戦闘班がずっと潜伏していた場所の地面を割ると、その隙間から間髪入れず『特級』が生えてきた。
二人同時『特級』を切断してはヘンリックが救護班の周囲を含めて撤退させた。生存反応なし。マーカーの点滅もなくなった西の境界内。ゲイザーが初めて放つ火の中、『特級』の死骸が霧散せず徐々に灰になっていく。領域内にはもう首級、特級は居ない。その代わり『上級』討伐数が尋常じゃなかった。
西の境界の拠点の中では多くの冒険者が治療を行っていた。西は魔術師が一番が少ない為に、有効打を守るために相当な無茶をしたようだった。えげつない器の壊し方をしている大型人類が数名、顔が削がれている複数の冒険者。皆順を追って治療をされている。戦闘班が敗れれば最後、この境界の建物も壊されていたに違いない。西の区画を半壊させた代わりに引きずり込むのにオペレーター共々、相当な無茶と内部数値を消費したようだった。建物の結界を壊して、戦闘班を保護していたのだから。
ヘンリックが建物の保護を再構築している間、俺は忙しない西の建物の中の補助を手伝った。転写するだけの模型ならば得意なのだ。願い出れば職人たちが木っ端になった柱の破片を再構成した建材を渡されて、上着の中にあった水晶玉に似た『キット』を使って寸分たがわず再現していくと、次々に時間が惜しいとばかりに材料を運ばれてまとめて転写させられた。完璧な再現度だと職人たちが頬を上気して褒め合っていると、現場監督らしき異形種の石像型の傭兵が戻ってくる。そして柱の完成度を見て満足げに頷いた後、無言で建材に触れては各職人に同時に拳骨をした。『空振』の小規模応用だ、と頬を引きつらせていると、巨大人類特有の影を降ろされて、俺は何もされぬまま、回れ右を促されて追い出された。
「何したんだお前……」
「その、善意のお手伝いを、少々」
「建材に精霊宿ってて大変なことになってるつってるぞ」
「お、俺のせいじゃないぞ。もともと眠ってた永属性の柱から勝手に出てきただけだぞ」
「九十九熾した大本がお前ってことだろそれ……。後で管理者権限きちんと破棄しとけよ。おらガゼットの分の支給」
回復薬はあくまで裂傷用と対毒用。そのため個人的に骨を生やす劇薬を使うより『治癒の光環』を受けた方が安全だったりする。骨を生やすと嫌でも体力を消耗して熱が出るのだ。とはいえ一人ずつが鉄則の為、時間がかかっている様だった。一万人近くの軍人がこの西に居ることから、防衛線を司っていたらしい。
俺は上位到達級に『器』を構築できる為に無縁だが、血が足らなくなると造血薬でも臓器に負担がかかる。
西の結界が復活したらしい。警報音と共に建物の外部に薄い水色の膜が張られると、再びマーカーが点滅し始めた。第二陣だな、とにわかに喧喧囂囂、治癒士の制止を振り切って世話になったと足早に戦場に向かう血の気が高い傭兵たち。
ため息をついたゲイザーが救護班の支援に向かい、ヘンリックはいまだ情報収集に努めている。
ゲイザーに置いてかれた俺は回復に専念しろ、と体力の温存に椅子を確保されて片隅で安全に食事をするようにお達しが来ている。都市に登録した資格が無い以上何もするなと厳命されて。ちょっぴり辛い立場である。
毒で汚染された臓器は時間が経てば再生が不可になる。燻せば形を保つ木でも、燃やせば灰になる。臓器の負担も再生治療の範囲を超えれば入院と手術である。
この場合、毒は汚染と瘴気による不全なのだが、開いた天の黒い罅割れは西に多くの怪異を運んできたのか、東にはいなかった植物型の宵影が群れからなっていたようだった。人手が足らない以上、手段を選んではいられない。突貫した多くが汚染されて二段階目の幻影症候群を患っていても無事な理由は建物内部に彫られた『浄化と再生』の陣のおかげらしい。基本正気がなくなった時点で暴走するものだが、凡そが余裕そうに見える。練度高すぎる。
今回の規模は俺の手の届く範囲を超えているし、討伐隊も過去と遜色ない難易度の高さで、仕掛けて来る世界の殺意がうかがえる程である。下手なことも出来まい。センチメンタル、感傷的に浸っていると大きな気配が隣に座る許可を尋ねる。ながらにかえせば座る衝撃でクッションが跳ねた。
「治癒士が直せない系統は?」
「菌糸類の毒だ。防士が因子を消さねぇ限り臓器の再生は不可。造血薬も使いすぎると肝臓が死ぬ。加護もちが多くいるために生き長らえているが、外ならば即死の者も居る」
「……あなたも足が壊死しているが再生が可能なのか?」
「それがこの都市の良いところだな。まぁ、一月掛かるがまた筋力を付け直せばいい。傷が残るモノたちが先だ。切り落とすと支えが面倒なので処置して棒にしているだけだ」
器だけなら治せるかもしれないな、と隣の椅子に座ってきた黒づくめの体毛と銀髪をした獣頭派生種族のオッサンに使わない青いカードケースを渡しつつ、水筒の水を飲む。
食わないのかを尋ねられて是を答えれば、代わりに回復薬をくれる。いい奴だなお前、と食札の干し肉を食らっては一口で丸呑みしている。ぽんぽんと色んな料理を取り出しては口に放り投げていくオッサン曰く、前線撤退を余儀なくされたので不要だ、とのこと。そもそも薬と相性が悪いらしい。
今回は死者が居ないのが不可思議なほどだ、と目を細めるおっさんであるが、エーテル活性数がどこもかしこも三桁飛んでるので死んでないだけだと思われる。西側、まじで可笑しいな。オッサンも直近五桁ほど死んだ形跡があるんだが。まじで活性回数偽りなく、修羅の領域じゃないここ?
