知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない   作:Imymemy

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スターミー

「ズバットで水中のポケモンにどう当たるのかと思ったけど、ああいう戦い方をするなんてね」

「……ズバットと前もって打ち合わせをしていたから出来たのか。あっさり負けると思っていたけれど、なるほど」

 

 何だかんだ褒められているのだろうが、別に嬉しいわけではない。結局良いタイミングで指示したのは俺であって俺ではないのだから。

 

 とは言いつつも、それを表に出して嫌味な態度を取ることも無いだろう。俺は軽く頭を下げるだけに済ませた。結局のところジムトレーナーとはただの前哨戦で、ズバットの操作感がどうなのかを判断する程度の価値しかないのだ。

 

「あまり褒められることに興味ないって感じね、ならさっさと始めちゃいましょうか」

「お願いします」

「えぇ、勿論。トモキはポケモンの治療に、グリーンは続けて観戦するのなら、回れ右してさっきと同じところでね」

「了解です」

「勿論観戦するつもりです。それじゃあ」

 

 そう言って座席へと戻っていくグリーンと、メノクラゲの入ったボールを持ってスタジアムから出ていく二人を見届けた後、俺の方に向き直った。

 

「使用ポケモンは2対2、ジムリーダー側のハンデとして私は自由交代の不可、挑戦者側には特に無し。ポケモンの回復はしなくて大丈夫なのかしら?」

「はい。大丈夫です」

「……へぇ。何だか貴方と会った時から思っていたけど、貴方の事は好きになれなさそうね」

 

 それだけ言ってボールを二つ持ってスタジアムの奥に向かって行ったカスミを見送る。なぜいきなり嫌われたのか分からないが、きっと何にでも噛み付きたくなる年頃なんだろう。

 

 互いがスタジアムの前に立ち、ボールを持って構える。上着を脱ぎ捨て水着姿のままになったカスミが大きく叫んだ。

 

「準備は良い? 行くわよ――ヒトデマン!」

「カメール」

 

 同時にボールからポケモンが出てきて相対するこの瞬間。俺の(チート)は多くの情報を取り込む。ポケモンの情報、環境、トレーナーの情報、自分の体調、できること、できないこと、過去の情報から現在まで全て。そして取り込んだ情報から必要なものを視界に映してくれる。

 

 ヒトデマンとカメール、その両方が同時に出揃い睨み合う。その時、カスミは俺に向かって話しかけてくる。命令を妨害する意図は恐らく無く、もしかしたらただの世間話程度なのかもしれない。

 

「目は口程に物を言うって言うけれど、貴方の場合は本当ね」

「……?」

「ヒトデマン! 『スピードスター』よ!」

「カメール、『からにこもる』」

 

 ヒトデマンと呼ばれる星型の――ヒトデのポケモンは空中に浮かび上がりながらクルクルと回転し、まるで水しぶきでも飛ばすかのように星の形状をしたエネルギーのつぶてを撃ちこんでくる。

 

 カメールは自身の甲羅に身を潜めて難なく『スピードスター』を弾いた。そしてそれを見ていたカスミは遠目ではあまり良く分からなかったが、小さく口を開いて「やっぱりね」と呟いた。

 

「ウィン。あなた、どういうわけか私が技を指示するより早く、どの技を使うか知っているのね?」

「……どうですかね」

 

「さっき言ったでしょ。目は口程に物を言うって。貴方の目は今日出会ったときから今に至るまで、一度たりとも(・・・・・・)ちゃんとポケモンを見ていないわね。ずっとトレーナーの動きばかりを追っている」

「……さぁ」

「ポケモンに対する愛情が全く感じられないって態度がはっきりと出ているわよ、まるで死にかけの虫でも見ているみたいにね」

 

「『みずのはどう』」

「ヒトデマン! 『みずのはどう』をお返ししなさい!」

 

 カメールが『みずのはどう』を撃ちだすと、ヒトデマンも返すように『みずのはどう』を放つ。しかしポケモンのレベルが違うため、どれだけ撃ち合おうともがいても、同じ技ではレベルの差が如実に出てしまう。ヒトデマンは『みずのはどう』を相殺することは出来ず、ダメージを食らいながら水の中に落ちていった。

 

「っ……流石に厳しいわね。けど貴方の戦い方は読めてきたわよ」

「……」

「常に受けの姿勢、相手の攻撃をカウンターするような戦い方。そりゃそうよね、相手の使ってくる技が分かるんだから。相手の動きに対して最適な技と動きを指示すれば最善の動きで返すことが出来る」

 

 『みずのはどう』で水中に落ちたヒトデマンが浮上してきて、水上に設置された足場に乗った。戦意も体力も十分で、同じタイプの技を受けてもそこまでダメージは無いようだ。

 

「でもね、それくらいで負けているようじゃプロ(ジムリーダー)にはなれないのよ。私はみずタイプのエキスパート、ハナダジムのジムリーダーカスミ。プロになるにはポリシーが必要なの、育て方も、戦い方も――私のポリシーは攻めて、攻めて、攻めまくることっ! 見せてあげるわ、攻めのポケモンバトルをね!」

 

 ヒトデマンはまるでカスミの声に呼応するように空へと飛び上がると、またクルクルと高速で回転を始めた。

 

「『スピードスター』!」

「『まもる』、『みずのはどう』」

 

 撃ち出された星型の射出物を『まもる』で受け止め、それから返すように『みずのはどう』を放つ。ヒトデマンはそのまま回転を止めず、『こうそくスピン』の要領で『みずのはどう』を避けて見せた。

