知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない 作:Imymemy
「まさか本当に一度でハナダジムを突破するなんてな」
ポケモンセンターにボールを預けて治療を待つ間、受付の近くに設置してあった長椅子に座ってバッグの中を整理していると、結局ジム戦から今の今まで付いてきていたグリーンに向かい合って話しかけられた。
グリーンの上げた話題に対して、どう返せば角が立たないかを考えていると、何を勘違いしたのかニヒルな笑いを浮かべて話を続けた。
「それにしてもどうやって一日でハナダシティまで来たんだ? お前のポケモンじゃ空を飛んでここまで来るってのは不可能だろ?」
俺はコイツがいるからよ。そう言って腰に付けていたボールの一つを取って放り投げると、中から大きな鳥のポケモン、ピジョットが出てきた。ピジョットは何故呼ばれたのか不思議そうに小首を傾げると、グリーンに頭を擦り付けた。
「こいつは戦闘用じゃなくて移動用ってことで借りてるポケモンでな、こいつを使って山の上を越えて1日で来たってわけだ。ウィン、お前は誰かに乗せてもらったのか?」
「ここまでは、徒歩で来た」
「徒歩? ……はっはっは、お前笑いのセンスがあるよ。一日で山を越えてここまで来るなんて、一日中走り続けるんでもなきゃ無理に決まってるだろ」
本当の事を言っても否定されるなんて、やっぱりコイツは妙に気に食わない。斜に構えた態度で話しかけてくる辺り相当性格が悪いに違いない。俺とはそりが合わないだろうな。
「まぁいいや、この後はどうするんだ?」
「……ヤマブキシティに行くかな」
「ヤマブキ? いやまて。今日、ポケモンの治療が終わってからすぐに行くつもりか?」
そうだと言う代わりに頷いてみせると、グリーンは少し引いたような顔で首を振った。
「そんな身体の至る所を包帯を巻いたようなボロボロの状態でか? そんなギリギリの状態で旅をするなんて、急ぐ理由でもあるのか?」
急ぐ理由、急ぐ理由か。ジムバッジを集めることと、旅を楽しむこと。この二つを目的に旅をしているが、確かに直近で急ぐ理由は無い。けれどゆっくり観光をして、旅をして、そんなことをしてる余裕があるわけでもない。
「いや、べつに――」
「ならさ、俺のパーティ増強を手伝ってくれないか? 俺も昨日カスミに挑んだんだけど負けちゃってさ、新しいポケモンが必要かなって思ってるんだ」
「……なんで俺が?」
「さぁ、なんでだろうな。な、別に大丈夫なんだろ!」
顎に手をやって少し考えてみる。この話を無かったことにして旅を続けるのも出来る、出来るが……出会いっていうのは新しい発見がある、か。旅を楽しむためには道草も必要なのかもしれない。
「それにさ、ヤマブキジムのジムリーダーのナツメはエスパータイプ使いだって言うし、本人もエスパーだって聞くぞ。流石にお前も手持ちが2体、それに相性の悪いズバットを入れたパーティだと厳しいんじゃないか?」
「……そう、かもな。いいよ、手伝うよ、グリーンのパーティ集め」
「……! おぉ、それならほら、すぐ行こう! この辺りでケーシィが出るって話で――」
「いや、ポケモンの治療がまだだから」
■
「……ヤドン、疲れちゃったね」
「や~?」
ヤドンは話を聞いているんだか聞いていないんだか分からない、とぼけた表情で私の事を見つめる。何を考えているのか分からないなんて言ったが、この子とは短くない付き合いだから私にはヤドンの気持ちがわかってしまう。何も考えてない。
とはいってもこの気の抜けた鳴き声に助けられてきた部分もいっぱいあって、ヤドンと私は切っても切れない仲で結ばれている。
つい先日に10歳となって正式に旅を始めた私は、初めて自分の力だけでニビシティに足を踏み入れた。トキワの森は野生のむしポケモンに加えて、虫取り少年や短パンの子供などトレーナーが多く、本来であればすぐ抜けるつもりだったのがだいぶ時間を食ってしまう形になってしまった。
ニビシティについてすぐ、私より先に旅立ったウィンを探したが、もうどこにもいない。同じルートを辿っているのであれば、ニビシティについてから周辺でレベル上げやポケモン集め、ニビジムに挑んでいる頃なんじゃないかと思っていた。
ポケモンセンターで尋ねてみると、昨日までは確かにいたが早朝に出ていったという話を聞いたので、私もすぐさまニビジムに向かうことにした。
ウィンはポケモンのことについてあまり詳しくないし、ポケモンのこともポケモンバトルのことも、どちらともあまり興味がないらしい。しかしポケモンバトルの実力は、テレビの中にいるプロのポケモントレーナーと比較しても遜色がないもので、少なくとも並のトレーナーでは相手にならないほど高い。
そんな彼が旅を始めた理由は一つしかない。ジムバッジを集めること。あの時、トキワジムリーダーのサカキさんと戦った後にしていた話では、ジムバッジを集めきってからもう一度会いたいと言っていた。
旅に興味がないと言っていた彼を動かしたのは恐らくあの時の会話に違いないと睨んでいたし、きっとそれは間違いではない。だからこそニビジムに挑んでいるはずだと踏んだのだ。
結果としては合っていた。彼はニビジムに挑んでいたし、どういうわけかポケモン一匹。つまりトレーナーズスクールを卒業した際に貰ったポケモンだけで、ニビジムのジムリーダーであるタケシさんを倒したのだ。