「バグスの国から既に二年ここに逗留しているがいい都市だ。金払いもいい。どのくらい稼ぐかはまちまちだが、一月で三年分の路銀がたまる」
「すごいな」
「その代わり経費で半分飛ぶんだがな。だが、無償でなければ治療費の方がもっと行くかもしれん。そんな危険な場所でもある」
オッサンは冒険者らしい。
特中型人類の大きさのオッサンは座っていても俺よりでかい。推定身長は七メートル程だろうか。オッサンはハーマーリネムーではないと苦笑する。十族派生犬種因子を祖に持つヒュラス・テラーだそうだ。現地民の総称がヒュラス・テラー。基本この世界の種族の名乗りは大雑把だ。
相槌打ちながら巡ってきた街の話を聞いていると、ふとオッサンが俺の顔を見た。
「兄ちゃんこの都市の討伐初めてか?」
「初めて。」
「あのゲイザーが連れて回るってのは、なんかコネでもあんのか?」
「ないない。」
「兄ちゃん死の香りがすげえんだけど、ひょっとして重篤患者か?」
直感が働くタイプは面倒だな、と笑えば素直過ぎて心配になるな兄ちゃん、とオッサン。
「呪われてる?」
「呪われてる。」
「……、緊急時の為にやってきた?」
「路銀を稼ぎに」
「祓える?」
「祓える。」
体毛に覆われている為か下は装備しているものの、上は一枚だけ羽織っているコートの内側から取り出された黒い石。
オブシディアンかと問えば違うらしい。解析掛けられないから解らんな。軽くで良いんで祓ってみてくれないかと渡されて両手で包めば、白色のオークション通貨の石が首飾りの中で一つ溶けて消える。やべ。吸い取られた。両手を開けば光る石。オッサンは元黒い石、現真っ白に光るミルキーな蛍石のような石を握りしめると大声でヘンリックを呼んだ。
「……戦線復帰するからこの兄ちゃん南と西にやるなよ。その班に留めておけよ」
「……ガゼット君」
「違う、軽く祓っただけだほんとだぞ!」
「危機感が無さすぎて一分で死ぬぞこの兄ちゃん。」
「軽く両手で流しました?」
「軽く両手で流しました。」
「……ベナンザー。」
「そういうわけだ。悪いが報酬は給料から差し引いてくれ」
オッサンは元黒い石を懐にしまい込むと足元の馬鹿でかい斧を担いだ。あ、先ほど借りてた斧だ。見上げれば、いつの間にか壊死した足が復活している。目を瞬けばがしがしと背中を叩かれた。
ありがとよと告げられて赤い袱紗の包みを手渡されると、オッサンはご機嫌に尾を揺らして去っていく。袱紗の中を開くと陣の彫られた水晶盤が一枚入っていた。
西は終わった次は北だ、というわけで、北に合流すると結界が崩れていた。先ほどの西と同じ再現度である。一定の高さから上部分が削がれてる。
「……左下に表示される総個体数の検出が著しくカウントが増えているのはバグか何か?」
「現在進行形の討伐要求数だ。増加中だな」
「あー、あー!さらに二桁増えてるじゃねーか!、凡その馬鹿でかい特級は北から南にやったみたいだな。その代わり北の結界破られてる。あの時に爆破と共に一部が緩んだか?」
「ああ先ほどの空振爆破の余波で北と西の境界が緩んだみたいだ」
「す、すみません。」
二人にほぼ同じ意味合いで気にするなと言葉を掛けられた。渦の爆発の影響なのか、零れ落ちた群生級が北にも到達し爆発的に数が増えているらしい。弱体化してても数が多すぎるとか。発生源の東に戻る?
「いや、それには及ばない。東は現在隔離されている。南から何人か派遣されたので大丈夫だ。」
「……東、俺が北に来た時点から、数の合わない得点が時系列にたたき出されてるんですけど」
笑顔のヘンリックの無言の圧。首級って、もしかして百万点とかじゃない?
「ヘンリックさん、首級の点数のってないんですけど、もう出てますよね、討ったら何点なんです?」
「一千万点だな。髑髏の印だ。触れると変化するバツ印の突き抜けた二重円の印がそれだ。一応これが元帥のマークっつーことだ。大将首が特級だから特別に乗せたみたいだな」
「えっ超ボーナスじゃん。……えっ!?、ってことは東に二体も首級が落ちたのか!?」
合流しないとまずいんじゃ、と焦ればまあ落ち着いて、とヘンリック。なんで無事だったんだと問えば、ゲイザーが目を反らす。……ゲイザーさんのせいじゃない?