 

「『サイケこうせん』よ!」

「『まもる』」

 

 二度目の『まもる』は成功率が低い、続けて強力な防御を行うのは非常に膨大なエネルギーを使うのだ。しかしカメールは、出来て当然と言わんばかりに『まもる』の態勢へと移行した。

 

 ヒトデマンの身体の中心部に存在する宝石のようなコアから『みずのはどう』にも似た形状のエネルギーがビームのように撃ち出される。エスパータイプの技である『サイケこうせん』だが、エスパータイプを持たないヒトデマンはそれでも撃つことが出来るようだ。

 

「カメっ!」

 

 二度目の防御に成功したカメールは『からにこもる』を行った後、『こうそくスピン』でヒトデマンへと向かって行く。

 

「『かたくなる』、それからこっちも『こうそくスピン』よ!」

 

 ヒトデマンは謎の叫び声を上げてカスミの指示に従うと、『かたくなる』によって身体を硬化させて『こうそくスピン』でカメールに対抗せんと突撃していく。全く同じ技のぶつかり合いは何度も続き、しかし明確にダメージを受けるのは常にヒトデマンの方だった。

 

「……レベルが高いわね。でもカメールを倒してしまえば、残りは種が割れているズバットだけ。やはりここは少しでもカメールにダメージを与えることを優先するべきね。『スピードスター』を撃ち続けて!」

「――守らなくて良い、全部受けて『アクアテール』だ」

 

 空に浮かんだまま『スピードスター』を雨のように撃ちだしてくるヒトデマンに対して、カメールは命令通り守ることを捨てて思い切り飛び込んだ。本来であれば『まもる』で防ぐか、『からにこもる』で多少ダメージを和らげてチャンスを待つのがスクールでは一般的な動きだった。

 

 しかしここで守り続けるのは得策ではないと判断したのか、口は勝手に攻撃指示を出した。被弾覚悟とは言うが決してダメージ量は少なくない。無謀にも思える指示に視界の端でグリーンが立ち上がっているのが見えた。

 

「カ――メッ!!」

 

 超至近距離で渾身の『アクアテール』をヒトデマンにぶち当て、天井に向かってヒトデマンは吹き飛んでいく。いくら『かたくなる』で硬くなろうとも、レベル差に加えて『急所』に当たった強力な一撃を耐えることは今のヒトデマンでは不可能だった。

 

 天井にぶつかって自然落下してくるヒトデマンを直前でボールに戻し、カスミは鋭い目でこちらを睨むように見た。

 

「……あなた、信じられないわ。守るでも避けるでも、別の技で相殺するでもなく、生身で突撃させるなんて、ありえない。なぜそんな命令を……!」

「……なにか問題でも――」

「ポケモンを何だと思っているのよ! 指示したら確実に動く駒とでも思っているの!?」

 

 沈黙は金と言うが、今はどうだろうか。何か返してあげるべきだろうか。結局ポケモンセンターで回復すれば治るのだから、別に多少無茶しようが問題ないのではないだろうか? 才能チート(オート操作)が出している命令をそのまま口に出しているだけだが、何も間違った指示を出しているようには見えない。

 

「守るのも避けるのも、技で相殺するのも倒すのに時間が掛かるので、無駄な時間を掛けるよりかはと」

「その考え方はポケモンを使い潰すことしか考えていない者の発言よ。あなたがどんな境遇でそんな性格に至ったか知らないけれど、その考え方を続けているといずれ痛い目に遭うわよ」

 

 カスミはそう吐き捨てると、最後の一匹が入ったスーパーボールを空に投げた。

 

「行きなさい、スターミー!」

 

「――カメール、『まもる』だ」

「スターミー! 『10万ボルト』!」

 

 紫色の身体に赤いコアを持つ『なぞのポケモン』スターミーがボールから出てくる。そして間髪入れずに『10万ボルト』をカメールへと向けて放出した。

 

 空気すら焼き尽くすほどの強力な電撃波がカメールに殺到するが、『まもる』によって傷一つ負うことなく捌き切る。次にもう一度『10万ボルト』を撃ってくるのはいつだろうか? みず・エスパーであるスターミーが相性の悪い技である『10万ボルト』を連続で撃つことができるほどエネルギーがあるのだろうか?

 

「出て早々の奇襲は当たらない……か、本当にただの先読み? 一体何を見て技を把握しているの……?」

 

「行けカメール。『かみつく』だ」

「スターミー! 『リフレクター』よ!」

 

 カメールは強靭な牙でスターミーに噛み付こうとするが、寸でのところで『リフレクター』を張られてしまう。ダメージは確実に入っているが、決定打には至っていない。そして『リフレクター』を張られてしまったことで、物理的な技が入りづらくなってしまった。

 

「……嘘でしょ、リフレクターを張ったスターミーがダメージを? トレーナーがおかしいなら使ってるポケモンもおかしいってわけ?」

 

 いくらポケモン同士のレベルが離れているとはいえ、流石に今のカメールでは一撃でスターミーを倒しきる威力の技を出すことは出来ない。しかしスターミーには強力なエスパーの技や『10万ボルト』が控えている。

 

 ダメージを受けているカメールの分が悪いのは明白であった。しかし、それでも俺は虚ろな視界の中、まだまだ負ける盤面が見えてはきていない。

 

 あの時の『じばく』や、高レベルのサイドンのような思いがけない何かが無い限り、俺の勝利が揺るがないと分かってしまっていた。その反面、俺はその何かが来ることを期待していた。

 


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