私の目標は彼に勝つこと、そのために彼が勝った相手に勝てるくらいではないと彼に追いすがることなんて出来やしない。そう思って私もニビジムに挑んだ。
結果は惜敗……ということにしておこう。相性的には絶対に有利なみずタイプのヤドンを使用したのに負けてしまうなんて、ジムリーダーというのは生半可な相手ではないと思って少し心が折れかけたが、ジムリーダーであるタケシさんからウィンについて話したいと言われて色々聞かせてもらうことが出来た。
ゼニガメ一匹でタケシさんに勝利を収めたこと。そのゼニガメに対する扱いがとてもぞんざいだと感じたこと。そして何かを求めてポケモンバトルをしていること。
その話を聞いたとき、すんなりと理解してしまった。きっと彼は昔から何も変わってないのだ。ポケモンバトルに楽しみを見出すこともなければ、ポケモンに興味を持つこともなく、ただジムバッジだけを目的に旅をしている。
彼は待っているのかもしれない。私を。彼を変えられるのは、私だけ。
そうと決まればニビシティで詰まっているわけにはいかなかった。ニビジムの攻略は一旦後回しにして、彼に追いついて追い越すくらい旅をして、いっぱい仲間を集めなければ。一人ではどうしようもないけれど、仲間とならきっと何でもできる。ジムバッジを集めなおすのは全て済んでからでも大丈夫なのだから。
「ヤドンはもう、本当に能天気なんだから。……ねぇレッドちゃん?」
「……」
そう言って私は隣を歩いている、一人の赤い帽子を被ったポケモントレーナーに話しかける。帽子を深く被り、髪も目元も殆ど隠しているが、とても中性的で整った容姿をしている。まだ10歳くらいだと男子か女子か分からないような人は結構いるが、レッドに関しては男子とも女子とも判断が付かなかった。
「レッドちゃん? レッドくん? どっちなの?」
「……」
首をふるふると横に振って何かを伝えようとしているのは分かるが、あまりにも口数が少ないんじゃないだろうか。初めて会話をしたときだって自分の名前しか言ってくれなかった。
「……あ、もしかして。ちゃん付けも、くん付けも嫌ってこと?」
「……」
口元を固く結んで何かを言いづらそうにしているが、本当に何も言ってくれない。けど何となく嫌いじゃない。なんだかウィンに似ているのだ、雰囲気も、オーラも。
「じゃあ……レッド、レッドって呼ぶね」
「……うん」
この子――レッドとは、おつきみやまの洞窟で出会った。ハナダシティ側の出口に向かうまで色々あって、ものすごく疲れながらどうにか出口前まで来たのはいいが、ロケット団を名乗る、ボロボロの身体で松葉杖を持った二人組に絡まれてしまったのだ。
ロケット団と言えば、ポケモンの不正売買や解体、密輸、その他多くの犯罪行為を行う犯罪組織で、最近急速にカントー地方で勢力を伸ばしているという話を聞く。
そんな恐ろしい組織の構成員である二人に絡まれて、痛い目に遭いたくなければポケモンを渡せと訴えてきた。確かに怖い、怖いけれど、ボロボロで痛い目に遭った後みたいな二人に言われると恐怖よりも心配が先立ってしまう。
そうは言っても悪い人達というのは間違いないわけで、二人同時にポケモンバトルを挑んできた。ダブルバトルというのはあまりしたことが無く、私の手持ちもヤドンはともかくもう一匹はそこまで戦えるわけではない。
そんな中、通りかかったレッドが助けてくれたのだ。
レッドは私と一緒にロケット団と戦い、ウィンを彷彿とさせるような実力で瞬く間に勝利を収めてしまった。そんなレッドはニビジムを終え、今からハナダジムに向かう途中らしい。
道のりが一緒ということであれば、一緒に旅をするのだっていいだろう。そういうことで、レッドと一緒にハナダシティに向かうため、おつきみやまを抜けた先の4番道路を共に歩いているのだった。
レッドと一緒に戦った時はフシギダネを使っていたが、基本的にはいつもボールから出して足元をチョロチョロと動きながら付いてくるピカチュウと一緒のようだ。ずっと出しっぱなしにして長い距離を歩いたせいで、ピカチュウはだいぶ疲れているようだった。
「でもレッドは本当に強いね。そのピカチュウ……トキワの森で?」
「……最初に貰った」
レッドは小さい声でそう呟く。男の子か女の子か、声や見た目じゃあまり判断が付かない。そんな色々と謎の多い子だが、口数が少ないのも悪気があるわけではなく、きっと単純に口下手なんだろう。ピカチュウに接する態度や一つ一つの所作から、とても優しい性格をしているんだろうということがすぐに分かった。
「ピカチュウが最初に貰ったポケモン?」
「……」
コクンと頷いたレッドは、歩き疲れてフラフラと蛇行をし始めたピカチュウを拾い上げて頭の上に乗せている。普通に重いから首の負担が凄そうだけど大丈夫なのだろうか。
マイペースで生きているなと、傍からレッドを見ていて強く思うが、なんだかそれがとても懐かしく感じられる。スクール時代にレッドのようなマイペースな日々を送っていた子を私は知っていた。
「レッドはなんだか……私の友達に似ているんだ」
「……友達?」
「うん。口数が少なくて、マイペースで、それでポケモンバトルが凄く上手な友達がいるんだ」
「ポケモンバトルが、上手……」
「うん。レッドにだって負けないくらい強いんだ。私はその友達に――――」
ハナダシティまで、あと少し。
ご存じかもしれないですが、別視点での時系列は若干ぐちゃってます。
主人公視点だけが真実です。