「半端な援護は邪魔だったから境界をさらに切った。余波で北と西の境界が壊れた。以上。」
「先まで緩んでても維持はしていました。破損は九割ゲイザーのせいですからガゼット君は気にしないでください。先ほど巨大国から精鋭が来て半数を仕留めている、軍隊で戦略級の進行を持って討伐を行うものなので単独で真似はしないように」
「まぁ、装備の規模が尋常じゃねえからな、あの国。」
とはいえ、現在進行形で変動中。マーカーの検知漏れがあるのか、軍勢から下級、中級から上位へと成った場合、腕輪や設置された中継器を通して上位固体として再度評価される。その頻度が早すぎて、迂闊に派遣できない模様。最悪じゃん。
単位が変化した場合、撃破した時点で討伐数が千や万単位増えたりする。後から記録を追って追加してくれるようなので気にしなくていいらしい。万能。
北に来た理由、魔法使いたちから要請のあった足場へ向かえば、数秒で火の魔術を覚えた宵影が中級から上位になっていた。騎士殿の成りかけの時も思ったが、なぜこんなに進化が早いんだろう。
理論だてる前に数を討つ、考える暇もなく、まるでコウモリの群れのように空は黒い煤のように飛来する宵影を集める。
視界に埋め尽くしては、魔法使いの点火と同時、最終地点、大討伐を開始した。
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大分早く、夜明け前に収束の鐘がなった。夜の十一時だった。
珍しいことらしい。各所の移送が完了した証拠だとか。力尽きた様に膝から崩れ落ちる傭兵たちを浮かせて回収しつつ祓って清めて点間門に移動すれば泣いて喜ばれる。気力尽きてる傭兵と共に根こそぎ持ってかれたらしい魔法使い諸君に清廉な水を配っているとこれまた泣いて喜ばれる。大丈夫この都市?
「終わったぁ!」
「生きてるゥ!」
「死んだけど死んでなかったぁ!」
「オブスサーバー新隊長今夜は飲みに行きませんかぁ!」
「行きません。ごめんね。そして俺は嘱託なので隊長じゃないのです。」
各々が関所の受付で別途報酬を受け取る。都市を出る者は腕輪を返却するようだった。多くは腕にしたまま、借用代か高額な購入金を置いていく。
自動更新の者は十分ほどで賃金が直接腕輪に報酬として振り込まれる仕組みらしい。最初に支給される基礎金額は点数×銀貨のようだ。
今回の点数は千八十五万。迎撃数は最終的に二十四万近かった。援護は頼みますわ、という追い込み漁で上空から術士共が俺らに調理を頼み込んできたからだ。いともたやすく行われる外道行為。
これで十八位。上位の三番目と比べると、五分の一。統計に入ってない数のおおよそは協力を仰いだガーランド国の精鋭が殲滅したらしい。
「北西での記録だけですが、討伐合計はおおよそ112902体ですね、一時間三十分でこれですから、上々じゃないですか。どこも点数は過去最高になりそうですし」
「まぁな、だが、北東の方は上位の撃端数三万を越えてる、どこの国の上位が参加してたんだ、傭兵組だろ?」
「あれ。報酬見ると、十点で銀貨一枚の確約報酬、プラス撃端数が銀貨の枚数での換金だから、牙とか爪とか集めたらもっといくんじゃないですか?」
生温い表情で首をゆるりと横に振る。解体屋を雇う傭兵もいるらしいが今回は軍から規制が掛かっているらしい。取りに行くなら手ずからのみ、とのことで、冒険者が道中引き返しているのはその為だとか。報酬分はマーカーのカウントが個々に保存が行われているらしい。保管時間内に解体できない場合、軍が買い取る方向。腕輪を返却しても生体認証が終わっている為、後日関所に訪れれば報酬がもらえるとか。
ちなみに俺様が解体した核は保存してあるが、と見せられるが首を横に振る。現状使い道がない。
「こいつ等の牙堅いから折るの一苦労なんだよなぁ、場合によっちゃ刃こぼれすっから、経費考えたら可能な場合を除いて手をださねぇんだよ。だから戻るのはやめとけ。」
「貴様は百万ぐらい余裕だろ」
「体力が持つかよおめーがイタチでやれっての」
「適当に穴をあけるのと繊細に品を保ちながらの採取では使うタスクが違うんだが、わかるかね?」
他の換金要素を傭兵たちから伺っていると肉も換金できることが判明。この都市だけの特別措置らしい。やけに安くて美味い配給の大本。
単品でも美味しいのだろうか、と問えば無言で否定。
「需要が無いのに何で売れるんです?」
「この都市全体に正常時に作動する浄化の陣が彫られているからな、ある意味で要素の供給にはなるんだよ。祓った時点で。この国限定なら、動かなくなった時点で鮮度の高い死骸みたいなもんだしな。まぁ生きたまま食うと寄生されるけど、概結果は変わらん。一キロ単価銀貨一枚だぞ。これはまずいぞ」
「……やっぱり牙で白金貨目指します?」
「その牙はもっと安くて、キロ単位で銅貨一枚だぞ安いからやめとけ」
あー南にミノス型とかいねーかなーとゲイザーがぼやいていると、生で食べるのはゲテモノ好きぐらいだとヘンリックに断言された。
関所の入り口でカシュッという空気が抜ける音と共に『霧』が振りかけられると匂い自体が消えていることに気付いた。浴場はあちらですという張り紙の方向に大股でかけていく十族系譜の人類種が見える。銀環を返却しても、装備を戻さないと匂いがきついらしかった。
手の甲の匂いを嗅いでみるが恐らく大丈夫だと思うんだが、とヘンリックを見上げれば全く一切問題ありませんとのこと。良かった。
食事処も設置されたようで、臨時販売の文字に群がっている傭兵、冒険者たちが良く見える。すげぇ。
「進んで食べれる宵影っているんですか?」
「いる。本来なら死骸は即火葬が基本だが、この都市に限ればすべて理論上食べれる。そのために美食家も多くいてな。基本宿らない素材を錬金術師や精錬所から購入するんだが、まぁ自然の産物としてこの都市では受け入れられている。おおよそこの国に限るがな。祓われている肉の見分け方は歯肉が赤いこと、煤が取れていることだ」
「まぁ、元と成った生物が旨ければ全部食えるぞ」
ゲイザーが満面の笑みのまま南のやつと合流してくると告げて離れた。そのまま連れられて関所の奥、最初にあった会議室ヘと戻ると、中はまばらだったが、先に視た軍人が三人程戻っていた。専門術士の腕章をした数人が続けて中に入ってくると、ヘンリックを見つけて声をかけた。
座らされた席で小休止していると、ヘンリックと共に西の境界に居た治癒士に声を掛けられた。返事をすれば、全身を機械製の真黒な布で被った中型人類のシントラーが面布に笑みの記号を浮かべた。
「お疲れさまでした。死者は?」
「本来なら三十四人死んでますけど、最先端の技術で蘇生させました。ガゼット君、建材ありがとうございました。パツァフが喜んでましたよ」
「あ、いえお節介をしたようでして」
「いえ、お弟子さんたちが叱られたのは別件ですから」
「さ、さいですか。」
「結界が治ったので負担も減りましたから、本当に、ありがとうございました」
「あ、いえ。それにしても、すごい場所ですね、ほんとにここ。」
「ええ。」
ゾアヒとお呼びください、と黒づくめのシントラーに自己紹介されて此方も名乗る。南の状況を尋ねれば、微笑んだまま、大成功でしたよ、とのこと。あんだけ無茶ぶりされてたのに、と胡乱気に視れば、南には教官達が居てくれましたから、と力強い肯定。さいですか。
またお会いしましょう、とゾアヒ殿に手を振られて会釈を返せば、興味深そうにヘンリックさんが此方を見ている。
徐に首飾りに触れられて見上げれば、無言で何故かヘンリックさんが目を覆っているが、そのまま赤い袱紗の件を尋ねられた。
明らかに上等な鉱石というか、見たことが無い結晶体なんだけど、返した方が良いか尋ねれば否。
この水晶自体が手が加わった精錬物だ。俺の持つオークション通貨と同じ複雑な錬成工程の末にできてる。ウォーターオパールのような外見だが、宿る色彩の中に凄まじく細かい刻印文字が色の中に宿って移動してる。まじで製造工程も不明、意味がわからない。ぱっと見はただの水色のガラス質の水晶なのだが。
「……意味が重いなら解体しますが」
「なんかやばい意味が在ったりします?」
「対価無しで呼べます。あの者を。」
「……召喚媒体ってことですか?」
「戦士の契約を単独で成す召喚媒体と云いますか、世界に誓った為に、誰でもそれを使えばあの者は駆け付けます」
「ほ、放流したらやばい品ですよね」
「ある意味で絆の証ですので……。」
親愛を示す価値がつけられない品ってことだな。受け取った以上次に会うまで温存しとくと告げれば生温い微笑み。そうされるのもよろしいですが、使いたくなったら使ってあげるのも喜ぶものですよ、とのこと。返還もできるようなので、ある意味で嘱託傭兵を一度借り受けられる認識で良いらしい。
ガラスのグラスが空になると、戻ってきたゲイザーが俺たちを呼んだ。
別室に案内された先にあったのは金色の小箱だった。それぞれ三人分用意されており、同額用意しましたと受付の係員が証言する。明細を残さない理由は加算評価と別途報酬の為とのこと。別途報酬?
「結構な金になったな。三年に一度の規模だから当然か」
「ツケ」
「わーってるっての!」
腕輪からでてきた、水硝貨(一億相当)三十六枚、白金貨(百万相当)六十五枚と虹紙幣(十万相当)九枚をヘンリックが分配してくる。
先に細かいものを分配していたが、さすがにこの大きな金額の等分はまずいだろう。辞退して経費含め大目に水晶貨一枚と虹紙幣二枚で良いと告げたが、二人に一枚ずつきっちりと、等分を手渡された。ヘンリック曰く、点数とは別に凡そ討伐数を二で割った数の銀貨報酬が加えられているらしい。
物価を把握しないとなぁ、と考え込んでいると軽い音と共にヘンリックに肩を叩かれた。
「さらにだ、それとは別の報酬が用意してあるそうだ。聴取の後でがつくがな。すぐに中央に来るようにとのお達しだったが仮眠の時間をもらった」
「あー、さっき言ってた、……中央?」
「関所の中に点間移動の陣がある。ガゼット君とゲイザーも一緒に来るようにとのことだ。六時間後、朝の六時に集合だ。疲れているだろうが、すまないが協力を頼む」
「はあ。」
報酬というが、実態は全体の二十分の一も点数を稼いでいない。このまま等分は大丈夫なのだろうか。上目づかいにヘンリックを見れば仕方なさげに笑われた後、乱雑に頭を撫でられた。
「……黒紋が出た?」
「出た。」
「うっそだろ!?どっから報酬で……各国の口封じか」
「そうだ。今回の騒動は一国の問題ではない、原因の究明と公にできない事情を含め、この一件は別の背景にて説明される。」
かの巨大国が軍隊を率いて首級を三百対迎撃した。
東側は都市に集った冒険者たちが、西は地元の騎士と兵士たちが、南と北は即座に応じた巨大国の軍勢が対処した。
お偉いさんが説明するには、北から漏れた首級を、今回の上位三名が協力して迎撃したそうだ。数の比率で行ったらこっちの方がやばくないか。黒紋一枚で一兆程の物価だから、凡そ点数報酬だけで三兆程と。なるほど。ちなみに魔紋が一京程である。物価が壊れる。
「二分化された線は向こうの術士が次元を開いての巨大な点間門を開いていたために応じられた」
「やべーな、もう都市規模の空間を簡単に開けるのか、ガーランド。」
「既に段階は異界侵攻も視野に入れているほどだ、近々召集があるやもしれんな、ゲイザー」
「俺様今本命の剣がないからむーりーでーすー♡」
「ツケを対価にお前を送る」
「血も涙もねぇのかてめぇは!!!」
それでなんだが、と重厚そうな木組の椅子から立ち上がり、お偉いさんが応接間の窓を開く。すると平原染みた広い庭の中央、ぽっかりと円状に開いた場所に竜種が降りてきた。先ほどの魔法使いの女性だ。目礼を返されたので習って頭を下げる。ヘンリックが小さく笑った気がする。
「私たち二人は今回の渦を破壊した爆薬の出所を探っている。何か知っているかね、ゲイザー、ヘンリック。」
二人して俺を視たらそれが答えみたいなもんじゃないかな。左側のテラスから入って来た女性が扉を閉めながら是を示す。
火薬の匂いはこの青年についてます、と女性が語ると、四対の視線が俺を見る。言い逃れのできないオーバーキル。
「新人だろ。」
「ガゼット君ですね」
「はい俺です。」
お偉いさんが右手で顔を覆った。なぜか苦悶している。いつの間にか移動していたヘンリックがお偉いさんのそばに立ち、背中を片手で支えている。
ガーランドの兵器であれば他の国から補償が降りたのだが、と一言。蚊の鳴くような声である。
「ガゼット君といったか」
「はい。」
「その、大変失礼なことを聞くがあれは本当に、本当に!、……君の私物だったのだね?」
「そうです。全財産でした」
「残念ながら室長、ヘイニー治癒士の証言も出ています。」
「なぜ個人が国家資産を持っているのだ……」
「国家資産?」
「オークション相場をご存じではないのですか?」
女性が呆然と告げると、お偉いさんが本格的に胃を押さえて冷や汗をかき始めた。お偉いさんがしきりに胃と髭をさすっている。
ゲイザーは飽きたのかいつの間にか応接間の左端に面したテラスに出て竜種と遊んでいる。
女性は一度窓を閉じる許可を得て、閉じ切る前に口笛を吹いた。竜種が空へと舞い戻っていく。ゲイザーも一緒に咥えられて。
輸送されてるけどいいんですか、と告げれば、女性とヘンリックは綺麗な笑顔を返してくれた。
「過去二十年の間に三枚だけこの通貨は出回ったことが有ります。起源は五百年前、ガーランドに製法が残っています。基本高価な通貨としての資産価値がありました。」
「反応が千百万枚相当ですが。ガーランドに真っ先に事情徴収を行いましたが、全くの無関係であると。あの国はその点に関しては偽ることはありません。脳筋主義なので。それで、誰があの渦を破壊する手順を用意してくれたのか、という点に行きつくわけですが……」
「そこで、ガゼット君があの爆薬全部用意したってことになるんだが。」
「……え、つまり、もしかして保証してくれるんですか!?」
資料片手に女性が淡々と語る中、ヘンリックの合いの手が入った。思わず期待を込めて見上げて見ればそっと逸らされる。
正面を見れば、途端ぶんぶんと首を横に振り始めたお偉いさん。ですよね、そんなうまい話はないよね。
良いですよ別に、と零せば、三対の視線が無言で頭上を貫いてくる。
「誰も死ななかったんですから十分です。」
「……室長」
「待て、早まるなヘンリック、わしも十分、十分考えておる。」
「この子昨日の朝まで重篤患者でしたよ。そんなガゼット君ですが、最後の方で死に掛けの者から応援を頼まれて尻拭いを最後までさせられていましたね。」
「待ちたまえ、わしの胃を壊そうとするんじゃない」
まあ、虹色も白色も価値があると解っただけ儲けものだ。白色は領地の倉庫に戻れば腐るほどあるし。それこそ一つの品を落とすのに三桁から八桁必要だったから。端数は簡易爆薬に全部使ってたけど。
その中でもウルクフ女史に上げた虹色のオークション通貨は特別で、あの一枚錬成チャレンジするのに白色百万枚必要だった。比喩じゃないぞまじだからな。第一段階で一万枚の白色を『概念の鍋窯』っつーアーティファクトの類にぶち込んで、浮かぶ蒸気の感覚で理力と魔力を均等に入れてかなければならないのだ。停止術使ってざっと千日ぐらいかかる。面倒だから一回やった後工程登録して寝てる間に自動で行わせてたけど。生命力の疲労がすごかった。一万が一つの素体になる。
それが大本の素体。あとは精錬作業を専門術士に任せてやる方が早かった。一度やったが、これの一番面倒な作業はこの精錬作業。同じ質のものを揃えて、百回前後マトリョーシカせねばならない。九割素体の構成が一致しないと精錬できない。はい、この時点でガチャ開始です。俺は大本の素体を作った段階で投げた。一回成功させた後、騎士殿に手伝ってもらった。料理の片手間に完成させやがったからなあの騎士殿。俺の推定所要時間の億分の一、あっりえねぇ。半分素材上げるから自由に作ってくれと言ったら一日で完成させてくれた。その後の黒金は俺が失敗したものが大半である。騎士殿は二回だけ実験して黒金色にしただけだった。泣きついて『情報の球』を貰って自動化した。お礼に久しぶりに領地の皆で旅行に行った。上司殿に後日滅茶苦茶怒られた。
他のユーザーは四十六人全員が隊長殿にお願いしてた。あの温厚な隊長殿がキレた思い出は今でも鮮明だ。でもあの人約束を果たして、期日無茶ぶりを厳守し数日で全部精錬して集めた素材分作ってくれたすごい人だった。お返しに皆秘宝や創造級のアーティファクトの類とか、概念条文渡してたからね。気の毒過ぎて領地の皆が作ってくれたオーバーコート渡したぐらいだし。泣いて喜ばれた。
今じゃ倉庫にあるのを集めても精錬必要数を満たす質が何枚あるかだが。最終幕の時はかき集めて百枚だった。その余りが十五枚だったというわけだ。
品質が揃わないとこの虹色にはならない。作成準備共に高難易度の爆薬だった。失敗すると百回は死ぬし、領地亡ぶし。これが上司殿が怒った原因である。完全に単身で時限式位相で挑んだし、死ななかったからいいんだよ。
「一つ質問していいですか?」
「な、なにかね」
「ハイヴを破壊するのに必要なその『爆薬』の枚数は?」
「白一枚で小規模なら全滅、中規模なら五枚で壊滅、大規模なら二十枚で半壊ですね。」
「ほー。」
「今回の収束規模は面積に直せば、渦のポイントが一番大きくありました。その規模は総範囲の領域値といえど、異界級の中規模と同等かと。あなたが今回使われたのは、先に話した白の爆薬ではなく、遊色効果のある虹色の刻印石でしたね?、手持ち、全部使いました?」
「使いました。」
「白ですね。」
「わし、頭がおかしくなりそうなんだが」
虹色の通貨兼、爆薬は資料にも残っており、一枚で中規模異界を壊滅させたとある。ヒュー流石―。やっぱオーバーキルだったな。
終幕前は巣窟異界なんて腐るほどあったから金で買う爆薬は売れに売れた。この世界、予想以上に魔石の爆発に脆いんだよな。楽だけど。なんで爆発させるのか?、それは中にある点火魔石が収束効果で精錬され品質向上が非常に美味しいからです。魔石+20とか絶対普通じゃ捕れねぇし。あー、在庫まだ残ってたかなー。
「――つまりだ、その、五日後のオークションに出品する予定だったのかね?」
「え、いや、べつにそんなこたないです。」
「君の入国記録がないのだが、一月(九十日)前に緊急搬送での特別措置とある。君はヘイニ―女史の患者で搬送許可された、これは間違いない。」
「らしいです、ね?」
ヘンリックがあらかじめ渡されていたであろう資料をお偉いさんに渡した。君重篤患者だったんじゃないかね、と消え入りそうな声が聞こえる。
「養生の為にここに来たのでは?」
「記憶がいかんせん消えているもので。正直、どこから来たのかも定かではないんです。」
「……ヘンリック。」
「室長、一緒にこの子と討伐に参加していましたが、十割どころか百割白ですよ、この子。そもそも単身で厄災を捕まえて単独撃破したものと思われますし。」
「厄災?」
「あの怪異、一柱で厄災級だったのだよ。君が別の次元座標に移動させてなければ、正常の結界が壊れかねなかったほどの。あれがあの渦の主」
すんません、わかりませんと告げれば、ヘンリックもお偉いさんも頭を抱え始めた。
女性がやんわりとかのガーランド国と同じだけの戦果をあなたは掲げたものと思われます、と一言。
下手をすれば未然に防いだ戦果はそれ以上で、ガーランドの有志であれば紋章を贈るほどには大金星である。とか。
「いや、破壊してくれたのは他の術士たちです。あの連絡を聞いて動いてくれた彼らに報酬を送るべきかと、……ヘンリックさん肩。肩がすごい重痛いんですが痛い痛いっす、首がとれる頭がもげる」
「このとおり真っ白なんですよ、ゲイザーがいう程に!!!」
「君、記憶障害とか患ってないかね」
「まじで俺、その台詞今日で何回聞けばいいんですかね。」
「っふ……。」
女性が失笑したため資料で口元を隠している。すみませんと小さく呟いて女性は庭に出ていった。そんなにか。
ゲイザーが戻って来たのは大方説明と事情聴取を終えた二十分後だった。手荷物を持って。
手荷物たるは高額な贈答品時に送るような青い宝石箱である。その中には厳かな鎖に縛られたまま入っている硬貨が十枚。放射状に入った線。墨汁の色なのにエナメル質に輝いている。
透かして見ると、中に燻る虹色に編まれた糸のような線。これが動かすたびに動き、温度に反応して硬貨の中で模様を描いている。虹色の細い煙か。
ゲイザーがまじまじと一枚手に取ると、これで城が買えるな、と此方を見つめてきた。
「黒紋とかやっばいなお前……、あの爆薬まーじで気前よく使ったもんな。どうだ黒紋をもった感想は」
「昔とデザイン変わらないんですね。」
「そうだな。」
「……そうですね、やっぱりガゼット君も資料ぐらい見たことはありますよね。」
「え、はい、そうっすね」
「黒だぞおい」
「奇遇ですね、たまに故障するんですかねこの術式」
「魔紋とかもまだあるんですか?」
「見たことあるんですか?」
「し、資料で」
「黒だぞ」
「奇遇ですね……」
「じゃあ分配しましょうか、痛い痛い痛い頭がもげる背中がはげるっての!!!二人が始めたことだからな。俺は逃亡してでも絶対等分するからなぁ!」
宝石箱ごと簀巻きにされた。女性に笑顔で見送られ、俺の体はヘンリックに米俵のごとく担がれた。ゲイザーが笑い転げてた。
関所を出ると騎士殿がコーヒー片手に待ち構えていた。いつの間にか私服購入してる。
此方に気付くと、騎士殿は羽虫を見るように俺を見た。失礼ととりなしてコーヒーの容器を捨ててからこちらに来る。
「騎士殿、助けてくれ」
「なぜ簀巻きにされてるんですか主殿、ちょっと十歩ほど離れてもらっていいですか?」
「泣くぞ?」
「冗談ですよ、また何かやらかしたのかと思ったんです。ほら、やっぱりそうなんですね、ヘンリックさん」
「どうもランテッド殿。おたくのご家族への教育について一度お伺いするべきかと思いまして」
「何したんですか、ガゼット。」
「等分を決めたから報酬をきれいに分けただけだよ!!!サンサンサンで一枚は火を投入してくれた人たちに適当にって」
「ん~~~、ちょっとおもしろかったです」
「笑いを取りに来たんじゃないんだが?」
報酬と使用した備品の補填で支払われた額を教えると騎士殿が神妙に頷いた。爆薬全部投入して正解でしたね、と。
ようやく簀巻きから解放される。簀巻きに使われたカーテン返しに行かなきゃならんのだが、とヘンリックを見上げれば差し上げますよと返答。いらない。
「で、どいうこと?」
「魔素値の三乗で理論上の完全変転が可能なのはご存知ですよね」
「たりめーだろ。騎士殿。」
「あれ、一枚でもケチってたら中で抑えてた私の苦労が泡になる所でしたよ。同一の時間軸でほぼ同時に変転させてもらえて助かりました。」
「……、待とう騎士殿。なんか雲行き上が怪しい。ヘンリックさんが聞いてるんだけどな?」
「事情はすでに説明済みです。だからこそ、解放されたのが朝方になるとは思いませんでしたが。迎えに行けなくてすみませんでした。」
「え、いや、そんなことはないが」
ヘンリックが知ってるらしいので聞く。ヘンリックは頷くと、ため息の後頭痛をこらえるように米神に手を当てた。
「最大限の戦力を持って君を取り込もうとしてたのはみえた。一つは君に巣食う呪いが内側から反応して。一つは外の渦の中から。そう、あの渦の中からだ。」
「笑うとこ?」
「いいえ。」
「ガゼット君、君の目が覚めたのは当日の朝だった。辻褄は合うんだ。」
「俺が疫病神?」
「然り、といいたいですが、違うようです。」
「この一月(九十日)の間、継続して関所や各機関では点間の端子中継器のすべてが平均値を大きく超えるエラーがみられた。それは奇しくも先月、偏にガーランドが宣言する大規模侵攻の異界への『穴』をあけたことが始まりだ。座標を安定させる次元間の並行ポータルを使い、複数の世界線の安定した未来値の予測できるようにした、とのことだったが、不安定に閉じきれなかったとも秘密裏に情報が回ってきた」
「難しい、優しくお願いします。」
「次元を安定させる時間軸の『楔』をこの一月前に打った。過去には二百年前、それは大厄災の終焉間近の日付だった。」
「ついでにいうと五十年前に一度世界は滅びかけています。」
「ついででいうことじゃないんだけど騎士殿」
「本当に何も知らないんだな君……。ランテッド殿が仰る情報は真実だと理解していたつもりだが、目の当たりにすると不思議でたまらないよ。」
「ごめん話を遮る。この安定してない時世にガーランドという国が異界侵攻に打って出るのは何故?」
「ガゼット君、そこが気になるのか?」
「普通は足並みそろえて対抗措置を練るだろう。聞く話によるとガーランドという国が独走しているように聞こえる。」
「その通りだ。……そうか、君は地理も歴史も抜け落ちているのだな」
「納得したように告げられた言葉が本気で痛いんですが、その通りです。」
「五十年前に世界の三割が亡んでる。」
「ごめん古い歴史しか見てなかった。現代の地理も勉強します。」
「それがよろしいかと。」
楔を打ったものの、安定した座標は一日しか持たなかった。とはいえ、収束させる一日であれば、最高の邂逅を生み出せたのではなかろうか、という理論がガーランドの見解だそうだ。
巨大な資金を打って開いた次元間の結果は、その日慎重に持ち帰られた。彼らが口をそろえて告げた言葉は、各国に通達。
それは、二年後を目安に順次、封鎖領域の結界が完全に解けるということだった。
「今回の騒動で、ガーランドは焦っている?」
「焦っています。一月前、なんの未来への良い発見は得られませんでした。突きつけられた事実は、五十年前の大厄災が順次解放されるということ。」
「そのしわ寄せが二年前からこの国に来ている、ということ?」
「その通りです」
手厚い保護の代わりに、押し付けられた雑用ってところか。金払いの良いことを傭兵に宣伝させて戦力が集うようにした。
未来が見えている?、いや、可能性が一番高い場所がこの座標なのか。今日、俺が騎士殿を見つけたように。
考え込んでいると、騎士殿がヘンリックと手短になにかをやりとりしていた。妙な紋章が見える。
宿を取ると仰っていたので、これが有用ですよ、とのこと。ヘンリックからウルクフ女史に連絡は回してくれるらしい。互いに疲労困憊でしょうから、今日の所はゆっくり休んで後日伺ってください、と気を回される始末。ありがとうございます。
騎士殿がマークについて尋ねると、ヘンリックが苦笑した。この国、というよりガーランド国の宗国の紋章らしい。へー。
「でもそれ銀杖に刻んでいた俺のマークと同じだ、やっぱ似た様な事もあるんだな」
「……、……、大丈夫です。ガゼット君、私は解ってますから。ですがその妄言だけは絶対に外では喋っては駄目ですよ」
「いや、いきなり妄言扱いはきついっす」
「駄目ですよ?」
「あ、はい。騎士殿笑いすぎ」
「最高です、ガゼット。」
「笑いすぎ。」
「第七大陸の第七都市、城下の巨大要塞エリデオットの紋章です。」
「ごめん今回は俺の頭がおかしくなりそう。」
「二つ、エリデオットはあるのですよ。二百年前に消失した競技世界の名前と、五十年前に亡んだ王国の名前です。そしてこの紋章は滅んだ王国の譲渡の象徴です。」
「一代貴族の地位を保証する。現代は金で貴族の特権を買うんだ。チケット制の割引券とかあるだろう、それと一緒の物だと思ってほしい」
「すごく安っぽくなったんですけど」
「この紋章は君の名義で登録してある。騎士殿が代行した。君の血と反応する」
「騎士殿いつ採血したの?」
「何かに役に立つかと再開時にちょこっと」
「騎士殿?」
この木製の紋章を持っている限り、特級禁止区域以外の渡航制限が解除されるらしい。
国の間ででしか使えぬが、市民権を用意せずとも特例で入れる措置らしい。
「もしかしなくても嘱託傭兵にされたのでは?」
「特権は沢山あるぞ。特級の宿り木にいつでも泊まれる」
「嘱託傭兵ですね?」
「階級は君の方が上かもしれないな」
なんか確実に外堀を埋められている気がするので起動中の腕輪で黒紋三枚送りつけてやった。即座に関所に腕輪の返納措置をしたので気づいても此方に返却不可能である。
時間指定での入金をしたので、気づかれる前にずらかろう。騎士殿笑いすぎ。
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「ヘンリックどうされました?」
「指定時刻の入金額がおかしなことに、……これ、持ち主に管制側から返還したら足が付きますよね……?」
「つきますね。狙われますね。なるほど、札束で文句を言われたのは初めてですね。もらってしまえばよろしいのでは?」
「流石に国家資産を個人的にもらったら犯罪でしょう!、……ゾス殿、ゲイザーどこ行きました?」
「ため息ついて質屋に。」
「あの馬鹿者!!!!!!」
一位はまだ年若い青年と歴戦の兵士の班だった。彼は有志組の中で唯一初参加で、一番の戦果を上げた。
彼が単身で叩きだした数字は七千七百七十万点だった。皆理解していたが、彼は報酬も足して、平等に分配した。
総合点数はそこに四十三万足した数字。ヘンリック班の数字を見ればどれほど異常かはご理解できるだろうか。
彼らの戦線は常に信頼し合っている。青年と彼らは一級宿木と呼ばれる冒険者ギルドに所属している『デレシス』という名の冒険者達だった。
七百七十七億と、四億三千万。迎撃数は四捨五入すると二百万を超えている。
使った魔法具の値段で半分は赤字ですね、と青年が語っていたらしい。
二位は単身で中枢まで行き、上位固体を狙って討ち、首級に遭遇後、二千七百五十二万二千点をたたき上げた老婆だった。
一位と三位を補助し、異常付与、生存支援、砲撃投擲と隙の作る策を講じて、足止めの役目を果たした。迎撃数は二十七、内二つは首位級である。
三位は老婆と手を組んだ男だった。二千万トンで二十五万と七百三十六点。迎撃数は百七万五十一。
表彰式では、男一人に四人の見目麗しい女子とあって、渡される際は、非常に重たい怖い視線がたたきつけられていた。
四位までは百万を超えて、以下は順繰り、概似た様な戦果である。単身の参加が多かったことを除けば。